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俺の部屋を2階に新たに作る話は、そのまま進んで行き、あっという間に改装する日となった。
元々この日は、職人たちが雨季前に例年行っている屋敷の点検の日だったのだが、この屋敷は毎年春と秋の雨季の前の年2回、しっかりとメンテナンスを行っているから、さほど時間はかからずに終わった。
そして、その分じっくりと改装を行う事になったのだが……。
南館の2階は女性専用エリアではあるが、こういった職人に限っては例外だ。
この世界、職人界隈には女性はほとんど進出していない。
女性の職人が多いのは、裁縫や彫刻といったそこまでフィジカルに左右されない、どちらかというと芸術寄りの業界くらいだろう。
機械のサポートが望めない以上は、その辺はどうしようもないし、世間的にもそれが当然だと思われている。
だが……こういう場合はなぁ……。
職人たちは、武装した女性兵たちに監視されながら、廊下側の壁の計測をしている。
女性兵を指揮しているのは、これまた武装しているテレサとミオだ。
ちなみに、職人たちは廊下だけじゃなくて屋根裏にもいて、当然そちらにも監視が付いている。
親方を筆頭に職人たち合計10人に対して、こちらも10人と厳戒態勢だ。
セリアーナの部屋に控えているエレナも入れたら、むしろ俺たち側の方が人数は上だな……。
そりゃー、セリアーナはもちろんだが、今はいなくてもこのエリアは高貴な女性が宿泊するエリアで、そこに男性が踏み入る以上はしっかりと監視の必要がある。
こういう地道な積み重ねが、この家の信頼に繋がっていくんだろう。
それはわかるが、職人たちも背後を武装した連中に固められたらやりにくかろう。
……まぁ、俺も一緒にいるわけだが。
セリアーナと一緒に彼女の部屋で待っていても良かったんだが、作業に興味があったので、見学させてもらっている。
「お? 剥がすんだね……」
ぷかぷか浮かびながら職人たちを眺めていると、計測を終えたのか別の作業に移っている。
屋根裏に回った職人が、俺たちから見たら天井を、彼等から見たら床板を剥がしていった。
それと並行して廊下の職人たちも、まずはセリアーナの部屋の向かいの客室の壁をベリベリと……。
そして、壁の板を剥がすと中の柱や断熱材らしき建材が見えてきた。
「中には柱が入っていますからね。まずはそれを取り外してから、床板を敷き直します」
作業内容の説明のために、商業ギルドから派遣された職員が俺たちについている。
もっとも、今のところ彼に質問をするのは俺だけだ。
そして、その彼が今は何をしているかの説明をしてくれる。
今回の改装はざっくり言うと、第1段階として、廊下と部屋の境の壁を取り外す。
第2段階で、セリアーナの部屋と接する側の壁の一部を取り外して、ドアを新しく付け加える。
それから、第3段階で、廊下を区切る壁を1枚建てて広い部屋を一つ作るんだ。
自分の部屋に行くのに、セリアーナの部屋を経由する必要があるのが少々気になるが……、どの道倉庫代わりにしか使わないし、問題は無いのかな?
◇
さて、作業は順調に進み、廊下に敷かれていた絨毯を引っぺがして、サイズを合わせる様に裁断したり……中々豪快に作業は進んで行った。
そして、第1段階が完了して第2段階に取り掛かろうとしたのだが……。
「皆さん、お茶が入りましたよ」
使用人たちがお茶と軽食を乗せたワゴンを押しながら、姿を見せた。
彼等に事前に伺い立てないあたり、普段屋敷を訪れるお客さんとの扱いの差を感じるね……。
「ああ、これはありがとうございます……。おい、お前ら! 休憩だ。行儀良くしていろよ!」
だが、それを聞いた親方は気を悪くするような事も無く、礼を言うと、部下たちに休憩に入るように指示を飛ばした。
その彼等は……。
「はい!」「へい!」「おう!」
と、あまりお上品とは言えないような返事をした。
作業しているうちに慣れてきたのか、初めの緊張した様子はもう見られない。
俺がいると半端に気が緩んでしまいそうだし、これなら離れていた方がいいかもしれないな。
休憩する彼等を見ていると、そんな気がしてきた。
セリアーナの部屋に行っとこうかな?
◇
「あら? 見学はもういいの?」
セリアーナの部屋に入ると、俺を見て不思議そうな顔をするセリアーナ。
「うん。なんかあのままいると邪魔になりそうだったからね」
あの場に慣れてきて、尚且つ割と普段から気安く言葉を交わす俺がいると、ポロっとその言葉遣いになってしまうかもしれない。
それが外ならともかく、領主の屋敷でお仕事中となるとな……多分テレサは怒る。
セリアーナもそれが予想できたのか、苦笑している。
俺が足を引っ張っちゃーいけないよな。
こっちに来るのが正解だ。
「まあ、いいわ。今はどこまで済んだのかしら?」
「うん。向こうの壁を取り外したし、休憩が終わったらそこの壁にドアを取り付けるみたいだよ。その後は廊下を塞ぐ壁だけど、それ自体はもう仕上がってたし、そんなに時間はかからないんじゃないかな?」
ドア自体は完成品を用意していたし、廊下を塞ぐ壁も枠や柱は既に取り付けていた。
後はもうそれらを取り付けるだけだ。
前世でもちょっとしたDIY程度はやった事はあるが、あそこまで本格的な事はやった事無かったが……こちらの職人もレベルは相当なものだ。
うんうんと頷いていると、コンコンとドアをノックする音がした。
開けに行くと、ドアの向こうにいたのはテレサだ。
「どかした?」
「はい。そろそろ作業を再開するので、その事を伝えに参りました。少々音がしますが、よろしいでしょうか?」
「ぬ」
セリアーナの方を見ると、小さく頷いている。
「よろしいようですね。それでは失礼します」
そう告げ、テレサは再び廊下に戻っていった。
うむうむ……作業の完了ももうすぐかな?
部屋に置く棚はもう注文している。
特注じゃないからすぐに届くだろうし、部屋のレイアウトでも考えようかな……!
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お部屋。
俺のお部屋。
セリアーナの部屋の向かいの部屋と、間の廊下を一つの部屋にした広く大きな部屋だ。
【隠れ家】で、風呂やキッチンと強化によって追加された分を除いたのと同じくらいかな?
しかし、喜ばしいことではあるんだろうが、如何せん【隠れ家】があるからな。
まぁ……予定通り、ここは俺とセリアーナのクローゼット代わりにさせて貰おう。
改装工事の翌日、事前に商業ギルドに注文を出していた部屋に置くための棚が屋敷に届き、つい今しがたその棚の運び入れも完了した。
大きな棚が全部で4つ、元は廊下だった部屋の手前の、左側の壁一面を埋めている。
セリアーナの部屋に置いている物ほど凝った造りでは無いが、服を仕舞ったり物を飾ったりと、何かと使い道が多そうな代物だ。
なんでも、ちょっとグレードの高いお店の、店内ディスプレイ用に使われたりもしているらしい。
ここまで運んできてくれた使用人たちに感謝だ。
……一応俺も手伝う気はあったんだが、セリアーナに邪魔になるからと捕まってしまって、手伝えなかったんだよな。
今度皆にしっかり【祈り】や【ミラの祝福】でお礼をしておこう。
「奥様、棚は運び終わりましたが……荷物は私達は手伝わなくてよろしいのですか?」
俺の部屋からセリアーナの部屋に出てきた使用人の一人が、荷物の運び入れはやらなくていいのかと、聞いてきた。
俺の荷物は、彼女たちが立ち入る事の無いセリアーナの寝室に置いていることになっている。
どれくらいの量なのか分からないし、棚の容量を考えると、俺たちだけで大丈夫なのかって思ったんだろう。
だが、実際は【隠れ家】の中だ。
棚に入れ直す必要はあるが、わざわざ運ばなくても棚の前にすぐ出せる。
「問題無いわ。ご苦労様。後はあの娘たちにやらせるから、貴女たちは下がって頂戴」
ってことで、手伝いは不要だ。
セリアーナは、優し気な笑みを浮かべながら、使用人たちに伝えた。
大丈夫かな……って考えが見て取れるが、セリアーナにそうまで言われたら仕方が無い。
一礼すると、彼女たち全員部屋を出て行った。
「さてと……それじゃあ、さっさと片付けてしまいましょう」
使用人たちが部屋を出てから数分が経ち、もう部屋に引き返してくることは無いだろう。
俺も気兼ねなく【隠れ家】に入る事が出来る……ってことで、セリアーナが俺に中から荷物を出すよう、言ってきた。
「りょーかい」
事前に【隠れ家】の玄関に、こっちに移す分を箱に詰めて置いている。
すぐに引っ張って来れる。
セリアーナに返事をすると、俺は自分の部屋に移動して、【隠れ家】を発動した。
◇
「よっと……」
【蛇の尾】と【猿の腕】を発動して、2箱ずつ運ぶ事数往復。
コイツでラストだ。
暇な時は自分で片付けをしたり、人に片付けて貰ったりもしていたが……先日買い足したりもしたし、意外と物が増えている。
遺物とかはフィオーラに譲ったりして、ごっそり減る事もあるが、またすぐ増えちゃうんだよな……。
屋敷の部屋はあまり物を増やさないように気を付けないとな……。
そんな事を考えつつ、【隠れ家】のドアをくぐって外に出た。
出るとすぐに、作業中のセリアーナたちの姿が目に入る。
箱から取り出すセリアーナに、彼女が出した物を棚に仕舞っていくエレナとテレサ。
3人でしっかり役割が分担されている。
うむ……俺だと一緒に作業をするのは難しいから、彼女たちに任せてしまっているが、なんとも申し訳ない。
「それで最後ね?」
【隠れ家】から出てきた俺を見て、セリアーナは箱を受け取ると、これで終わりかと確認をした。
運び出された箱は全部で8箱。
一つ一つのサイズも大きいし、脇に積まれたそれらは中々の迫力だ。
見たところ、今手掛けている箱の中身は服だ。
アレなら重く無いし、恩恵品を使わなくても手伝えるかな?
「うん。もう最後だよ」
手伝うために【浮き玉】から降りようとしたのだが……。
「結構。なら、お前は空いた箱を戻しておきなさい」
セリアーナは、追い払うように手をヒラヒラ振ると、空き箱の片づけを命じた。
いかんな……自分の荷物なのに、このままじゃ何がどこにあるのかわからなくなってしまう。
急いで箱を片付けて、俺もこっちに合流しなければ!
◇
俺の部屋の片づけが終わり、セリアーナの部屋の応接スペースに場所を移した。
お茶の用意も出来て、お喋りタイムだ。
「……みんなありがとうね」
キッチンに向かっていたエレナとテレサが戻ってきたし、部屋の片付けを手伝ってくれたことに礼を言う。
だが、礼を言う俺の声はちょっと元気がない。
結局片付けからは省かれてしまっていた。
どうせ大したもんは置いてないし、別に問題無いんだけどさ……うーむ……。
「……お前がいても役に立たないでしょう? それよりも、お前も何か案があるなら言いなさい」
セリアーナは俺の不満を無視すると、代わりにテーブルに広げた紙を指して、意見を促した。
紙には、まだまだガラガラな俺の部屋の見取り図が描かれていて、そこに何を入れていくかを話し合っている。
思うに、ドールハウスとかそんな感覚なのかもしれないな……。
こっちにはしっかり参加しないと、彼女たちの趣味に染められてしまいかねない。
頑張らねば!
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