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 爆発玉は、フィオーラの説明を聞いた限りじゃドカンと爆発するアイテムのはずだった。

 だが、実際はどうだろう。

 強烈に光ったと思ったら、なんかぶつけた相手が消えていた。

 威力という点では申し分ないんだろうけれど……なんか思ってたのと違う。


 これは結果としてはどうなんよ……?


 上から降りて来たフィオーラは、威力だけじゃなくて他にも気になることがあるのか、オオザルが拘束されていた場所を何やら探っている。

 俺としては、そこら辺で転がったままの他の魔物も気になるんだが……彼女から離れて俺だけ倒しに行くわけにもいかないしな……。

 我慢だ。


 フィオーラは、土柱や地面をしばらく調べていたが、気が済んだのかこちらにやって来た。

 そして、俺の正面に来たかと思うと、手を伸ばして顔やら髪やらをペタペタと……。


「……なにさ?」


 フィオーラのやる事だし、これも何か意味があるのかもしれないが……それにしても一体何なんだ?


「怪我は無いようね……安心したわ」


 フィオーラは俺の言葉を無視して触り続けていたが、どうやら先程の爆発玉の影響を気にしていたらしい。

 どこも怪我をしていないことを確認して、ホッとしたのか一つ息を吐くと、その手を離した。


「……アレそんなに危ない代物だったの?」


「想定ではそんなはずじゃなかったのだけれど……ちょっと思っていたのと違う効果が出てしまったのよ」


 肩を竦めるフィオーラ。

 そして、先程までオオザルが拘束されていた場所を指す。

 より正確には、地面をだ。


「あそこを御覧なさい」


「ん? …………お?」


 ついつい見逃していたが、いざ地面を見てみると先程までとの違いがハッキリとしている。

 泥地だった地面が、湯気を立てて乾いている。

 ……アレの熱か?


「……ねぇ、フィオさん」


「なに?」


「アレって本当はどんな風になるのを想定してたの?」


 簡単には聞いていたが、この明らかに想定とは違う結果に、改めてフィオーラの口から聞いてみたい。

 失敗といえば失敗なんだろうが……。


「……燃焼玉は、貴女も作るところを見たことがあるし仕組みはわかっているわね?」


「うん」


「基本は一緒だけれど、粉末状の金属や魔物の素材を複数種混入する事で、対象に触れて炎上したと同時に内部で反応が起きて、複数の小規模な爆発が起きる様に作ったの。一つ一つの爆発は小さくても、連続して起きる上に炎と熱も一緒に襲ってくるから、足止めとダメージの両方を期待できるはずなんだけれど……」


 スラスラと淀みなく説明をしていたが、そこで初めてフィオーラの言葉が詰まる。


「爆発も炎も起きなかったのよね……。その代わり想定以上の熱を発していたし……。全部が熱に変換されたのかしら? まだまだ研究の余地があるわね」


 そう言って頷いている。

 その金属の粉末ってのがヤバかったのかもしれないな。


「まぁ……でも、これはどのみちこのまま使う事は出来ないわね。威力の割に範囲は限定されているけれど、さっきの様に対象を完全に拘束したり、貴女の様に守りを固めながらも、高速で移動してすぐに距離をとれるような者でもない限り、余波で自分もダメージを負ってしまうわ」


 フィオーラは、土柱や泥だった場所を指先で軽く触れている。

 もう何分も経つのに、まだ熱を持っている様だ。


 彼女が言うように範囲は小規模だったが、オオザルの防御をぶち抜く熱量だ。

 俺は距離もあったし、守りも固めていたから平気だったが、普通の冒険者が使うとなると……ちょっとどころじゃなく危ないな。

 それに……他の魔物もいるもんな。

 この場では俺が麻痺させているが、普通だとそいつらの相手をしながらになるだろうし……。

 だからこそ、燃焼玉にせよ爆発玉にせよ、ぶつけるだけというシンプルな発動方法にしているんだ。


 チラっとフィオーラを見ると、「欲張り過ぎたかしら……」とかなんとか呟いている。


 爆発玉は、足止めやちょっとした牽制程度じゃ足りない相手を想定していたんだろうが……彼女が言うようにちょっと性能が高過ぎだな。

 コレを使わなければいけないような状況なのに、いざその際に気にかける事が多過ぎる。

 そして、俺が使うにしても威力があり過ぎだ。

 一手間二手間かかろうとも、普通に倒せる魔物を聖貨も何も得られない倒し方で倒しちゃ意味が無い。

 残念ながら、これは没アイテムだな!


 見るとフィオーラも同じ様な結論に至ったようで、溜息を吐いて小さく首を振っている。


「まあ……いいわ。セラ、私は少しここの土を採取しておくから、貴女はその間に魔物を倒しておいて頂戴」


「うん。離れるけど大丈夫かな?」


「まだ新たな魔物が湧くには時間があるでしょう? それに、この階層程度の魔物なら問題無いわ」


 そりゃそっか……オオザル完封してたもんな。


「りょーかい。んじゃ、すぐ倒してくるね」


 ともあれ、あまり一人にしておくのも何だし、サクサク倒してくるか。

 土煙が起きるし【ダンレムの糸】は無しだな。

 真面目に1体ずつやっていこう!


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 爆発玉の初期型は結局没にすることになった。

 なんといっても威力が高過ぎる。

 オオザルを倒した後、広間の残った魔物を片付けたのだが、その際に残った爆発玉を借りて、他の魔物にも使ってみた。

 結果は……まぁ、一緒だ。

 たまたまオオザルだけに効果が拡大されたなんて都合の良いことは起こらず、オーガを始めとした魔物たちは綺麗に核もろとも消えてしまった。


 爆発玉は魔物にぶつけない限りは発動しないが、つまり、体当たりでも食らおうもんならあの威力が懐で炸裂してしまう訳だ。

 まず死ぬ。

 ダンジョン内で人が死んだ場合は、1日ほどで死体がダンジョンに吸収されてしまう。

 その前に回収しなければ、翌年のダンジョン維持費が増えてしまうのだが、死体が残る事無く焼け消えてしまったら、回収もなんも無い。

 きっとフィオーラが没にしなくても、リーゼルのチェックで撥ねられていただろうな……。


 攻撃アイテムって意味合いでは、超高威力の大成功アイテムなんだろうが、本来の目的を考えると、残念ながら大失敗だ。

 フィオーラが失敗するのはちょっと珍しい気もするが……、彼女は別にそれで腐る様なことは無く、むしろ嬉々として改良に取り組んでいる。

 そして、その改良された爆発玉を実験するのはもちろん俺だ。


 ◇


「よう、副長! 今日もフィオーラ様の実験か?」


 もうすっかりお馴染みとなった上層最奥の拠点でたむろする冒険者たちが、俺に気付き声をかけてくる。

 彼等が狩りをするのは中層だったり上層だったりで、下層まで踏み込むことは無いし、俺の狩りを目撃することは無いはずだが……何だかんだでここで兵たちと駄弁る事で、俺が下層で何をやっているのかってのを聞いているらしい。


 詳細を語る事はまだ出来ないが、俺としてもどんなことをやっているのかを周知できるし、悪いことじゃない。

 ってことで、通りかかるとたまにここでお喋りに付き合ったりもしている。


「そうそう。なんか思いついた物を片っ端から作ってるみたいで、色々あるんだよね。でも、そろそろ完成も近そうだよ」


 爆発玉の問題は、高過ぎる威力と爆発の際の目が眩む閃光だ。

 フィオーラは、少々完成を急ぎ過ぎたと考えた様で、まずは燃焼玉に一つずつ素材を加えたバージョンを作成していっている。

 あくまで配合を変えるだけで、そこまで大変な作業じゃ無いそうだが、その事を知らない彼等は感心しきりの様子。

 かといって、俺が何度もここを出入りするようなことがあると、今度は不安にさせてしまうかもしれないが、今日のコレでそろそろ完成しそうだし、彼等のフィオーラへの評価が下がる様な事は起こらないだろう。


「んじゃ、オレは行くよ。またねー」


 あんまりここで時間を潰すわけにもいかないし、話をそこそこの所で切り上げると、彼等に手を振り広間を後にした。


 ◇


 さてさて下層のいつもの広間で、いつもの様に毒を撒いて魔物を麻痺らせた。

 そして、これまたいつもの様に奥の通路からノシノシと姿を見せるオオザル君。

 ここ最近でもう何度倒した事か……。

 油断はできないが、もうコイツは攻略している。

 今日もかわいそうだが実験台になって貰うぞ!


 閃光と高過ぎる威力が問題だった初期型の次は、その両方を抑えて、代わりに爆音を発する物になった。

 事前に聞いていたから俺は布を耳に詰めていたが、それでも大きな音を感じた。

 周りに使用した事を知らせる事は出来るし、悪いとは思わないが……これも使用者への影響が大きい上に、そもそも魔物には大して効果が無かった。

 2作目も没。


 3作目はいっそ燃焼玉の燃える要素を抜いてみたらどうかと、音と光りだけを発する物が出来上がるが、そちらは効果がいまいちだった。

 その後数度迷走を続けるが、それでも方向性は見えてきた。

 で、それ等の反省を活かして仕上げた前作は、あくまで衝撃だけの代物となった。

 もはや燃焼玉の面影はないが、それでも確かに効果は発揮された。


 その前作をさらに改良したのだが……俺も詳細は聞いている。

 恐らくコレが最終形になるだろう。


「せーのっ!」


【浮き玉】を加速させて、例によって手にした爆発玉を、オオザルの頭上をすれ違いざまに投げつけた。

 そして、すぐに響く風船が破裂したような音。

 振り向くと、オオザルが仰け反りよろめいたかと思うと、尻餅をついた。


 うむ。

 想定通りだ。

【浮き玉】を方向転換して、オオザルに再び向かう。


「ほぃっ!」


 そして、投げつけたのは燃焼玉だ。

 その効果はいつも通りで、直撃したオオザルの頭部が豪快に炎を上げている。


「ふっ」


 それを見た俺は、すかさず【ダンレムの糸】を発動して、発射準備に取り掛かった。


 謎の衝撃で尻餅をついたところに、この炎だ。

 いくらオオザルでもどうにもならないだろう。

 正面からになるが、隙だらけ……。


 この1射で止めだ!

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