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 今日の俺の服装は、飾りのないシンプルな薄いブルーのワンピースで、普段からリアーナで着ている服と似ているが、今回の王都行きに合わせて新調した物だ。

 そして、つい先ほど完成した髪形は俺が想像した通りで、頭の天辺付近には三つ編み部分で作ったお団子があって、金の簪で纏めていた。

 さらにそこから三つ編みを解いた髪を、ポニーテールの様に垂らしている。

 青、赤、金と、鏡に映る俺の姿は中々カラフルだ。


 簪なんてそんなに目立つ物じゃ無いしなー……とか思っていたんだが、中々どうして。

 立派なアクセントだ。


 しかし、俺はスッキリして気に入ったが……全体的にシンプルな恰好だし、お貴族様的にはどうなのかはわからない。

 まぁ、セリアーナプロデュースの恰好だし、今日は人とも会わないから気にしなくていいか。


「それじゃー、オレはこれでいいとして……。セリア様はもう終わったー? …………ん?」


 リビングのセリアーナに声をかけたものの、返事が無い事に首を傾げつつ、そちらへ向かうと、彼女の方はまだメイクの途中だった。

 丁度口紅を塗っている最中で返事は出来なかったようだ。

 視線だけこちらに寄こしてきた。


 とはいえ、もうその口紅が終わればメイクは完了らしい。

 前髪をヘアバンドの様な物で上げていて、おでこ全開のセリアーナ……ちょっとレアだ。


 邪魔しないようにしないとな。


 それにしても、10分も経っていないと思うが、いつものセリアーナとメイクの出来は変わらない様に見える。

 少なくとも、俺には違いが分からないな。

 普段の彼女のメイクに使う時間は、もっとかかっていたんだが……。


 そんな事を考えながら、しばし近くを漂っていると、メイクが完了したらしい。

 化粧道具を片付け始めた。


「終わった?」


「ええ。お前も準備はいいようね」


「うん。それよりもさ、いつもよりメイクの時間が短いけど、いつもと変わらないよね?」


「使っている化粧品の数が違うのよ」


 そう言うと、その違いを語り始めた。


 今日のメイクは普通の化粧品を使ったそうだが、リアーナでのメイクは、さらに数種類多く使っているそうだ。

 もっとも、出来栄えという意味では大差は無いらしい。

 俺の目がポンコツってわけじゃ無かったのは何よりだ。


 ともあれ、その化粧品だが、肌の修復作用があるそうだ。


 俺は今まで数えるくらいしかしたことが無いからよくわからないが、メイクは肌に負担がかかってしまうそうだ。

 だから、それを同時に使う事で、肌へのダメージを抑えこむらしい。

 基礎化粧品の凄い版みたいな物かな……?


 使用目的は違うが、俺が普段使っているマニキュアも同じような効果がある。

 あれは女性騎士や音楽家等の、爪を痛めるような女性に限定されるので、貴族の女性が使う事は少ないそうだが、この化粧品はそうじゃない。

 品質や価格に上下はあるそうだが、高位の貴族はまず間違いなく普段から使っているらしい。


 極論だが、俺の【祈り】や【ミラの祝福】があれば必要は無いのだが、もはや使う事がマナーというか嗜みの様なものになっているそうだ。

 面倒でも、使っていなかったら隙を見せることになってしまうと……。

 俺じゃわからないが、使い慣れている女性同士なら、見たらわかるんだとか。


 んで、それは効果を発揮するのにちょっと時間が必要で、今日のメイク時間が短かったのはその差らしい。


「今日は使わなくていいの?」


「ええ。一応昨日は万が一の面会に備えて使っていたけれど、今日はもう誰にも会う予定はないもの。そもそも私には必要のない物だし、問題無いわ」


「そっかー……」


 まぁ、俺の次に【祈り】と【ミラの祝福】の効果を受けているのはセリアーナだもんな。

 セリアーナだって本来は使う必要は無いんだろう。

 今日はもう、王都に向かって出発するし、王都に着いたら着いたでウチの屋敷に一直線だ。

 誰にも会う事は無いし、今日くらいは手間を省いてもいいだろう。


 セリアーナはソファーから立ち上がって、化粧道具を持ち上げた。

 その際に、セリアーナの全身を見たのだが……。


 青のワンピースに、黒いストール。

 そして、髪には赤い髪留め。

 刺繍や飾りは俺の服よりも多く、何となく華やかというか派手に見える。

 全体の色のバランスや雰囲気は同じなのに、全然印象が違うのが面白いな。


 化粧道具を仕舞いに寝室に向かうセリアーナを見て、ついついそう思ってしまった。


 ◇


「待たせたわね。それじゃあ、行きましょうか」


 化粧道具を寝室に置いてきたセリアーナは、リビングに戻って来ると、そう言って手をこちらに向けた。


「はいはい」


 俺はその手を取ると、【小玉】を彼女に渡した。

 これで出発の準備は完了だな。


 今日で王都か。

 何だかんだで2週間近く経っているし……やっぱり王都行きは大変だな。


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 準備を終えた俺たちは、宿を出るとすぐにグラードの街を発つことにした。

 護衛は、俺たちが船から降りた時に合流した兵たちはそのままに、さらに数名増員されている。

 王都が近づくわけだし、治安はそれにつれてよくなるはずだが……ウチの兵じゃ無いし、セリアーナの箔付けのために、中央の兵を貸し出してくれたのかな?


 ともあれ、より厚みを増した編成で、王都への道をガタゴト突っ走っているわけだ。

 それにしても、結構な速度だよな……?


 王都には何度か来たことがあるが、あまり外を馬車で移動した経験は無いから断言は出来ないが、リアーナと違って、王都圏の街道はどこもしっかり整備されていて、馬車で走ってもそこまで揺れるような事はないはずなんだが……。


 俺だけじゃなくて、セリアーナも【小玉】に乗って浮いているから、影響は無いんだが、今は明らかに馬車全体が揺れるどころか、時折跳ねたりもしている。

 窓の外の景色を見ると、馬車は通常の倍以上の速度は出ているはずだ。


「ねー! なんか馬車速くない? 急いでるの?」


 ガタゴトと揺れる音に負けないように、セリアーナに向かって、大きな声を上げた。

 今日中に王都に到着すればいいんだし、こんなに速度を出す必要は無いと思うんだよな。

 何かあるのかな?


「お?」


 大声を出すのが嫌なのか、セリアーナは俺の腕を掴むと、自分の側まで引っ張った。


「元々兵は、私たちの様な護衛対象に外を出歩いて欲しくないのよ。何か起きたら大変でしょう?」


「まぁ、そうだね?」


 街中ですら、外出時には護衛が付くような身分なんだ。

 いくら、街道周囲の魔物や賊の討伐を行って、その上でさらに護衛をつけて安全は確保しているとはいえ、そもそも外に出ないでくれって考えるのは、俺にも理解出来る。


 その言葉に頷くと、さらに続けた。


「それでも、今の私たちの様に出かける必要がある時もあるし、その場合に備えての訓練は行っているわ。お前も見た事が無いかしら? 馬車で移動して、どれ程の速度を出せばどれだけ揺れるかを試したり……。リアーナでもしていたはずよ」


「そういえば、領地の騎士団の皆と移動する時に、オレも何回か馬車に乗ったことがあるね」


 俺が早く移動するだけなら、【浮き玉】で飛んで行けば早いし、他の皆と足並みを合わせるだけにしても、普通に【浮き玉】を使えば便利なのに、馬車に乗せられることは何度かあって、俺も護衛の訓練の一環とは聞いていたから、ちゃんと協力していた。


「場所によって街道の状態が違うから、色々な状況に対応出来るようにはしているけれど、共通しているのは、中にいる人間に負担をかけないようにする事よ。ただ……」


 セリアーナはそこで言葉を区切ると、俺と自分を指した。

 うむ。

 2人とも浮いているな。


「今回は私たちの事を気にしなくていいと言っているから、早く王都に着くことを最優先にして、遠慮なく速度を出しているのでしょうね。昼間だし、街道を行きかう者も多いから事故には気を付けて欲しいけれど、まあ……先行して騎士が走っているから、それも大丈夫かしら?」


「なるほどー……」


 安全面だったり、中への配慮だったり、後は街道の状態もかな?

 速度を出したい理由があって、速度を出せる状況でもあるから、出しちゃっているのか。


「この分なら、結構早く到着するのかな?」


「時間は通常より短くなるでしょうけれど、その分私たちが出発した時間が遅かったし、そう大きく変わる事は無いわ。予定通りよ」


「そっかー」


 俺はともかく、セリアーナは今日は誰とも面会しないことを前提に準備をしていたが、あまり早く着きすぎた場合とかどうなるんだろう?

 そう思ったが、俺が考えるような事はセリアーナが既に考えているだろう。

 心配するような事じゃないか。


「そうよ。まあ、本を読んだりするには少しうるさすぎるけれど……彼等には彼らの事情があるし、我慢しましょう」


 セリアーナはそう言うと、馬車の中を見ながら苦笑を浮かべていた。


 ◇


 俺たち一行は、途中の村で一度休憩を取った以外は、ずっと同じ様なペースで走り続けていた。


 周りにいるのがアレクたちならともかく、そうじゃないから【隠れ家】を使うわけにもいかないし、セリアーナと2人で適当に馬車の中を漂いながら、ぼんやりしていたが、馬車が誰かとすれ違う頻度が徐々に上がってきていた。


 さらに、馬車は決して窓が大きいわけじゃ無いし、外の景色だけだと今どこを走っているのかわからなかったが、日の傾き具合から、どれくらい時間が経っているのかは推測出来る。


「そろそろかな?」


 目を閉じながら【小玉】に乗っていたセリアーナは、俺の言葉に目を開くと、こちらを見た。


「そうね。外を歩く者たちの様子も変わってきているし、後数十分もしないで王都に着くはずよ。髪を直してあげるから来なさい」


「うん、お願い」


 ひっくり返ったりしていたから、その間に髪が乱れてしまっていたらしい。

 馬車から降りる前に、髪を整えて置いた方がいいだろう。


 俺は【浮き玉】を抱え込むと、セリアーナの膝へと移動した。

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