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 ダンジョンの浅瀬にこの面子は過剰戦力もいいとこだが、魔物たちがやる気になっている以上は迎え撃たなければいけない。

 普通にやるなら、ジグハルトなりルバンなりが魔法をドカンとぶっ放して、一気に殲滅するんだろうが……。


「皆、下がってくれ。僕がやろう」


 リーゼルがやる気になっている。

 剣を抜くと、皆を制して前に進み出た。


 リーゼルが強いのは稽古でちょっと相手をしてもらうだけでもわかるし、【妖精の瞳】とヘビたちの目で見てもわかる。

 後者は今日が初めてだったが、こりゃ強いわ……数年前のルバン並。

 普通に考えたら、もっと下の階層でも余裕だろうが……今日はちょっと装備が悪い。


 見た目重視で動きにくそうな鎧に、なんかカッコいい剣……。

 防具はまだ【祈り】で強化しているし、何とかなるのかもしれないが……武器はなぁ。

 セリアーナが使っていたような細身の剣だが、刃がもう少し長く、見るからにバランスが悪い。

 なんの魔力も感じないし硬い物斬ったら簡単に折れそうだけれど……大丈夫かな?


 だが、その心配は杞憂だった様だ。

 ゴブリンたちが姿を現す直前に、リーゼルは前に踏み出し……。


「はっ!」


 剣を横薙ぎに一閃。

 木やらなにやら諸共に両断した。


 その一振りで5体全部とはいかずに、実際に倒せたのは2体だけだったが、姿を見せる前に先頭の2体がいきなり真っ二つになったんだ。

 そりゃー魔物だってビビるよね……。


 生き残った3体も反撃に移ったりは出来ない様だ。

 驚きで動きが止まったのが1体、後ろと横に逃げようとしたのがそれぞれ1体ずつ。

 その機を逃す事はもちろん無く、スパっスパっスパパンっと、これまた真っ二つになった。


「……終わりかな?」


 魔物を倒し終えたリーゼルは、それでも油断せずに剣を構えたまま。

 リーゼルが魔物を倒す姿は初めて見たけれど……お見事だ。


 ◇


 ユーゼフ達は王都の人間だし、アレク達も達人の勘的なもので実力をわかっているから驚いていないが……見た目通りの実力しか計れない俺は無茶苦茶驚いている。

 なんであの細長い折れそうな剣で、こんなにスパスパ斬れるんだ……って。


 セリアーナはもう少し短い剣を使っていたが、斬るよりも突きが主体だった。

 突きだって、折らずにしっかり刺すのは難しいだろうけれど、それでも真っ二つにってのはまた次元が違う難易度だ。


「……? どうかしたかい?」


 俺の視線に気付いたリーゼルが顔を上げた。


「んー? いや、皆余裕そうだなって」


 初戦こそ彼が戦ったが、今はもうアレクたちリアーナ組の3人に任せて、今はもう剣を納めて一行の中央に下がったままだ。

 そして、ユーゼフたちも剣を抜いてこそいるが戦闘に参加をする気は無い様で、周囲の警戒だけ行っている。

 ちなみに支部長もそっち組。

 この階層の事はもう念入りに調査も済ませているし後は消化試合だ。

 前で戦う3人も、核を潰したり貫いたり断ったりと、余裕の戦いぶり。


「そうだね。セラ君は戦闘に参加しなくていいのかい?」


「オレは……この恰好だしね。止めときます」


 今日は探索というよりも、デモンストレーションの意味合いが強い。

 ジグハルトも普段は身に着けない鎧を装備しているし、アレクやオーギュストも、自前の鎧では無くて騎士団の鎧を身に着けている。

 そして、栄えある2番隊副長の俺は、あちこちにリボンの付いた青いワンピース。

 ……相変わらず裸足だが、それさえ除けば、立派なご令嬢のスタイルだ。

 まぁ……俺には迫力も威厳も無いし、確かにこの恰好が一番効果的だとは思う。

 冒険者ギルド前には、冒険者たちだけじゃなくて街の住民もいたしな。

 いい宣伝になっただろう。


「確か……セラ嬢は王都のダンジョンを、単独で上層まで到達していたな。普段はどのように戦っているのだ?」


 と、リーゼルとのやり取りを聞いていたのか、ユーゼフが話しかけてきた。


「どう戦うって………………蹴る?」


 我ながらなんという頭の悪い答え。

 だが、【影の剣】の事は隠しているしな……俺の手持ちで魔物相手に攻撃力があるのは【緋蜂の針】と【ダンレムの糸】だけだ。

 彼等が弓の事を知っているかはわからないが、使い勝手を考えたらこう答えるしかない。


「それよりも旦那様さ、さっきのアレはどうやったの? それって普通の剣だよね?」


「普通のよりも脆いかな? 見栄えだけを優先した儀礼用の剣だよ」


 リーゼルの腰にある剣を指すと、彼は再びそれを抜いた。


 スラっと長く綺麗な剣。

 刃には何か模様まで彫られている徹底ぶり。

 ……戦闘向きにはとてもじゃ無いが見えない。


「魔力を通したら、少しは使えるけどね」


 クルリと回すと再び鞘に戻した。

 もう振るう気は無さそうだな……。


「……何も感じなかったよ?」


 魔力を通して強化する技ってのは存在する。

 俺も時間はかかるしそこまで強くは無いが使う事は出来るものの、あの時のリーゼルにそんな様子は無かった。

 俺の場合は魔力の動きも見れるし、見逃す事なんて無いと思うのだが……。


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「む……。閣下、あそこが上層へ繋がる道のようですな」


 魔物を蹴散らしながら進むことしばし、浅瀬の端にある上層への通路が見える位置までやって来た。

 1時間かからなかったかな?

 突破を急いだわけじゃ無いし、出くわす魔物をことごとく倒してきたにしてはいいペースだ。


「そうか。セラ君、周囲や通路の奥に魔物の気配はあるかな?」


「ぬーん……。なんも無しです」


 周囲を見るが何もいない。

 もちろん通路の奥にもだ。

 この階層の魔物を殲滅したわけじゃ無いからまだまだ魔物自体はいるんだが……どうにもこうにも近づいてこようとしない。

 格上が集まっていると襲ってこないんだよな。

 初探索の時もそうだった。


 今日はダンジョン内には俺たちしかいないし、階層に空きがある時はこんな動きをする。

 もっと狩場に人がいて、逃げる場所が埋まっていると、他の群れと合流したりもするが……今日は逃げるだけだな。


「そうか。それじゃあ、当初の予定通りあそこまで行ったら引き返そう」


 その言葉に短く返事をする一同。

 戦力的にはもっと先を目指せるだろうが、今回は探索や調査が目的じゃ無いし、とりあえず浅瀬を一回りと決めていた。

 その予定に変更は無いようだ。


「帰路で魔物が湧いてしまうかもしれないが……引き返すのは軽い休憩をとってからにしよう」


 浅瀬の森部分を抜けて通路の前に辿り着くと、リーゼルはそう宣言した。


 ◇


 さて、リーゼルが言ったように今は通路前の壁を背に休憩をしているのだが、前はそこに切り倒された木が何本か並べられていた。

 休憩用に冒険者たちが設置していたんだろう。

 だが、今日はそれが取り除かれていて、皆は立ったままだ。

 流石に自然にそんな物が出来るわけ無いし、事前に取り除いていたんだろう。


 ……ここから下の階層にも、ちょっとした休憩用のスペースが出来ているが、そっちはどうなんだろう?

 そこまでは行かないし残したままなのかな?

 森部分も、普段ならあちらこちらに戦闘跡が残っているが、綺麗になっている。

 その分、視界は悪くなっているな……一般開放初日はその辺を気を付けてもらいたいな。


「セラ、どうだ?」


 休憩中の索敵も俺の仕事で、上に留まって周囲の様子を探っている。

 そもそもずっと【浮き玉】に座っているだけで、消耗は無いもんな。


 で、その俺に下からアレクが声をかけてきた。

 下を見ると、それぞれ装備の点検をしている。

 そろそろ出発か。


「んー。端の方にいるね。こっちを探っているっぽいけど、近づいては来てないよ」


 魔物の様子は道中と変わらず、俺たちから距離をとろうとしている。

 ただし、移動できる範囲にも限りがあるし、ある程度近づくと襲ってくるんだよな。

 外の魔物だと逃げる時はどこまでも逃げていくが……その辺がやっぱ違うな。


「閣下。帰りは我々に戦闘を任せてもらえませんか? 他所と魔物の差は無いようですが、それでも実際に戦ってみなければわからぬ場合もありますから」


 準備を終えたユーゼフが、リーゼルにそう申し出た。

 ここまでは戦闘には参加しなかったからな……。


「ふむ……そうだね。君たちは構わないかい?」


「ええ。実際にここでの戦闘を経験してもらうのもいいでしょう」


 リーゼルがリアーナ組に問うと、オーギュストが代表して答えた。


「わかった。なら、帰りは3人に任せよう。よろしく頼むよ」


「はっ!」


 どうやら、帰りはユーゼフたちが担当することになりそうだ。

 王都の偉い騎士サマの戦闘か……外での集団戦闘は見た事あるけれど、ダンジョンだとまた違ったりするんだろうか?

 オーギュストは元中央の騎士だし、彼みたいな戦い方かな?


 ちょっと楽しみだ。


 ◇


「ぬおおおおっ!!」


「はああっ!!」


「せぃやああっ!!」


 ……うるさい。


 ユーゼフたち3人が帰りの戦闘を担当すると決まって、程なくして出発することになった。

 上層への通路側の魔物は倒してまだ間が無いからリポップしていなかったが、入口に近づくにつれて、行きで倒した魔物や、逃れていた魔物がグルっと回り込んで来たのか、遭遇するようになった。

 もちろん、その魔物たちはこちらを襲ってくるので倒しているわけだが……。


「うおおおおおっ!!」


 すっげぇうるさいのよ。

 そして暑苦しい。


 それぞれが特に役割を分担するでなく、3人が3人とも両手持ちの剣を操り、一太刀で魔物を倒していく。

 強い事は強いし、実に巧みな戦いぶりなんだけれど……。

 くそうるせぇ。

 なんとなく行きより魔物との遭遇が多い気がするけど、もしかしてこの大声に引き寄せられていないか?

 冒険者でも自分を奮い立たせるために大声を出すのもいるが……3人揃って……それも強敵ってわけでも無いのに、アレは過剰すぎる。


「ねぇ……あのおっさんたちクソうるさいんだけれどさ……。アレが普通なの?」


 明らかに冒険者とは違う戦い方だが、これが正規のものなのか、あるいはあのおっさん共だけなのか……。

 高度を下げて、下の連中に向けて問いかけた。


「彼等は人間との戦闘を想定した訓練もしているからね。魔物と違って人間相手には気迫も大事なんだよ。部隊を率いての戦い方はまた別だが……ああいった個人での戦闘になると、その戦い方の方が力を発揮しやすいんだろうね」


 俺の疑問にリーゼルは苦笑交じりに答えた。


「なるほど……」


 わかったような……わからんような……。

 と、首を傾げていると、前方から大音声が。

 どうやら戦闘が終わったらしい。


 まぁ……この上なくうるさいが、なんだかんだで上手い事戦っているし、アレでいいのかな?


 ◇


 さらに数戦をこなし、俺たちは無事ダンジョンから帰還を果たした。

 ホールには2番隊や戦士団が整列していて、俺たちの帰還を見届けると、交代して入って行った。

 公には、これから彼等が調査をして、それから開放ってことになるんだろう。

 茶番と言えば茶番だが、これで大手を振ってダンジョンに潜れるし、話す場所や内容に気を配る必要もなくなる。

 悪い事じゃ無いな。

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