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 全ての国の代官の役割がそうなのかはわからないが、リアーナの代官ってのは、任地を守るのと住民の抑え役ってのが大きい役目だ。

 魔境と接する最前線じゃなくても、魔物は他の地域よりもずっと遭遇頻度は高いしな。

 そして、冒険者の様に荒っぽい連中も他所に比べて比率が高く、気を抜くと、街全体が荒れてしまう事もある。


 昔のルトルがまさにそんな感じだな。


 まぁ、あれはゼルキス領都と距離がありすぎる上に、当時は教会を中心とした一派が力を持っていたため、街を維持する事に専念して、無理に市井に介入する事を避けていたからってのが理由ではあるが……それなりに秩序は保ててはいたが、ほとんど無法状態だったらしい。

 だから、そうならないように代官はしっかりと自分の任地に屋敷を構えて、目を光らせているんだ。

 それだけじゃなくて、細かい事務作業だってあるにはあるが、やはり、一番大事な役目はそれだな。


 じゃあ、アレクはどうなのかってなるが……。

 馬でちょっと飛ばせば、東の拠点は領都からすぐに行き来出来る。領都で暮らしながらでも、十分代官の役目を果たせる。

 それに、アレクの名前はやっぱり大きいからな。

 領都のすぐ近くで、彼が治めるとなれば、そうそう変な事態にはならないだろう。


 うん……いい采配だ。


 なら次は……。


「んじゃ、北は?」


 アレクが東の拠点の代官に収まるのはいいとして、それなら北はどうなんだろう?

 アレクがやるのならオーギュストもって訳にはいかないだろう。

 アレクを東の代官に据えるのは、短時間で行き来出来るっていう特殊な立地があってこそだ。


 北ってまだ何も作っていないよな?

 何日か行ったところには街があるし、作るとしたらそことの中間くらいか……?


 まぁ……どこに作るのかはともかく、オーギュストはただでさえ騎士団団長の仕事が忙しいし、流石に彼に任せるって事はないだろう。

 それでも代官に就けるのだとしたら、そちらに専念してもらうことになるはずだ。


 公爵領の騎士団団長と公爵領の領都至近距離の街の代官……。

 どちらが名誉な事かはわからないが、魔王種討伐や魔物の襲撃の撃退等々、武の方面で彼には箔付けをしてきたわけだし、そう簡単に彼の代わりを務められるような者がいるとは思えないし……無いな。


 どうするんだろう?


 寝転がりながらセリアーナの言葉を待ちながら、彼女の方を見たのだが、いまいち表情がすぐれない。

 もしかしたら、まだ決まっていないのかな?


「お前、街は欲しい?」


「いらない」


 なに言ってんだこのねーちゃん。


「でしょうね……。北に関してはまだ白紙ね。そもそもまだ何も手を付けていないもの。一応候補地はいくつか挙がってはいるけれど……」


「あぁ……。もうちょっと後になる予定だったの?」


 そういや、西部が手を退くっぽいから、これを機に進めようとしているんだ。

 本来ならもう少し後になってからだったろうし、どこからか招聘するか、あるいは育てるかしていたのかもしれない。


「そうよ。お前が欲しいのなら本当に任せてもいいのだけれど……。まあ、アレクもルバンも私の派閥だし、北はリーゼルに譲ってもいいわね」


「オレはいらないなぁ……。んじゃ、誰になるかってのはまだ決まってないんだね」


 なんか声色が本気っぽいが、それでも俺はいらないしな。

 しっかり断っておこう。


 しかし、派閥の問題もあったか。

 順当に行くと、領都の周囲を固める三つの都市のうち二つの街の代官が、セリアーナ派閥になるわけだ。

 それは、俺たちの代はよくても、先のことになるとわからないし、注意しないといけないんだろう。


 代官職は、確か世襲ってわけじゃ無いんだが……。

 それでも、敢えて代えるような事をやらかさない限りは、そのまま引き継ぐことが多い。

 ゼルキス領の時もそうだったもんな。

 そんで、リアーナ領に分割される際の再編で、ちょっとゴタゴタしたんだった。


 領都を囲む街がセリアーナ派閥で埋められて、何代か後に結託して領都に対抗されたりしたら、厄介なことになったりもするし、一つはリーゼル派閥の人間に任せておいた方がいいよな。


 俺に任せるっていったのは、地位に固執しないから取り上げやすいとでも思われてるのかな?

 当たっている。


「ええ。リーゼルも今は折角王都にいるわけだし、向こうで人を色々調べているんじゃないかしら? それに、一度に何か所も街づくりをするのは、西を警戒する必要がなくなったとはいえ、流石に負担が大きいわ。ダラダラする訳にはいかないけれど、任せられる人材がいないうちから無理に進める必要も無いわ。まずは東から……。北はそれからね」


「ほうほう」


 丁度今は、まだ王都に国中の人間がいるはずだ。

 そして、リーゼルは王都にいるし、人材探しなら好都合かな?

 彼ならあちらこちらに顔が利くし、情報集めついでに色々やっているだろう。


「王都に行った時に旦那様に聞いてみるかなー……」


「そうね。その頃には向こうの用も片付いているでしょうし……」


 そして、再びコロコロ転がり始めたが……そろそろ眠気が……。

 頭使ったからな。

 セリアーナがまだ何か言っているが……だんだん怪しくなってきた。

 ここらで休ませてもらうか!


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 戦争に参加していた兵たちが帰還して2日経った今日この頃。


 帰還兵たちは今は絶賛休暇中で、疲れを癒している事だろう。

 先程街の上空を飛んだ時に、心なしか通りを歩く人の数が普段よりも多かった気がするが……もしかしたら、街に遊びに出たりしているのかもしれないな。

 まだまだ街に娯楽施設は少ないし、昼間から遊べる場所はそんなに無いはずだが……まぁ、リフレッシュ出来ているのならいい事だ。

 アレクやジグハルトたちも、街に残っていた隊員や冒険者たちと、会ったりしているしな……。


 さて、そんな彼等の事はさておき、俺は今街の東の空を、街道に沿ってゆっくり移動している。


 先日夜、セリアーナから聞いた話で、街の東側の事が少し気になったんだ。


 今までもこちら側の事を気にしていないって事は、もちろんなかった。

 気を抜いたら魔物が出てくるかもしれないからな。

 森から魔物が出て来たり、あるいはそのような痕跡が無いかを、近くを通る際には見逃さないようにしていたつもりだ。


 ただなー……。

 俺が気を付けていたのは、あくまで魔物に関するものばかりだったんだよ。

 それ以外には今まで気を配ってこなかったし、特にダンジョンが出来て以来、こちら側はすっかりご無沙汰になっていた。


 街道や拠点は、日頃から行きかう冒険者や見回りの兵たちが、しっかり警備をしているもんな。

 魔物関係で、俺の出番は無いはずなんだ。


 どっこい、今後はこちら側の開拓、開発、発展……それらに力を入れるらしい。

 果たして俺の出番があるのかどうかは分からないが、それでも一応視察くらいはしておこうと思って、今日は久しぶりにやって来たわけだ。


 ◇


「ふむぅ……」


 そんな訳で、フラフラふよふよ東門から拠点を目指して飛んでいるが、まだ昼前だからかな?

 目にしたのは、領都に向かう商人ばかりで、冒険者の姿は街の側でしか見かけなかった。


 もうじき春という、狩りをするには悪く無い季節だし、浅瀬に比べたら少々ハードな場所だし、この辺で狩りをする冒険者の数は少ないだろうけれど、それでももう少しいてもおかしくないはずなんだよな……。


 まだ冒険者たちが到着していない可能性もあるが……移動しやすい道は出来ているし、ここらへんで狩りをするのなら、たとえ徒歩であっても時間をかけること無く来る事が出来るはずだ。


「ふーむ……。あ、もしかして……!」


 なんで狩りをしている者たちがいないのかなー、と考えていたが、一つ思い浮かんだことがあった。


 今俺が浮いているのは、領都から数キロほどの場所だ。


 この辺の森は、もう浅瀬とは言えない場所で、そこそこ大型だったり群れを作るタイプの魔物がほとんどだ。

 魔境の魔物という事もあって、ここの冒険者たちでも油断できない強さの魔物なのだが、それは、油断さえしなければ何とかなる程度ではある。


 だが、本当に厄介というか面倒なのは、倒した死体の処理だ。

 頑張って倒しても、死体を放置するわけにはいかないからな。

 焼いて灰にするか、街に持って帰るかだ。


 持って帰るのが困難な場合は、前者を選ぶことが多いそうだが、いかんせんここは森だからな……。

 灰にするまで燃やすようなことは、少々厳しいだろう。


 それなら街まで持って帰るしかないが……もう少し浅瀬に近ければ、狩りをする冒険者の数も多いだろうし、回収を依頼する事も出来るだろう。

 そして、もう少し奥なら拠点の方が近いだろうし、そちらに持って行くことになる。

 拠点なら、森で狩りをする事を前提にした連中が集まっているし、狩りをしている連中も多いから、手伝いはすぐに見つかるだろうが、ちょうどここは狩りをするには向いていない場所なんだろうな。


 冒険者の力量バランスか、地理の問題か。

 なにはともあれ、ここは過疎地帯かぁ……。


 ◇


 この街道は、街の中央通りから東門を通り抜けて、さらに東の拠点まで伸びているんだ。

 昔俺も手伝ったが、街の東に広がる一の森の中に拠点を作るって時に、突貫で森を切り拓いて通した道だな。


 東の拠点の拡大と発展にあわせて、そこに繋がるこの道も広げられていっている。

 木を倒しては整備をして……と、地道な作業ではあるが、なんといっても魔物が出るし、作業は慎重に進められているから、どうしても時間がかかってしまうんだろう。

 それでも、何とか馬車がすれ違えるくらいまで幅が広がっているが……それだけでは、まだまだ足りないらしい。


 俺が雨期明けに外をフラフラ見回っていた時、サラッとだけだが東の街道も見ていた。

 だが、その時は雨季明けという事を差し引いても、何かの作業をしている形跡はなかったんだが……。


「お?」


 街道周辺の状況を探りつつ移動していたのだが、東の拠点までの半ばに差し掛かったところで、作業をしている一団を発見した。

 何をしているのかなと思って、そちらに近づいていくと……。


「おっ? よう、副長。仕事か?」


 上空をフラフラ漂っている俺に気付いたらしい。

 下で作業員の護衛をしていた兵の一人が、下から俺に向かって声をかけてきた。

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