第186話
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とりあえず【浮き玉】の簡単な検証が終わった。
まだまだ詳しい検証は必要だが、それは屋内で出来る事でも無いし、後日外やダンジョンで、だな。
残り4回。
今のところ【琥珀の盾】と【強化】の2つだし、もう少し当たりが欲しい!
「ふっ……!」
【祈り】と【ミラの祝福】を発動する。
これが効果があるかはわからないが、さっきは【強化】を引いたし、結果が出ているうちは続けよう。
聖貨の捧げ方も同じく、引き続き跪き両手で捧げる正規のスタイルでだ。
……どうでもいいけどこの同時に発動するスタイルカッコいいな。
薄っすら光るし、ちょっとだけど俺も強化されるし。
「なに?」
振り返り皆の方を見ると、【小玉】に乗ったままのセリアーナが、どうかしたのかと聞いて来た。
「や、なんでもない」
このスーパーな感じ……残念ながら彼女達には伝わらないか。
「ふん!」
気を取り直して、ガチャに挑むと頭の中に鳴り響くドラムロール。
ドゥロロロロロ…………。
そのまま1分ほどその音を聞き続けたが、今までのと音に違いがあるのかはわからんね。
「ほっ!」
さぁ、先程の【強化】に続いて、良いの出ろ!
気合いを込めてストップさせ、頭に文字が浮かぶのを待つが、1秒も無いだろうに……この瞬間はいつも長く感じる。
そして、浮かんだ文字は……【魔晶】。
「…………」
落下する前にキャッチして、机の上に置く。
魔鋼の様に重くないからいいな……。
これもう【祈り】とか気合とか関係無いんじゃないかな?
ついでにストップするまでの溜めとかも……。
「魔晶……。そろそろ今日出た分だけで装備一式が制作できそうね」
確かに……。
戦士系も魔導士系もカバー出来てしまいそうだ。
「装備は今十分あるし俺は使わないからね。欲しいならあげるよ……素材全部」
「そのうち使うかもしれないでしょう? 奥の物置部屋にでも置いておきなさい」
「むぅ……。まぁ、いいか。次行くよ!」
残り3つとなった聖貨の束を1つ掴み、再び聖像に向き合った。
今回はもう【祈り】も【ミラの祝福】も無しだ。
「ほっ!」
まずは聖貨を捧げ……。
「ふっ!」
ドラムロールが鳴るや否や、即ストップ!
浮かんだ文字は……【琥珀の剣】。
「ん……うーん……」
とりあえず、宙に現れた指輪をキャッチした。
華奢なデザインの指輪……今俺の左手の指にはまっているのと同じだ。
デザインは結構気に入ってるんだが……如何せん使いどころがなぁ……。
「当たりね。何だったの?」
「【琥珀の剣】。コレと一緒だね」
セリアーナに左手にはまっている指輪を見せる。
それを見て少し面白く無さそうな顔をするセリアーナ。
当たりは当たりだけれどダブりだからなぁ……。
多分俺も同じ様な顔をしている事だろう。
「まあ、悪いものでは無いわね……。ただ、お前だと使い道がね……」
「そうなんだよねぇ……。セリア様か、テレサかエレナが使う?」
これは、カッコいいけれどマジで使わないからな。
まぁ、使わなければいけないような事態が来ないならそれが一番なんだけれど……まだ3人が持っていた方がいいかもしれない。
「私は必要無いわ」
まずはセリアーナが辞退した。
彼女の場合はあの加護もあるし、俺以上に使う機会はないかもしれないもんな。
じゃ、2人のどっちかか。
「エレナが持つと良いでしょう。奥様に同行して夜会等に出席する機会も多いでしょうし、【琥珀の剣】なら有名ですから、護身用として持ち込みも許可されるはずですよ」
なるほど……【琥珀の剣】はダメージは与えられても命を取るほどじゃ無いし、鎧を着ているようなのが相手じゃあまり効果は無い。
あまり貴族の屋敷の中に入るのに武装をするのはちょっと歓迎されない。
だが、効果が知られていて、それが襲撃用じゃなくて護身、護衛用ならば持ち込んでも問題にはならないだろう。
エレナ向きだ。
「わかりました。では私が……セラ、いいかな?」
「うん。じゃ、セリア様持っといて」
後で開放することになるし、セリアーナに渡しておく。
「仕方が無いわね……。後でお前にも下賜するわ」
「ほいほい」
今の分は俺的には外れだが、使い道はあるし、まぁOKだろう。
さて……気を取り直して、残り2回。
当たり分だと確かにカッコいいものが当たってはいるが、何というか俺がしっかり使いこなせるような物は引けていない。
……そろそろ来て良いんだぜ?
「ふんっ! ほっ!」
サクッとガチャを回して止めて……。
「……あ」
「……加護かしら?」
「みたいね」
俺の呟きを聞いたセリアーナとフィオーラの声がする。
彼女達の言う通り、加護だ。
それもちょっとカッコ良さげ!
「【風の衣】だって」
ルバンの仲間で、確か正妻のキーラ。
彼女の持っていたヒンヤリする加護が【霧の衣】と言うらしいが、アレと同じ系統かも!
コッチは名前的に風で守るのかな?
「あら、おめでとう。防御用の加護ね」
とフィオーラ。
これの事を知っているのかな?
「知ってるの?」
「ええ。王都の魔導士で持っている者がいたわ。自分の周囲を風で守り、矢や瓦礫を防げるの。直接的な防御力では【琥珀の盾】の方が上かも知れないけれど、それなら発動し続けられるし、貴方向きのはずよ」
「ぉぉぉ!」
読み通りか!
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【風の衣】かー……防御系の加護だ!
加護は使いこなすのはもちろん、発動にもちょっとコツが要ったりするし、しばらくダンジョンではそっちの練習をしようかな?
【琥珀の盾】に始まり【浮き玉】の【強化】に【琥珀の剣】と、少々ディフェンシブな結果に偏った気もするが、まぁ、大当たりといっていい気もするな。
「よっし! ラスト1回!」
これが終わったらちょっとダンジョンに足を運ぶのも悪くないかもしれないな。
狩りをするんじゃなくて、発動を試すだけだ。
それくらいなら狩場を荒らすわけじゃ無いし、浅瀬でやっても邪魔にはならないだろう。
「ほい」
いやー……前半はしょっぱかったけど、後半で巻き返したな。
あのままだったらどうしようかと思ってたけど、これはもう勝ちだな!
「ほっ……と」
【紫の羽】
「あ?」
唐突に浮かんだ文字に思わず声を上げた。
何だ今の?
「セラ?」
「い……いや、今なんか文字がね?」
どうしたのかと訊ねるセリアーナに、歯切れ悪く答える。
羽ってなんだ?
生えんの?
加護?
……えーと……?
「あ」
グルグルと頭の中で色々考えていると、目の前に何かが現れた。
恩恵品か。
「…………はな?」
とりあえずとキャッチしたが、それは羽では無くてどう見ても花だった。
はねとはな……一字違いとかハイセンスだな神様。
「あら、良かったわね。恩恵品じゃない」
なんか変な物だけど、とりあえず当たりが出た事を祝福するセリアーナ。
「花……それも紫。セラ、それの名は何?」
一方それは何かと問い質すフィオーラ。
声に若干鋭いものが混じっているが……どうしたんだろう?
紫ってのが引っ掛かっているみたいだけれど……。
「【紫の羽】だって……。知ってる?」
フィオーラはそれに答えず口元に手をやり、俺が握る花を見ながら難しい顔をしている。
珍しいな……危ない物なのかな?
「……花よね?」
「ね?」
一方、そのフィオーラの様子を気にせず、セリアーナは俺が握るそれに顔を近づけている。
まぁ……まだ開放も発動もしていないし、今の段階で危ないなんてことは無いか。
俺も顔に近づけて、それをよく観察する。
見た目は大きな紫の花で、少し垂れさがっている。
百合の花なんかに似ているかな?
今は茎を握っているが、花弁の触った感じはどうなんだろう?
そう思い、指を伸ばすが……。
「おわっ!?」
横から伸びた手に止められて、驚き思わず声を上げてしまった。
「姫、直接触れるのは止めておきましょう」
その手はテレサのもので、どうやら俺が花びらに触れるのを止めさせたかったらしい。
……茎を思いっきり握っているのは大丈夫なのかな?
「フィオーラもだけれど、テレサ、貴方も何か心当たりが?」
セリアーナの問いかけに、テレサは頷いた。
「名前に紫が付く場合は毒に関係する場合が多いのです。これは、平民はもちろん貴族の間でも一般的ではありません。所持する家や、騎士団、魔導士協会の一部の者以外は知らないはずです」
それを聞きセリアーナと顔を見合わせる。
なんか一歩二歩下がっている気がするけど……気のせいかな?
「……オレ思いっきり握ってるけど」
「開放も発動もしていませんし、大丈夫だと思いますよ? それでも何があるかわかりませんし、花弁に不用意に触るのは止めておきましょう」
恐る恐る聞く俺に、安心させるように笑って答えるテレサ。
とりあえず危険は無いのか……いや、油断は出来んか?
どうしよう……もう俺だけで開放してしまおうか?
「さっさと開放してしまいましょう。その方がコントロール出来るでしょうし……そうよね? フィオーラ」
「そうね……今の時点ではそれが何らかの効果を発揮しているのかわからないし、その方がいいでしょうね。……セラ安心なさい。仮にあったとしても私が治療出来る程度よ」
思索にふけっていたフィオーラが今度は答えたが……。
「……安心できないけどわかったよ」
あんまり安心できない答えだな。
一応【祈り】も発動しておこうかな。
「ほっ! んじゃ、やるね……。って何、セリア様?」
怖いしさっさと開放してしまおうと思ったのだが、セリアーナがこちらに手を伸ばしている。
「何って……開放するんでしょう? さっさと寄こしなさい」
当然のような顔で言ってくるが……。
「……危ないかもしれないらしいよ?」
フィオーラが言うには大丈夫らしいけれど、それでもなんでチャレンジしようとするのか。
「奥様の方が貴方より抵抗力があるわ。もし開放した際に貴方が具合を悪くしても、奥様が代わりに止めてくれるでしょう」
……俺のフィジカル面の信用の低さが理由か。
危ない事はしないでもらいたいんだけど……納得は出来た。
勝手に発動するようなもんじゃ無いだろうし、その心配は無いと思いたいが……、まぁいいか。
「んじゃ、お願い」
「結構。さっさと済ませましょう」
握ったままの花を手渡し、その上に重ねた。
そして、開放と下賜を済ませたが、花が消えて代わりに手のひらに何か固い感触を感じる。
形が変わったようだ。
セリアーナはそれを摘まみ上げると、裏表を確認している。
「ブローチかしら……?」
なるほど……ブローチか。
開放前と似た花のブローチで、色はやっぱり紫。
胸元に着けるんだろうけれど……、流石にここで試すわけにはいかないな。
それにしても……。
「……羽ってなんなんだろうね?」
「発動したらわかるでしょう」
一通り見て満足したのか、こちらに渡してきた。
「ふぬ……」
聖貨ガチャ10連。
概ね満足のいく結果ではあるが……最後の最後で訳の分からん物が来ちゃったな……。
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