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「今のままだと、大国に乗せられたとはいえ、戦争を仕掛けた挙句にただただ惨敗した、愚か者たちの国……。そうなるわね」
「うん」
「そして、お前は何故その愚か者たちが、この期に及んで王都圏で私を狙ってくるのかがわからない。そうね?」
「うん」
セリアーナは、リーゼルたちの説明を黙って見ていたかと思ったら、急に口を開いた。
何だかんだで、リーゼルは誰が相手でも表現には配慮するし、まどろっこしかったのかもしれないな。
リーゼルが語った内容を、少々きつい言葉ではあるが、簡潔に纏めている。
「今回の戦争は、勝つことは当然だったけれど、あの早さで終わったのは想定外だったのよ。圧勝ね。それに、終戦の際にも西部の大国たちが仲裁に入らなかったから、その所為もあって、こちら側に随分いいようにされたようだし……」
セリアーナは、そこで言葉を区切ると、「フッ」と笑った。
今までの同盟との戦争だと、負けるにしても、もう少し穏便な片のつき方をしていたらしいが、今回だと帝国とかの仲裁が無かったから、ひたすらボコボコになっていたらしいしな。
さらに、その前例のない敗戦状況から、西部の再編で吸収されるわけだ。
先程リーゼルが、吸収された後の扱いがどうのって言っていたし、確かにどうにかしたいって考えてもおかしくはない……のか?
俺は「ふぬ……」と、頷き、セリアーナの次の言葉を待った。
「敗戦国がどう足掻いたところで、西部の勢力の再編と吸収は防ぐ事は出来ないけれど、自分たちの立場を守るためにも、私を殺しておきたいのでしょうね。もしそれが出来たのなら、帝国なり連合国なりが戦争で助力して、もっと長引かせることが出来ていたのならば、勝敗は違っていたと言い張れるでしょう?」
「開戦前はウチの事情を知ろうとは思っていなかっただろうけれど、終戦後には流石に情報もある程度伝わっているだろうからね。当初の目的がリアーナを潰す事だったと分かりさえすれば、それを利用しようと考えるだろう」
「そもそも、西部の大勢力が西部を再編するために、諸国に戦争を起こさせるように煽ったという事も公には出していないでしょう?」
「そうだね。僕らの同盟程では無いけれど、それでも西部も各勢力である程度纏まっているのに、それを主たちが自ら崩したんだ。その事は隠しておきたいだろうね。もっとも知られたところで、今更何が出来るという訳では無いし、いやがらせ程度にしかならないだろうけれど……それでも、何もしないよりかはマシかな?」
セリアーナの言葉を補足するように、リーゼルも言葉を続けた。
「……いい迷惑だね」
「全くよ」
なんてことは無い。
セリアーナをこの期に及んで狙う理由は、国が吸収された後に、「ちゃんと支援してくれさえすれば、戦争に勝つことが出来たのに」って言い張るためなのか。
あの時は、セリアーナが暗殺されようものなら、領都の状況も含めて一気に王国東部の情勢が悪化しただろう。
だから、セリアーナを殺せば戦争に勝てていたってのも、あながち間違いとは言えない。
ただ、それはあくまであの時であって、今のこの状況でってわけではない。
今セリアーナを殺したって、もうリアーナをどうこう出来るとは思えないし、恐らく意味はないんだが……それでも、民衆に対してはアピール出来るのかもしれない。
ただ、全部「かもしれない」程度なんだよな。
リーゼルが言うように、いやがらせ程度にしかならないのに、やらなくてもいいと思うんだが……。
「それだけ必死ってことなんだね……」
付き合わされるこちら側にとっては、本当にいい迷惑だ。
「西部の大勢力も、そんな事は無視してもいいんだろうけれど、今回襲撃を実行させる賊は、元々帝国や神国が王都圏に残しておいた連中なんだ。西部の諸国が共用出来るようにね」
それは知らない情報だったな。
ちょっと考えが足りない上に、後がない国なのに、変なところで用意が周到だとは思っていたんだが、帝国とかが用意していた連中を使っているのか。
……しかし、それって。
「なんか、ルトルの頃の冒険者と同じ様な感じだね」
「そうだね。むしろ、引き上げさせることが手間だから、こちらで始末して欲しくて利用させている可能性が高いね」
「……あらー」
王都圏に残っている賊がどんな連中なのかはわからないけれど、警戒されている中、同盟から引き上げさせるよりも、そのまま残しておいて、自棄になった連中に消費させる方が手間がかからないのか。
「まあ、底は知れているよ。そうだろう? オーギュスト」
リーゼルから話を振られると、オーギュストはゆっくりと頷いた。
「はい。あまり外部の人間を増やし過ぎても、連携がとりにくくなるので、万が一出し抜かれる様な事があれば……そう警戒していましたが、どうやらこの分ではその心配も杞憂に終わりそうです」
それを聞いたリーゼルと、ついでにセリアーナは、朗らかに笑っていた。
これはもう、無事に終わらせられると確信を持っているんだろうな。
俺も一緒に笑っておこうかな?
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「さて……話は今日はこれくらいで終わりにしようか? 帰路の警備についてはまだまだ詰めていくべきだろうが……まだ滞在日数もあるしね」
「ええ。後はまたミュラー家と協議をして決めていけばいいでしょう」
俺が騎士団で聞いてきた話を基にした、情報の擦り合わせだったり諸々の情報交換会的な話し合いは、あの後さらに進んでいき、王都から港までの一通りを解説したところで、お開きにすることになった。
そう言うと、オーギュストは立ち上がり、ドアに向かって歩き始めた。
その彼を目で追いながら、今の話について頭の中で反芻したが……問題や疑問点が全部洗いだし終わったわけじゃ無いが、リーゼルたちが言うように、今日これ以上話していても仕方が無いしな。
それに、結局のところセリアーナを中心に周りに動かせる兵を配置して、加護を頼りに防御を固める。
そして、敵の接近に気付いたら、俺が伝令に出るなり合図を出すなりして、リーゼルたちが倒す……そうなるはずだ。
「それもそうね。セラ」
「ほい」
セリアーナの言葉に、俺は浮き上がると、彼女の膝の上から離れてドアの前へと移動した。
そして、セリアーナがやって来るのを待つ。
セリアーナは、俺がドアの前に移動したことを見てから立ち上がると、彼女も【小玉】を発動して浮き上がったのだが、移動する前にリーゼルたちの方を見た。
「貴方たちはどうするの?」
オーギュストはドアノブに手をかけているが、リーゼルは座ったままだ。
さらに、テーブルの上には、今もまだ地図やメモが広げられている。
リーゼルが残っているのに、オーギュストだけが部屋を出るとは思えないし、二人はまだ部屋に残るのかな?
「マイルズとも話があるからね。僕らはもう少しここに残るよ。ああ、セラ君。このメモを借りても構わないかな?」
「うん? いいですよー。オレはもういらないし、旦那様が好きにして下さいな」
ふむ……彼等は部屋に残って、まだまだお仕事があるようだ。
俺のメモがいるってことは、マイルズを交えて、帰路や出発までの警備について色々協議でもすんのかね?
あのメモはもう必要ないし、使ってもらうのは全然構わない。
その事を伝えて、セリアーナと共に部屋を後にした。
◇
「ねー」
「なに?」
談話室を出てから、案内の使用人を先頭に、セリアーナと二人でふよふよ廊下を移動することしばし。
俺たちの部屋に繋がる廊下に差し掛かったところで、談話室を出てからそこまで着いてきた使用人とも別れて、二人きりになった。
一応使用人が側にいたから、話は控えていたが、もういいかな?
ってことで、セリアーナに向かって話しかけた。
「オレたちは結局、滞在中は屋敷にずっといるままなのかな? なんか話を聞いた限りだと、王都内なら大丈夫そうな感じだったんだけど……」
先程の本館の2階を通った際に、何となく窓から中庭を眺めてみたが、屋敷の明かりに照らされた警備の兵の姿が目に入った。
気を抜いた様子も無く真面目に警備をしていたし、この屋敷の守りは万全だろう。
そして、万全なのはこの屋敷だけではない。
先程のリーゼルたちの話を思い返すが、王都内にも賊は相変わらずいるようだが、そいつらは王都の騎士団がしっかりと監視をしていて、妙な行動を起こす事は出来ないだろう。
もちろん、それだって絶対に防ぐことが出来るとは言い切れないし、別に俺だって無意味にフラフラするつもりはないんだが……しっかりと賊たちは統率されているようだ。
だから、俺が街中をフラフラ飛んでいても、襲ってきたりはしないだろう。
そして、俺が屋敷を空けているからといって、貴族街に侵入して、屋敷を襲撃したりもしないだろう。
狙うタイミングがある程度決まっている様だし、不確実なタイミングで、勝手に行動するとは思えないもんな。
リアーナの教会地区に潜伏していた連中と一緒だ。
大分居心地の悪い思いをしているだろうが、今まで堪えているんだしな。
賊を褒めるつもりはないが、立派なプロフェッショナルだ。
……嫌なプロだ。
ともあれ、この分だと、セリアーナが生身で出歩くのならともかく、俺だけが一人で出歩いていても、別に襲い掛かって来るような事も無いはずだ。
今日の事でそれがよく分かった訳だし、一応俺の役割はセリアーナの護衛だから、一日中側を離れるような事は駄目だろうが、それでもちょっと外に出るくらいなら構わないと思うんだよな。
「そうね……。私もコレとコレがあるし、万が一屋敷に襲撃があっても離脱できるし、しのぎ切れることは間違いないでしょうね」
セリアーナは、【琥珀の盾】をはめた指を伸ばし、次いで、乗っている【小玉】を指してそう言った。
「お?」
思ったより、前向きな返答が聞けそうな雰囲気だ。
だが、その返答を聞く前に部屋の前に到着した。
「とりあえず、中に入りなさい」
「はーい」
部屋のドアを指すセリアーナに返事をすると、俺はドアノブに手をかけた。
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