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505
「セラ殿は、アレクシオ隊長の様に、誰か仲間を募ってダンジョンに挑んだりはしないのですか? 下層でも、魔物の大半を無効化出来ていたようですし、セラ殿の代わりに働く者がいたらまた違った結果になったと思うのですが……」
この席にも多少は慣れてきたのか、ミオから質問が飛んできた。
まぁ、至極もっともな質問なんだが……どう答えたもんか。
「その娘は人見知りなのよ。知らない者と組んだりはしないわね」
迷ってる隙に、セリアーナに随分適当に答えられてしまった……そしてミオもそれに納得している。
親父さんもだったけれど、俺ってそんなに人見知りするように見られてるのかな?
結構社交的なつもりなんだけれど……まぁ、いいや。
「セラは空を飛べるからいいけれど、他の者はそうはいかないでしょう? 毒が効くまでの間、下でずっと魔物を凌ぎ続ける必要があるし、何よりそこまで辿り着くのも簡単じゃ無いわね」
あんまりなセリアーナの言葉にエレナが補足を入れている。
そうなんだよなー……俺の場合アレコレ隠しているのがあるってのもあるんだけど、とにかく他の人間と合わせるのが難しいって問題があるんだ。
冒険者がダンジョンで狩りをする場合は、上層や中層の手前がほとんどだと聞いている。
実力的にもっと先を目指せる者でも、それは変わらない。
こちらを敵とみなして襲ってくる魔物の群れがうろつき、それだけじゃなく突如現れる様な場所を、戦闘を繰り返しながら延々何キロも……。
消耗の度合いは、外を歩くよりも遥かに大きい。
そして、通常だと中層以降を目指す場合は、ダンジョン内での宿泊を前提とした編成をするそうだ。
だが、危険な場所で一夜を明かすなんて事を気軽に出来るわけも無く、どうしても編成の段階で断念する事もある。
むしろ魔物が強くなる事よりもそちらの方が難易度が高いらしい。
アレクも王都やゼルキス以外のダンジョンも探索しているが、結局編成の問題で中層で断念する事がほとんどだと言っていた。
ちなみに、ここのダンジョンで中層の最奥まで狩場が埋まっているのは、そこら辺の問題が解決しているからだ。
騎士団と冒険者と所属が分かれてはいても、領主主導で探索を進めているわけだし、互いに連携も取れているからな。
補給は出来るし何か起こればすぐに救援がやって来る。
そこまでやっているからこそ、余裕をもって調査出来ているんだろう。
もっとも、その中層の最奥で狩りをしている連中だって、ダンジョンが開放されてこのバックアップ体制が解除されたら、一から編成を組んだりと、また事情が変わってくるはずだ。
ダンジョン探索は大変だってことだな。
ところが、俺の場合はダンジョン上空をスーッと通過するだけ。
リアーナのダンジョンが下層まで何キロかはちょっと俺も把握していないが、5~6キロくらいだろうか?
その気になれば数分で辿り着ける。
加えて、俺が毒で麻痺らせて止めを同行者に譲るとかしたら、聖貨もゲットできないし……。
エレナは大分マイルドに表現したが、正直俺はダンジョン探索で人と組むメリットって無いんだよな。
アレクとかジグハルトとか、親しい人との探索ならレジャー気分で楽しめるが、違うのなら制限が多いだけだ。
なにかしらの事情でも無い限り、誰かと組むことは無いだろう。
そんな事を考えている間、エレナ達はミオにダンジョンの事を教えていた。
どうも彼女は、研修程度のはやっている様だが本格的な探索はした事が無く、ダンジョン探索についてはそこまで明るくないようだ。
まぁ、オーギュストも彼女は副官というよりは秘書に近い遇し方だし、それでもかまわないのかな?
◇
その後1時間ほどで報告会は終了し、解散となった。
下層に関しては、秋前に一度くらいジグハルトがアレク達と一緒に潜ってみるって事になっていた。
まぁ、ジグハルトがいるとはいえ彼はあくまで保険で、騎士団と冒険者からの選抜パーティーで行くんだとか。
合わせて、オーギュストは欠けた2人の代理で、ダンジョン調査の指揮を執ると、男性陣たちが話し合い決めていた。
ちなみに俺達はその内容に関わっていない。
その事に今回初めて参加したミオは驚いていたが……よくよく考えると、いつも適当に決めていた気がする。
もちろん、最終的にはリーゼル主導の会議で議題に挙げるんだが、それでもここで決めた事はそのまま通っているからな……前世で言う密室政治だろうか?
言われて初めて思い当たる辺り、俺もこの世界に馴染んだもんだ。
そして、出席した皆はそれぞれ自分の屋敷や部屋に戻り、俺とセリアーナはいつも通り寝室に下がった。
寝室で、俺はベッドでゴロゴロしているが、セリアーナは何種類もの櫛を広げて、自分の髪を梳いている。
【ミラの祝福】で髪の質は向上するが、それでも手入れは欠かせないそうだ。
いつも寝る前に時間をかけて手入れをしている。
エレナがこの部屋で寝泊まりしていた頃は彼女がやっていた。
もしかしたら俺がやった方がいいのかもしれないが……髪の手入れなんてわからないからな……。
幸いセリアーナは、別に自分でやるのも苦ではないようだが、うーむ……。
唸っていると、それに気付いたのかセリアーナがこちらを見て、ついでに何かを思い出したのか口を開いた。
「そういえば……お前、今日の探索で10枚になったのでしょう? 使うの?」
「聖貨? うーん……今回は保留かな?」
「あら、珍しい。また100枚でも目指すのかしら?」
「いや、そこまではしないけど、ちょっと狩りの締めを他の人に持ってかれちゃったからね……なんかピンと来ない」
ゲン担ぎってわけじゃ無いが、あまりスッキリした終わり方じゃ無かったからな……。
いつもそう思っているが、現状にそこそこ満足しているし、無理にガチャを回す必要は無い。
「今はダンジョンも外も狩場が空いてないし……使うのはちょっと先になるかな?」
予定通りに行けば、ダンジョンが一般開放されるのはあと3ヶ月近く先の事だ。
それまでは、ダンジョンもだが、聖貨目当てで領都近くの狩場も人は多いだろう。
その連中を押しのけてまで狩りをしようって気にはならないし……しばらくは、血なまぐさい生活から遠ざかりそうだな。
「そう……。まあ、どう使うかはお前の自由だけれど……だからと言って、あまり怠けないのよ?」
「……うん」
夏休み前の母親みたいなことを言ってきたな……。
だが、言わんとする事はわかる。
何かやれる事でも探すかな?
506
夏の3月半ばも過ぎた今日この頃。
俺は1人ゼルキスの領都を目指して快調に【浮き玉】を飛ばしている。
リアーナでダンジョン開通後に不測の事態が起きた際に備えて、周辺領地が兵を動かしている……という事は俺も聞かされている。
その纏め役が親父さんらしい。
で、その不測の事態ってのは、ダンジョンで一度だけ姿を現す魔王種の事だ。
ところがウチは既に倒してしまっているため、折角動員したその兵は不要になる。
来るべき次の事態に備えて、ここで無駄に領地の力を消費する事態を避けるためにも、ここら辺の纏め役であるミュラー家に不要であることを伝えようと、俺が派遣されることになった。
……その、次の事態ってのが何なのかはわからないが、養子の件で手間をかけてしまった礼も言いたかったし丁度良かった。
前回訪れてから少々間が空いてしまったので、色々ゼルキス宛の手紙もあずかっている。
その場で片づけられる事もあるし、テレサも同行出来ると良かったんだが、彼女は領地での貴族としての仕事が色々溜まっているそうで、今回は領地に残った。
そして、俺も今回は1泊だけの予定だ。
今月末に、アレクやジグハルト、オーギュストの3人がダンジョンに数日籠ることになっていて、その間領都の個人での戦力が落ちてしまう。
だから、その穴を埋めるために俺も領都にいて欲しいそうだ。
まぁ……俺程度で彼等の穴を埋められるとは思えないが、団長サマからの要請だし、大人しく引き受けた。
1週間くらい纏まった期間の滞在なら、ダンジョンに行ったりゼルキスの領都で遊べるのだが……残念だ。
彼等が帰還するのを待ってからだと、秋の1月に入ってしまうからな……。
王都から聖貨を運んで来る部隊のことを考えると、兵を動かすなら彼等とかち合わない時期が良いんだろう。
予定時期は秋の2月だし、今でも結構ギリギリになるかもしれない。
ってことで、【風の衣】を発動しての初の高速飛行だが……これはヤバい。
普通に飛んでいる分には特に前と変わりは無かったのだが、ある一定の速度……恐らく受ける風が俺に対してダメージになると、風も弾くようになった。
試しに速度を上げても見たのだが……どこまで上げても抵抗無し。
【浮き玉】の最大のネックであった、風圧の問題が解決してしまった。
多分……俺今200キロ近く出しているはずなのに、体に感じる風は精々そよ風程度だ。
鳥や虫と空中で接触する危険も、【風の衣】だけじゃ無く【琥珀の盾】も発動しているから、ほぼ心配なし。
強いて言うなら、速度を出し過ぎると俺が怖いって問題があるが、これだけ守りを固めたら、これくらいまでなら何とかなる。
ただ……【浮き玉】の限界はまだ先にあるみたいなんだよな。
流石にこれ以上速度を出す気は無いが……この玉も謎過ぎる。
「……わぉ」
【浮き玉】の限界についてあれこれと悩んでいると、森の切れ間に見覚えのある人工物が見えてきた。
ゼルキス領都の街壁だ。
空を見ると、お日様は西に傾き赤くなってはいるが……まだまだ夕日と呼ぶには程遠い。
俺がリアーナ領都を出発したのは昼を回ってからだし、道中1度休憩を挟んだが……大体3時間弱ってところかな。
以前テレサが全開でぶっ飛ばした時でも時間はもっとかかったんだが……想像以上だな。
流石に、リアーナとゼルキスと言ったいわば俺の地元だが、それでもこれ以上の速度を出すのは、見た者にいらぬ警戒をさせてしまうかもしれないし、止めた方がいいだろうな。
一応ここまでは街道を少し外れたルートを採っていたし、人目に付くようなことは無かったと思うが、気を付けるにこしたことは無い。
一旦近くの森に身を隠して、周囲を確認……ついでに領都入口までも念入りに索敵する。
獣も魔物の姿も無し。
もちろん、怪しげな人間もだ。
入口辺りに入場待ちで並んでいる連中がいるくらいか。
安全が確保できたところで、【妖精の瞳】を解除してヘビたちも服の下に戻らせた。
これで俺の見た目はどこにでもいるお嬢さん。
俺を見た人間が驚くようなことは無いだろう。
「さてと……そんじゃー、領都に向かいますかね」
隠れた場所から姿を現し、領都入口に向けて出発した。
◇
入口に並ぶ者達をよそに、顔馴染みの検問の兵と一言二言挨拶を交わして、領都に入場を果たした。
その際に、屋敷までの案内をつけると言われたが、断らせてもらった。
俺の目的地は屋敷なんだが……少し街中を覗いてみたいんだよな。
もう完成しているこの街の構造が数ヶ月で変化するようなことは無いが、ちょっとリアーナの領都と見比べてみたくなったんだ。
あっちは若い街で、まだまだ変化し続けているし、何か参考になる様なものがあるかもしれないもんな。
と、そんな事を考えてはいたが……あまり見た感じはどっちも変わり映えしないな。
流石に、人口はこちらが上だし人通りは多い。
それだけに、通りに並ぶ店の数も多いが、質が劇的に違うってことは無い。
もっと下町とか……住民の生活に根差した場所だと差があるのかもしれないが、元は同じ領地だし文化面や風習はそこまで差が無いのかもしれない。
街を移動しても違和感を覚えるようなことは無いな。
……強いて言うなら、通りを行き交う人が俺を物珍しそうに見ているくらいか?
俺がこの街にいた時間は何気に短いし、あまり街をうろつく事も無かったもんな。
……あまり長居はしない方がいいかな?
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