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◇ 1話抜けていたため、319話に709を追加しました……申し訳ありませぬ。


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「お前にとってはあまり気分のいい話じゃ無いでしょうけれど……アンデッドは知っているわね?」


「……うん。死体に魔素が溜まってってのでしょ? 見たことは無いけど、冒険者ギルドとかで話だけは聞いてるよ」


 唐突なアンデッドって単語に少々虚を突かれてしまったが、一応知識だけはある。

 死体から魔力が抜けきらないうちに魔素が溜まってしまうと、ゾンビになって動き出すとか、その抜けて行った魔力と魔素が混ざり合って、レイスになるとか……そんな感じだ。

 んで、大きい生き物のアンデッドほど強い。


 だが……何故アンデッドの話を?

 グロいのは好きじゃ無いけど、別に気分は悪くはならないぞ?


「結構。教会は複数のアンデッドを保管していたの。地下施設があるのか、ただ土中に埋めているかはわからないけれどね……」


「…………はぁ!?」


 思わずデカい声を上げてしまった。

 でも仕方ないだろう。

 なんだって街中にアンデッドなんているんだ?

 それも教会にだ。


「お前、以前遺体の埋葬の仕方で妙な事を言っていたわね。確か、ここの教会では手足を切断せずにそのまま埋めていた……って」


「う? ……うん。そりゃ、遺体を清めたりくらいはしてたけど……そうだね」


 孤児院で命を落とした子供たちや、教会の施設で治療を受けていたけれど、治療が間に合わなかった者たちの処理は、俺たちの仕事でもあった。

 この世界で物心ついた頃からやっていたから、死体への忌避感は早々に無くなった。

 お陰で冒険者としても働けているが……全然いい思い出じゃ無いな。


「それが何か不味いの?」


「本来、遺体は手足を切断するのよ」


「……ん?」


 手足を切断……とな?


「そうしないと、アンデッドとして動き始めてしまうでしょう?」


「…………っ!?」


 確かに!

 死体や霊体に魔素が溜まったものがアンデッドになったりするんだ。

 霊体はともかく死体は動けないようにしておかないと……。

 前世の感覚で違和感が無かったから、そのまま受け入れていたけれど、言われてみたらそりゃそうだ!


「もっとも……」


 愕然としている俺をよそに、セリアーナは話を進める。


「魔道具が日常的に利用される様な規模の街では、魔素が循環しているし淀む事も少ないから、街中でアンデッドが発生する事なんて、滅多に起きることでは無いわ」


「……うん。つまり、街にいたのは人為的って事なんだね?」


 そういえば、いつだったか街の上空を2人で飛んでいた時に、なんか教会のあるエリアをジっと見ていたのを思い出す。

 セリアーナの加護がどんな風に見えているのかは知らないが、横から見るのと上から見るのじゃ違うだろうしな。

 あの頃から気付いていたのかな。


 そのことを聞くと、セリアーナは小さく頷いた。


「もともと街に何かがいるのは分かっていたけれど、何がいるのかまではね……。【妖精の瞳】に映らないことからわかったけれど、まさかアンデッドを飼っているとは思わなかったわ。それも子供の……まあ、管理しやすいからでしょうけどね」


「子供……ああ、孤児院ね」


 当時のこの街なら冒険者でも死者が出る頻度は結構高かったと思うが、それでも魔物との戦闘で命を落とすんだ。

 ボロボロの死体が多かった。

 だが、孤児院の子供は衰弱死や病死はしても、四肢が欠損したりってのは無かった。


 綺麗な子供の死体が出来ても不自然じゃなくて、尚且つ自分たちだけで処分しても怪しまれない。

 教会に隣接する孤児院なら、それが可能なのか。


 なるほど、気分が悪い。


「……アンデッドって厄介なんでしょう? 大丈夫なの?」


 ともあれ、今は目の前の事態だ。

 アンデッドは普通の魔物よりも厄介だと聞く。

 対処するのは恐らく1番隊だろうが、彼等だけで大丈夫なんだろうか?


「彼等は優秀よ、問題無いわ。対策も練っているし……そうでしょう? フィオーラ」


 だが、俺の懸念を否定すると、セリアーナはフィオーラに話を振った。

 そして、フィオーラが代わりに、どんな対策をしているのか話し始めた。


「そうね。セラ、この街は壁の内側に水路が廻らされているでしょう? 以前は整備がされていなくて、雨が降ると簡単に街中に溢れていたそうね。そして、その水が流れつく先は教会エリア」


「うん……」


 リーゼルがこの街に代官として赴任した当初、水路の整備を行っていた。

 そのお陰で今ではそんなことは無くなったが、昔は雨が降る度に教会エリア……それも孤児院のある辺りに水が流れ込んでいたんだ。


「水量が多く流れも速い雨季の水路に、魔素の吸収を速める薬品を流す事で、街中の魔素を集めるつもりだったようね。そして、活動の活発化と強化を同時に果たすつもりだったようなの。薬品も私が知る物と同じなら粉末状で保管しやすい物だし、今日まで手元に置いていたのでしょうね。でも、旦那様が水路を整備したでしょう? そこで見事に破綻したわね」


「じゃあ……危険は無いのかな?」


 弱らせたままいつでも動かせる場所に置いておいて、いざ事を起こす際には強化するって策だったのか?

 だが、アンデッド相手に瀕死って表現は変かもしれないが、どうも聞いた感じだと弱体化したままらしい。

 これなら……大丈夫か?


「ええ。もっとも戦闘訓練を積んでいない者が、深夜に街中で襲われたら危険でしょうけど……。この雨ですものね。出歩く者はいないわ。訓練を積んだ兵なら、たとえ弱体化していなくても、いるとわかっているアンデッドに後れを取るような事も無いでしょう」


 フィオーラはアンデッドとの戦闘経験があるのか、自信たっぷりにそう言った。

 確かに不意打ちではあるけれど、あらかじめ警備を担当する兵たちと情報は共有できているのか。

 そして、セリアーナも続く。


「まあ、形だけ残っていた策を無理やり利用しようとしたって、上手くいくはずが無いわ」


「なるほどー……」


 リアーナを弱体化させる、そもそも設立させないってのが当初の策だったが、それが失敗している以上拘っていても意味が無い。

 だから、西部の大国とかはウチの妨害からは手を引いたって聞いている。

 そして、今戦争を仕掛けている連中が、それを利用した……と。


 街の整備を始め、既に対策を練られていたりと色々条件が変わっているのに、上手くいくわけないじゃないか。


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 セリアーナの話を聞いて、気分が悪くなったりはしなかったが少々面白くない気持ちにはなっていた。

 策を考えた連中も後から乗っかってきた連中にも……ちょっとイラっと来るね。

 俺も孤児院を抜け出していなかったら、アンデッドのお仲間になっていてもおかしくなかったもんな。


「……今戦闘が起こってんだよね?」


「ええ。アンデッドも数は多いけれど、十分備えているし問題無いはずよ。だから、お前はここにいなさい」


 アンデッドが出るってのは想定していたみたいだし、それへの対処もフィオーラを中心に行っていたんだ。

 話を聞いた限り、リックたちなら卒なくこなすだろう。

 セリアーナの護衛もあるし、俺がここを離れるわけにはいかないってのはわかっちゃいるが……行ってこいって言ってくれたら吝かでは無かったんだ。


「……むぅ」


「唸っていないで、手が空いているなら偶にはお前がお茶を淹れて頂戴」


 唸る俺に向かって、セリアーナはキッチンを指差しそう命じてきた。


 こういう時にお茶を淹れるのは、エレナだったりテレサだったりするが、彼女たちは今、エレナは廊下側を警戒しテレサは窓から街の様子を窺ってと、持ち場を離れる事は出来ない。

 フィオーラは別に侍女ってわけじゃ無いしな……。


 まぁ、いい気分転換になるか。

 腕を振るってやろう。


 ◇


「……その娘、家事は出来るのね」


「やろうと思えばねー」


 俺が淹れた紅茶を飲みながら、フィオーラが意外そうな顔でこちらを見ている。


 俺は、体が小さいし力が無いからやりたがらないってだけで、別に家事が苦手ってわけじゃ無いんだよな。

 料理だってそうだ。

 少々こっちの調理器具が使いにくいからやらないだけで、紅茶くらいなら淹れられる。

 茶葉をちゃんと蒸して、カップも温めて……手間を惜しまなければ、味も相応になるしな。


 どうやら味はお気に召したらしいし、なによりだ。

 俺もちょっとは気分が落ち着いたしな。


「……ふぅ」


 一口飲んで、一息ついた。


 部屋の入り口側を見ると、テレサたちは変わらず監視を続けている。

 一応テレサたちの分も用意しているが……俺が呼んでも来てくれるかな?


 俺がお茶を淹れている間も、何度かロゼが伝令にやって来たが、今街で繰り広げられているアンデッド掃討戦は順調に進んでいる。


 アンデッドは、倒しても周りにアンデッドに適した死体があれば、それに乗り移って動き出したりするそうだ。

 だが、魔素が死体に馴染むのに時間がかかる様で、2周目以降は最初の状態よりも弱体化しているらしい。

 直接見ていないから俺のイメージ通りで合っているのかはわからないが、何となく理解は出来る。

 魔法で、死体に宿ったものを消滅させられると一発らしいが、街中でそれだけの威力の魔法を使うのも難しいから、少々手間はかかるがその方法を採っているんだとか。


 外では今、教会エリアに現れた最初のアンデッドは全て倒して、その2周目以降を相手にしている。

 それと合わせて、街の他の場所に現れたりしていないかの捜索だ。

 むしろ、戦闘よりもそちらに人手を割いているらしいが、この街は大きいからな……少々手こずっているんだとか。


 貴族街やこの街が領都になってから新しく整備した場所はともかく、昔からある、謂わば旧市街はだいぶゴチャついている。

 加えて、昔は無法とまでは行かなくても街の風紀は大分荒れていたから、埋葬の作法も無視していたかもしれないし、アンデッドが現れる可能性の高い場所だ。

 水路や軒下を槍で突いて、確認することになる。

 そりゃ、時間もかかるか。


「エレナ、テレサ。貴女たちも少しは休憩をしたらどうなの?」


「そうですね……。エレナ、私たちもお茶を頂きましょう」


「ええ」


 2時間近くあの場から動かなかった彼女たちも、セリアーナの言葉を聞き入れて、こちらにやって来た。

 気を抜いちゃいけないだろうが、この屋敷の守りは彼女たちだけじゃ無いしな。

 休憩も大事だ。


 ◇


 お茶を飲んで一息つき終えると、再びテレサたちは警戒態勢に戻った。

 時折セリアーナも加護や恩恵品を使って探っているが、掃討戦は未だ継続中らしい。

 喧騒がここまで聞こえてこないというのを考えると、割合上手くいっている様だけれど……。


 ただ部屋にいるだけの状況にじれったさを感じていると、先程のお茶の時間を除くと、窓から離れなかったテレサがこちらに向かってきた。


「……奥様。戦闘が終わったようです。合図が上がりました」


「ぉぉっ!」


 このアンデッド作戦は、反抗勢力の最後の一手みたいなもんだ。

 対策は打てるだけ打っていたけれど、それでも相手側にしたら一か八かの行動だし、気を抜くとどんなことをしてくるかわからない。

 だからこそ、相手に先手を打たせて受け身に回り続けていたんだが……どうやら上手く片付いたようだ。

 結局あれだけ屋敷の守りを固める準備をしていたけれど、無駄に終わっちゃったな。


 うんうん。

 良いことだ。


 と、俺はホっとしていたのだが……テレサの言葉を聞いたセリアーナの表情はむしろ険しくなっている。

 そして、右手を俺に差し出し、口を開いた。


「【妖精の瞳】をよこしなさい」


「……うん? うん」


 いわれた通りセリアーナに渡すと、彼女は受け取るや否やすぐに耳に着けて発動した。

 そして……。


「残念ながら、懸念通りね。ここからは騎士団だけじゃ難しいでしょう。私たちも準備をしましょう」


 そう言い、ソファーから立ちあがった。

 ……まだなんかあんのか?

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