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「むふー……そろそろいい頃合いだね」
毒の効果が表れ始めてからさらに10分程が経過した。
オーガの群れのボスクラスといった、強い個体はまだ立っているが、もう大半が動けなくなっている。
ここまで数を減らせば、下層の魔物とはいえ余裕をもって倒せる。
まずは、まだ動ける個体から倒していって……ん?
高度を下げて奥のオーガ達の下に行こうとしたのだが……隣の広間に繋がる通路から何かがゆっくりと近づいて来ている。
「なんじゃー……?」
距離がありまだはっきりとは分からないが……二足歩行だ。
妖魔種かな?
数は1体のようだから、オーガって事は無さそうか……。
サイズ的にオーク……よりも大きいかな?
下のオーガを見ても合流する様子は無いし……仲間意識は無さそうだな。
何だあいつ?
何かわからない魔物の接近に、一先ずオーガ達への攻撃は延期することにした。
まだ距離があるし、さっさと倒してしまうってのも有りかもしれないが、妖魔種なら物を投げてきたりもするしな。
【琥珀の盾】と【風の衣】があるし、一発で落とされることは無いだろうが、戦闘中に攻撃を受けるような事態は避けたい。
今は下層に踏み込んでから30分ちょっとか……。
まぁ、いざ交戦となれば、俺の戦い方は時間がかからないし……急ぐことは無いだろう。
「お? ようやくお目見え……ぇぇぇ…………」
ノソノソと歩いていたそれが通路から姿を見せたが、距離があってもアレが何かは一目でわかる。
二足歩行ではあるもののやや前傾姿勢で、長い両腕を前に垂らし、右手で大きな石を握りしめている。
アレを無視してオーガと戦っていたら、そこに投げ込まれていたかもしれない……危なかった。
しかし、この下層最初の広間で出て来るか……オオザル君。
◇
「…………むぅ。隙がねぇ」
普段訓練所で相手をしているセリアーナ達は、俺程度じゃ隙なんて見つけられないが、魔物相手だと意外といけたりする。
あからさまによそ見をしたり、気を抜く瞬間がわかるんだ。
恐らく、俺があまりにも弱いから警戒する必要が無いと判断しているんだろう。
あくまで恩恵品と加護の力……それとヘビたちの力で倒しているのであって、俺本体はヨワヨワだから、その判断自体は間違っていない。
だが……姿を見せたオオザルはそんな素振りが一切ない。
この5分くらいの間、遠巻きに周囲をグルグル回っているが、俺から目を離さない。
困ったことに毒が効いている様子も無い。
オオザルはカマキリの時も出て来たけど、あの時も毒は効いていなかったし、この強さの魔物には効かないか……。
これ以上時間をかけても、無駄になるだけだ。
「……どーすっかねぇ」
今地上で動けるのは、オオザル1体にオーガ2体。
オーガはともかくオオザルが厄介なんだよな。
魔王種だろうと無かろうと、俺の攻撃はまともにダメージが入らないし……弓ならいけるかもしれないが、当てるのはちょっと難しそうだし。
今の状況なら逃げるだけなら簡単だろうけれど、そうすると毒を受けた魔物がそのまま復活することになる。
ダンジョンの魔物の仕組みってのがいまいちよくわからないが……毒を食らったのを放置して、耐性なんて身に着けられたら、俺が困るからな……。
ここは出来れば仕留めておきたい。
◇
3体を視界に収めながら、コソコソと倒れ伏している魔物に近づいていく。
まずはオオザルから離れた個体からだ。
「ほっ!」
まずは動けないオオカミの群れ目がけて、ヘビたちを放ち、ついでに俺も核を貫いた。
俺が首だけ刎ねて、核をヘビたちのおやつにってのが普段のパターンだが、今日はそれは無しだ。
急いで仕留めて行こう。
順調に仕留めていき、その数は30を超えて、いよいよ離れた場所の魔物がいなくなってしまった。
まだ後20体近く残っているが、それらはあの3体から精々数十メートル程度しか離れていない。
厄介なのは、オーガは倒れている群れの中心に陣取り、オオザルは……何かウロウロしている。
勿論俺から目を離したりはしていないが……何とも動きが読めないんだよな。
連続して倒すんじゃなくて、1体毎に離脱した方がいいか。
まずは、一気に高速で突っ込んで、端の魔物から順に核だけ貫くべきかな?
幸いどれも倒した事ある魔物だし、核の位置も把握できている。
【浮き玉】の速度なら攻撃を受ける前に離脱も出来るだろう。
「ふっ!」
上空から近づき、お目当ての魔物まで10メートル程になった所で、一気に加速し接近。
頭部にある核を貫くと、すぐさま外側へ離脱……。
振り向くと、こちらを見てはいるが3体とも動くそぶりは無し……上手くいきそうだ。
とりあえず、この戦法で数を減らしていこう。
だが、チクチクと削っていきいよいよ10体を切ったところで、オーガ2体が前に出てきた。
相変わらずオオザルは俺から目こそ離さないものの、ウロウロとしている。
オーガなら慣れた相手だし、ここは折角前に出て来てくれたんだし、一気に2体倒してしまおうかな。
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「ふらっしゅ!」
オーガに接近すると、目潰しに魔法を放った。
今までは1体ずつ倒していったが、前に出てきたあの2体……オオザルを警戒しながら、あいつらを引き離して狩っていくのは厳しいだろう。
直撃を受けた2体は顔を押さえて呻いている。
傘や【竜の肺】の補助が無いから、光量は控えめで復帰はいつもより早いかもしれないし、ここは時間をかけずに、2体一息にやらせてもらおう。
例によってサックリと核を潰そうと、【影の剣】を伸ばして未だ呻く2体に接近したのだが……。
「……むっ!」
もう後数メートルの距離まで近づいたところで、ヘビたちが横から何かが飛んで来る事に気付いた。
どうせオオザルが何か投げて来たんだろう。
守りは固めているし1発くらいなら無視してもよさそうだが……攻撃全回避が俺のスタイルだ。
魔法が1発無駄になるが、ここは普段通り……!?
「ぬぅぇぇぇぇいっ!?」
何が飛んできたのかだけ確認しようと、そちらを見た瞬間奇声を上げてしまった。
飛んできた物体に驚きすぎて、一瞬頭は真っ白になったものの、【浮き玉】はしっかり反応してくれて、高速で離脱を果たしてくれた。
流石だ、お玉。
「……あ、潰れた」
俺は回避に成功したが、地面にいておまけに視界を奪われた状態のオーガが躱せるわけも無く、見事にソレが直撃して押し潰されている。
飛んできた物体はオオイノシシで、ウシみたいな大きさで、重さは数百キロは軽くあるだろう。
中層で戦ったボスザルは魔王種で、アレはまた別格だったとはいえ大岩を高速でぶん投げてきた。
速度こそ気付いてから躱せるくらいではあったが、ノーマルのオオザルだって、それくらいの力はあるか……。
オーガもイノシシもまだ息はあるが、ぐったりしている。
そりゃーそうだろうよ……むしろあれで死んでいない方が凄い。
オオザルの方を見ると、特に何をするでもなく先程までと変わらない様子でウロウロしている。
もしかして、何となく投げただけなのか……?
「……とりあえず、仕留めておくか」
オーガとイノシシに近づき、3体ともサクサクっと止めを刺した。
これで残りは、毒で動けない魔物が数体とオオザルだけ……実質オオザルとの1対1だ。
……どうしよう。
ボスザルはもちろん、ノーマルのオオザルにもまともに俺の攻撃は通じなかったしな。
どうやら積極的に俺に仕掛けてくる様子は無いし……このまま逃げるってのも有りなのかもしれないが……。
「矢は試してないよな……」
【緋蜂の針】はまともに通じず、【影の剣】は危なすぎて間合いまで近づけない。
だが、俺の手持ちで一番威力と射程のある【ダンレムの糸】は、乱戦だったり狙いをつけるのが難しかったりで、まだ試していない。
「ふむ……後10分ちょっとか」
アレクに言われた制限時間の1時間まで、後少し。
上手くいけば2発撃てるし、やってみるかな?
無理ならさっさと、とんずらこけばいいんだ!
◇
「よっ!」
【ダンレムの糸】を発動し、同時に【足環】と【蛇の尾】も発動して、矢を射る体勢に移る。
オオザルとの距離は30メートルほど。
こちらを見てこそいるが、この距離でも相変わらず俺に何かをしてくることは無い。
先程のイノシシぶん投げてきたのは何だったんだろう……魔法に反応したのかな?
ともかく、このギュンギュン唸りを上げている【ダンレムの糸】にもさほど警戒を向けていない。
一応俺から目は離さないものの、呑気に残った昏倒中の魔物の間をうろついている。
このライン上なら、数体は巻き込めるし、射るならここだな……!
オオザルを注視する事1分程。
また魔物をこちらに投げようとでも思ったのか、倒れ伏すオーガの傍らにしゃがみこんだ。
狙うならココだ!
矢は【足環】と【蛇の尾】のお陰で、もうほとんどブレることは無いが、俺が左側から射っているからか、毎度そちらに少しだがズレてしまう。
そのため、折角の長射程武器でありながら、遠距離攻撃としては使えていないが、この距離なら問題無い。
「…………ぬー……はっ!」
しっかりと胴体に狙いをつけて、矢を放った。
放たれた光の矢は、ダンジョンの地面を抉りながらオオザル目がけて尾を引きながら直進して行く。
そして狙い通りオオザルの胴体を貫き、ダンジョンの壁面にドーン……と……ならないな?
その代わりに何かバチバチっと、【緋蜂の針】のスパーク音みたいなのが耳に届く。
いつも矢を放つとき、発動前や発射後も地面や壁を抉る音はするが、矢自体は音を発しない。
まぁ、鏑矢じゃ無いし、当然と言えば当然だ。
だが、今は確かに何かバチバチとした音がして……さらに耳を澄ますと、何か呻き声のような音もする。
……なんだこの音……どうなってんだ?
「直撃はしたはずだよね……? ……いや、待てっ!?」
何で矢がまだ見えているんだ?
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