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 途中で魔物との戦闘というハプニングに遭い、少々時間を食ってしまった。

 人助けではあったし悪いことでは無いんだが……だからといって、それで俺の帰還時刻が遅れてしまうのもな。

 ってことで、あれ以降は回り道をすることなく、一旦街道に出た後は、真っ直ぐリアーナ領都を目指すことにした。


 もう完全に日が落ちていたし、いくらゼルキス領とはいえ、流石にそんな時刻に移動するようなことはないだろうと思うが、もしまた同じようなことがあっちゃな……見捨てるわけにもいかないだろう。

 助けに入らないといけないから時間を取られてしまうし、それなら最初から見ないで済むように動けば、そんな事を気にしなくていい。


 果たしてそれでいいのかって気もするが、まぁ……いいだろう!


 さて……それはさておき、方針を変えたことがよかったのか、結局その後は人間とも魔物とも出くわす事はなく、無事領都に到着した。

 今の時刻は夜の8時を回ったところ。

 初めから寄り道せずに真っ直ぐ帰っていたら、2時間くらいは早く到着していたかな?


 朝屋敷を出た時は、まっすぐ行って帰って来る予定だったからな……。

 厳密な帰宅時刻は決めていなかったが、ちょっと遅くなってしまったか。


「お?」


 とりあえず街に入って屋敷の前に飛んできたが、この時間帯は食事だったり風呂だったりで、セリアーナは部屋にいないだろうし、普通に玄関から入るつもりだったんだが、窓が開いているのが見えた。

 これは、部屋に誰かいるな。


 それなら玄関に回り込んだりせずに部屋へ直接入っていいだろうと、窓に飛び込んだ。


「ただーいまー。あら、みんな勢揃い……」


 部屋に入ると、セリアーナはもちろん、テレサにフィオーラ。

 そして、いつも夜は自宅に戻っているエレナもいた。

 全員仕事時に着ている服では無くて、既にラフな服装になっているし、今日はもうオフなのかな?


「お帰りなさい。遅かったわね」


 はて?

 と、窓から入ってすぐの場所で首を傾げていると、セリアーナが口を開いた。

 口調から怒った雰囲気は感じないが、出発時に伝えた予定時刻よりも遅くなったからな。


「む……。ちょっと寄り道をね?」


 大した理由でもないし適当に答えると、セリアーナは少し呆れた様な顔をして、奥の浴室を指して口を開いた。


「そう……。まあ、いいわ。風呂の用意は出来ているから、さっさと入ってきなさい。話はそれから聞くわ」


「はーい……。あ、ミネア様から手紙を預かってるんだよね」


 セリアーナの言葉に返事をして、風呂に向かおうとしたが、手紙を預かっていたことを思い出した。

 風呂から出た後でも構わないが、今のうちに渡しておくかな。


「お母様から? ご苦労様。読んでおくわ」


「うん。それじゃ、後でね」


 よし。

 それじゃー、風呂に入って来るかな。

 返り血なんかは浴びていないが、戦闘もしてきたし、サッパリして来よう!


 ◇


 風呂から上がり、髪を乾かしたりと身支度を終えたころには、既に部屋に俺の分の食事が用意されていた。

 どうやら他の皆はもう食事を終えていたようで、食べるのは俺だけだな。


 俺が風呂に入っている間に、ミネアさんの手紙をセリアーナだけじゃなくて皆も読んでいたようで、そのことについて話をしていたが、まずは俺の話を聞こうという事になった。


 食事をしながらだからあまり綺麗にまとまった内容にはならないが、彼女たちは勝手に自分たちで補足していくからな……。

 どうやら、ミネアさんの手紙でも街の様子が少しは書かれていた様だが、俺は深く考えずに、適当に喋るだけで大丈夫なのが楽でいいね。


「セラ」


「うん?」


「お前は教会地区には立ち寄っていないのよね?」


「うん。伯爵から聞いて、ちょっと気にはなったんだけどね。時間はあまりなかったし、そもそもオレは向こうの教会周りの事はほとんど知らないし、行っても違いは分からないかな? って思ってさ」


「そう……」


 そう言って、再び皆で何やら話を続けた。


 うーむ……。

 やっぱり教会地区を軽くでも見ておいた方がよかったかな?

 いや、俺は行かなかったけれど、アレクやジグハルトがいるし、彼等が見に行ってくれるかもしれない。

 特にアレクは、あの街で暮らしていた訳だし、俺なんかよりずっと教会地区にも詳しいはずだもんな。

 頼んだぞ……アレク。


「セラ」


「んぐっ!?」


 もぐもぐ食べながら、アレクに念を飛ばしていると、再びセリアーナから名を呼ばれた。


「なにをしているの……。まあ、いいわ。教会地区はいいから、街の様子に変わりは?」


「ぬ……。街も特に変化は無かったよ。色んな領地の兵が滞在しているからってのもあったかもしれないけどね」


「結構」


 セリアーナは一つ頷くと、また話に戻っていった。


 親父さんやアレクたちとしたのと同じ様な事を話している。

 俺は何となくでやっているが、もしかしたら注意するポイントとかのテンプレートがあったりするのかもしれないな。


 ふむふむ……と、頷きながら、食事ついでにその話を聞いていた。


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「ふぅ……ごちそーさま」


 話を聞きつつ、ときたま適当に返事をしながら食事をしていたが、ようやく食べ終えた。

 毎度俺の分の食事は軽めにしてもらっているが、食べ終わる速度は一向に上がらない。

 小さい頃からこうだし、もうこれは変わらんかもしれんね。


「食べ終えたわね。いくつかお前に確認したい事もあるし、場所を変えましょうか」


「そうですね。食器を下げさせたら私も向かいます」


 俺の返事を待たずにセリアーナが立ち上がると、他の皆も彼女に倣い席を立った。

 そして、スタスタと奥の寝室に向かっていく。


 食べたばかりだし、ちょっとはのんびりしたかったが……まぁ、いいか。


「よいしょ……っと」


 ソファーから立つと、【浮き玉】に乗ってセリアーナたちの背を追った。


 ◇


 場所をセリアーナの寝室に移して数分ほど経った頃。

 使用人たちが隣の部屋を出入りした気配を感じたが、食器を下げていたのだろう。

 ほどなくして、お茶の用意を手にしたテレサがこちらに姿を現すと、皆の前にお茶を並べていった。


 彼女たちが先程まで話していた内容は、ゼルキスの街の様子だったり、ウチから向こうまでの街道の様子だったりと、当たり障りのないものばかりだった。

 使用人が部屋に入ってきた時に、彼女たちに話が漏れないようにだろうな。

 部屋のメンツ的に、部屋の前に来たらすぐに気づけるだろうが、相変わらずの慎重さっぷりよ。


 しかし、わざわざ場所を変えたって事は、もう少し踏み込んだ内容になるのかな?


「セラ」


「ほい」


 お茶を一口飲んだセリアーナは、カップを置くと口を開いた。


「ゼルキスへの伝令役、ご苦労だったわね」


「うん。久々に遠出して楽しかったよ」


 セリアーナはフッと笑うと、言葉を続けた。


「結構。戦争の結果や王都やゼルキスの様子は、お前の報告とお母様からの手紙を合わせてある程度把握できたわ」


「うん」


 ミネアさんの手紙か……どんなことが書かれてたんだろう。

 俺の報告なんて大したもんじゃ無いしな。

 きっと親父さんとしっかり情報を共有しているんだろう。

 あまりミネアさんが仕事をしている姿を見た事って無いし、こう言っちゃなんだが、ちょっと意外だったな。


「リアーナは死者はゼロだったけれど、ゼルキスを始め、東部派閥の各領地では数名ほど死者が出ていたそうよ。まあ……派兵する兵の数がウチに比べるとずっと多かったようだし、仕方が無いといえば仕方が無いわね」


「ほうほう……」


 ウチはほとんど戦闘に参加しなかったようだけれど、他のところはそうじゃないのかもしれないしな。

 まぁ……やっぱりゼロって訳にはいかないんだろう。


 しかし、それでも数名ずつなのか。

 どんだけ圧勝だったんだろうな……。


「詳しい報告はアレクたちが帰還してからになるけれど……。帰還は予定通りなのよね?」


「うん。船を使った水路での方が早く帰ってこれるけれど、帰還ついでに領内の周辺を見回って来るって言ってたよ」


「結構。今の時点ではウチが動けるような事は無いし、アレクたちの帰還待ちね。それで、お前は寄り道したと言っていたけれど、どこか用事でもあったの?」


 セリアーナの言葉に、俺は首を横に振った。

 用事じゃなくて、本当にただの寄り道だったもんな。


「折角久しぶりのお出かけだからね。通常のルートじゃなくて、ちょっと違うルートで帰ってみようと思ったんだ」


「ああ……本当にただの寄り道だったのね。なにか変わったものでも見つけたのかしら?」


「変わったものは見つけなかったけれど、帰り道でね……」


 俺は帰還の際に遭遇した商人たちの事を話すことにした。


 流石にリアーナの商人で、暗くなっても次の街を目指すような者はいないだろう。

 ご近所さんの移動くらいならあるかもしれないが、気を抜いたらすぐ魔物に出くわす土地だもんな。


 とはいえ、よくよく考えると、俺はこの領地の事故とかについて詳しく知らないからな。

 もしかしたら、俺が知らないところで頻発してたりするのかな?


「まあ、商売に情報は大事だし、それで儲けを出そうとして無理をするのは理解出来なくも無いけれど……。ウチはどうかしら? テレサ」


「管轄が1番隊になるので、私もすべてを把握出来ているわけではありませんが、リアーナでは、街や村の門限を厳しく定めていますし、夜間に外を移動する者はいないはずです。リアーナも数年前まではゼルキス領でしたが、同じ領地とはいえ、やはりこちら側は魔物と遭遇する頻度も高いし、住民の危機感も違うのでしょうね。ですから、心配は無用ですよ」


「そう。狩場ならともかく、想定しない場所で死者が出るような事態は、周囲の魔物の縄張りにも影響が出るし、その心配が無いようなら何よりだわ。それにしても……お前は妙な事を思いつくものね」


「つい……ね」


 自分でも唐突な思い付きだったしな……。

 ともあれ、リアーナでああいった事態は起きそうにないってことか。

 それは何よりだ。


 その後は、帰還予定日や参戦した兵への報奨金についても少しだけこの場で話を進めたが、俺は途中で眠気に負けて離脱させてもらうことにした。

 座っているだけではあるが、それでも久々の遠出に付かれたのかもしれないな。

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