353
778
「そりゃー……折角雇った傭兵の大半が、結局戦わないまま終わったってなったら大事だけど……」
改めて口にしてみたが、他に何かあるんだろうか?
それとも、西部の事をよく知る彼等には別の事が見えてるのかな?
「そうだな……。だが、問題はそんな状況が起きている事だ。一つだけじゃない。複数だぞ」
「……ぬ?」
「一つは、仮にも国を代表して兵を率いる指揮官が、帝国らの監視が無ければ傭兵を雇ってもまともに働くことはないってことを、理解出来ていないってことだ。まあ、本国の政治事情で、実は理解していてもそれを表に出せなかっただけってのも考えられるが……」
ジグハルトはそこで言葉を止めた。
今の彼の話を纏めると……。
「……お馬鹿って事だね」
元々参戦国は、ちょっと大陸の政治情勢から取り残されているというか、頭が古い連中みたいではあったけれど、それが戦場にも反映されちゃっているみたいだ。
もちろん、上の方がそうってだけで、現場の連中は違う可能性もあるけれど、実際そのまま戦争になっちゃってるし、これはもう駄目だろう。
「そうだ」
俺の言葉を聞いたジグハルトは頷いている。
そして、話を再開した。
そういえば理由は複数あるとか言ってたけれど、まだ一つ目だったもんな。
その一つ目がすでに致命的な気もするけれど、他はどんなんだろう?
「後は……そうなるだろうって事を俺たち以上に分かっていたはずにもかかわらず、帝国らが容認したことだな」
「うん? それじゃ駄目なの?」
ジグハルトの話にアレクは頷いているが俺にはちょいとわからん。
参戦国にやらかさせて、それを口実に帝国らが介入して西部の再編を目論んでいる……そんな感じだったと思うんだよな。
さっきの話を聞いた限りじゃ、この上なくやらかして、自分たちなしじゃ成り立たないってのをしっかり大陸中にアピールできていそうなんだけど……。
いまいち事情が理解出来ずに首を傾げていると、アレクが補足してきた。
「セラ。この件に関わっているのが西部の国だけなら問題はないんだ。時代遅れの弱小国が問題を起こして、自力で収めることが出来ずに、大国に吸収される……それだけの話だ。だが、今回は東部も大きく関わっているだろう?」
「うん」
「傭兵の監視の件もだが、今回は西部の大勢力があまりにも関わろうとしなさ過ぎているんだ。これまでだと、直接東部や同盟に対して仕掛けてくることはなくても、何かと優位に立とうとして来ていたのに……。これが国の内部で何か大きな変化が起こって、こちらに手を回す余裕がないとかならともかく、そんな事は無い」
「……そうだね」
なんとなく、彼等が何を言いたいのかがわかってきた。
西部ってのは、同盟を含む東部の事を言ってしまえば見下していた訳で、だからこそ今回のやらかしに繋がった訳だけれど、それでも帝国だったり連合国だったり、神国だったり……。
西部の大勢力がしっかり締めを持って行けば、西部にも東部にもメンツや影響力を示す事が出来るのに、それを何もしてこないんじゃ、ただただ西部がやらかしたって結果しか残らない。
そのことを怪しんでいるんだな。
「まだ断定はできないが……東部に対する方針を変更したのかもしれないな」
「例えばどんなことだと思う?」
「さて……どうだろうな。断交って事はないだろうが……」
俺の言葉にアレクは首を横に振った。
ジグハルトも肩を竦めている。
今の時点じゃまだ何もわからないってことかな?
まぁ、ここでぺちゃくちゃ話すような事じゃないか。
「細かい点はまだあるが、大きく分けるとこの二つだな。今頃リーゼルの旦那が王都で色々情報を集めているし、今ここで話しても仕方が無いだろう」
「そうですね。セラ、一応この話は内密に頼むぞ」
「……ぉぅ。わかったよ」
その言葉にコクコクと頷いていると、こちらを見ていたジグハルトが、何かを思い出したような顔をした。
「セラ、お前今日はリアーナからここまで真っ直ぐ来たんだよな?」
「うん。街道沿いに飛んで来たよ」
「俺たちは明日街を発つんだ。リアーナまでの道中、魔物がいるようならついでに討伐していく予定なんだが、何か異常はあったか?」
「あー……折角纏まって移動するもんね。んー……でも、森の方には少し気配はあったけれど、数は少なかったね。街道に出て来たり街や村を襲いそうな動きはなかったかな?」
あくまで主要な街道沿いではあるが、せっかく戦力が揃っているんだし、ただ帰るだけじゃなくてひと働きしていくつもりなのかな?
ただ、今年は平和そうだし、ゾロゾロ纏まって移動していたら、逆に魔物は姿を見せなさそうだよな。
「そうか……。一旦戻って船で帰還してもいいが……。どうする? アレク」
「いえ、予定通りにしましょう。セラ、お前の事だし今日戻るんだろう? 戻ったら奥様に帰還の時期は予定通りだと伝えておいてくれ」
「りょーかい!」
779
あの後アレクたちとの会話はすぐに終了した。
戦争については大まかな情報しかわからなかったが、細かいことは領地に戻ってからでもいいだろう。
俺だけで聞いても仕方ないもんな。
ってことで、俺は一旦屋敷に戻りミネアさんの部屋へと向かった。
アレクたちの部屋で過ごしたのは1時間くらいかな?
日が暮れるにはまだまだ時間はあるか。
だが、数時間でリアーナ領都にたどり着けるとはいえ、あまり遅くなっちゃうのはよろしくない。
帰り時だな。
さて、ミネアさんは俺が部屋に着いたときには、もうセリアーナへの手紙を書き終えていた。
手紙は2通で、どちらもセリアーナ宛だ。
それを預かると、俺は屋敷を発つことにした。
一応親父さんにも挨拶に行こうと思ったんだが、部屋の前に行ったときはすでにお客が来ていたからな。
ちなみにお相手は、他領の領主様だ。
今回の戦争に自領の騎士を率いて参戦していて、今この街に滞在している。
その彼だけじゃなくて、他にもまだ他所の領主だったりお偉いさんが滞在していて、彼等が街を発つまではこういった会談が続くことになるんだろう。
ちょっと迷ったけれど、挨拶自体は先程会った時に済ませたし、まぁ……今回はこれでもういいか。
少々慌ただしい滞在ではあったが、これで屋敷を発つことにした。
親父さんとの話でも出た、この街の教会地区の様子は少し見てみたい気もしたが、今日はもうその時間も無いし、また今度かな?
あまり駆け足で見ても、俺はこの街の教会地区は深夜しか知らないしな……。
違いに気づけないかもしれない。
敷地の門の手前まで来た俺は、体を伸ばしたり腕を回したりと、【浮き玉】に乗りながらだが、ちょっとした準備運動を始めた。
これから数百キロのロンツーだからな。
少し気合いを入れないと!
「さて……それじゃあ、行きますかねー」
程よく体も温まってきたし、そろそろ出発かな。
◇
リアーナとゼルキスを繋ぐルートは、行きも使った主要街道の他にも、いくつかあったりする。
領地間を繋ぐ街道は基本的に一本の場合が多いんだが、リアーナは元々ゼルキス領だった。
だから、主要街道に比べると規模は小さいが、領内の街や村から直接繋がっている細い道があったりもする。
護衛を引き連れた貴族だったり商隊が移動するのは厳しいが、今でも少数での移動ではそちらの方が使われているんだ。
主要街道に比べると、騎士団の巡回なんかと出くわす機会も少ないし、むしろこちらの方を積極的に利用する者も多かったりする。
たとえやましい事が無かったとしても、武装した兵と出くわすのは民間人には少々ハードだからな。
周囲の整備も出来ていないし、街道に比べると魔物や獣も姿をみせる頻度が高く、安全面という意味では少々不安はあるが、大人数での移動でもないし、護衛には精々冒険者を一人か二人雇えば十分カバー出来る。
まぁ、騎士団の目が届かないルートがあるのは、防犯の意味でもあまりいいことでは無いし、そのうち何か手が入るのかもしれないが、当分はこのままだろう。
んで、帰りのルートはそちらを使ってみようと考えた。
俺は基本的にリアーナに戻る際には、街道沿いか、あるいは道なんか無視して一直線に飛んでいくかだった。
大体俺がそのルートを使うのは、王都やゼルキスから帰還する時くらいだもんな。
時間面だったり、早く戻りたい理由があったりすることが多く、遠回りをする余裕がなかったりで、そのルートを使っていた。
後は、テレサが一緒のパターンも多かったからってのもあるかな?
しかし!
今日は時間にちょっと余裕があるし、さらに俺一人だ。
ってことで、少し街道の南に回り込みながら帰っている。
北側も同じように脇道があるが、北側には森が広がっていて、ちょっと気軽に寄り道って雰囲気じゃ無いし、それはまたの機会にするつもりだ。
南側は草原地帯で、道のすぐ傍らにも背の高い草が生い茂っているが、空を飛ぶ俺にはあまり関係の無い事だもんな。
◇
「ふぬ……やっぱり行きのルートに比べると魔物の姿を見る機会が多いね。日が暮れ始めているってのもあるかもしれないけれど……」
フラフラ南側を飛んでいるわけだが、ゴブリンやオオカミといった小型の魔物の気配が行きに比べるとずっと多い。
平地だし大型の魔物なんかがいたとしても、すぐに発見出来そうだが、小型の魔物が身を潜める茂みはこちらの方がずっと多いし、人間にとってはこのルートはなかなか気を抜けないかもしれないな。
「……ぬーん、なんか食っとるのかな?」
ちょっと体力や魔力が小さすぎてわからないが、茂みには魔物以外の小動物も当然いる。
ウサギとかイタチとかかな?
それを捕らえたのか、1体のゴブリンが何かを食べていた。
生でかー……。
ワイルドだな。
まぁ、食べ方は置いておくとして、とりあえずこの草原地帯で何となく生態系が成り立っているのかもしれない。
積極的に人を襲ったりはしないのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます