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俺を取り囲み談笑するご婦人たち。
「ぐぬぬぬぬぬ…………」
そして、唸る俺。
流石にイメージが悪すぎるから【足環】は外しているが、基本的に装備はいつものままだ。
各種恩恵品に、裸足、爪には黒のマニュキュア、指輪もしっかりと嵌めて、フル装備。
服こそいつものメイド服じゃなくて、絵を描いた時と同じ青のワンピースだが……それがご婦人方に受けているのだろうか?
少女でここまでジャラジャラ身に着けている者は少ないだろうし、珍しいのだろう。
絵の事や俺の諸々の加護なんかも
そう言えば今日この恰好することはセリアーナが決めたし……ヤツの作戦通りか……!?
「お前は何を唸っているの?」
「いろいろだよ……!」
まぁ、何の作戦だって話ではあるが……セリアーナはご満悦そうではある。
「そう言えばセリアーナ様」
確かどこぞの領主の代理でやって来た人の奥さんだ。
全体的に弛んで見えるし、東部の人じゃーなさそうだが……その彼女が、俺を見ながらセリアーナに話しかけた。
「セラ様は確かゼルキス領都で、ご両親を魔物に襲われて亡くされたところを、セリアーナ様が保護なさったと聞きます」
事実とは違うが、それはゼルキス領やここリアーナ領の奥様方の間ではもう周知の事だ。
今更聞く事でも無いが、それがどうしたんだろうか?
俺とも顔見知りの奥様方は「今更?」と言った顔をしている。
他所の者だとまだ知らないのかも知れないな。
「ええ、そうね。もうすぐ5年になるわね。早いものね」
が、セリアーナは気にせずそのまま話に付き合っている。
機嫌が良いのかお仕事だからなのか……。
「セラ様。こちらをどうぞ」
2人の話に何となく耳を傾けつつ、適当に俺も周りの相手をしていると、テレサがグラスを差し出してきた。
……今日は一応オフィシャルな場だから、彼女は俺の事を様付けで呼んでいる。
様呼ばわりも、彼女から姫以外で呼ばれることも最近は無かったから、どうにもむず痒い……。
「ありがと。これは何?」
渡されたグラスに注がれた液体は、ほのかに色がついているが……見た感じは白ワインに似ている。
俺に渡すって事は、お酒じゃなさそうだけれど……何だろう?
ジュースかな?
「エドガー様からセラ様への贈り物です。ワイン用の実で作ったジュースを、お水で割った物です」
「へー……」
なるほど……同じ実を使っても、発酵させなきゃお酒にはならないもんな。
南のマーセナル領はワインが有名なのかな?
そんなことを考えていると、俺の側にいたご婦人がサリオン家……つまり、マーセナル領領主の代理人の奥様らしく、色々説明をしてくれた。
主要産業は海運業だが、暖かい土地という事もあって、農業も盛んらしい。
中でも、ワインはちょっとした物らしく、この中央大陸のみならず他大陸でも高い評価を得ているんだとか。
そういえば、前世のフランスや南欧もそうだった気がする……同じくらいの緯度なのかもしれないな。
そして、エドガー名義ではあるが、実質エリーシャからの物らしい。
「あ……美味しい」
少々酸味が強いが、水で割っている分飲みやすく感じる。
今俺が手にしている分はワイングラスに上品に注がれているが、風呂上りにグラスで氷を沢山入れて飲むと良さそうだ。
甘ったるいのよりこういうサッパリした物の方が俺の好みには合っているし、良い物を頂いてしまったな……。
「今度お礼に行った方がいいかな?」
どうしたもんかとテレサに伺い立てる。
マーセナル領の領都は、川を下って行けば辿り着く。
結婚式の時に行き帰りで訪れた事はあるが、港に降りただけで街の様子とかは知らないんだよな……。
「そうですね。きっとエリーシャ様も喜びますよ」
「是非お越しください。その折には私共が街を案内いたしますので……」
テレサもこの奥方も乗り気のようだ。
……これは行くことになるかもしれん……ん?
ちょっとこっちの話に気を取られて聞き逃していたが、なにやらセリアーナ達の方が盛り上がっている。
「……どうかしたのかな?」
険悪な雰囲気は無いし、悪い事じゃ無いんだろうけれど。
「セラ様の今後の身の振りについて話されていましたよ」
テレサは、俺と違ってしっかりあちらの会話も把握していたらしい。
だが……。
「……オレの?」
お客さんが滞在している間、何人かには【ミラの祝福】をすることになっているし……それについてかな?
首を傾げていると、俺の様子に気付いたセリアーナが、こっち来いと指を曲げて呼んでいる。
「ちょっと行ってくるね」
中座の断りを入れると、皆快く送り出してくれる。
……いやね……そりゃー……、セリアーナに呼ばれてるんだし行くって選択肢しか無いけれど……、何ていうか皆俺の扱い方が丁寧なんだよ。
テレサからそういう風に扱われるのは慣れたけれど、知らない大人、それも前世の俺よりも年上の人達から、そんな風に扱われるってのが、なんとも落ち着かない。
これが身分ってやつか……。
まぁ、偉いのは俺じゃなくてセリアーナやリーゼルなんだけど……。
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「んで、どうかしたの?」
気を取り直して、何の用なのかを訊ねた。
テレサは俺の身の振りがどうのこうのと言っていたが、おそらく俺が成人してからの事だと思う。
もう来年だが……そこら辺の事はセリアーナに任せてある。
あんまりお堅いことや面倒なことは避けたいとは伝えているし、その辺のことは酌んでくれるはずだ。
悪いようにはしないだろう。
「……お前聞いていなかったのね。エドガーからの贈り物を飲んでいたようだけれど……そんなに気に入ったの?」
俺が手に持つグラスを見ると、そんなことを言ってきた。
普段は様付けなのに呼び捨てだ。
オフィシャルな場だからかな。
あのにーちゃんは侯爵家の嫡男とはいえ、今はまだ男爵位だったっけ?
夫人って立ち位置がどうなのかはよくわからんが、将来的にはともかく、現時点じゃセリアーナの方が上なのか……。
「美味しかったよ。今度エドガー様にお礼しないとね。……セリア様も飲む?」
手にしたグラスをセリアーナに向かって差し出すが、首を横に振った。
ついでに、周りのご婦人方が「まぁ⁉」と声を上げるが……はしたなかったか?
非難の色は感じられないが……。
セリアーナはコホンと一つ咳ばらいをすると、口を開いた。
「まあいいわ……。それよりも、お前。結婚したい?」
「しないよ?」
なんか前も似たようなことを聞かれた気もするが……急になんじゃ?
「そう……。皆さんがお前の事を気にかけてくださっているのよ。来年で14になるでしょう? お前はどうするのかって」
「ほう……?」
うちの息子の嫁に……とかの話なのかな?
まぁ、お断りだが、これでも結構優秀ですからね……!
セリアーナに断ってもらっているが、今でもたまーにそんな話があるそうだ。
「国の中央や西側ではお前の事を養女に取りたいと考えている家がいくつかあって、そこからお話を預かってきているそうよ」
と、周りの何人かのご婦人たちを見てそういった。
「……なんで養女?」
まぁ……そりゃ俺は家という意味ではフリーだけれど、公爵様であるリセリア家が後ろについている。
養女に入ってまで得られるようなことは思いつかないが……。
かといって、その家だけにメリットがある様な申し出なら、セリアーナがもう少し不機嫌になってもいいはずだ。
人前だからうまく隠しているってことも考えられなくはないが、そういう気配は感じられないし……。
「親衛隊に入隊するには伯爵家以上からよ。お前も知っているでしょう?」
「……ああ!」
そういえば、エレナもそんな話があったって、昔聞いた覚えがあるな。
「それに貴族学院への入学も可能になってくるわ。お前、通いたい?」
「……通わなくていい」
王都の屋敷での生活だけなら悪くはないが、お勉強……それもマナー的なものを中心の生活ともなると、ちょっと遠慮したい。
というか、ぶっちゃけごめんだ。
「ええ。だから断っておいてあげたわ。それに、お前はミュラー家の養女に入ることが決まっているもの」
「……なんですと?」
結構重要な話だと思うんだが、なんで普段から一緒にいるのに今初めて聞くんだ?
「なに? それとも私の養女になる方がよかったの?」
寝耳に水な情報にポカンとしていると、それが不満と思ったのか今度はそんなことを言ってきた。
「い……いや……」
「私の義娘になるのが嫌なの?」
そういうわけじゃないと否定しようとする俺に向かって、今度は一睨み。
「ぇぇぇ……」
なんでここでそんないじめっ子ムーブするんだ……?
周りのご婦人方も困って……いないな。
口元に手を当てて隠してはいるが、困惑している俺を見てニヤついているのが、目でわかる。
どうすりゃいいんだと、視線をキョロキョロとすると、セリアーナの一歩後ろにいるエレナと目が合った……が、苦笑を浮かべているだけで、セリアーナを止めようとはしない。
こういう時のあいつは駄目だ。
せめてだれか解説を……!
「セラ様」
後ろで別のご婦人グループの相手をしていたテレサが声をかけてきた。
その声に振り向くと、向こうのご婦人方もこちらに来ている。
「女性で騎士になるには親衛隊に入隊する必要があるのです。今のセラ様はあくまで領内限定の身分です。親交のある領地でしたらこちらの階級に合わせてもくれる事もありますが……」
「あぁ……。そういえば……」
ゼルキスでは、もう自由に動けるようになっているが、それ以外だと俺はテレサのおまけ的な立ち位置だった。
王都だと、一応昔の借りで【浮き玉】を始め、大分自由に動くことができるが、それは冒険者って身分でだ。
「もっとも騎士と言っても、どこでも自由に……とはいきませんが、親衛隊となると話は別です。王家の公認ですからね。私はセラ様の副官で侍女という立場ですが、籍は親衛隊にも置いています。私だけではなく、他にもそういった方はいらっしゃいますよ」
と、笑っている。
「そう言うことよ。もっとも親衛隊の隊員とはいっても、王都に行った際に王妃様に挨拶をして、もしこちらに来られるようなことがあれば、その際にも挨拶を……その程度よ」
セリアーナは気軽に言ってきたが、それはそれで結構プレッシャーのかかる様なお役目な気もする……。
が、それはそれでいつも通りか。
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