第182話

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 ボスザルは強い事は強いが、結局被害ゼロで倒す事が出来た。

 勝因は、分断に成功した事。


 魔物は、単独で戦って力を発揮できる種類と、群れで戦う事でこそ力を発揮できるタイプがいる。

 サイモドキは前者で、ボスザルは後者だった様だ。

 確かに戦っている姿を見ても、腕力と咆哮こそ強力だったが、先制の岩投げも多用してこなかったし、特別な事はしてこなかった。


 恐らく、中層の魔物をガンガン呼び寄せて、離れた所から岩を投げてって戦い方をされていたら、倒せはしただろうけれど倒し方を選ぶような余裕は無かっただろう。

 こちらの戦い方が上手かったってのはもちろんあるんだろうけれど……あのボスザル君にとっては不幸だったろうね。


「少なくとも、倒し方を選ぶ余裕はありました」


 オーギュストは、リーゼルの顔を見ながらそう結んだ。


「オーギュスト団長、魔王種だという根拠は……?」


 同席している1人が手を上げ発言をした。

 ボスザルとの戦いの話は終わったが、それは言ってなかったな。


「それはセラ殿が見分けた。潜り蛇と恩恵品、両方合わさって可能になったらしい」


『おお……』


 それを聞き、驚く一同。

 何となく視線が集まっている気がする。

 これは俺に何かを期待しているのかな……?


「前、オオカミ型の魔王種を倒しただろう? アレを見つけた時に判明したらしい。まあ……こいつ自身は簡単に死ぬから、魔王種探しなんかさせるなよ?」


 そうジグハルトが笑いながら言うと、集まった視線が霧散した。

 やっぱりか。


 別に探すのは良いんだけれど、一応俺の戦闘力は隠しているし、何よりどこにいるかもわからないからな……。

 包囲から逃げられたから、その捜索の手伝いをとかならともかく、当てもなくただ魔王種を探すってのはちょっと負担が大きすぎる。


「それはセリアに怒られそうだな……止めておこう」


 リーゼルが冗談めかしてそう言った。


 別に怒っているわけでも無いのに、ちょっと他の面々がジグハルトにビビってしまったからな……。

 いいタイミングだ。


「私はテレサ殿やフィオーラ殿と雑魚を担当していたが、同じ種類なのに一撃で倒せない魔物が中にはいたな……。セラ、アレは魔王種の影響を受けていたかどうかわかるか?」


 今度はルバンが口を開いたが……。


「あー……、あの時はヘビの目は発動してなかったから、ちょっとわからんね」


 あの時は【妖精の瞳】だけで、ヘビ達は普通に戦わせていただけだ。

 ちょっと、影響まではわからない。


「そうか……。2人はどう思う?」


「私は貴方が削った残りを潰しただけだからちょっとわからないわね……。テレサは? 貴方は直接ぶつかったでしょう?」


「ええ。妖魔種にはいませんでしたが、確かに魔獣種の中には力が強い種類がいました。大型は姫が刈り取っていたのでわかりませんが、中型小型関係無しでしたね。恐らく、影響を受けているのでしょう」


「ほー……」


「何でお前が驚いているのよ……」


 テレサ達の言葉に驚いていると、セリアーナが呆れたように言ってきたが……、俺は敵の強さがわかる様な戦い方をしないからな。

 それに今回は戦闘はアカメ達に任せていた。


 一応自信はあったけれど、ちゃんとした魔王種だったんだな……。


 ◇


 その後もオーギュストは質問が出れば答えたりをしていたが、それも出なくなったところでまた別の内容に移った。


「これを……」


 彼が懐から出したのは1枚の聖貨が。

 ボスザル戦でゲットした物だろう。


「聖貨だね……ああ、君が倒したのか」


 リーゼルがそれを見て、オーギュストが止めを刺したのだろうと思ったようだ。

 間違っちゃーいない。


「はい。ただ、私だけではありません。魔王種と対峙したアレクシオ隊長とジグハルト殿にセラ殿。そして、直接戦闘を行わなかったそちらの3人も、同じタイミングで手に入れたようです」


「ほう……!?」


 その情報に驚くリーゼル。


 聖貨ってのは、魔物を倒した者が運が良ければ1枚手にする事が出来るってのが常識だ。

 それは魔王種だろうとそうだった。

 だが、今回のボスザル君は違う。

 参加メンバー全員が1枚ずつだ。


「どこまでが範囲になるかはわかりませんが、「ダンジョン内部の魔王種との戦い」に参加した者全員が得られるのではないでしょうか?」


「……それは参加する者を増やせば、それだけ一度に得られる枚数も増えるという事かな?」


「恐らくは」


 その情報に『おおっ……』と部屋がどよめく。


 まぁね……この反応も無理はない。

 何と言っても、ダンジョン内にはもう1体ボスらしき存在がいて、そいつも魔王種の可能性が高く、極端な話、連れて行けるだけ連れて行けばそれだけ一度に得られる枚数が増えるかもしれないんだ。


 ただ……。


「とはいえ、それでも次の戦闘も我々だけで行うべきだと思います」


「……危険かい?」


「はい。浅瀬や上層ならば騎士団の者達ならば問題は無いでしょう。それだけの訓練を積んでいます。ですが、それより奥となれば話は別です」


「そうか……仕方が無いか……わかった、次も君達に任せよう」


 と、残念そうなリーゼル。

 他の面々は何か言いたそうだが、リーゼルが結論を出した以上は口を出せない。


 言葉を選んでいるが、要は足手まといになるだけって事だしな。

 しっかりオーギュストの言いたいことは伝わったんだろう。


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 中層のボスの報告と、もう1体をどうするかが議題の会議が終わった。

 いつもだとここでもう解散となって、そのままセリアーナの部屋に移動するのだが、今日は何故かそのまま残っている。

 アレクとジグハルト、そしてルバンも残っているが、話題はダンジョンの事ではなく、彼が治めている村の事だ。

 順調らしく何よりだが……そのために残っているわけではあるまい。


 先程の話し合いが始まる前……俺が昼寝している間に何かあったんだろうか……?

 最近セリアーナ達に染まってか、アレクやジグハルトも教えてくれなくなったしな……。


「待たせたね……セラ君はどうかしたのかい?」


 むくれていると、部屋を出て行ったリーゼルがオーギュストと共に戻ってきた。

 そして、俺の顔を見るなり不思議そうな顔をしている。


「気にしなくていいわ。いつもの事よ」


「……いつもの事では無いよ? なんで残ってるのかとか教えてくれないんだよ!」


 アンタの奥さんだぞとリーゼルに訴えるが、笑って流された。


 クソ……セリアーナの方が強いからなぁ。


「さ、くだらない事に時間を使っていないで、さっさと始めましょう」


「ぬぅ……」


 セリアーナは、ぷんすかしている俺を無視して話を進めるようだ。

 だから何を始めるんだよ……と言いたいが、ここは俺が折れよう。


 ◇


 お茶を新しく淹れなおし、話が始まった。


 議題は先程話した事と同じだが、言葉のチョイスに遠慮が無いし、【物置】としてだけれど【隠れ家】の事も含めて話している。

 もう一体のボスも俺達が戦う事になるが、今すぐという訳じゃない。

 参戦することになるルバンも一旦自分の村に戻るし、彼がまだ屋敷にいる間に方針を決めておきたいのだろう。

 ある意味こっちの話し合いの方が本番ともいえる。


「……やはり人を増やすのは厳しいかい?」


 先程は理解を示したリーゼルだが、もう一度ボス戦に兵を連れて行けないかを聞いて来た。

 まぁなー……領地単位で見たらそこまで大した数じゃなくても、個人で見たら聖貨1枚は大きい。


 俺だって未だに1枚ゲットしたら嬉しいし、腕の立つ者ともなれば得られる機会も少ないしな。


「ええ。無理でしょう」


 だが、オーギュストはきっぱりと否定する。

 次いで、ジグハルトが口を開いた。

 さっきは言葉遣いに気を付けていたが、今はいつも通りの砕けた感じで、話しやすそうだ。


「だな……。中層までは何とか隊列を維持して犠牲なく抜けられるかもしれないが、そこから先は他所のダンジョンの様に中層より魔物の質も量も増えるとなると……まあ、死人は出るな」


「そうか……」


「ああ。死体を運びながら調査が不十分な階層で未知の魔王種との戦闘……やりたくねぇな」


 そう言いジグハルトはお手上げといったように、両手を上げている。


「そこでさらに犠牲が増えるかもしれませんし、混乱で遺体を回収し損なう可能性もあります。仮に100人連れて行き、全員が無事に帰還できたとしても我々を含めて107枚です……」


「死者が出て一人分回収し損なえば、11年で足が出るか……おまけに魔人の出現付き。確かに割に合わないね」


 リーゼルの言葉に、皆は同意しているが……なかなかシビアな数え方するんだな。


「はい。それに精鋭100も街から離すわけにはいきません。只でさえ、今のダンジョンの調査で人手を割き、負担をかけていますから……。アレクシオ、冒険者達はどうだ?」


「これ以上動かせないな。外での狩りをする人数は足りているが、領都の冒険者の顔役のような者達が姿を見せないのはまずいだろう?」


「そうだな……。そういう事です」


 オーギュストはアレクの言葉に頷くと、リーゼルに向けてそう言った。


「わかったよ……残念だが、僕の兵を動かすのは諦めよう。そうなると、君達頼りになるか……やれるかい?」


 言葉とは裏腹に、リーゼルはあまり残念そうな様子ではない。

 今の話はあくまで確認程度のつもりだったんだろう。


「……まあ……問題無いだろう。ただ、相手次第じゃ今回の様に遺骸を回収するのは無理かもしれないな。時期も当然だがすぐには無理だ」


 何となくジグハルトに視線が集まり、それを受けて彼が答えた。

 まぁ、彼がウチの最強メンバーだしな。

 言っている事も、妥当かな?


 ボスザル君は足を切り落としてからじわじわと倒す事が出来たけれど、もっと走り回ったり暴れる様なのが相手じゃ、あの倒し方は無理だったと思う。

 サイモドキみたいなのが出てきたら、体型的にも頭を貫くしかないからな……。


 時期も中層の探索から始めてからだし、次にルバンが都合の良い時じゃないと駄目だ。

 ずっとこっちに滞在してもらうわけにもいかないし、直通ルートが出来たからといって、頻繁にこっちに来てもらうわけにもいかないしな……。

 その事はリーゼルもわかっている様で、頷いた。


「ああ、それでいい。あくまで犠牲無しに倒す事を優先してくれ。時期に関しても焦る必要はない」


 そのまま話は夕食を挟み、夜遅くまで続いた。

 俺は途中で退席したが、今は春の3月だ。

 聖貨の輸送部隊が到着するのが秋頃だし、その前には片付けたいだろうから……やるとしたら夏頃かな?


 まだまだ先の事だし、それまでには目標の100枚に到達したいな!

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