第166話
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【本文】
リーゼルとセリアーナは、彼の部屋で開かれた会談のすぐ翌日に、俺とテレサが王都に向かうと何通かの手紙を出していた。
元々春に王都に向かう事は決まっていたし、予定通りなのかもしれないが、実に行動が速い。
俺達が出発するのは月末だから、船便を使っても結構ギリギリのタイミングになるのかな?
俺達が滞在するのはミュラー家の王都屋敷で、そこまで準備がいる様なことは無いが、ミツメのお礼にルーイック家の王都屋敷を一度訪れるつもりだ。
テレサがいるとは言え、俺は初めてだしアポをセリアーナ達がしっかりしてくれるのは有難い。
一応お城にも行くことになるが、そっちは出産報告みたいなもので、前回の様な仰々しい事じゃ無いし、気楽に臨めそうだな……。
時期は冬の3月末。
貴族学院を目指す貴族の子弟と護衛一行や、その側について王都を目指す商人達がいて、平時より人の往来が多く、前回俺が単独で行った時よりかは時間がかかるかもしれないが……公称の10日は切れるだろう。
◇
「山が見えてきましたね……。そろそろでしょうか?」
【浮き玉】で夜空を高速移動しながら、俺を抱えるテレサが声をかけてきた。
決して大きな声じゃないのに、風に負けずにしっかり耳に届いているのは何故だろう……?
発声方法かな?
「そうだね! 麓に降りてすぐだったと思うから、もうすぐだと思うよ!」
一方そんな技術を持っていない俺は、テレサの胸元から大声で答える。
これでも風で流されてそうなんだよな……。
街道から外れた場所を移動し、さらに進行方向が反対向きだからあまり自信は無いが、前回の王都からの帰還の際に、オオカミの魔王種を倒したのはこの辺だったはずだ。
あの時は処理に困って血や内臓を捨てて来てしまったが、その後の経過が気になり、王都に行くついでに可能なら確認をしておこうとなった。
だが、大きな街ならともかく、山の麓にある只の村だ。
夜間警備なんてしていないし、夜を徹して活動しているエリアも無い。
うっかり通り過ぎても気付けないかもしれない。
……その時は帰り道でチャレンジかな?
念のためヘビ達や【妖精の瞳】を発動して周囲を探っていると、視界の端に多数の大きな生物が集まっている場所が見えた。
街道のすぐ側だし……あそこか?
「テレサ! 多分あそこ!」
指で指しながら大声で報告すると、テレサも気付いた様だ。
「わかりました。向かいます」
進路を変更し、ついでに速度も落とし始めた。
そのまま進むと、程なくして村が見えてきた。
一応村の出入り口に警備の兵らしき姿は見えるが、ただ突っ立っているだけだな。
警戒度が上がっている何てことも無いし、俺が捨てていった魔王種の血や内臓等で、被害を受けたって事は無さそうかな?
倒さず無視していたらほぼ間違いなく村を襲っていたし、倒した事は正解だったと思うが、あのいい加減な処理で被害を受けていたらと、気になってぐっすり眠る事が出来なかった。
……これで不安の種も無くなったし、枕を高くして眠ることが出来るな!
◇
念のため現場も確認しようと、村の上空を通り草原地帯に出たのだが、そこで奇妙な物が目に入ってきた。。
「あれは……?」
「……猟師小屋……でしょうか?」
テレサも気付いたようだが、あれが何かは自信が無さそうだ。
草原地帯にぽつんと掘っ立て小屋が建っているが、位置的にあの辺りが目指す場所だ。
テレサが言ったように猟師小屋に見えるが、あんな場所に建てる様な物じゃ無いし、なんだあれ?
「……ん?」
ゆっくり小屋に向かって近づいていくと、ある事に気付いた。
「どうしました?」
「あの小屋の周りに生えている草……あれ、薬草だ」
そこまで強力な物では無いからか、近づくまで気付けなかったが、20メートル四方程の範囲で生えている草が、薄っすらと魔力を放っているのがわかる。
そして、その範囲に沿って柵が張り巡らされている事にも気づいた。
その事をテレサに伝えると、呆れ半分感心半分な様子だ。
「なら……あの小屋は警備小屋でしょうか? 逞しいものですね……」
「村の側で採れると便利だからね。草原が枯れたり魔物を引き寄せたりとか……悪影響が出ていなくて良かったよ」
この場所で薬草が採れても俺にはどうしようもないし、魔王種を押し付けた側が利益を得ているならちょっと面白くないが、そういうわけでも無い。
まぁ、何でこんなことになっているのかとか分かっていないのかもしれないが、上手く活用してくれるなら何よりだ。
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【本文】
まだまだ距離はあるが、王都を一周する長大な街壁が見えてきた。
白い壁が朝日に照らされて輝いている。
リアーナ領都もあそこに負けないような大きさにしたいとかセリアーナは言っていたが……大変そうだ。
土地と資材はあっても、作業要員の確保がな……領内の職人全部集めたら可能かもしれないが、それをやると他の街が止まってしまう。
セリアーナは残念がってこそいたが、その事を理解しているし、将来の目標……だな。
「見えてきましたね。……長くあそこに住んでいましたが、この様に空から眺める日が来るとは思いませんでした……」
テレサは初めて見る空からの王都に感慨深げな様子だ。
まぁ、いくら自分が住んでいる街でも、空から眺めるなんてそうそう無いし、無理も無いか?
「やはり門の前は人が多いですね。夜のうちに離れた位置で休息をとったのは正解でしたか。予定通り下に降りてこのまま入場します。入場後は貴族街側の宿に部屋を取り、ミュラー家の迎えを待ちます。よろしいでしょうか?」
王都まで1キロも無い辺りまで来ると、テレサはしっかり頭を切り替えたようだ。
王都への入場からその後の手順の確認をしてくる。
まだ夜は冷えるし移動時は大分着込んでいたが、【隠れ家】の中で事前に着替え済みで、パンツスタイルでこそあるが、貴族として恥ずかしくない恰好だ。
「うん。それでお願い」
「はい。しかし……やはり時期もあって、姫が単独で訪れた時よりも時間がかかってしまいましたね」
「そうだね……でも、こればっかりは仕方ないよ」
申し訳なさそうに言うテレサに、気にするなと伝える。
前回のリアーナ領都・王都間は4日間で踏破できたが、今回は6日かかった。
テレサが先程から口にしているように、人の往来が最も多い時期だけに、人目を避けてとなると、夜間以外の移動が難しい。
まぁ、いざとなれば4日で辿り着けるって事がわかっているし、そこまで気にする事じゃないと思う。
「そうですね……。それでは、向かいます」
「うん!」
◇
入場後は予定通りスムーズに行った。
宿でミュラー家に使いを出し、返事を待つ間にテレサは着替えていたのだが、さほど待つことなく迎えの馬車がやって来た。
相変わらず素早い……。
その後は、テレサは城へ、じーさんはルーイック家にそれぞれ面会の申請に向かった。
2人が忙しくしている間、俺はオリアナさんとお茶をしている。
「テレサさんも、もう少しゆっくりしてからでもいいのに……。休まなくていいのかしら?」
そういうオリアナさんも、セリアーナ達からの手紙を読みながら、俺から領地や子供の様子を聞いたりと、忙しない。
「片づけられる事は先に済ませておきたいんだって。一応王都の一つ前でしっかり休んではいるけど、今日はゆっくりさせてね」
「大丈夫ですよ。貴方やテレサさんの到着を知ると、面会の申請が増えますが……今回は事前に受けていたもの以外はどれも断わる予定です。貴方も領地で仕事を頑張っているようですね? セリアーナが王都ではゆっくりさせる様にと書いていますよ」
「あらま」
それは俺に言っちゃってよかったんだろうか?
セリアーナがこの場にいたら、照れ隠しにほっぺ抓ってきたりしそうだな……。
「私が言った事はあの娘には秘密ですよ?」
「りょーかい!」
手紙を置くと、オリアナさんは悪戯っぽく笑いながらそう言ってきたので、俺も笑って返す。
当初はあまり孫たちと絡む機会が無くて悩んでいたのに、上の2人と1年近く一緒に暮らしたのが効いてるのかな?
そう頻繁に会えるわけじゃ無いし、仲が良いのは良い事だね。
◇
「明後日?」
「はい。いくつか決まりごとはありますが……差し当たって姫に関係があるのは、恩恵品を持ち込まない事くらいでしょうか? 従魔の許可は得てきましたから、事前の審査は必要ありません」
あの後しばらくすると、城に行っていたテレサが帰宅し、面会の日程を教わったのだが……。
「そっか……いつも通りだね。それにしても随分早いね?」
前回は公爵の代行としてだったが、今回は私的な用事だ。
いくら王妃様に来るようにと言われていたとはいえ、到着した二日後になるとは思わなかった。
「今回は公務用ではなく王族の私的なエリアになりますから。多少の融通は効きます。そして、旦那様達から言われたように、そこで荷を受け取り【物置】に収めます。その際私達を除いて、部屋を空けるので安心して下さい」
【隠れ家】でなく【物置】の事を王妃様にも伝えるとは言われたが、城で使うのか……。
「りょーかい!」
でも、結局何を受け取るんだろう?
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