第181話
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更なる増援がやって来る前にと、いそいそ魔物の死体処理を行っているその時、突如左手に違和感が生まれた。
何か固い物を握っている。
「……? ……あれ?」
何かと思いそれを見ると、聖貨だった。
だが、何故?
俺が今やっているのは死体の処理……それもアカメ達にやらせているだけで、俺は手を出していない。
聖貨を得られるわけが無いのだが……一体何が?
「おや?」
ふと見た、離れた所で同じく死体の処理をしているテレサ達も動きを止めている。
そして、なにやら手を気にして……あ、なんかキョロキョロしてる。
もしかして彼女達もか?
ちょっと何が起きたのか気になるが……とりあえず先に処理を終わらせよう。
魔物の警戒はヘビ達に任せているとはいえ、俺じゃよくわからないから怖いしな……!
◇
周りに魔物の死体が無くなったのを確認して、テレサ達のもとに向かうと彼女達も処理を終えていた。
そこら中に遺物が転がっているが、もったいないがこれは放置だ。
それよりも……。
「お疲れ。こっちも終わったよ。……それよりもさ、向こうで1枚だけど、聖貨を手に入れたんだよね。皆は?」
俺の言葉に頷いたり、摘まんで見せてきたりしている。
やっぱ皆もゲットしていたか。
恐らく同じタイミングだろうが……。
「気にはなるけれど、ひとまず向こうと合流しましょう。戦闘も終わっている様だし、遺骸も凍らせて貴方の【隠れ家】に収納しないといけないでしょう?」
パンっと手を叩き、フィオーラが提案してくる。
「ええ。今は途切れていますが、またいつ襲って来るかもわかりませんし……」
それに同意するテレサ。
「む……それもそうだね」
俺もそれに頷く。
確かにアレコレ気になる事はあるが、ここはダンジョンだ。
まずはここでの仕事を済ませてからにしよう。
「移動か?」
少し離れた所で周囲の警戒をしていたルバンもやって来た。
普段は周囲の警戒は俺がやっているが、ボスザルのアレで止めていた。
代わりに彼がやっているんだろう……ありがたや。
「ええ。行きましょう」
念のため周囲の警戒をしながらも、急ぎ足でアレク達3人のもとに向かうと、すぐにこちらに気付いた様で、アレクがこちらに向かって手を上げている。
「よう。そっちはいいのか?」
「ああ、片付けたよ。お前が盾役を務めていたんだろう? 怪我は?」
アレクはルバンと気軽に言葉を交わしているが、見た感じ怪我も無さそうだし、結局あのまま完封したようだ。
相性は悪くない感じだったけど……割とあっさり倒せるんだな。
核を潰さないって倒し方まで選べるくらいだし……。
フィオーラはジグハルトのもとに行き、バラバラになったボスザルの冷凍作業を手伝っている。
……アレ【隠れ家】に入れるのか。
その事を想像し少しげんなりとしていると、オーギュストもこちらにやって来た。
彼も怪我は無さそうだな。
「お疲れ様。団長が止め刺したの?」
バラバラになっているボスザルを横目に、どうやって倒したのかを聞いてみた。
訓練や指揮を執ったりしているのは見た事あるが、まともに戦闘をしているのを見たのは今回が初めてだ。
リーゼルが自分の護衛にもしているくらいだし、強いってのは知っていたが、あそこまでとは思わなかった。
それに何より、光る刃を振り回すとか、カッコ良くないか?
アレクの盾はいいとして、エレナは短剣を鞭みたいに使っているし、テレサはノーマルだけど、ジグハルトもフィオーラも何より俺も、ビジュアル的にはボス側っぽい感じだからな……。
「セラ殿が注意を引いてくれたり、アレクシオやジグハルト殿が援護をしてくれたからさ。私の加護は最大威力を発揮するのに少々時間がかかるからな……」
言葉を濁しているが、最大……わざわざそう言うって事は、やっぱチャージ技みたいなヤツだったのかな?
色々聞きたいが、マナー違反でもあるしな……。
想像するのも楽しいから、いいか。
「セラ、こっちを頼む!」
しばしオーギュストと話をしていると、冷凍処置が終わったのか、ジグハルトが俺を呼んだ。
「はいよー!」
返事をしてそちらに向かった。
◇
ボスザルの遺骸は、頭部、両手足、胴体の6つにバラされている。
頭部と手足は氷漬けにされて、用意していた木箱に放り込んでいる。
ボスがどんなサイズかわからなかったが、念の為持って来ていた箱が役に立った。
それはそのまま物置代わりの部屋に持って行き、さらに魔法で箱ごと凍らせて完了だ。
そこまではいいが……問題は胴体だ。
手足を切り落として小さくなってはいるが、それでも縦幅は2メートル以上あるし横幅もそれに近いサイズだ。
これは念入りに魔法をかけて、布を張った廊下に立てかけることになった。
もう少し縦なり横なりに切断できると良いのだが……、ダンジョン内でうっかり核を潰してしまうと、折角の遺骸が全部消えてしまうかもしれない。
ダンジョン産の魔物としても特殊な存在だから、もしかしたら違う可能性もあるが……試すにはロスが大きすぎる。
ってことで、頑張って運び入れているが……。
「もう少し上を下げてくれ! 枠に当たっている!」
「難しいぞ! 下を引きずっている!」
「もういい! 地面ごと凍らせて押し込め! それなら滑るし持ち上げるよりはいいはずだ!」
【隠れ家】の詳細を知る3人が引っ越し業者もかくやといった様子で頑張っている。
「クソっ……手が足りねぇ。セラ、あいつも引っ張って来い!」
ジグハルトがオーギュストを応援に呼ぶよう言ってくるが……。
「さっき断わられたよー。頑張れ! 3人とも」
オーギュストは、自分にとっては【物置】のままの方が都合がいいからといって、少し離れた場所で周囲の警戒に当たっている。
もちろんそれ自体は嘘じゃないんだろうけれど……多分手伝うのが嫌なんじゃなかろうか?
まぁ、このまま3人に頑張って貰おう。
いつも結構余裕のある3人がここまで必死になっているのは貴重だ。
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ボスザルの遺骸を【隠れ家】に押し込み、その後はさっさと撤収することになった。
もともとボスを倒したら撤収する予定ではあったが、恐らく中層の魔物を一掃している。
数十分の間、奥からはもちろん、途中から手前の魔物達まで含めて、ひたすら集まってくる魔物を倒し続けたわけだしな。
怪我人も出なかったし、それなら今のうちに中層を少し調べてみては? と思ったが……予定は変えないそうだ。
堅実。
帰りは、行きと同じく一気に駆け抜けた。
やっぱりフィオーラの足に合わせていたが、魔物を倒す速度は帰りの方がずっと上だった。
行きも相当速かったが……ボス戦に備えて温存していたようだ。
そんなわけで、あっさりと帰還を果たした。
帰るまでが遠足……その言葉が頭に浮かんだが、この連中に油断なんてないか。
帰還後はまずは、騎士団本部の一室に向かった。
ここは、後ろ暗い……とまではいかないが、あまり公に出来ないようなアレやコレやをする場所で、出入りできる人間が限られている。
そこの壁に触れ、【隠れ家】を発動した。
ボスザルの遺骸は、手足や頭部は2人がかりでなら簡単に運び出す事が出来るが、やはり胴体がネックだ。
【祈り】までかけているが、それでもきついらしい。
最終的に倉庫から持って来たロープをかけて、引っ張っている。
中に入らないし、これならオーギュストも参加可能で、彼も一緒に汗を流しているが……【隠れ家】はドアを開けて当人達に入室の許可を出していれば、外から中の物を引っ張り出す事が可能らしい。
中からなら、ドアの外の様子も普通に見えるが、外からだと真っ暗で中の様子はわからず、壁に出来たドアの形の真っ黒な影にしか見えないそうだ。
マジックミラーみたいなもんだろうか?
あまり使う機会は無いだろうけれど、思わぬ裏技を見つけてしまった。
「確かにっ! コレは重いな!」
外から引っ張りながら、放り込む時は参加していなかったオーギュストが、その重さに目を白黒させながら、必死に引っ張っている。
アレク達は彼のその必死な様子を、自分達も必死になりながらも笑っている。
「がんばれー」
中から声をかけるが、果たして彼等に届いているんだろうか?
まぁ、面白いからいいか。
◇
ほっぺがいたいきがする。
……ってかいたいわ!
「なんじゃー!?」
と、叫びながら体を起こした。
……起こした?
「ようやく起きたわね」
背後からセリアーナの声がしたので振り向くと、彼女は呆れた様な顔をしている。
……どうしたんだっけ?
「お前……しばらくは起きていたけれど、すぐに眠り始めたのよ? リーゼルも来たし、話を始めるから起こしてあげたのよ」
ダンジョンから帰って遺骸を引っ張り出した後は、風呂に入って食事をして……報告をするために集まっていたが、リーゼルが何やら急遽入った用事で遅れてしまっていた。
で、彼が来るのを待ってからとなって……なるほど。
場所はいつもの談話室で、いつの間にやらリーゼルを始め、ダンジョンの事を知る領地のお偉いさんたちが勢揃いしている。
風呂に入ってサッパリして、お腹も膨れた事で居眠りしてしまっていたのか。
「……なんかほっぺ痛いんだけど?」
痛む両の頬に手を当てていると、セリアーナはフッと笑っている。
「千切れる前に起きれてよかったわね」
「ぐぬ……」
どこでも眠る俺もいかんのかもしれないが、セリアーナの起こし方もだんだん過激になって来ている気がする。
「セリア、その辺で……。遅くなって済まなかったね。今日は報告を聞くために1日空けていたのだが……どうしても僕が出る必要のある用が出来てね」
「いえ、それも領主の務めです。どうぞお気になさらず……」
謝るリーゼルにすかさずフォローを入れるオーギュスト。
「じゃあ、始めようか」
仕切り直すように、リーゼルが報告を促した。
◇
中層に現れる魔物自体に問題はない。
浅瀬と上層の魔物が混在しているが、強さに変化は無かったと思う。
強いて言うなら、中層の構造が俺達人間にとっては見通しが悪く、不利な事だろうか?
浅瀬もそうだったが、あそこは魔物にとっても動きを制限されていたが、中層はそれが無いし、相応の実力が要求されそうだが、あそこまで来れる様な冒険者なら十分戦えるだろう。
そこまではいい。
参加者からも特に質問は出ず、オーギュストの報告を黙って聞いている。
いよいよボスザルについてだ。
「魔王種だというのか?」
皆は驚きを隠せないようだ。
ボスの存在は以前の会議で伝えていたが、それがまさか魔王種だとは思わなかったんだろう。
俺も驚いたが、彼等は俺よりもずっとダンジョンの情報に精通している。
尚の事だ。
「セラ殿、【妖精の瞳】と潜り蛇たちをいいだろうか?」
「うん。ほっ!」
オーギュストの要請にこたえて、まずはアカメ達を襟から伸ばした。
『おおっ……』
普段からアカメ達は見せているが、3体揃ってってのは中々無いからな……ちょっと驚いている。
そして……。
「よっ!」
『…………』
【妖精の瞳】を見て、今度は黙り込んでしまった。
まぁ、結構グロイ目玉だしな……俺も気を抜くと自分でビビる事もある位だし、無理もない。
ともあれ、オーギュストはこれらを示しながら、戦ったボスザルについて説明を始めた。
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