第185話

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 お茶とお菓子を食べて、少しお喋りをしたところで休憩は終了となった。

 20分位だったろうか?

 思ったよりも短時間でお開きになった。


 このメンバーは、この世界の通常の女性貴族とはちょっと違う。


 例えばミネアさんやオリアナさんだと、この合間のお茶会がお目当てって場合も多かった。

 それはお茶会の相手が他所の街や領地の人間だったりするから、同じ街で暮らす上に、普段から顔を合わせる機会が多いこのメンバーの場合とはまたちょっと事情が違ったりするかもしれないが、それでもお喋りを楽しんでいた。

 別にセリアーナ達もお喋りが嫌いってことは無いんだろうが、なんというか……まずは用事を済ませようって考えなのかな?

 お喋りの内容も家庭や観劇といった事では無くて、仕事の事だったし……事務的だ。


 まぁ、俺もガチャを早く回したかったし、ありがたい。


「よし……! やるぞー!」


 いい気分転換になったし、後半戦は勝つぜ!


 ◇


 思えば前半戦は覚悟が足りていなかった。

 10回もあるからと、気を抜いていた。

 聖貨1枚で金貨20枚。

 そして、金貨1枚が日本円で約10万円。


 ……5回分で1億円だぞ?

 そりゃ外れにしたって現物は残るわけだし、【琥珀の盾】っていう当たりだって出た。

 それでも1億円だぞ?


 ちょっと勢いに任せて一気に稼いだから麻痺していたが、あっさり使ってしまっていい額じゃー無い。


 気合いだ。

 気合いを込めて祈ればもしかしたら何かに届くかもしれない……!


「……アレは何をしているのかしら?」


「いつもの事よ」


「……【祈り】まで発動していますね」


「あの光り方は【ミラの祝福】も発動しているかもしれませんね。ゲン担ぎでしょうか?」


 ……外野が俺の気合を解説しているが、随分声が近い気がする。

 すぐ後ろにいるのかな?


 まぁいい。

 気合いはもう十分込めた。


 やるぞ!


「ふんっ!」


 跪き両手で聖貨を捧げた。

 基本に則って、正式な作法だ。


 ドゥロロロロ…………。


 しっかりこのドラムロールも聞こう。

 この音って変わったりするのかな……?

 今までそんな事意識していなかったけど……今回は特に変化は無いな。


「ほっ!」


 スパっと止めると何か懐かしい光景が頭の中に浮かんできた。

 ……これはっ!?


「ぬわっ!?」


 慌てて後ろに飛び退ると誰かにぶつかってしまい、小さい悲鳴が聞こえた。


「きゃっ!?」


 本当にすぐ後ろにいたのか……ってか今のはセリアーナか。

 ……随分可愛らしい悲鳴だったな。


「……危ないじゃない。どうしたの? 加護かしら?」


 何事も無かったように俺を抱えて聞いてくる。

 まぁ、大袈裟な反応の割に何も出てきていないからな。

 どうしたんだろうって思うんだろう。


「あぁ……ごめんね。加護じゃなくて強化だったよ。【浮き玉】のね」


 今、俺が当てたのは【浮き玉】の【強化】だ。


【強化】はここがまだルトルだった頃に【隠れ家】の分で当てた時以来……これはレアだ。

 それも【浮き玉】の……!

 これは大当たりじゃないか!


 頭を上に向けると、セリアーナの大きく見開いた目と合った。

 彼女も驚いている様だ。


「凄いじゃない!? ……でもアレがどうなるのかしらね?」


「……どうなるんだろうね?」


 言われてみるとそうだ。


【隠れ家】の様に一部屋増えるとか分かりやすい変化ならいいが……【浮き玉】だからな……。

 そもそもアレの限界は未だに見えてこない。

 どこが変わったのかとかが果たしてわかるのだろうか……?

 そもそも【強化】そのものがよくわからない代物だしな……何が強化されたんだろう?


 ガチャの時は【浮き玉】から降りて、自分の足で立っている。

 チラっとソファーに目をやると、いつも俺が座っている場所に鎮座する【浮き玉】が……。


「ちょっと乗ってみていいかな?」


 ペチペチっと俺を抱えたままのセリアーナの腕をタップしながら彼女へそう言った。


 ガチャは後4回残っているが、こっちが気になってしまって集中出来そうに無いぞ。

 強化具合をすべて把握だなんて言わないが、せめてちょっと使ってどこが変化したのかくらいは知りたい。


「……そうね。危険な物でも無いし……好きになさい」


「やった! ……あのさ下ろしてよ?」


 何故まだ下ろしてくれないのだろう……。

 そう思いながら、彼女の腕を再度タップする。


「ああ……忘れていたわ。お前、本当に軽いわね。ちゃんと食事はとっているの? 今度から夕食は私達と一緒にしましょうか?」


「食べてるよ……?」


 朝食や昼食はこっちの部屋で食べる事が多く、一緒に食べる機会は少なくても、何だかんだで彼女も俺が食事をする姿は見ている。

 ただ夜は別だ。


 領主様とその奥様。

 お客さんや領地のお偉いさんと食事をする事も多いし、その場合はエレナやテレサが一緒になる事も多い。

 お貴族様の晩餐会だ。

 俺は他の使用人達とだったり、この部屋や【隠れ家】で一人で食べている。


 ……食べてはいるが、ちょっと量が少ないかもしれない。

 美味しい事は美味しいんだが、ちょっと味付けがあまりたくさん食べたいとは思えないんだよな。

 このリアーナは狩猟と農業が盛んだ。

 つまり、肉と野菜、そして果物が豊富で、メニューにはそれが反映されている。

 果物のソースってのがどうにもな……。


「…………まあ、いいわ」


 ジーっとこちらを見てくるセリアーナから目を逸らさないでいると、彼女は何かに納得したようで、【浮き玉】の方へと歩いて行った。


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 セリアーナはヒョイと【浮き玉】を持ち上げると、そのまま後ろに回してそれに座った。

 そして、フワフワと浮き上がり部屋の中をクルっと一周し、俺の前に降りてきた。


「私が扱う分には違いは無いわね。いつも通りよ」


 いきなり何してんだ……そう思ったが、まずはセリアーナが【浮き玉】の強化具合を試したのか。

 ロケットみたいにいきなり吹っ飛んでしまったらどうするつもりだったんだろう?

 ガチャを見てるだけってのが飽きたのかな?


「危ないことしないでね……?」


「お前より私の方が動けるでしょう?」


 一応釘を刺しておこうと、注意するがどこ吹く風だ。

 むしろカウンターまで入れてきおった。


 まぁ……確かに彼女の方が俺より運動能力は上だろうが……。


「…………」


 エレナの方を見ると苦笑を浮かべている。

 その表情から察するに、セリアーナは一見俺を気遣う様な事を言っているが、やっぱ退屈してたのかもしれないな。


「どうしたの? さっさとやりなさい」


 まぁいいか。


 渡された【浮き玉】に座った。


「はーい。ほっ!」


 発動し浮き上がってみるが特に変わった様な事は無く、いつも通りの【浮き玉】だ。

 続いて、クルクルグルグルと横や縦に回転をしてみるが、わからない。


 やっぱり速度や機動力が変わったのかな……?


 そんな風に考えていると、セリアーナが何かを発見したようで、声を上げた。


「あら? セラ、その腕は……?」


「腕?」


 右は何も無し……左は……。


「あ……なんか模様があるね……」


 左の手首の裏側……時計を見るような仕草をすると丁度目に入る位置に、球体に蔦が絡まっているような模様が現れている。


「こんなの今まで無かったよね?」


 無かったはずだが、念の為目の前にいるセリアーナに見せる。


「無かったわね……。そうよね?」


 セリアーナは手首をつかみ、模様を指先で撫でたりしていたが変わりは無い様で、彼女も他の皆に聞いている。


「はい。【蛇の尾】の待機時に腰に蛇の模様が浮くことはありますが、それ以外はありませんでした」


「そうですね……。今までありませんでした」


 セリアーナの問いに、テレサとエレナが答える。


「私が使った時はそんな模様は現れなかったわ。所有者だけなのかしら……?」


 話している3人をよそに、フィオーラは先程からそれには参加せずに俺の手首の模様を見ていたが、何かに気付いたようだ。


「これは【浮き玉】と繋がっているわね。貴方の【蛇の尾】と同じ様な物かしら? セラ、一度【浮き玉】から降りてみなさい」


「ほむ……」


 フィオーラの指示に従い【浮き玉】から降りてみた。

 すると、今まであった左手首の模様が、フッと消えていった。


「もう一度乗って、今度はその模様も恩恵品だと思って、さらに発動するの」


「ぬ?」


 言われた通りにすると、バレーボールほどのサイズの球体が膝の上に現れた。


「ぉぉぉ……」


 色は灰色……か?

 ちょっと色は薄くサイズも小さくなったものの、触った感触などは【浮き玉】と一緒だ。


……重さはわからんな。


「それも【浮き玉】なのかしら……?」


 セリアーナは興味深げに、俺が抱える球体を見ている。

 エレナとテレサも一緒ではあるが、セリアーナは殊更気になるようだ。

 ……お気に入りなんだろうな。


「そのはずよ。ただ、繋がっているけれど本体よりは弱く感じるわね……。誰か試してみたらどう?」


「なら私が。セラ」


 フィオーラの言葉に、待ってましたとばかりにセリアーナが試験役を買って出た。

 小さい【浮き玉】……【小玉】とでも呼ぼうか?

 それに視線をやりながら、寄こせとばかりに手をこちらに出している。


 普段は割と慎重な人なんだけど……まぁ、危険な感じはしないし、多分大丈夫だろう。


「はい。気を付けてね」


「問題無いわ」


 そう言うと、セリアーナはお尻に回さず【小玉】を胸に抱え込むと。そのまま浮き上がった。

 ……とりあえずコレが浮く物だってのはわかった。


 胸に抱えているのは、座った時に浮かなかったらお尻から落ちてしまうから、それを警戒したのかな?

 今は浮いたまま【小玉】を後ろに回して座り込んでいる。


 いやはや手慣れたもんだ……。

 戦闘での使い方ならともかく、こういった小技はセリアーナの方が上だな。


 ◇


 ちょっと【小玉】を試してみたが、【浮き玉】を使用できる者なら使用できる様で、浮いたり移動したりとほぼ同じ事が出来るようだ。

 ただ、性能は少し下がっている様で、機動力はわからないが重い物を持ち上げたりは出来なくなっていた。

 セリアーナ、エレナ、テレサとそれぞれ筋力が違うが、3人とも俺を抱え上げる事は出来なかった。

 部屋の中でやれる事は限りがあるので不十分ではあるが、あくまで移動用って事か。


 そして、【小玉】を出す時は【浮き玉】を発動する必要があるが、意識すれば【浮き玉】を解除しても【小玉】は残っていた。

 もちろん俺が念じれば消す事も出来るが、その気になれば2人で宙を移動できるようになる。

 後はどれくらい離れて利用できるか……だな。


 なんか電話の親機と子機みたいな関係だ。

 まぁ、その考えは多分間違っていないと思うが……これは便利になるな。

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