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 王都の西側は港があるからか、他の三方……特に東側に比べると、街道を巡回する兵も多い。

 街道を行き来する通行人の邪魔にならないように、一度に巡回に出る兵の数は他所と一緒らしいが、その代わり巡回の頻度が高いんだと。

 さらに、俺たちが王都にやって来た際の護衛の様に、他所の貴族の兵も連携しているそうだ。

 だから、魔物や賊の大群には対処は難しいだろうが、とにかく監視の目が多く、それらを見逃す事はないらしい。


 説明を聞いた限りでは、何の心配もいらないと思うんだが……怪しい連中を示す駒が、西側の街道から少し外れた村とかに、いくつも置いてあるんだよな。

 この状況でどうこう出来るとは思えないんだけれど……それが何かやらかす可能性があるんだろうか。


「見た感じ、こっち側は何も危ない事は無さそうなんだけど……何か気を付けるような事があるの?」


 俺の疑問に、司会やその周りに立っていたおっさんたちは、どこか困った様な表情で互いの顔を見合わせていた。

 これまで疑問には、その都度ポンポンと答えてくれていたのに、なんでか言い淀んでいる。

 ただの思いつきだったのに、この質問ってそんなに答えにくいような事なのかな?


「気を付けることか……あるだろうな」


「む」


「はて?」と首を傾げていると、彼等の代わりにじーさんが口を開いた。

 そして、駒を掴んだかと思うと、街道とその周囲に並べていった。


 置かれたのは、グラーゼの街から港のあるアルザの街にかけてだな。

 王都周辺は何も置いていない。


「王都内で動くことが出来ない以上は、狙いは帰路しかない」


「……うん」


 どうやら、セリアーナへの襲撃があるのはじーさんの中で決定しているようで、当然のようにそう言い切っている。

 そこがいまいちよくわからないんだが、周りの皆はそこに疑問を感じていないようだ。

 詳しく問いただすのは話が終わってからにして、とりあえず、今はじーさんの話を大人しく聞いておこうかな。


「だが、街中も街道でも兵の監視が厳しくて、大っぴらに戦力を動かすような事は出来ない。わかるな?」


「そうだね。ウチの団長たちは、街中でもなりふり構わないで襲い掛かってきたら、襲撃を事前に防ぐ事は出来ない……って警戒していたけれど、この分じゃ、それはまず起きそうにないよね」


 ある程度把握出来ているとは思っていたけれど、正直なところここまで厳重に監視出来る体制が整っているなんて思いもしなかった。


「それでも、なんかあんの?」


 だが……俺の言葉に頷くじーさん。

 じーさんだけじゃなくて、周りのおっさんたちや、ユーゼフたちも頷いている。


 やっぱ何か起きるのか……この状況で?


「王都内はもちろん、外に留まっている連中も把握は出来ている。タイミングを合わせて計画的な襲撃を行おうとしても、騎士団がいくらでも介入できるだろうし、まず間違いなくなにも起こさせずに、襲撃を防ぐことが出来るだろう。だが、そうはならない。わかるな?」


「うん」


「だが、言い換えれば少数のままでなら、こちら側が手を出すのは難しいという事だ」


「ふむふむ……」


 まぁ、そりゃそうだよな。


 武装した人間が一ヵ所に集まるってのは、それだけでも騎士団が介入する理由になる。

 怪しいからってだけで、仮にも他国の人間を捕えたりするのは、外聞が悪いから泳がせているのが現状だ。

 むしろ、こちら側からしたらその方が有難いくらいだろう。


 そして、その事は相手側もわかっている。

 だから、ある程度固まる人数を制限して、その分あちらこちらにバラけているんだ。


「それなら、少数のままでセリアーナの周囲をついて行けばいい」


「うん?」


 どういうこっちゃ?


「セラ殿。大陸の西部と違って、こちらでは商人の護衛は冒険者が行う事がほとんどなのです。たとえ、魔物や賊の襲撃の危険が少なくても、まともな商人ならば、街の外を移動する際には少数の冒険者を護衛に雇うものです」


 再び首を傾げていると、おっさんの一人がまた別の駒を用意してきた。


 話の流れ的に、その駒は商人を指しているんだろう。

 そして、その商人の駒と一緒に賊の駒も街道に並べていく。


「商人の護衛……あぁ。それなら俺たちの側を一緒に移動してもおかしくないのかな?」


 街の外を移動する際には、自前の護衛を雇っていようといまいと、タイミングが合えば貴族の護衛に便乗するってのは常識の様なものだ。

 誰だってやっているし、商人の護衛として街の外に出ているのなら、連中もそうする事はそこまで不審な事じゃない。

 いつの間にやら、王都の西側に置かれていた賊の駒が、全部商人とセットで街道に並べられているが……それでもこれは冒険者としてのただの仕事だもんな。


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 冒険者や傭兵が、ただ単に纏まって移動をすると目立ち過ぎるし、ましてや兵の監視対象になっているような連中だったら、即捕縛に動かれてもおかしくない。

 ちょっと事情が違うが、リアーナ領都に留まっていた教会地区の残党たちも、大人しくバラバラに潜んでいたんだ。


 戦争の影響で多少は減ったりもしているだろうが、それでもこの辺りはウチよりも他国からの商人も多い。

 他所からやって来た商人なら、メサリアの冒険者よりも、自国の人間を護衛に雇うことだってあるだろう。


 改めてテーブルに広げられた地図を見てみる。


 アルザとグラーゼ間の街道から少し離れた場所に、警戒対象が滞在する村があるが、その気になればすぐに街道まで出れるし、そこで合流しようと思えば出来るだろう。


 行きの俺たちは、船が港に到着する日時が分からないから、待ち伏せされたりしなかったが、今回は目立つ王都からの出発だ。

 俺たちから遅れて出発しても、大人数で馬車で移動する俺たちに追いつくことは難しくないだろう。


 さらに、東部と違ってこちらはそこまで強力な魔物は現れない。

 並以上の腕を持つ冒険者なら、ちょっと無理をしたら、夜間の移動も十分可能だ。


 セリアーナやリーゼルが一緒だから、俺たちは流石に途中で一泊するし、その間に追い抜いてしまえば、俺たちの情報も伝えることが可能だ。

 そして、その猶予をうまく活かせば、俺たちを待ち伏せすることだって可能だろう。


 ……まぁ、そもそもその程度の戦力でどうこう出来るとは思えないんだが、そこはもう考えても仕方が無いんだろう。

 何かに追い詰められているんだか、狂信者なんだかわからないけれど、リアーナの時の連中と違って、こちら側は閉ざされた場所で監視されているわけじゃ無いのにもかかわらず、未だに残っているんだ。

 なんかあるんだろう……多分。


「外に出る商人に護衛を付けるなとも言えんし、たとえ怪しかろうと、冒険者に護衛を引き受けるなとも言えんだろう」


「そうだね」


 じーさんの言葉に頷き、同時に、騎士団の偉そうなおっさんたちが気まずそうな顔をしている理由も分かってきた。


「街道の巡回を、今よりさらに増やしたりは出来ないんだよね?」


「ああ。1班あたりの人数を増やせば、民の往来に支障をきたすし、巡回の回数をこれ以上増やせば、流石に街を守る兵に無理がかかりすぎる。王都の騎士団ならば余裕はあるが……」


 そこまで言うと、じーさんも口を噤んだ。


「言わなくてもわかるよ。ウチの旦那様とかセリア様のために、わざわざ動かす事は出来ないんだね」


「……そうだ」


 確かにリーゼルは立派な王族だし公爵様で、セリアーナはその奥様。

 2人ともこの国の重要人物だ。


 だが、リアーナ公爵領の人間で、王都で暮らしているわけでも無いし、王家の人間でもない。

 だから、王都の騎士団を動かすわけにはいかないんだろう。


 聖貨の輸送部隊だったり、国家事業ならその限りじゃないんだろうけれど、今回はな……。

 そこまで特別扱いは出来ないってことか。

 おっさんたちが気まずそうにしているのはそのためなんだろうな。

 ちょっと無理をすれば、セリアーナたちの護衛に兵を出す事が出来るし、そもそも、この怪しい連中を捕える事だって不可能じゃないはずだしな。


 ところが、ウチが来たから連中が動くってのが前提ではあるけれど、彼等のお膝元である王都圏で、監視下にあるとはいえ、その連中を今まで放置してきていた。


 これで、リーゼルから動いてもらうように依頼でもあれば別なんだろうけれど、彼も他家に配慮して特別扱いされないように気を付けているもんな。


 互いが諸々に配慮した結果、分かっていても襲撃を防ぐことが難しくなっている。

 王都圏の治安を守っている彼等からしたら、色々気まずいんだろう。


「まー、気にしなくていいよ。セリア様も旦那様も、ウチの団長だって事情は分かっているだろうし、帰宅時はその事もしっかり考慮して準備するはずだからね」


「ああ。すまないな」


 彼等を代表してなのか、今まで黙って話を聞いていたユーゼフが、小さく頭を下げてそう言った。


「セラ、お前は確か【琥珀の盾】を持っていたな? アレは今どうしている?」


「領都を発つ時にセリア様に渡しているよ。それに、俺は普段から【風の衣】を発動した状態でセリア様の側にいるから、セリア様の守りに関しては心配いらないよ」


 さらに、セリアーナには加護もあるからな。

 ハッキリ言って、セリアーナに関しては何も心配いらない。


 そして、リーゼルはオーギュストが側にいるし、彼自身も凄腕だ。

 一緒に領地に帰還する領地の兵も精兵だし……賊如きがどうこう出来る戦力じゃ無いだろう。


「それもそうだな……。ユーゼフ、騎士団の助力が無くてもリセリア家に関しては心配いらん。それよりも話を続けよう。コレが飽きる前に終わらせなければな」


「……フッ。それもそうだな」


 そういうと、ユーゼフは周りのおっさんたちに続きを進めるよう手で指示を出した。


 何となく俺をダシに使われてしまった気もするが、お陰で部屋に漂っていた重い空気も晴れたし、話も一気に進み始めたから、まぁ……いいか。

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