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 理想は腕を切断だし、【影の剣】を試すべきなのかもしれないが……もし刃が通らずに指がポッキリいったら大変だ。


 ってことで……!


「……せーのっ!」


【足環】で掴んでいる箇所のすぐ側にある関節目がけて、【緋蜂の針】を発動させた右足を勢いよく振り上げた。


「ぐっ……ぬぬぬ!?」


 蹴りをかましたはいいが……これはどうなんだっ!?


 甲殻に覆われていない部位とはいえ、元々強力な魔物、それも魔王種だ。

 粉砕したりは出来ないだろうし、右足に纏っている紫電にも耐えられるかもしれない。

 一応その可能性は頭にあった。

 ボスザルにも大して効かなかったしな。


 だが、このカマキリ……効いているのか効いていないのかがわからん。


 砕いたりといった感触は無いが、それでも関節部分を少し押し込めている。

 素の肉体には【緋蜂の針】は通用している……のかもしれない。


 反応を見るが……とにかく表情から効いているのか効いていないのかが読み取れない。

 加えて、肉体の感触も獣と違ってよくわからん。

 バチバチバチっと、音を立てながら押し込んでいる。

 それだけだ。


「どっ……どーなんよ、コレ!?」


 それならばもう一押し、と【足環】を支えに【浮き玉】でさらに身体ごと押し込もうとしたその瞬間、カマキリと目が合った。

 俺の頭と同じくらいの大きさの目がこちらを見ている……気がする。

 そして、口を開き……。


「おわっと……!?」


 俺が取り付いた腕を口元に引き寄せようとした。

 慌てて離れたが、あのまま関節への攻撃に固執していたら、ムシャムシャやられたかもしれん……。


【影の剣】も試したかったが、このターンはここまでにして、それは次のターンだな。

 硬いし力も強いが、甲殻に覆われていない部位ならいけそうな気がする。


「セラ、どうだ?」


 折角取り付きながらも、蹴りだけで離れたからな。

 何事かと思ったのかもしれない。

 下からアレクが声をかけてきた。

 

 特に何てことの無い言葉だが、何故か落ち着く気がする。


 アレか?

【猛き角笛】の効果か?


 視線を下に向けると、俺だけじゃなくて皆も距離を取っている。

 これは一旦仕切り直しだな。


「全く通用しないってことは無いと思うよ! ただ、あまりのんびりくっついてると食われるかも!」


「そうか……。どうする? このまま続けられるか?」


「大丈夫大丈夫! まだまだいけるよ!」


 まぁ、食われるかもって事が頭をよぎった瞬間は、ちょっと血の気が引いたが……首が伸びるわけでも無いし十分対処できる。

 ようは攻撃する事に気を取られ過ぎなければいいだけだ。

 そうだな……一度の取り付きで、1回2回……5回までにしよう。


「よし……! もう一度だ。仕掛けるぞ!」


 アレクの号令で、再び攻撃が開始された。

 さぁ、2ターン目だ!


 ◇


「ほっ!」


 ボスカマキリへの攻撃に俺も参加するようになってから何度目かの攻撃ターンが終わった。


【緋蜂の針】はあまり効果を発揮できなかった。

 通じてはいるんだろうが、威力を受け流されているような感じだ。

 まぁ、曲がる向きに蹴っているんだし、仕方が無いか。

 反対側や側面から蹴れるのなら良いんだが、甲殻に覆われているからな……そこは無理をする必要は無いと判断した。


 だから、2ターン目以降は【影の剣】で斬りつけている。

 硬いし一振りでスパンと切断……とはいかず、5度斬りつけては急いで離れて……と、何度も同じ行動を繰り返しているが、その甲斐あってか何度目かで、ようやく傷を入れる事に成功した。

 最初は小さくても、後はそこを集中的に狙っていけば……。


「そろそろ落とせそうかな?」


 ボスを見ると、その右腕の鎌がダラリと垂れ下がっている。

 地道な作業の成果だ!

 すでに3分の2以上は切れていて、この1‐2ターンはもうまともに動かせず、腕ごと振り回していた。

 千切れたらどうすんだ……と見ている俺の方が不安になって来るくらいだ。 


 まぁ、それでも十分脅威には違いないが、これでようやくこのカマキリ君を倒すための行動に移れそうだ。

 時間というか手間をかけてはいるが、この、鎌を落とす作業はその前段階だ。

 こっちの為に脚への攻撃を控えていたからな……。


「次で決めろ! 注意はこちらで引く!」


「りょーかい!」


 その言葉に返事をすると、アレクは背負っていた盾を手にした。

 鎌一本程度なら受け止められるって事か。

【赤の盾】でボスの気を引いてくれるなら、食われる事を恐れてすぐ離脱する必要も無いし、一気に片づけてやる!


「よいしょー!」


 腕に取りつき垂れ下がった鎌を横目に、関節目がけて【影の剣】で斬りつける。

 緑色の、血なのか体液なのかはわからないが、切り口から撒き散らしているが、【風の衣】が弾いている。

 サイモドキは少量浴びただけでも事だったからな……今更ながらあのガチャ……大当たりだ!


「おっと……そろそろだな」


 振り下ろす指先に、弾かれるような強く硬い感触があった。

 いよいよ一部は甲殻にまで切り進めたようだ。


 硬い事は硬かったが、カマキリの肉体には通用したが、これを斬るのは無理だろう。

 だから……。


「ほっと……!」


【蛇の尾】を発動し、鎌のすぐ手前に巻き付けて、関節とは反対向きに思い切り引っ張った。

 血管だか神経だかわからないが、紐状の何かがブチブチと千切れて、繋がった部分は後は外皮……甲殻だけとなった。


 痛覚があるのかないのかわからないが、ボスはアレクの【赤の盾】に夢中のようで、今この状況でもこちらに意識を向けることは無い。

 虫はよくわからんね……ともあれ、これで準備は完了だ。


「せーのっ!」


【緋蜂の針】を発動した右足で、そこを思い切り踏み抜いた。

 バキッ! っと、乾いた音を立て、ついで、地面に硬い物が落ちる音。

 ようやく右腕の鎌を落とす事に成功だ。


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「回収する!」


 へし折った鎌が地面に落ちるが、アレは放置していると危ない。

 返事を待たずに、急ぎ取り付いていた腕から離れて、鎌ごと【隠れ家】に入り込んだ。


 ギラギラと黒く光る鋭い鎌。


 1,5メートル程の長さで、人くらい簡単に斬れてしまいそうだ。

【隠れ家】に入ってすぐのところに置いておくと、俺は大丈夫だが、後で入って来た人が危ないから、もう1つの部屋に置いておこう。

 サイズに見合う重さだが、尻尾でなら引きずれる。


「……ふぅ」


【隠れ家】の中に入ると、思わず大きく息を吐いた。

 ボスカマキリの行動はパターン化していたし、さほど危険は無かったが……やっぱり緊張していたんだろうな。

 ちょっと顔でも洗ってお茶を飲みたい気分だ。


 ……あ、これか。

 緊張感が途切れるってやつは。

 これは確かに緩んでしまう……。


「……ふぬっ!」


 ぺちん! と両頬を叩き気合を入れなおした。


 まだ鎌一本。

 反対側も残っているし、何より本格的なダメージはまだ与えられていないんだ。

 とにかく脚を潰して、胴体なり頭部なりに打撃を叩きこまないと、話にならない。

【影の剣】や【緋蜂の針】での攻撃が有効なのはわかったし、俺も十分役に立てる。


 ドアの覗き穴を覗き込むと、少し離れた位置で、カマキリの右側からアレクが【赤の盾】を背中に戻し、攻撃を仕掛けている。


 今なら出ても危険は無いな。

 第2ラウンドだな……行くぞ!


 ◇


 第2ラウンド。

 左腕の鎌の攻略中だ。


 右腕の脅威が無くなった事で、アレクは足への攻撃に専念している。

 併せて俺も右腕の時と同じく左腕に取り付いて、関節に攻撃を仕掛けているが……少しボスの行動パターンに変化が表れてきた。


 今までは身体の位置の変更したりはあったが、攻撃は鎌を振るう事だけだった。

 だが、その鎌が一本になったからか、体当たりや飛び上がってから押し潰そうとしてきたりと、今までとは異なる攻撃もするようになって来た。

 ……舐めプを止めたのかもしれない。


 もっとも、ボスは硬いし重いし身体は大きいしで、確かに脅威なのかもしれないが、それもあくまで当たりさえすればの話だ。

 結局すぐに対処できるようになった。


 このまま一気に左の鎌も……と勢い込んで仕掛けようとしたが……。


「増援! オオザル3体!」


 腕に取り付き【影の剣】を振りかぶった際に、視界の端にオオザルの姿が見えた。


 相変わらず他の魔物達は麻痺して倒れているが、おサル達には効かなかったようで、こちらに向かって駆けて来ている。

 強いもんな……おサル。

 とはいえ、この増援はちょっと厄介だ。


 ボスの対処は出来ているし、慣れて来たからか随分優位に立てている。

 それでも、ただでさえ少数での戦いなんだ。

 おサル相手に人数を割くわけにはいかない。


 直接討伐に影響のない俺ならいけるが……俺じゃ3体はおろか1体だって相手にするのは厳しいだろう。

 他のメンバーだって複数を相手取ってとなると……。


「構わん! そのまま合流させろ。纏めてやるぞ!」


 どうするべきかと迷っていると、ジグハルトが声を上げた。

 多少厄介になろうとも、このメンバーを分けるよりは、互いに援護が出来るように纏まって戦った方がいいんだろう。


「わかった! 迎え撃つぞ! セラ、お前はオオザルに専念してくれ! 鎌は後回しでいい」


「!? りょーかい!」


 アレクの指示に答えたはいいが……どうすりゃいいんだろう。

 適当に飛び回って牽制でもしておけばいいのかな?


 ◇


「セラ、今よっ!」


 連発された魔法の爆音に交じって飛ぶ、フィオーラから俺への指示。


「ほい!」


 それに従い、3体のオオザルへ突撃する。

 幸い土煙で俺の姿は見えておらず、反応は鈍い。

 一方俺はヘビ達の目で問題無く見えている。


「はぁっ!」


【緋蜂の針】を発動し、3体の頭部に正面から蹴りを入れていく。

 オオザルの核は胸部の奥にあって、【影の剣】の長さでも何とか届きはする。

 だが、その為には俺が懐に入り込む必要がある。

 最終的にはそれをやる事になるかもしれないが、今はまだ攻撃を続けて弱らせる段階だ。


「おっと……!」


 土煙が晴れる前に離脱をする。

 オオザルたちは腕を振り回しているが、既に俺はもう間合いの外だ。


 オオザルたちとの戦闘は、主に俺とフィオーラが担当している。

 方法はシンプルに、フィオーラの魔法で動きを止めて、その間に俺が蹴りを入れてちょこちょこダメージを稼ぐ……だ。


 そして、戦う場所はボスの左側。

 少々離れてはいるが、上手くタイミングが合えばオーギュストが止めを刺しに行ける配置だ。

【風の衣】で撃ち出せば、これくらいの距離なら問題無い!


 ジグハルトも一撃で決められるかもしれないが、その為には少々魔法の溜めが必要だからな……ボスとの戦闘をこなしながらだと難しいし、今彼が抜けるのも少々きつく、ここは団長様に譲ってもらおう。


「悪く無いわね。このままいきましょう」


「はいよ! ……お?」


 一旦フィオーラの下に戻ったが、その俺を追ってかオオザルたちがこちらに向けて駆け出した。

 今までとは違う行動だ。


「オーギュス……っ!?」


 想定外ではあるがチャンスに違いは無いと、フィオーラはオーギュストの名を呼ぼうとしたが、さらに想定外の出来事が。

 ボスが大きくジャンプをした。

 今までもジャンプする事はあったが、それは攻撃の為だった。

 だが、このジャンプは左側に向けてで、自身に攻撃をしているアレク達から距離を取り、オオザルたちと合流する為だ。


 宙にいる俺達のすぐ下を通り過ぎていく。

 今の隙に攻撃出来たかもしれないが、巨体が飛んでいく迫力についつい手を出し損ねてしまった。

 そして、ズゥンと重量感溢れる音をボスの間に響かせながら、オオザル達の後ろに着地した。


 何十メートル飛んだんだろう?

 本気を出してきたと思っていたが、まだまだ力を隠していたのかもしれない。


 ともあれ、これでオオザル達と合流を果たされてしまった。

 俺達もアレクを先頭に陣形を組み直そうと動き始めたのだが……。


「ほ?」


 何を思ったのか、ボスは残った一本の鎌を真横に振り抜き、自身の前に立つオオザルを切り裂いた。

 オオザルは綺麗に腹から上下に真っ二つにされている。

 なんつー切れ味……。


 そして……。


「……ぇぇぇ」


 上半身を鎌で引っ掛けると口元に持って行き、食い始めた。

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