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さて、ここを発ってから戦争が始まるまでの話はこれで終わったが、そこから先は何を話すんだろう?
簡単にだがゼルキスの屋敷で聞いているが、やっぱりまだ続きがあるのかな?
「戦争に関しては、セラに話した事がほとんどだな。向こうの傭兵連中が話を持って来て、こちらはそれを呑んだ……。それだけだ」
と、ジグハルトがそっけなく告げた。
それを見たアレクは苦笑しているが、やっぱりジグハルト的には不完全燃焼というかなんというか……。
あまり彼は対人戦に興味はないと思っているが、それでも西部の体たらくに、何か思うところがあったのかな?
「ジグハルト。貴方は全く戦いに参加しなかったの? お母様からの手紙では、東部閥は全軍の中でも屈指の働きをして、その中でもリアーナの働きが大きかったと書かれていたの。ウチからはアレクやルバンも参戦しているし、兵も魔境の魔物を相手にするからよく鍛えられているけれど、それでもそこまでの働きが出来るとは思えないわね」
「なぬ?」
俺はミネアさんの手紙を読んでいないから知らなかったが、セリアーナの言葉から察するに、リアーナは中々の活躍をしたらしい。
ミネアさんは親父さん経由で情報を知ったんだろうし、誇張って事はないだろう。
ただ、それだけの成果を上げるとなると……。
アレクたちを抜きにしても、ウチの兵は魔境の魔物を相手にしていた連中がメインだし、人間相手にそうそう後れを取る事はないと思う。
アレクやルバン、戦うとは思わないがリーゼルにオーギュストだって強いが、彼等は一対一や少数相手ならともかく、大群相手に大暴れってタイプじゃないと思う。
となると、ジグハルトだろう。
……俺が向こうでジグハルトから聞いた話と違うね?
「いくつかの傭兵団と、正規兵の部隊を焼いただけだ。腕が立つ連中は初日で離脱していたからな。派閥や領地の功績にするのは構わないが……それを俺の働きと言われても困るな」
「ああ……そういう事なのね」
ジグハルトの言葉に頷くセリアーナ。
ついでに、隣で俺も頷いてしまった。
集められた傭兵の中で、手強いというか……経験豊富な連中は初日で離脱してしまい、残ったのは微妙な連中が大半だと言っていた。
そして、そもそもあまり強くない、西部の正規兵。
ジグハルトは、何も戦争で名前を上げようってわけじゃ無いし、そんな弱兵をいくら倒したところで、今更って感じなんだろう。
しかし、どれだけ倒したんだろうな?
それも、焼いた……って。
相手側の数とかはわからないが、いくつかの傭兵団と正規兵の隊っていっているし、数十かあるいは数百か……。
戦場とはいえ、中々えげつない光景だったろうな。
敵も味方もびっくりだ。
「ジグ、貴方一人でそれをやったのかしら?」
これまでジグハルトの話を黙って聞いていたフィオーラだったが、何か引っかかるのか、ジグハルトに向けてそう言った。
ジグハルトは、街に帰って真っ直ぐ自分の家に戻ったんだが、その時はフィオーラも一緒に家にいたはずだ。
ただ、どうやらその時話を聞いたりはしなかったらしい。
まぁ……どうせここで話すから、一緒に聞いた方が一度で済むし効率はいいんだろうが、二人らしいな。
それはそれとして、フィオーラはジグハルトの話した戦果を、彼一人でやったのかどうかってのが気になるようだ。
結構な惨事だとは思うが、それをやったのが一人か複数かで何かが違うんだろうかね?
俺は、フィオーラの疑問がいまいち理解できずにいたのだが、セリアーナたち女性陣はわかっているのか、ジグハルトの事を見ている。
「ああ。魔法数発でそれだ」
そして、彼女たちの視線を受けたジグハルトも、フィオーラの言葉を理解したのか、簡潔に答えると、フィオーラたちはどこか呆れた様な表情をしている。
「西部の勢力は、再編を図る程度に力関係に差が出来ているのは分かっていたけれど、随分とひどいようね」
うぬぬ……。
何が引っ掛かっているのかがいまいちわからんな。
ジグハルトが強いのはわかるし、西部のゴタツキというか、やる気の無さもわかるが……。
後でセリアーナに聞いてみようかな。
まだ話は続きそうだし、今ここでアレコレ聞いても、間を空けちゃうだけだろうしな。
「…………ぬ?」
何となく隣から視線を感じて顔を向けてみれば、セリアーナがこちらを見下ろしていた。
ニヤリと笑みを浮かべているが……俺の反応を見ていたのかもしれないな。
「ん? どうかしたか?」
「いいえ、何でも無いわ。それよりも、話を続けて頂戴」
「そうか? 後は……アレク。任せた」
「ええ」
再び話のバトンはアレクに渡って、彼が続きを引き継いだ。
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アレクにバトンが渡ったはいいが、なんだかんだでずっと話しっぱなしだったので、休憩も兼ねてお茶の時間にすることにした。
休憩といっても、結局話をするのだが、誰がメインで話すとかではなくて、全員が思い思いに会話をするただの雑談だな。
彼等が領地を離れていた間の事は、俺も簡単には話していたが、やはり彼女たちの方が色々と詳しく領地の状況を把握していて、ずっと情報量は多かった。
……というよりも、この領都の事はもちろん領内全体で、俺が知らないことばかりだった。
中でも驚きだった情報がある。
領都のすぐ東に、数年前に開拓の拠点を作ったんだが、そこを本格的に村へと発展させて、将来的に街にする計画があるんだとか。
リアーナ領の一番の懸念だった、領都の教会絡みの問題も片付いた今、リアーナ領はこれからまだまだ発展していくし、セリアーナたちも積極的にさせていくだろう。
そして、その発展の中核をなすのはこの領都だ。
そりゃー、魔境を切り拓いていくんだし、そこに隣接するこの街が重要になるに決まっている。
とはいえ、今のままでいいという訳ではない。
この街は拡張工事を経て、旧ルトルの頃から倍近い広さになって、壁の内側に大分余裕が生まれた。
生まれたのだが……人口も増えたし、貴族街も作ったしで、もうその余裕もほとんどなくなりつつある。
かといって、また街を広げようって訳にはいかない。
領主の屋敷や貴族街に、他の主要施設の関係上、街を広げるとしたら東側なんだよな。
ところが、街の東側には騎士団の訓練場があるし、そのすぐ先にはもう一の森がある。
街を広げるには、まずはそこをどうにかして切り拓かなければならない。
さらに、街を広げるには結界の問題もある。
新たに張るのか、あるいは今の結界を張り直したりするのかはわからないが、まぁ……簡単には出来ないだろう。
だから、もうこの街の物理的な拡大はここで終わりにして、今後はゼルキスの領都の様に、内部の設備の充実に努めるそうだ。
だが、そこで大人しく領地の発展を終わらせるかっていうとそうでは無くて、領都周辺にその役割を分担する街を複数作る計画があるようだ。
そのうちの一つが、東の開拓拠点だな。
場所こそ一の森の中だが、領都とは数キロ程度しか離れていないし、何か起きても領都からすぐに人がやって来れる距離だ。
さらに、恐らく当面の間その拠点の売りになるのは魔境の魔物素材で、今領都にいる、ダンジョンでは無くて魔境での狩りをメインの活動にしている冒険者たちは、そちらに移動することになるだろう。
既にその拠点に活動の場を移している冒険者たちと連携したら、十分維持出来るはずだし、有事の際にも対処できるだろう。
もちろん、倒した素材は分配されたりもするが、領都と違って所詮は一拠点に過ぎないし、満足な報奨金は出ないだろう。
だが、発展させることが前提の拠点で、そこの防衛に尽力したのなら、将来的にそこでの立場は約束されたようなものだしな。
魔境の魔物を相手にするから、危険な事に違いは無いが、それでも十分うま味がある。
冒険者たちも、拠点の防衛や維持に協力してくれるだろう。
その東の拠点だけじゃなくて、南のルバンの村や、さらに時期は少々遅れはするが、北側にも東の拠点と同様のものを作って、やっぱりいずれは街に発展させる予定らしい。
その3つの街を領都の衛星都市として、それぞれ連携させることで、大都市圏を作るんだとか。
中々壮大な計画ではあるが……街の冒険者の様子を考えると、彼等って結構安定志向だし、この計画も達成できるだろうな。
その話をふむふむと頷きながら聞いていたが、よくよく考えると、果たしてこの話は雑談って括りで流していいものなんだろうか……?
この話って、領地の将来についての話だよな。
お酒こそ飲んでいないが、皆随分くつろいでいるぞ……?
「セラ、どうかしたのかな?」
部屋の雰囲気と、話の内容との差に少々不安を感じて、ついつい視線をキョロキョロと彷徨わせてしまっていたのを、向かいに座るエレナに見られていた様だ。
「いやさ……この話ってこんな気軽に話していいの?」
「構想自体は以前からあったけれど、本格的に考えたのは今年の秋以降よ。でも、まだ大々的に公表するようなことはしないわね。もっとも、街の各ギルドにも話を通しているから、そこまで気にするようなことでは無いわね」
「……へぇ」
俺の疑問に答えたセリアーナに生返事を返すと、会話を続ける皆をよそに新たに湧いた疑問について、再び俺は考え込んだ。
屋敷だけじゃなくて、街の各ギルドにも伝えていると言っていたけれど、そういえば冒険者ギルドと商業ギルドって、教会地区の孤児院跡の土地を互いに使いたがっていたよな。
この話って、あれとかにも色々関係しそうな気がするんだけれど……。
ふむ。
皆を見ると、雑談を終えて再びアレクが話を始めている。
その話の腰を折るのもなんだし……これはまた後でセリアーナに聞くリストに入れておこうかな?
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