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 ダンジョンでの事故発生から1週間ほど経ち、検証が終わった。


 事故そのものは、ダンジョン浅瀬の構造上どうしても防ぐことは難しく、ある程度は仕方が無い……となった。

 そもそも木を伐採したりして起きた事ではなく、魔物との戦闘中に魔物によって偶然引き起こされた事故だったわけだし、各々が気を付けるしかないってなるのは仕方が無いと思う。


 そのかわり、支部長がリーゼルに訴えていた設備の充実などは前向きに検討する事になった。

 ……なんか曖昧な返答ではあるが、実現可能かどうかとかそっちはそっちで調べる事があるから仕方が無い。


 どうもジグハルトが工房に一緒にいったのもその一環だったんだとか。

 民間では無くて、領主側のポーションを始めとした薬品類の生産能力を向上させたいそうだ。

 まぁ、ダンジョンも重要だけれど、そっちばかりにリソースを割くわけにもいかないもんな。

 今はよそで燻っている錬金術師とか薬師をスカウトしていて、その彼等は秋の雨季が明ける頃にやって来る。

 ちょうど、ダンジョンが一般開放される頃だな。


 ダンジョン探索の条件で魔境の狩りのペースが上がった事もあって、幸い素材は余っているし、人手が増えればいい方向に進むだろう。


 さて、何はともあれ、久々のダンジョン探索だ。

 結局ずっと閉鎖されていたからな……。

 検証に参加しない冒険者達にとってはいい休暇になっただろうが、俺にとってはやる気に水が差された感じではあった。


 ボス戦以来ちょっと燃え尽きていて、そこから復活していざ探索へってそのタイミングでアレだったからなぁ……。

 ふっふっふっ。

 今日はちょっと色々やっちゃうぞ!


 狩りをする者を避けて奥へ奥へと進み、上層の最奥部。

 中層の入口手前までやって来た。


「お?」


 地面に転がる、俺が刎ねた魔物達の首。

 それに潜り込み核を潰して回っているヘビ君たちだが、ある一つの頭部を潰した時、俺の左手に異物感が生まれた。


「久しぶりだなー……」


 聖貨……とりあえず、首に下げた財布にしまったが、ゲットしたのはボス戦以来かな?

 魔物と戦闘さえすれば結構な高確率でゲットできる俺だが、戦闘が無ければ、流石に無理だからな……。


 今日最初の群れで1枚ゲットか。

 これは幸先が良いな!


 ◇


 浅瀬はもちろん上層も狩りをする者は多かった。

 何と言っても実力者揃いの精鋭たちで、その精鋭たちがバックアップ体制がしっかり整った状態で狩りをしているんだ。

 そりゃー、平常時よりもペースが上がるだろう。


 お陰で俺の狩場がねぇ。


【影の剣】は未だ存在を隠しているし、他のまとめて倒せる恩恵品は範囲を絞るのが難しく、近くで狩りをしている者がいるとハイペースでの狩りが難しい。

 そこで、中層に踏み込む事にした。

 あそこは広いホール状で、好き勝手動ける狩場だし、何よりガッツリ稼いだ実績がある。


 そう思っていたのだが……甘かった。

 ここもしっかりいる。

 前まではここは俺だけだったのになぁ……。


 入ってすぐに中層のあちらこちらで戦闘が行われている事に気付いた。

 どうやら別々のパーティーではなく大きなグループのようで、それぞれが連携して動いている。

 そもそもこの階層の魔物は強力だし、普通に狩りをするのも簡単な事じゃないだろうが、冒険者だけじゃなくて騎士団の面々も加わっていて、その彼等がサポート役に回っている様だ。

 上手く安定している……。


「セラ」


 誰かが指揮を執っているのかもしれないが、一体だれが……?

 と、しばし眺めていると下から声がした。


「お? あ、アレクじゃん」


 お前か……俺の狩場を奪ったのは……!


 その考えが顔に出てしまったのか、アレクが困った様な顔をしている。

 八つ当たりではあるが、存分に困って欲しい。


「ぬー……この階層でオレが狩りをするのは厳しそうだね……」


「そうだな。全体を使って狩りをしているしな……。飛び道具も使っているし、お前がうろつくのは危ないだろうな」


 この開けた階層なら弓も有効だ。

 問題は他のパーティーへの誤射だが、まさにそれの検証もやっているんだろうな。

 狩りをしながら真面目にお仕事をしてらっしゃる……。


 何となくその場でアレクと一緒に狩りの様子を見守っていると、リポップのタイミングが被ったのか、少し救援が遅れて戦線に乱れが生じている。

 これは参戦かな、と思ったのだが……アレクが前へ行き、【猛き角笛】を発動して大声で指示を出して安定させた。

 狩りをしている連中は皆いい腕だ……。

 感心していると、アレクがこちらに戻ってきた。


「上層では狩りをしないのか?」


「あっちもねー……人が多くて狩りがし辛いんだよ」


「ああ……一週間ほどダンジョンを閉じていたからな……。その間も交代で検証を行ってはいたが……どうしても狩りは控えめになっていたし、消化不良だったのかもしれないな」


「ぐぬぬ……仕事熱心なやつらめ」


 俺は断ったが、彼等の場合はそうはいかないもんな。

 きっと真面目に地味な仕事を片付けていたんだろう。


496


「下層いけると思う?」


 人の少ない場所はあるが、ここは開けた階層だからな……中層でも俺が狩りを出来る場所は無さそうだ。

 それならもう、ここの先の下層しかない。

 だが……下層はボス戦の時に一度踏み込んだだけだ。


 ちょっと俺だけじゃ判断は出来ないので、アレクにも相談する事にした。


「下層か……。アレ以来まだ誰も踏み込んでいないからな……。魔王種が消えた事で出現する魔物がどうなるかは断言出来ないが……お前ならいけると思う。下層の構造もお前なら苦にならないだろう?」


 しばし考えこんでいたが、まぁ、なんとかいけそうかなって答えだった。


 下層は足場はあまり良くないし勾配もあって、気を抜くことが出来ない狩場だと思う。

 魔物も強いし単独で挑む狩場じゃ無いだろう。


 だが、俺なら足場の不利は関係ない。

 それ以外にも、上層よりは広いが壁で区切られているから、乱入してくる魔物の数も限られているし、俺でも対処できるだろう。

 なにより、周りに人がいないってだけで、選べる戦い方も増えていく。


「だよね……。よし……ちょっと行ってくるよ!」


 今は守りも固めているし、一撃で昏倒させられる事も無いだろう。

 ヤバいと思えば【隠れ家】に逃げ込む事だって出来るんだ。


 いけるいける!


「ああ。だが……そうだな、とりあえず1時間を目安にしろ。時間になったら一度こちらに戻って来い」


「ん、了解」


 まぁ、一先ず期限を設けないとキリが無いし、1時間ってのは妥当なところだな。

 下層か……しっかり気を引き締めていかないとな……!


 アレクに手を振り、その場を離れながら高度を天井近くまで上げた。

 中層全体が見通せるが、今戦っているのは中央付近までだな。

 ここから徐々に奥まで押し広げていくんだろう。

 弓で牽制しながら、槍で迎え撃つスタイルを試しているようで、少々速度は遅めだがその分堅実だ。

 普段なら、ダンジョンで知り合いにあったら別れ際に【祈り】をかけていくが……これは検証でもあるしな。


 どうしよう……と振り返りアレクを見ると、首を振っている。

 必要無いってことか。


 んじゃ、俺はちゃっちゃと下層に行きますかね!


 ◇


 さて下層に到着したはいいがどうしたものか……。


 魔王種討伐以来だが、あの時は俺は道中サポート役に徹していた。

 下層での戦闘もそうだった。

 俺が本格的に戦闘に参加したのは、あのカマキリが姿を見せてからだったしな。

 ここの魔物と普通に戦うのはこれが初めてだ。


 今目に入るのは魔獣種の群れがほとんどだが、少数の妖魔種も含まれている。

 空を飛ぶ魔物は今のところ目に付かないが……。


「ぬぬぬ…………。とりあえず毒撒くかな……。ほっ!」


【浮き玉】の高度を上げながら【紫の羽】を発動した。

 この階層の魔物にも、少々時間はかかるが十分効果はある。

 考えが纏まるまでの時間も無駄にならない。


「魔物は……40体ちょっとか。奥にはもっといるけど細かい数はわからんね。……あれはまだ気にしなくていいかな?」


 距離があるのをヘビたちの目で見ると、光点が重なってよくわからなくなるんだよな。

【妖精の瞳】も使えばよりはっきりと見えるようになるが……、あれまで使うと魔力の放射系の技を使って来るような魔物がいた時に、ダメージを受けちゃうからな……。

 厳密には攻撃じゃないから、【琥珀の盾】と【風の衣】も防いでくれないかもしれないし、1人の時は慎重に行こう。


 せっせと毒撒き毒撒き。


 ◇


「ぬーん……オーガの群れまでいるか。下に降りるのは危なそうだな……おっとっ!?」


 飛んできた石を慌てて躱した。

 危ない危ない……。


 毒を撒きながらこの広間をウロウロしていたが……魔物さん方、中々ヘビーな編成をしている。

 壁の上が空いていて、迂闊に近づくと隣の広間からも魔物が来るから、壁側まではカバー出来ていないが、この広間の魔物は概ね把握したと思う。


 魔獣はオオカミ種が中心で、複数の群れが互いをカバーし合っている。

 そして、そこに少数のゴブリンが混ざっているが……奥にしっかりオーガやオオイノシシといった大型が控えている。

 ここが外だと、捕食関係にあったり、互いに縄張り争いを起こしたりで、こんな歪な編成はそうそうない。

 だが、ダンジョンだとな……肉食草食関係無しに、しっかりと共闘してくる。


 小型を狙っていると、大型が奥から突っ込んで来るだろうし、大型を先に狙うと、小型が周りを囲んで来る。

 小型大型お構いなしに蹴散らせるような力があればいいんだろうが、俺じゃ無理だ。


「あ……効き始めた」


 懐からタイマーを出すと、時間は20分弱ってところかな?

 まずはゴブリンやオオカミと言った小型の魔物に毒が効き始めたようで、よろめいたかと思うと倒れだす個体が現れてきた。


 うむ。


 俺じゃーこの階層の魔物とまともに戦うのはちょっと危なすぎるからな。

 毒で動けなくなったのを刈り取っていくってのが、正解だ。

 卑怯と言うなかれ。

 そもそもこの貧弱ボディで魔物に挑むってのがおかしいんだ。

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