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 ダンジョンでの一仕事を終えて屋敷に戻って、何を置いても、まずはひとっ風呂浴びてリフレッシュ。

 そして、リーゼルの執務室に向かったのだが……執務室から繋がっている談話室で、なんか皆が揃っていた。

 冒険者ギルドで預かった手紙だけ置いたら、部屋に戻るつもりだったんだが……。


 確か今日は領内から人を集めて会議をするって聞いていた。

 ルバンも一旦自分の村に戻ったのに、その会議に出席するために、またやって来たそうだ。

 俺もダンジョンから予定より早く戻ってきたけど、それも早く終わったみたいだな。


 しかし、何の話をしているんだろう?

 メンバーが限定的すぎる……カロス達もいないし……酒が出ていないから真面目な話なのかもしれないが……ジグハルトは前に茶葉を広げているし……。


「やあ、セラ君。ダンジョンはもう良かったのかい? まだ出かけて2時間も経っていないんじゃないかな?」


「あ! そうそう……旦那様、これ支部長から」


 預かった手紙をリーゼルに渡す。

 内容はそれを記している時に一緒にいたし、俺も把握している。

 何か質問があるようなら答えられるだろう。


「……姫こちらに」


「ぬ?」


 リーゼルの前で浮いていようと思ったが、テレサが俺を手招きしている。


「髪を直してもらいなさい……。櫛は無いけれどなにもしないよりはマシでしょう……」


 セリアーナはそう言うと、溜息を一つ吐いた。

 俺そんなひどい髪してるかな……一応タオルで全力で拭いてから来たんだが……。

 まぁ、いいか。

 任せよう。


「セラ君。君もこの現場にいたと書いているが、詳しく話を聞けるかい?」


 髪を乾かして貰っていると、手紙を読んでいたリーゼルが真面目な顔でこちらを見ている。

 まぁ、内容が内容だもんな。

 他の面々もだ。

 よし……それでは話して進ぜよう。


「簡単に言うと浅瀬の奥でちょっとした事故が起きて、大怪我した人が沢山出たんだよね。ただ、今日はアレクもジグさんもいなかったでしょう? 怪我人をダンジョンの外に運び出すのも、回復魔法を使える人をそこまで連れていく事も難しくってね」


 何の会議なのかは知らないが、お偉いさんが集まっているから、ダンジョン探索をしている2番隊の面々も今日は地上で待機している。

 そのため戦力が冒険者主体で、全体的に足りていなかったんだよな。


「で、俺がポーションを運んだりし続けてたんだ」


 上層へ狩りに行くつもりだったのに、ポーション運びで疲れてしまい、ちょっと早いけれど帰宅したわけだ。

 その説明をしている間に、リーゼルから回された手紙を読み終えたアレクが、質問を口にした。


「セラ、コレを読んだ限りじゃ詳細がわからない。どんな事故だったんだ?」


「む? わかりにくかったかな……? 体当たりを避けられたオオイノシシが、浅瀬に生えている木にぶつかったんだけど、その木が折れたんだよね」


 それが切っ掛けだ。


 折れた木がまずは、近くで様子を窺っていた魔物の群れ目がけて倒れ込み、それに驚いた魔物がバラバラに逃散。

 そして、他の魔物と戦っていたパーティーの下に乱入して、1人が怪我を。

 それに気を取られた盾役が、オークの一撃を受けてパーティーが半壊……。

 そんな事が、連鎖的というか雪崩的というか……ピタゴラスイッチみたいな勢いで、どんどん広がっていき、本当に数分程度の出来事なのに、あっという間に重傷者が多数出る事態になってしまった。

 俺はその時、ちょうどすぐ側を通過していたが、あまりにも突発に起こった出来事で、何もできなかった……。


 死者がいない事がせめてもの幸いだが……改めて魔物相手に油断はいけないと思ったもんだ。

 あの階層を余裕で突破できる冒険者が、ゴブリン相手から大怪我を負わされたりもしていたからな……。


「救援が遅れたとかではなくて、広範囲で一度に起きたから、手が足りなかったのか……」


 今の時点でも浅瀬にはハプニングに備えて、騎士団だったり戦士団から派遣された冒険者が、狩りをしながら駐留しているんだが……。


「そうそう。見通しがあまり良くないでしょ。地上からだと事態の把握が出来なかったんじゃ無いかな? 結局俺が誘導してたからね」


 リアーナダンジョンの浅瀬で注意する点は、見通しの悪さとそこそこ強い魔物。

 それが悪い方向にかみ合ってしまって、大事になった。


 一旦周囲の魔物を倒した後は、治療をするために怪我人を一ヵ所に集めて対処していたが……根本的に回復魔法を使える者が少なすぎるんだよな。

 どうしてもダンジョン内での治療となると、ポーションが中心で無理が出て来る。

 かと言って、武装した冒険者を運び出すのも楽じゃ無い。

 一般にも開放されたらまた利用者数が増えるし、被害が増えるか、逆に救援が増える事で被害が減るかはわからないが、こういった事態を引き起こしやすい環境だという事が判明した。

 まぁ……プレオープン中で良かったもんだ。


「それでこの内容か……」


 説明を聞き納得したのか、男性陣があれこれ話し始めた。

 手紙に書かれている内容はいくつかあるが、特に大掛かりなのが、ダンジョン入り口前のホールに、ポーションの備蓄施設を新たに設置する事だ。

 即席の救助隊を組織出来るようにしたいんだろうな。


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 即席の救助隊。


 死者が出た時は、動ける冒険者が一気に突入して回収に向かうことはあっても、その前段階で冒険者ギルド側が、探索中の冒険者に対して何かをする事は基本的に無いそうだ。

 だが、敢えてそこをやりたいと、リーゼルに直訴……じゃ無いな……手紙だ。

 ともあれ、そういった方針にしたいそうだ。


 あの支部長は冒険者に甘い気がする。

 それはリーゼル達も感じているようで苦笑を浮かべている。

 考え自体は悪くないと思うが、果たしてそこまでサポートしていいものか……と言うと、俺にはわからん。

 そこら辺の判断は人も物資も使う訳だし、一般開放までの間じっくり考えてもらおう。


 それよりも……。

 真面目にダンジョンについて話をする男性陣に対して、女性陣はそれは自分達の仕事じゃないと思っているのか、話に加わる様子は無く、専ら別の事にご執心だ。

 具体的には俺の髪。


 あまりお世話になっているシーンを俺が見る機会は無いから、ついつい忘れがちだが、エレナはセリアーナの侍女でもある。

 セリアーナは櫛が無いとか言っていたが、エレナがしっかり持っていた。

 確か彼女らも会議に出席するとか言っていた気がするんだけど……こんなもんいつも持ってんだろうか?


「……ねぇ、あっちの話は良いの?」


「いいのよ」


 即答されてしまった。

 まぁ、ダンジョンの事は騎士団と冒険者ギルドが考える事だし、テレサとフィオーラは籍は置いていても、俺やアレク達のサポートがメインだからな……彼女らへ職分というか、役割の線引きを明確にしているところがある。

 今回の件もそうなのかな?


 ……それよりも。


「この髪型どーなんよ……」


 問題はこっちだ。

 髪を弄り始めてもう20分くらいたったが、ようやく完成したらしい。

 だが、その髪型たるや……。


「あら? よくわかったわね……?」


 俺の声に女性陣は驚き、セリアーナも不思議そうな顔をしている。

 それはそうだろう。

 この部屋には鏡は置いていないし、俺は振り向いていない。

 勘の鋭い人なら、手の動きなどから、どんなことをしているのかわかるかもしれないが、生憎俺の勘はちょっと……まぁ、アレだ。

 その事は彼女達も知っているからこその驚きだろう。


「……ああ、ヘビたちですね」


 だが、テレサは襟元からアカメが首を伸ばしている事で、思い当たったようだ。


「そうそう。んで、この髪型……」


 最近は喋りながらでも、ヘビたちの視覚を共有できるようになってきたのだ。

 まぁ、髪型を調べるために訓練を積んだわけじゃー無いんだが……ともあれ、今は髪型だ。


「王都では最近こういった髪型が流行っているそうよ。手間がかかるから、あまり好みでは無いけれど……悪くは無いわね」


 三つ編みをいっぱい作り、それを輪っかにしたり編み込んだり……セリアーナの言う通り、盛る……とまでは行かないが、確かに手が込んでいる。

 今はただ紐だけで留めているが、これをもっと煌びやかな髪留めなんかも使えばきっと目立つだろう。

 ただ、本人だけじゃまず出来ない髪型で、時間もきっとかかるだろうし……。


「めんどくさ過ぎない? 今だって4人でやってこれだけ時間がかかるでしょ?」


 王都の流行か……記念祭の時に仕入れたのかな?

 俺も少しは王都のご婦人方と顔を合わせていたが、皆あまりこういった無駄な事に手間暇かけるイメージは無かった。

 セリアーナとフィオーラは知らんが、エレナとテレサは侍女としての能力もしっかりあるんだし、彼女達がいてもこれだけ時間がかかったんだしな……何かあったのかな?

 ふと沸いた疑問を口にする俺。


 それにセリアーナが答えるが……若干呆れ声になっている。


「学院で西部の令嬢から広まったそうよ。朝からこんな面倒な髪形を出来る程、自分は使用人を連れている……と、誇示したいのかも知れないわね。対抗してウチの国の娘たちもお前のような髪型にしているらしいわ。子供と一緒に王都の屋敷に出向した侍女から嘆きの手紙が届いたと、複数の奥方からその話があったのだけれど……その時お前も一緒にいたのよ?」


「ふぬ? ……っ!? …………きっと施療に一生懸命だったんじゃないかな?」


 視線をウロウロ彷徨わせながら、思い出そうとするが……なんか学院がどーのこーのとか話していたような記憶が薄っすらと頭の片隅にあるが……駄目だな。


「まあ……いいわ。どうせそのうち無駄に気づくでしょうからね。精々王都にいる間だけでしょう」


「……へー」


 就職前にちょっとだけ髪で遊ぶみたいな感覚かな?

 まぁ、この世界のお貴族様は学院出たら社会に出るわけだし、正にその通りなのかもしれないか。


「とりあえず、手間もかかるし動く際に鬱陶しそうだし……この髪型がリアーナでは流行ることは無いでしょうね……」


 セリアーナの言葉に同意する3人。


「セラ、お前も他所のご婦人に王都の流行の髪形について話を振られたら、適当に答えなさい」


「あ……うん」


 暇つぶしでもあっただろうが、王都の流行の髪形を実際に仕立てるところから試してみたかったのか。

 領地のご婦人方に色々聞かれることがあるんだろうな。

 これも彼女達の大事な仕事なんだろう。


 今この新しくチャレンジしている変な髪形もきっとそうなんだろう……多分。

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