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先日の話で決まった、新たに俺の部屋に置くことになった家具は、テーブルにソファーとサイドボードで決まった。
俺の要望で、ソファーは寝転がれる大きな物だ。
とはいえ、既製の物で十分なため、翌日には届けられて、これまた自分たちで設置した。
設置場所は窓際で、残念ながらそこから見える景色は屋敷の中庭だけだが、中々悪くない。
この部屋はもともと客室でもあったため、奥にはベッド等は置かれていたが、初日に撤去している。
俺は普段からセリアーナのベッドで寝ているし、わざわざお客さんをこの部屋に通す様な事もないし、問題は無いだろう。
そもそも、この部屋に通せる人なんていつもの面々ばかりだ。
それなら、いざとなれば【隠れ家】の寝室もあるしな。
◇
「随分広々としているわね? 家具はもう少し入れたりしないの?」
今日は、部屋のことを聞いたフィオーラが遊びに来ている。
そして、ソファーに座り部屋の中を眺めていた彼女は、部屋が少々地味な事が気になったようだ。
まぁ……今のところ部屋に置いている家具は、大きい棚4つにこの応接用セットだけだし、広さの割にはちょっと物が無さ過ぎるってのはわかる。
「必要なのはセリア様の部屋にも【隠れ家】にも揃っているしね。そのうちもう少し棚を増やしたりはするかもしれないけど……今のところはこれだけで十分かな?」
この部屋って窓こそあるが、入口はセリアーナの部屋に繋がるドアだけなんだよな。
俺は、この部屋はセリアーナの部屋の控室的なものだと思っている。
セリアーナの部屋に急な客が来たときなんかに、俺たちはこっちに移ってくるって感じだ。
だから、あまりごちゃごちゃしすぎてもな……。
棚には俺がコレクションしている魔物の素材だったり、頂き物の綺麗な羽や立派な牙が飾ってある。
本棚はどうするかって話も出たが、セリアーナの部屋にも置いてあるし、わざわざ分ける必要も無いかってことで、見送られた。
壁にはこれまた俺がこれまで収集していた絵画が掛かっている。
あまり物は置いていないが、それでも俺の部屋って感じになったな。
セリアーナの部屋の方の棚にも俺の私物は置いているが、魔物の彫刻だったりもう少し一般受けする物で、それに比べるとこちらは少々マニアックだ。
いや、でもよくよく考えると、こっちに来るのなんてそれこそ身内だけだろうし、いっそ趣味に走っても問題ないのか……?
必要ないと答えたものの、実はもっといろいろ置いてもいいんじゃないかって気がしてきた。
いっそ等身大の魔物の彫刻とかどうだろう!?
などと、思考が迷走している俺を他所に、フィオーラはセリアーナの方を向いている。
どうやら俺の返答は期待していないようだ。
そして、セリアーナは、肩を竦めながら口を開いた。
「今はこれでいいわ。貴女も奥の事は知っているでしょう? 下手にその娘に任せると、この部屋もああなるわよ」
「まあ……それもそうね」
「別室には武具があるけれど、アレは飾るには向いていないし……そのうち増やしていけばいいんじゃないかしら?」
セリアーナの部屋には飾られていないが、リーゼルやゼルキスの親父さんの部屋等々……武器を飾るってのはお貴族様チックでいいんだが、【隠れ家】に保管している物は、どれもアレクやジグハルトが揃えた実用的な物ばかりだ。
部屋に飾るってのには少々武骨すぎるし、この部屋が本当に倉庫になってしまう。
フィオーラも、それを思い出したのか納得したような顔で頷いた。
だが、何か思いついたのか、パンと手を打つとこちらを向いて口を開いた。
「なら、セラ。今度私と少し買い物に出かけましょうか?」
「んん?」
セリアーナの言葉に納得はしていたものの、どうやらフィオーラは諦めていない様で、買い物に誘われてしまった。
「恩恵品は流石に表に置くわけにはいかないけれど、それ以外の貴女の武具を飾ればいいでしょう?」
「……そう……なのかな?」
俺の装備となると、探索用の服だったり防具だったり、確かに色々あるが、それはセリアーナの部屋の棚や【隠れ家】に保管している。
それを飾るのか……飾る?
ちょっとイメージしにくいが、フィオーラには何か考えがあるようだ。
折角だし話に乗ってみようかな?
「セリア様、いいかな?」
セリアーナの方をちらりと見ると、小さく肩を竦めている。
「まあ、フィオーラが一緒なら変なことにはならないでしょうけれど……。テレサ?」
「はい。私もご一緒します。フィオーラ殿、何時にされますか?」
「私は何時でもいいわ。明日の朝にしましょうか? 部屋に迎えに来るわね」
そして、エレナも加わって4人でどこを回るかなどと計画を練り始めた。
フィオーラとテレサと一緒に買い物か……。
よくよく考えると、女性陣と一緒に買い物ってほとんどしたことない気がするな。
アレクやジグハルトとならたまに出かけているが……あれは個人の買い物っていうよりは、備品の購入って感じだしな。
フィオーラはちょっとマッドな所があるけれど、確かそこそこいいお家の出身らしい。
ジグハルトや領地の魔導士たちと地下の研究所にいることが多いが、身分はどちらかというとテレサに近い存在だ。
彼女の家の中を見ると、あんまりそんな印象は受けないが、やはりお貴族様的な嗜好なんだろうか?
なんか馬車がどうのこうのって声が聞こえて来るし、これはお貴族様のお買い物を見れるかもしれないな!
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「…………ぉぉぉ」
中央広場の貴族街にほど近い、ちょっとお洒落なお店が並ぶエリア。
そこをガタゴト馬車に揺られながら窓から覗いているが、通りを出歩く者も貴族の屋敷で働く使用人なのか、制服姿の者ばかりだ。
この漂うハイソな雰囲気。
俺だけなら近づこうとも思わないな……。
「貴女、来たことは無いの? たまに1人でも街に買い物に出ているでしょう?」
向かいの席に座るフィオーラは、物珍しそうに外を眺めている俺を見て、不思議そうな顔をしている。
確かに俺は一人で街に出る事もある。
だが……甘いな。
それを説明しようとしたのだが、俺が口を開く前にテレサがフィオーラに向かって話し始めた。
「フィオーラ殿、姫は冒険者街や職人街は出入りしますが、こちらにはあまり足を運ぶ機会が無いのですよ。たまに来ることがあっても、こちらでは無くてここより先に向かう事が多いですから……。そもそも普段は上空を移動していますからね」
「ああ……言われてみればそうね」
テレサに全部言われてしまったが、この辺はまだまだ貴族街寄りで、中央広場といっても端っこだ。
俺が普段利用するエリアはもっと街の中央寄りの場所で、その辺は平民がメインな上に様々な職業の者が利用している。
ここと違って、もっと砕けた雰囲気なんだよな……。
領主の屋敷で生活して、この国の天辺を始め高貴な方々と付き合いのある俺だが、如何せん根っこの小市民な所は変わらない様で、なんか……落ち着かないんだよ。
意図的に避けているわけじゃ無いが、どうしてもこの辺は選択肢に入らないんだよな。
「まあ、今日は私に付き合ってもらうわよ」
「うん。……別に嫌だってわけじゃ無いからね?」
自分だけだとまず来ない場所だ。
折角の機会だし、色々楽しませてもらおう。
再び窓に張り付いていると、程なくしてお目当ての店が近付いたのか馬車が速度を落とし始めた。
◇
やって来た店は、お高い雰囲気漂う服飾店だ。
見本らしきドレスが店内に並んでいて、それと合わせる帽子やアクセサリーなども一緒に展示されている。
奥には工房も併設されている様だし、オーダーメイドの服も扱っているんだろう。
とはいえ、この街で暮らす上の方の貴族なら、店には買いに来ずに自宅に呼んで仕立てるだろうから、この店はどちらかと言うと裕福な平民向けのお店なんだろう。
俺たちが店に入るなり店主らしきおっさんがやって来て、フィオーラに頭を下げるとそのまま彼が案内に着いた。
他にも数組お客さんがいるが、それを一切気にせず揉み手をせんばかりの勢いだ。
店主や、手慣れた様子で店内を進む彼女を見る限り、ここには何度も自身が足を運んでいるんだろう。
フィオーラんところは、使用人を雇っていないからな……。
店にとっても、こういう風に本人が直接訪れる上客って感じなのかな?
「テレサ様にセラ副長もご一緒とは、本日はどういったご用件でしょうか?」
店主はニコニコとした笑みを浮かべて奥に手招きをすると、女性の職人を呼び寄せた。
商談そのものは店主が行うが、他は彼女たちに任せるんだろう。
新たに2人の客を連れて来たし、デカいビジネスになるかも……とか考えてるのかな?
ただ、俺も今日ここで何を買うのかは知らない。
俺の部屋に飾る物を……って話だったし、てっきり雑貨屋か何かだと思っていたのに、服屋だもんな。
ここで買う物……思いつかない。
布繋がりでカーテンとか?
何を買うんだろうと、フィオーラの背中を見ていると……スっと腕を伸ばして、マネキンの胴体部分のみで服を飾るのに使う……トルソーだっけ?
工房の入口の手前に並べられているそれを指した。
「ごめんなさいね? 今日は注文じゃないのよ。アレを頂戴」
「アレ……で、ございますか?」
少々どころか大分予想と違っていたのか、先程までの勢いはどこに行ったのか、随分と気の抜けた声で、店主は答えた。
まぁ……服を買いに来た上客と思っていたら、備品を買いに来たんだもんな。
そりゃ、こんな声を出すか。
「テレサ、いくつあれば足りるかしら?」
だが、その店主を無視してフィオーラ達は話を進めている。
……いくつって、たくさん買うのかな?
「そうですね……。4つ……いえ、5つもあれば十分でしょうか?」
数を聞かれたテレサは、指を折りながらそう答えた。
5つ……店の中を見渡すと、服を着せられたトルソーは4つある。
……店より多く置くのかな?
「使うから、今日中に届けて頂戴」
「は……はい。その、お届け先はどちらになさいますか? フィオーラ様のご自宅でよろしいでしょうか?」
「いえ、ご領主様の屋敷よ。あて先はテレサでいいかしら?」
「ええ、出来れば早めに届けて欲しいですね。店主、頼みましたよ」
「っ!? ええええ! お任せください!」
2人からの結構な無茶ぶりに、だがしかし……店主は張り切って答えている。
うーむ……やっぱりそれだけ領主の屋敷に商品を届けるってのは魅力的なのかな。
でも、トルソーってこの店じゃなくて、どこかの木工の工房で作った品だよな?
まだまだ、その辺の力学はわからんね。
「あっ……、お茶をご用意いたしますが……」
「結構よ」
商売の難しさに腕を組みながら首を傾げていると、この店での用はもう終わりらしい。
店主がもてなそうとするも、2人は既に背を向けており、一言で断ってしまった。
声の感じから怒っていないのはわかるが、なんとも連れない対応だ……。
「セラ、ここは終わりよ。次に行きましょう」
「あ、うん……。次もあるんだね」
最初のこの店で既に予想外だったのに、次もあるのか……。
どこに行って何を買うんだろう?
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