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とりあえず、偉いおっさんたちに挨拶を終えて、ついでにじーさんとユーゼフが、彼等に俺の紹介もやってくれた。
名前や見た目だけは知っていても、あまり俺の環境までは知らなかったようだし、俺が彼等と関わる事はそうそう無いだろうが、それでも騎士団のお偉いさんだ。
俺の事を知っておいてもらったら、もし何かあった際のフォローもスムーズにいくだろう。
そんな機会ない方がいいに決まっているけどな!
さて……それじゃあ、挨拶は一先ずこれでいいだろう。
「んでね? 話の前にいいですか?」
今日ここにやって来た顔見せは終わり、お次はオーギュストに頼まれた用事を片付ける。
そういきたいが、その前に聞いておきたいことが、この部屋に入った時から一つあった。
「どうした?」
ユーゼフが聞き返してきたが、俺はそちらは見ずに、代わりにじーさんの方を向いた。
「なんでじーさんがいるの?」
「む?」
もしかしたら俺のフォローのためなのかもしれないが、それでもわざわざその為だけに、ここにじーさんが来るとは思えないんだよな。
何か用事があるのかもしれないが、特に何も聞いていないし、何の用なんだろう?
「さっき俺の紹介の時に、上手く補足してくれてたけど、その為だけじゃ無いでしょう?」
「ふむ……。今日はお前がここに来るとは聞いていたし、私が同席した方が、お前の話が伝わりやすいだろうとは思っているが……。もちろんそれだけではない」
「うん」
じーさんは、周りに立つ偉そうなおっさんたちをジロっと見ると、話を再開した。
「こやつらはメサリア王国の騎士団全体の幹部で、基本的に王都に詰めてはいるが、本来は自身の領地を守る者たちだ。昔の私が同じ立場だったな」
「ほうほう」
じーさんと同じ立場っていうと、領主一族ってことかな?
東部の開拓で好き勝手暴れて、その後は親父さんに領主の座を譲って、王都で騎士団の仕事をしたりしながら、領地と王都の繋ぎ役の仕事をしていたそうだし。
騎士団だけじゃなくて、国内の貴族の中でも普通に偉い人たちなのかもしれないな。
しかし、その事がじーさんがここにいることと関係あるんだろうか?
「セラ。お前はマイルズをどう思う?」
「マイルズ? お屋敷の?」
聞き返すと、「そうだ」と頷いている。
周りのおっさんたちも同じく頷いているが……どう思うって聞かれてもな。
「どうって言われてもな……。真面目そう……とか?」
まだ会ってそんなに日が経っていないし、そもそも顔を合わせること自体ほとんどない。
それで、印象を聞かれても答えようが無いよな。
そもそもマイルズ自体あまり印象に残らないおっさんだ。
この「真面目そう」ってのだって、何とか当たり障りのない言葉を捻り出しただけに過ぎない。
ところが、俺の返事を聞いたじーさんは、何故か満足そうに頷いていた。
「セラ、普段お前は私やユーゼフを見てどういった印象を受けている?」
「ぬ……」
この二人を見てか。
……強面のじじい。
これだけだな。
だが、流石に本人たちに向かってこれを言うのは……と、言い淀んでいると、じーさんたちだけじゃなくて、周りのおっさんたちまで何やら苦笑している。
「なに」
「お前の考えていることは、わざわざ言葉に出さなくてもわかるという事だな。どうせくそ爺だのなんだの、碌でもないことを考えていたんだろう?」
「そこまでひどいことは考えてないよ……」
見慣れたセリアーナたちならともかく、初対面のおっさんたちにも読み取られるくらい、俺の表情って分かりやすいんだろうか?
「大して変わらんだろう? まあ、いい。マイルズはお前が言うように、真面目であるし仕事も細かい事までよく気付く。文官出身だけあって、領主の代理として、王都での仕事も上手くこなせはするだろう」
そこで話を区切ると、じーさんは小さく溜息を吐いて首を振った。
「うん。それじゃダメなん?」
身振りや口ぶりから、不満があるのは伝わってくるが、別に悪いところはなさそうな気はするんだよな。
どこが駄目なんだろう……と、首を傾げていると、おっさんの一人が「セラ殿」と呼んだ。
彼が話を続けるらしい。
しかし、この偉そうなおっさんに「殿」付けで呼ばれるのか……俺って。
「リアーナという土地は、魔境を開拓していく事を期待されている場所なのです。もちろん、東部が中心となって開拓を進めていきますが、王都からも人を送ったりしなければなりません。そして、その中には冒険者も多く含まれます」
「うん」
まぁ、そりゃそうだよな。
「しかし、必要だからといって誰でもいいという訳ではなく、それを王都の屋敷を任される人間が、選別するわけです。それはリアーナ領だけではなく、他の領地もそうです」
「……うん」
何となく言わんとする事が分かってきた気がするな。
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じーさんたちや、周りのおっさんたちのマイルズの評価。
それは、ちょっと文官寄り過ぎる……ってことだった。
別にそれ自体は悪くないんだが、差し当たっての問題はクリアしたものの、それでもまだまだ国の騎士団や冒険者といった武力を必要としている。
ところが、それを取り纏める役割である王都の屋敷の主であるマイルズが、このおっさんたちの目には、ちょっと頼りなく映っているらしい。
マイルズかー……。
少なくとも荒事が得意な強面には見えないが、それでも頼りないって印象は受けないが、このおっさんたちには足りなかったか。
マイルズの姿を思い浮かべながら、ほうほう……と頷いていると、今度は再びじーさんが話を始めた。
「もちろん、この王都を任されるだけの能力はあるが、それでもリアーナという特殊な土地だとな。それに、あそこが新興の領地というのも運が無かった。本来、前任が上手く引継ぎを行うから、たとえ文官出身の者であろうと、騎士団や冒険者ギルドとの繋がりを維持出来るのだが……リアーナはな」
「出来たばっかだもんね。リアーナの王都屋敷の主は、マイルズさんが初代か……」
なるほどなー。
そりゃー、リアーナは当代が初代だし、指導してくれる先輩はいない以上、
「でも、ウチの旦那様はその事まで考えなかったのかな? わざわざ候補者の中から選んだって聞いてるけど……」
どんなに優秀だとしても、王族として少し浮世離れしたところがあるリーゼルだけならともかく、現場慣れしたオーギュストも一緒に選別していたはずだ。
マイルズの経歴や、人となりは分かっているだろうし、それでも彼に任せたのなら、その辺の問題についても、しっかり考えていると思うんだよな。
「そうだ。リーゼル殿たちも、マイルズの力がまだ不足していることは分かっていたが、それでも他に任せられる者がいなかったんだろう。だからこそ、私に補佐を依頼したのだろうな」
「……あ!? もしかして、そのために今日いたの?」
「お前の紹介も目的のうちではあったがな」
そう言うと、じーさんはまわりのおっさんたちに視線をやった。
「彼等がこのように集まれる機会はそう無いからな。リアーナの件も纏めて一度に済ませるにはちょうど良かった」
「ほーぅ……」
そういえば屋敷でも、東部の纏め役はしばらくの間はじーさんに任せるとか、そんな感じの事を言っていたが、それは貴族や商会に対してのものだったはずだ。
だが、それだけじゃ無くて、リアーナの騎士団や冒険者への対応も、ミュラー家が引き受けるってことなんだろう。
もちろん、ずっとってわけじゃ無いだろうし、じーさんが王都にいる間までだろうが……。
「じーさんの責任大きいね」
じーさんはそもそもゼルキス領の王都での仕事を任されているんだ。
それに加えて、面倒くさいウチの事までとなると……大変だ。
「私が王都にいる間だけだがな。精々マイルズを引き連れて鍛えてやるさ。さて……私がここにいた理由はわかっただろう? それよりも、お前の用件はなんだ? 大方、滞在中のセリアーナを狙いかねない者の情報だろうがな。オーギュスト辺りに情報を貰ってくるように言われたか?」
「あ、そうそう。よくわかったね」
正にその通りだ。
誰から頼まれたかとかも含めて、よくわかるよな。
「挨拶以外に君が用があるとなると、その用件は限られているからな。ある程度予測はつくさ。とりあえず、いつまでも浮いていないで、かけたらどうだ?」
そう言うと、ゼロスは空いたままだったじーさんの隣を示した。
「お?」
そう言えば、部屋に入ってきてからなんだかんだで、ずっとじーさんの側で浮いたままだった。
別に困らないからついついそのままだったが、これから話をする訳だし、俺も座っておこうかね。
「んじゃ、ここに……」
【浮き玉】を抱え込むと、俺はじーさんの後ろを回り込んで、空いた席に着地した。
◇
座ったところで、さっそく話を切り出そうと思ったのだが、その前にお茶の用意をすると言われ、一旦休憩となった。
お茶の用意が出来るまで、ここでおっさんたちと雑談でもするのかな……と思ったが、騎士団本部は公的機関で、貴族のお屋敷ってわけじゃ無い。
決して手の込んだ物を用意していたわけでも無く、用意をするように伝えてから10分ほどで、部屋に届いた。
もちろん、偉い人が来客としてやって来る事もあるから、貴賓室の様なものも用意しているんだろうが……俺は貴族のお嬢様になったとはいえ、ここでは彼等の部下でもあるし、そこまで気を遣った対応はしないらしい。
親衛隊の隊員の扱いは難しい……と、笑いながら言われたが、俺的にはこっちのほうが気楽でいいな!
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