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明日は記念祭……要は建国記念日だ。
王都を始め、各領地でもちょっとしたお祭りが行われる。
当然、ここリアーナでもだ。
去年はボスを討伐したり色々忙しかったし、まだまだ新領地という事もあって、お祭りを大々的にやれるほど落ち着いていなかったため、領民にお酒を振舞ったりはしたものの、地味なものだったらしい。
だが今年は、この1年でリーゼルがアレコレと仕事をこなし顔を繋ぎ、領内も安定した。
さらに、昨年生まれた子供達のこともあって、領内や他領から訪れる予定の客も多く、大々的にやろうとなっている。
新ダンジョンの件等もあるし、色々ウチから広めたい事もあるんだろうしな。
寝室のベッドの上でゴロゴロしながら、セリアーナから明日からの予定を聞かされている。
今日は部屋には俺と2人だから、彼女もベッドに横になりながらだ。
エレナやテレサがいる時は、就寝前とはいえこういうだらしない真似はしないが……油断しておるな。
まぁ……俺が言うこっちゃないだろうが。
「そーいや、エレナとアレクはしばらくは自分の家だっけ?」
「ええ。エレナは実家から親族が様子を見に来るから、記念祭が終わってもしばらくは下の屋敷にいるそうよ」
エレナ達の新居は、内装も含めて一応完成はしている。
ただ、まだ管理するための人員が教育中で、アレクは屋敷の敷地内にある前から利用していた部屋で、そしてエレナはこの屋敷で生活をしていた。
幸い、今のところ彼等への客人はおらずそれでも問題無かったが、領地も軌道に乗ったし、そろそろお貴族様としての役目も出て来る。
親族ってのが誰なのかはわからないが、今回はお客さんを迎えてのちょっとした試験みたいなものかな?
「一応、お前にも何組かの客には会ってもらうけれど、それ以外は自由にしていいわ。ああ……でも、ダンジョンは控えておいて頂戴。これはお前だけじゃなくてリアーナのダンジョンを使える者全てに言える事だけれどね」
「そういえば、王都とかでも記念祭の間はダンジョンは利用禁止になってたね……。うん大丈夫。ちょっとのんびりしたいしね」
思えば新ダンジョンが出来てから、100枚目指してずっと探索に励んでいた。
……頑張り過ぎたな。
加えて先日のボス戦。
ダンジョンも魔物もちょっぴり食傷気味だ。
燃え尽きたってわけじゃ無いが、英気を養う為にもしばらくダラダラ過ごしたい。
これがなー……普通のおっさん冒険者なら酒なり女なりって発散の仕方があるんだろうが……無いもんなー。
やっぱ屋敷でダラダラするくらいだな。
赤ん坊たちと遊んどこうかな?
◇
翌日、記念祭の初日だ。
朝、中央広場でリーゼルが開幕の宣言と挨拶をする、ちょっとしたセレモニーが開かれた。
大変盛況な様で屋敷にいる俺の下にまで歓声が聞こえてきたほどだ。
リアーナ領での記念祭は、王都のシステムに倣う様で、この期間は申請された店は税金がかからないそうだし、領主からの振る舞い酒もあって、さぞ賑わっている事だろう。
昼を回った今でも、この屋敷のホールにまでその喧騒が届いている。
……昔の嫌な記憶が蘇って来るな。
チラっと聞いたところによると、教会のある地区の店は除外するし、そもそもリーゼルがこの街に来て以来、他所の街に連れて行ったか、死んだか、孤児が預けられなくなって来たか……理由は色々あるだろうが、孤児院はもうほとんど子供がいなくなったらしい。
子供が酷使されないのは僥倖だが、それでも何となくイラっとしてくる。
「おや? セラ殿、どうかされましたかな?」
昔の事を思い出して、渋面を作っていると、それを気にしたのか声をかけられた。
確か、リアーナ領のどっかの街の誰かの代理でやって来たおっさんだ……。
「顔と名前とか色々な事が一致しなくて困ってるのです……」
本来は失礼な事なんだろうが、何となく俺はそう言うキャラって認識されているからな……実際覚えられていないし、誤魔化すには丁度いい。
「はっはっはっ。確かにセラ殿のような若いお嬢さんには、私達のような爺を見ても面白くは無いでしょうな」
言われたおっさんも、おかしそうに一しきり笑うと、他のおっさん達がいる方へと去って行った。
そちらではリーゼルが中心となって男性客を、少し離れた場所ではセリアーナやエレナ達が女性客の相手をしている。
どちらの客も子供詣ではひと段落付いたし、雑談モードに切り替わっているな。
開幕の挨拶を終えた後、リーゼルは屋敷に戻り、領都を訪れた客の応対をしている。
その客たちと昼食を兼ねた懇親会だ。
ついでに、子供達のお披露目も。
双子だけじゃなくて、エレナ達の子もいるし、次代のアピールなのかもしれない。
そして、俺は乳母達と一緒に子供の番をしているが、今の様にちょこちょこお客がこちらまでやって来て、子供を見た後に一言二言言葉を交わしたりもする。
ベッドで横になっている子供達は、3人とも機嫌が良い様で、代わる代わる知らない人が覗き込んでいるのに、ぐずったりはしていない。
「セラ様」
ベッドの上から子供達を覗きこんでいると、乳母の1人が不意に俺の名を呼んだ。
「ん?」
「奥様が……」
何事かと、セリアーナの方を見ると、何やら手招きをしている。
あ、使用人がこっちに来た……。
「セラ様。奥様がお呼びです」
「……はーい。ちょっと行ってくるね」
「お子様方は私達が見ておきますので、ごゆっくりどうぞ」
「……うん」
とは言ったものの、ちょっと気が重い。
きっと弄られるんだろうな……。
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記念祭当日の朝、リーゼルは、記念祭の開幕の挨拶に出るために準備をしていた。
俺やセリアーナ達は出席しないから、来客に備えて屋敷で待機することになるが、正装のリーゼルを見ようと彼の執務室に集まっていた。
袖やら胸に金糸で刺繍が施された青のジャケットに、黒のパンツ。
そして赤いマントと、派手な色合いながらも、美形だからかしっかり決まっている。
「旦那様……」
からかい半分に褒めそやしていると、そこへ、画家が絵を持って来たと使用人が伝えに来た。
少し前、俺が王都に行っていた頃の話だが、セリアーナやリーゼル、そして子供達も一緒の家族揃っての肖像画を描いて貰っていたそうだ。
写真の無い世界だし、折に触れての肖像画の作成は割とよくある事だ。
子供も無事生まれたし、初代リセリア家の栄えある1枚目だな。
それが仕上がったんだろう。
随分いいタイミングだが……もしかしたら今日納品の予定だったのかな?
「そうか……まだ少し時間はあるし、通してくれ。セリア達も一緒に見るかい?」
「そうね……まあ、この恰好でも問題無いでしょうし、そうするわ。エレナ、貴方もいいわね?」
セリアーナは、リーゼルの言葉に少し思案したが、絵への興味が勝ったようだ。
「はい」
この恰好でも……なんて言っているが、確かに正装には後ほど着替えるが、今でも人前に出るのに問題の無い恰好だ。
エレナは自分の屋敷からの出勤だし、バシッと決めている。
そして、テレサは言わずもがな。
俺に聞かないのもいつもの事。
ってことで、そのまま待つ事になった。
「確か姫も絵を描いて貰ったと言っていましたね」
待っている間にテレサが、そう言えばといった様子で聞いて来た。
確かあの時テレサは仕事があって、屋敷にいなかった気がする。
俺は今まで肖像画なんて描いた事が無かった。
まぁ、そりゃそうだ。
ずっと孤児院だったし、そこから抜け出してからはセリアーナの下にいるしで、そんな機会は無い。
で……だ、ダンジョンが出来て探索に勤しんでいたのだが、セリアーナからダンジョン探索にストップがかかった日があった。
休憩も挟め……と。
まぁ、それも道理だと思いその日は屋敷にいたのだが、セリアーナに言われて、何故か肖像画を描くことに……。
簡単なスケッチとかじゃなくて、領都に工房を構える画家さんが、お弟子さんを数人連れて屋敷にやって来て……と、本格的なやつだった。
青いワンピースを着て、髪もしっかり整えて……と、すっぴんでこそあったが、いつものラフなスタイルじゃなくておめかしをしてだ。
少々面倒臭くはあったが、まぁ、これも記念になるかと思い、そのまま描いて貰った。
「うんうん。なんかセリア様が1枚くらい持っておけって言うし、セリア様と一緒に描いて貰ったんだ。アレってそう言えば何時頃出来るんだろうね?」
もう3ヶ月くらい経っているのかな?
俺が普段描いている落書きと違って、本格的なやつだったし、時間がかかるのかもしれないな。
そういや、セリアーナも一緒だったのは何でだったんだろう……?
2ショットかな?
と、お喋りをしていると、執務室にゾロゾロと布に覆われた板のような物を手にした、小ざっぱりした格好の男たちが入って来た……が、先頭の男に俺は見覚えがあった。
俺の絵を描いた画家だ。
そりゃー、複数のお弟子さんを抱えるくらいだし、それなりの格はあると思ったけれど、リーゼルの執務室に呼ばれるくらいなのか……。
ひょっとして、俺が思っているより偉い人なのかな?
「本日はお時間いただき誠にありがとうございます」
その偉いおっさんが、リーゼルにペコペコと……。
まぁ、この領地では彼が間違いなくトップなんだけれど、未だにこういったやり取りは慣れないな……。
一応身分に相応しい振る舞いをしてはいるが、リーゼルはあまり偉ぶるタイプじゃ無いから、あっさりはしているが……やっぱり苦手だな。
ともあれ、彼等は完成した絵を持って来たようだ。
何枚も持って来ていたが、同じ絵をサイズを変えて複数描くようで、どれも同じ絵らしい。
そう言えばゼルキスの屋敷でも、セリアーナの部屋や親父さん、ミネアさん……玄関ホール等に同じ絵があった気がする。
まずはリーゼルが確認をしているが……果たして出来栄えは?
「ああ……良く描けているじゃないか。ご苦労だったね。セリア、君もご覧よ」
画家を労うと、セリアーナにも見るよう勧めてきた。
それに従い、絵をまじまじと鑑賞しているが……中々満足のいく出来だった様で、大きく頷いている。
「ええ……悪く無いわね」
そう言うと、セリアーナはこちらを見た。
「貴方達も御覧なさい」
◇
そんな事が今朝あった。
そして、肝心の絵は……。
1人掛けの椅子に座って、レオ君を抱くリーゼル。
2人掛けの椅子に座って、リオちゃんを抱くセリアーナ。
そして、その2人掛けのソファーで、セリアーナと同じデザインの服に同じ髪形をして彼女の隣に座る俺。
おかしいよね?
写真と違って、絵はある程度仕上がりに自由が利くが……だからと言って、何で家族の肖像画に俺が入り込んでんだって話だ。
その1枚だけじゃなくて、全部がそうで、特に一際大きな1枚は玄関ホールに飾られる。
お陰で、今日屋敷に訪れている客たちは、皆その絵を目にしている。
お披露目の子供達を見るだけじゃなくて、一々俺に話しかけるのはそれが理由だろう。
「呼んだのだからさっさと来なさい……何むくれているの?」
言葉の割には怒っていないようだが……、セリアーナは腕を組んで、ノロノロやって来た俺を睨んでいる。
セリアーナの周りにはご婦人方が控えている。
中々この集団に飛び込むには勇気がいるんだ。
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