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 春秋用の服を作りたいー……と話をしていたのだが、それはあくまで近いうちに仕立てに行こうと思っているって事を、伝えたかっただけなんだ。

 そして、その際にはテレサかエレナ……彼女たちが忙しいようなら、屋敷の誰かに同行してもらえたらなー……って。


「リーゼル」


 だが……なんでかセリアーナはリーゼルの名を呼んだ。


「うん? どうかしたかい? セリア」


 話を止めて、彼女に振り向くリーゼル。


「明日、セラの服を仕立てるから職人を呼ぶことにしたわ。私たちは休みにするから、そのつもりでいて頂戴」


「えっ!?」


 セリアーナの言葉に驚く俺。

 俺の買い物ってことを除けば、職人を屋敷に呼ぶのはそこまでおかしなことでは無い。

 相手の予定を考えれば、翌日すぐに……ってのは急だと思うが、領主夫人というここの天辺であることを考えたら、そこまで無茶ぶりって程でも無い。

 だが……そのために、明日の仕事を休むって……それも、エレナとテレサ共々だ。


「ああ、わかった……そう調整しておくよ」


 だが、苦笑しつつもあっさり受け入れるリーゼル。


 ……マジで?

 俺もだけど、さっきまで君と話をしていた偉いおっさんたちが唖然としているぞ……?


「あのね……セリア様? 仕事はちゃんとしないと駄目なんだよ?」


 まだ雨季が明けて1週間ほどしか経っていないし、領主の仕事はそこまで本格的に忙しくなっているわけではない。

 領主の仕事の補佐が中心のセリアーナも、もちろんそうだ。


 だが、それでもこの理由で休んじゃうってのはどうなんよ。

 そう思い、横に座るセリアーナに俺は諭すようにそう言ったのだが……。


「問題無いわ」


 セリアーナは聞く気が無い様で、いつものすまし顔でもう決まった事とばかりに、エレナたちと明日の話を進めている。


 ぬぬぬ……と唸りながら、再度リーゼルたちの方を見ると、リーゼルもまたカーンたちと話を再開していた。

 その2人も多少驚愕の色を残しつつも、流石にここに呼ばれるだけの役職を持っているだけあって、リーゼルとの話に集中している様だ。

 うーむ……慣れか?


「唸っていないで、お前はさっさと食べてしまいなさい」


「ぬ……うん」


 お喋りをしながらも、皆の皿の中身は順調に減っている。

 一方俺の分は……。


 急いで食べよう。


 ◇


 昨日の昼食の席で、俺の春秋用の服を仕立てる事が突発的に決定したわけだが、職人もしっかりとその無茶ぶりに応じて、今日は朝から屋敷にやって来た。

 部屋の時計に目を向けると、後数分で10時といったところ。


 実は職人たちは30分ほど前に既に屋敷に到着していたりするんだよな。

 んで、荷物のチェックなんかを受けていた。

 ただ、それもそんなに時間はかからないと思うんだが……10時ちょうどに部屋に来れるように調整しているのかな?


「……来たようですね」


 セリアーナの部屋のソファーに皆で座っていたのだが、そろそろ部屋に近づいていたのだろう。

 それに気付いたテレサが、そう呟いた。


 こちらの部屋の中は、俺にセリアーナ。

 テレサにエレナ、そして昨日の昼食の席にはいなかったが、夜にしっかり話が回っていたフィオーラだ。

 最近彼女も一緒になんかやってることが多い気がするな……。

 ともあれ、職人たちが部屋にやって来るのなら、出迎える準備をしておこう。


 俺とテレサはドアの前へ向かうと、ドアの前に着いたところでタイミングよく向こう側からドアを叩く音がした。


「どうぞー」


 ノックに応えると、本館と南館の使用人が職人たちを伴って部屋に入ってきた。


 職人たちは全部で4人で、特に代表らしき老婦人はパリッとした格好をしている。

 そして、その彼女が口を開こうとしたのだが……。


「ご苦労様。貴女たちは下がって頂戴」


 その前にセリアーナは使用人たちに下がる様に言い渡した。

 そして、返事を待つことなく俺の部屋に向かっていく。


「……えーと、後はオレがやるからね」


 そのままセリアーナが俺の部屋に消えるのをついつい見送ってしまったが、とりあえず、使用人たちの役目は俺が引き継ごう。


 彼女たちも慣れたものなのか、笑いを噛み殺したような顔だ。

 彼女たちを部屋の外まで送っていると、その間にテレサが職人達と挨拶を済ませていた。


「それでは、参りましょうか」


「はい。よろしくお願いします」


 テレサとのやり取りは、あのおばあちゃんが引き受けている。

 やはり彼女がこの一行の代表らしい。


 俺が職人に屋敷に来てもらって服を仕立てたのって、王都に行った時に着た騎士風の服を仕立てた時以来だったかな。

 彼女たちはその時の職人とはまた違うんだけど……別の工房とか?

 数年前の事ではあるけれど、代替わり……っていうには、あの代表はちょっと年がイってるしな。


「姫」


「……お? あっ、ごめんごめん」


 ドアの前で浮いたまま考え込んでいたが、テレサの声に慌てて返事をした。


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「セリアーナ様、本日はよろしくお願いいたします。精一杯務めさせていただきます」


 老婦人のその言葉で作業が開始された。

 彼女とセリアーナとエレナにフィオーラは、部屋の奥のソファーに移ってデザインの話などを始めている。

 俺抜きで!


 セリアーナとフィオーラだけだとちょっと不安だが、エレナがいるからそうそう変なデザインにはならないと思うが……あのねーちゃんもたまに羽目を外すからな。

 彼女たちにストップをかけられるテレサはこっちにいるし……不安だ。


 ちなみに当の俺は、部屋の手前側で下着姿になって突っ立ちながら、職人3人によってアレコレ採寸されている。


 3サイズに始まり、首回りのサイズや手足の長さに手足の大きさ。

 そして、身長に至るまでもう測れるところ全部だ。

 ちなみに身長は、ちょっとサバを読んで四捨五入したら140センチに届いていた。

 育っているな……!


 しかし、アレだな。

 身長や体重はともかく、こう……一々自分の体の各部位がミリ単位で数値化されるってのもなんか変な感じがするな。

 前世の女性が3サイズとかを知られるのを嫌がることがあったのって、それが理由か?

  

 それにしてもだ……。

 

「……ねぇ、こんなにアレコレ測る必要あるの?」


 別にここまで全身を測る必要ってあるんだろうか?

 そう思い、後ろに控えているテレサに尋ねた。


 彼女は向こうのデザインの話し合いには交ざらずに、こちらで【浮き玉】を持ったまま待機している。

 俺の護衛や職人の作業の監視のためかな?

 職人たちも後ろからテレサに見られながらよくもまぁ、緊張もせずに作業が出来るもんだ……。


「今回の注文では必要ありませんが、それでも今後何か姫が急ぎで仕立てる必要がある際に、その手間を省くことが出来ますからね」


「ほぅ……」


 彼女たちに頼むのは多分初めてだろうし、ここで俺のサイズを押さえておけば、何かと今後の仕事に繋がったりもするかもしれないのか。


「セラ様」


 一通り測り終えて、これでもう終わりかな?

 そう思っていたのだが……まだ続きがあった。

 今まで「腕を上げて」だとか「足を少し開いて」とか、そのくらいしか言葉を発さなかった職人が、初めて俺の名を呼んだ。


「ん? なにかな?」


「次は恩恵品に乗った状態で測りたいのですが、よろしいでしょうか?」


「【浮き玉】? いいけど……そんなのまでやるんだね……あ、ありがと」


 テレサから【浮き玉】を受け取ると、俺はその上に座り浮き上がった。

 確かに、俺は1日のほとんどをこの上で過ごすし、この体勢の寸法を採っておくのも理解は出来る。

 立った状態と座った状態じゃ、伸ばす場所や曲げる場所に違いが出て来るもんな。


 やる事は一緒だし、手間がかかる様なことでは無いんだろうが……いやはや見事な徹底ぶりだ。

 ともあれ、【浮き玉】に乗って浮いた状態の俺の周りを3人でグルグル回りながら再び採寸を始めた。


 ◇


 かかった時間は10分ほどだっただろうか?

 採寸を終えた彼女たちは、それぞれが測った数字を別の紙に記入している。

 そして、俺は【浮き玉】から降りて、テレサの前に立っている。


「姫、両腕を上げてください」


「ほい」


 両腕を伸ばすと、テレサが頭から服を通してきた。

 今日の服は、淡い青のシンプルな無地のワンピースだ。

 

 別にこれはこれで悪くは無いんだが……ちょっと素材が良すぎるんだよな。

 これにシワを付けるのは少々胸が痛む。

 この屋敷は一応俺の家でもあるわけだし、自宅ではもっと雑な……それこそ甚平みたいなのがいいんだ。


「ん?」


 さて、服も着たし向こうはどんな話をしているのか……。


 セリアーナたちの方に視線をやったのだが……向こうで一緒にそのデザインの打ち合わせに参加していたフィオーラが、いつの間にやらこちらに来ていた。

 それだけじゃ無い。

 なんでか彼女は着ていた服を脱ぎ下着姿になっている。


「貴女の採寸は終わったんでしょう? なら、次は私をお願い」


「っ!? はっ……はい」


 テレサに後ろから監視されつつも冷静さを保っていた彼女たちも、これは想定外だったのか、上ずった声を上げている。

 可哀そうに……。


「フィオさんも作るの?」


「ええ。向こうで話をしたのだけれど、中々悪くは無かったの。だから、私も一緒に仕立ててもらう事にしたわ。構わないでしょう?」


 そう言いながら鏡の前に立った。


 フィオーラは40歳台半ばだが、俺が本気の【ミラの祝福】を施した数少ない一人だ。

 今も時折【ミラの祝福】をかけているし、彼女も普段から不摂生な生活をしないよう心掛けている。

 その甲斐あってか、20代半ばと言っても通用する若々しい肉体を保てていて、どこも垂れたりプニったりもしていない。


「…………うむ」


 視線を真下にすると、ノンストップで爪先に到達した。

 俺とは大違いのスタイルだな。


 まぁ、俺の事はいい。

 こっちでやる事は終わったし、下着姿の女性をジロジロ見るもんでもないし、あっち行くか。


「テレサ、行こっ」


「はい。それでは、フィオーラ殿。失礼します」


 テレサは俺の手を取ると、フィオーラに向かいそう言った。

 そういえばフィオーラも貴族だよな。

 俺たちがすぐ側にいるとはいえ、側に護衛抜きで無防備な姿を晒していいんだろうか?

 採寸をしている職人たちもそう思ったのかもしれない。

 少し慌てたような素振りを見せたが……。


「ええ。……ああ、貴女たち、慌てなくていいのよ」


 ……大丈夫みたいだね。

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