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「下の部屋に置かせているわよ?」
「お?」
部屋に入るなりキョロキョロ辺りを見回したことから、何を探しているのか分かったんだろう。
聞かなくても答えてくれた。
前にも似たような事があった気がするが……何回目かな?
まぁ、いい。
何を買ったのか訊ねることにしよう。
「そっかー。どんなの買ったの?」
「お前の希望の品は一通り買い揃えられたわね。それよりも、お前の方はどうだったの? 何も持っていないけれど、外で奥に仕舞ったわけじゃないのでしょう? 運ばせるのかしら?」
昔王都で、アレクを荷物持ち兼護衛にして、アレコレ買い物をしたことがあったんだが、その時は大きい物を買っては物陰で【隠れ家】を発動して、中に買った物を放り込んだりしていたんだ。
だが、それは俺が中に入っている間に、周囲の警戒をしてくれる同行者がいるから可能なわけで、今日の様に一人で出かける時には使えない方法だな。
「そうそう、色々買ったよ。んで、全部商業ギルドの方から運んでもらうように手配したから、後で届くと思うね。あっ……屋敷の人に伝えておいた方がいいかな」
そういえば、屋敷に帰って来てから、使用人とすれ違った時に挨拶はしたけれど、荷物が届くって事は伝えていなかった。
応対は彼等に任せることになるんだし、ちゃんと伝えておいた方がよかったかな?
だが、俺の言葉を聞いたセリアーナは顔を横に振った。
「外から荷物が運び込まれることは彼等も予測しているでしょう。それよりも、自由に街を見て回るのは久しぶりだったんでしょう? 何か変わりはあって?」
「ふぬ……。そうだね、色々見てきたけど……旦那様とか隊長も一緒の方がいいかも?」
問屋街での散策で気付いた事がいくつかあった。
セリアーナから、何か街で気付いたことがあったとしても、兵士などには言わずに、まずは自分に言うようにと言われていたし、彼女には伝えておこうと思ったが、もしかしたらリアーナへの帰路に影響があるかもしれないし、リーゼルたちにも話しておいた方がいいよな?
その事を告げると、セリアーナは一瞬面倒臭そうな顔を見せた。
まぁ……面倒臭い事を……とでも思ったんだろうな。
「その口ぶりだと、他の者には伝えていないのよね?」
「うん。行く前に言われたしね。それに、あくまで俺が感じただけで、何かやっているってわけじゃ無かったしね……」
複数の店の上階で、妙に腕の立つ人間たちが多数いたってだけに過ぎない。
セリアーナも一緒だったら一目でわかったんだろうけれど、俺もそこまで万能じゃないからな……。
そこら辺の事は、リーゼルたちに丸投げだ。
「……妥当な判断ね。リーゼルたちは今は客の相手をしているし……まあ、いいわ。外での話は後で聞かせて頂戴」
そう言うと、セリアーナは机に置かれていたファイルらしき物を手に、席から立ちソファーへと移動した。
そして、座ると俺の方を向いて、ファイルをヒラヒラと見せながら口を開いた。
「今日買っておいた物を教えるから来なさい。まだ王都を発つまで日があるから、もし足りない物があるようなら調達出来るわよ」
「ほぅほぅ……。見せて見せて」
ややこしそうな話は置いておくとして、とりあえずどんな物を買ったのか……セリアーナのセンスを見せてもらおう!
「ぬふふ」と笑いながら、俺もセリアーナを追ってソファーへと向かった。
◇
さてさて、例によって夕食後。
いつもの様に話をするために、談話室にリーゼルたちにも集まってもらっている。
つい最近集まったのは、俺が外に出かけるための打ち合わせだったから、地図やら何やら色々用意したり、大袈裟な雰囲気になっていたが、今回はぐっと砕けた雰囲気になっている。
内容に関しては簡単に伝えているし、あくまで今日はちょっとしたお出かけの報告だもんな。
ってことで、今日の俺のお出かけしたルートと問屋街で気付いた事を、サクッと皆に伝えた。
「……中央通りから外れた商会の建物にいたんだね?」
リーゼルは俺の話を聞くと、しばし視線を下げて考えこんだかと思うと、顔を上げて口を開いた。
「うんうん。細長い建物が並んでる場所のだね」
俺の返事を聞くと、リーゼルは「ふむ」と小さく呟くと、少し待って欲しいと言って、オーギュストと小声で何やら話を始めた。
「なんか、面倒な事なのかな?」
「どうかしらね。精々予定を少し修正する程度じゃないかしら?」
実はえらいことなのか……と、隣に座るセリアーナの顔を見たのだが、彼女の顔を見る限りそこまで大事といった雰囲気は感じられない。
帰還時の護衛に関しては俺はほとんど知らないし、セリアーナが言うように、ちょっとした修正程度で対応出来るのかな?
俺は「ふむむ」と、話を続けるリーゼルたちを見ていた。
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夕食後の集まりという名の報告会は、思いのほか早く終了してしまった。
俺が持って帰った情報は、北の外国人地区への人の出入りが減っていること。
そして、問屋街に並以上の戦力が置かれていること。
細かいことは他にもいくつかあったが、大きく分けるとその二つだった。
外国人地区がある、北街への人の出入りが減っているってのは元々聞かされていたし、リーゼルたちも知っていただろうから、そこまで重要な事じゃないとは思っていたが、もう一つの、俺としては本命っぽい問屋街の妙に腕の立つ連中の件も、あっさりと流された。
伝えた際には、オーギュストと共に何やら真剣に話し合っていたんだが、いざそれが終わると、あっさりしたもんだったんだよな。
「何を考えているの?」
「うん? いやー、旦那様たちの反応が思いのほか軽かったからね。実は的外れな事だったのかなって思ってさ」
「ああ……アレは、結局現時点では手の打ちようがないことだし、情報の整理だけにしたかったんでしょうね。お前が気にする事では無いわ」
「そんなもんかな?」
まぁ、確かに妙な連中がいるかもしれないってだけで、既に十分厳重な警戒を行っている騎士団の巡回ルートに口出しは出来ないか。
そもそも、周囲に配慮した結果がそういった、公爵家の権限を振りかざさないってことだったしな。
それに、大事にして想定しない動きをされても困るだろうし……。
様子見が妥当なのかー。
そう頷いていると、セリアーナも同意らしく一緒に頷いていた。
「そんなものよ。それよりも、お前が今日買ってきたアレは、そこの壁に飾るの?」
ソファーに座っているセリアーナは、イメージでもしているのか、壁の空いたスペースを見ている。
「お? そのつもりだよ。領地の屋敷の部屋の方が合うようなら、また考えるけど……こっちでいいと思うんだよね」
「そうね。ここは窓が無いし、壁も広く空いているもの。他の部屋でも使えなくはないけれど、そこでいいんじゃない?」
「でしょ」
セリアーナのお墨付きをもらえたし、今日買った絨毯の設置場所は、リビングの壁で決定だな!
◇
報告会を終えた俺たちは今、【隠れ家】にいたりする。
リアーナの屋敷では、セリアーナの部屋でちょくちょく【隠れ家】に入っていたが、こちらにやって来てからは初めてじゃないかな?
船に乗っている間はずっと利用していたからか、実際はそこまで経っていないのに、随分久しぶりな気がするよ。
セリアーナがいれば、中からでも外の状況を把握できるんだが、それでもリアーナの屋敷と違って、一応入ってこない様に言っているとはいえ、こちらの使用人は完全にはコントロール出来ていないからな。
だが、それでも今ここに入っているのは、昼間俺が買ってきた物をどうするかを考えるためだ。
お出かけから帰ってから、セリアーナが今日買った分を見せてもらうために下の部屋にいたのだが、ちょうどその時、屋敷に商業ギルドから俺が買ったアレやコレが一纏めになって届けられた。
何でそんなタイミングよく……と不思議に思ったが、後で聞いたところ、どうやら貴族街の入口の手前で、商業ギルドの見習い君が張っていたらしい。
俺に限らず、貴族関係者が街で何かを買った物を屋敷に運ばせる際に、帰宅のタイミングに合わせるためなんだとか。
なんとも面倒な事を……と思うが、セリアーナ曰く、それも修行の一部らしい。
パソコンとかスマホが無いし、貴族の名前と、関係者や紋章を自力でしっかりと覚えるためには、必要なんだろうな。
大変だ。
まぁ、それはともかくとして……帰宅してから、セリアーナに何を買ったのかを話していたのもあって、彼女も多少興味を持ったらしい。
セリアーナが買った物を見せてもらった後に、俺が買った分も披露することにした。
ちなみに、セリアーナが買っていた物は、国内や同盟内の特産物だったり、リアーナじゃ手に入りにくい生地や糸……後は適当に本を数シリーズ。
俺が事前に頼んでいたとはいえ、実にオーソドックスな物ばかりだった。
それに比べると、俺が買ってきた物は数こそ少ないが、絨毯だったり椅子だったり、かと思えばカップだったりと、バリエーションに富んでいたからな……。
セリアーナも、少々呆れていたようだった。
んで、一通り見た後は、食事だったりリーゼルたちとのお話だったりがあったんだが、それらも片付けて部屋に戻ってきたところで、「アレはどうするつもりなの?」とセリアーナに訊ねられた。
俺も絨毯だけはどこに飾るかは決めていたが、それ以外は何も考えていなかったんだよな。
だから、今日はもう遅いし使用人も部屋に用も無いだろうってことで、【隠れ家】の中で、一緒に考えることにしたんだ。
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