第138話
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【本文】
俺の声とほぼ同時に、尾が振り抜かれた。
生えている高さは3メートルくらいだが、長さと重さから垂れさがっていて、その軌道は高さ1メートルくらいで、丁度二人に直撃するコースだ。
尾の重量とその勢いを考えれば、これも当たればただじゃ済まないだろう。
「くっ!?」
「うおっ!?」
あの猶予の無い中でも、流石と言うべきかしっかり反応出来ている。
テレサは転がる事で回避し、アレクは盾で受ける事でその一撃を凌いだが、衝撃は殺し切れなかったようだ。
体勢を崩し、膝をついている。
それを見たサイモドキは、角で突こうとしているのか、頭を下げた。
アレクはまだ立ち上がれていない。
これはいかん!
【緋蜂の針】を発動し、サイモドキの頭部目がけて突貫する。
【影の剣】で安全にダメージを与えるのが難しい以上、蹴りしかない。
狙う場所はここだ!
「たっ!」
狙い通り鼻先に蹴りを当てて押し付け続けている、加速する距離が足りずに魔人戦の時ほどの威力は出せていない。
それでも、目のすぐ側でバチバチしてるのが、鬱陶しいのだろう。
俺を振り払おうと、頭を上げて振り回している。
だが、ダメージは取れなくても注意は引けている!
このまま畳みかけよう!
「はっ!」
【浮き玉】をコントロールし位置を下にずらして、今度は下顎を後ろに回転しながら蹴り上げる。
サマーソルトキックだ。
頭を振り回していた為、首にそれ程力が入っていなかったんだろう。
上手く頭を跳ね上げさせる事が出来た。
「ていっ!」
さらに追撃で、浮き上がった顎に回し蹴りを叩き込んだ。
だが、蹴った感触でこの二発もダメージになっていないことがわかる。
表が硬いんだから、裏は柔らかくてもよさそうなのに……。
次をどうすべきかと考え、動きが思わず止まってしまったその時、轟音と熱波、そして赤い光が襲って来た。
「ぬっ!?」
威力は抑え目にしているが、ルバンの赤光だ。
それを右側の胴体に打ち込んだようだ。
硬い皮膚に跳ね返されて大したダメージにはなっていないが、俺の蹴りよりは衝撃があったのか、サイモドキはルバンがいる右側に視線を向けている。
「セラ、いいぞ!離れろ!」
そして、その間にアレクは体勢を立て直し、盾を構えている。
「りょーかい!」
テレサも起き上がっているし、仕切り直しだな。
◇
「ぬーん……。これ厳しくないか……?」
仕切り直したはいいが、ちょいと押され気味だ。
既に数度繰り返しているが、とにかくあの尻尾の一撃が怖い。
尻尾アタックはサイモドキの体に隠れて繰り出されるため、俺が上から指示を出している。
初回と違って、今は崩されずに凌げているが、それも三人が今までよりも間合いを少し遠めに取っているからだ。
特にアレクは、突進を不発に終わらせた後に踏み込む事で、前足の薙ぎ払いを引き出していたが、尻尾のコンビネーションを避けるために逆に後退している。
届かない位置にいるわけだし、結局薙ぎ払いを凌いでいる事に変わりは無いが、その分サイモドキとの間合いが開き、注意を引き付けられなくなってきている。
横の二人が魔法を撃ち込む事で押さえているが、このままだとジグハルト達のもとに行ってしまいそうだ。
首に下げたタイマーを引っ張り出して時間を見るが、まだ5分も経っていない。
上手く動きをコントロールして安定しかけていたのに、尻尾のたった一振りでひっくり返されてしまった。
ダメージなんてほとんど入っていないのに、やる気出すの早すぎないか?
強いんだし、もっと舐めプしてくれよ……。
「次、尻尾右!」
大きく左に振りかぶった尻尾を見て下に指示を出すと、アレクとルバンが一旦動きを止めて回避に専念し、その間にテレサも威力のある魔法を撃つために、魔力を溜めている。
まだ何とかなっているが……とにかくこの尻尾が駄目だ。
範囲が広く二人の動きを潰せるだけに、これを多用されてきたら消耗が増えて、凌げなくなる。
こうなったら……やるか?
確かにあの重く硬そうな尻尾は掠るだけでも危険だし、何より不規則にユラユラ動くアレを捉えるのは難しい。
だが、根本ならほとんど動いていない。
そこなら、俺でもやれそうだ。
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【本文】
サイモドキの尻尾は俺が一抱えするくらいの太さで、長さは14-15メートルってところか。
動物の尻尾の役割は、体のバランスを取る為の場合が多いが、こいつの場合は攻撃用だな……。
これだけ太いものが鞭の様にしなやかに動いているし、中は筋肉がびっしり詰まっているんだろう。
鱗や甲殻がついているわけじゃ無いが、相当硬いはずだ。
斬れるよな……?
「ほっ!」
【蛇の尾】を最大サイズで発動し、サイモドキの尻尾の根元に巻き付けた。
動き回るサイモドキの尻尾……それも根元を正確にとらえるとなると、これは簡単な事じゃない。
だが、俺の尻尾を巻きつけて、それを支点にすれば俺でも容易だ。
2メートルくらいしか距離を取れないので、近付きすぎてもたもたするのは危険かもしれないし、さっさとやっちまうか……。
貰うぜ!尻尾。
「尻尾斬ってみるから、気を付けてー!」
「!?わかった。無理はするなよ!おい!セラ嬢が仕掛けるぞ!」
サイモドキは移動するだけでも大きな音がするため、俺の声が届いたのはルバンだけだった様だ。
だが、しっかりと他の二人に伝えてくれている。
よっし!
やるぞー!
「ふっ!」
短く息を吐き【影の剣】を発動して、俺の尻尾に沿って突っ込み、右腕を横に一閃した。
【影の剣】の刃の長さは30センチ弱と短い。
それに、指先から少し余裕を持って斬りつけるため、その長さ全部を使う事は難しく、実際に戦闘で使うのは20センチ程度だ。
その長さでは尻尾の切断は無理だが、骨までなら到達する。
一太刀目で骨まで断ち、返す刀で切断だ!
と、言うのが理想だったが……。
「かったぁぁぁっ!?」
肉は切った。
でも、骨が断てない。
魔人の硬い鎧のような物もサックリ切り裂けたのに、骨が断てない!
刃は10センチほどの深さまで埋まるも、骨で止まってしまった。
「ぬががが……っ!」
腕力だけでなく【浮き玉】ごと押し込もうとするが、何とも厳しい。
これ以上は、俺の指の骨がヤバイ。
ポッキリいきそうだ。
尻尾にも痛覚はしっかりあるようで、尻尾の動きが激しくなっている。
継ぎ目にあたるまで試す事が出来ればよかったが、この位置で粘り続けるのもそろそろ危険だ。
援護のつもりが、これだと半端に痛みを与えて怒らせただけと、逆効果になってしまう。
「ふんぬっ!」
左手で、【影の剣】を着けている右手人差し指を掴み、【浮き玉】をさらに進めた。
これならもう少し力を込められる。
「っ!?」
その甲斐あって、骨膜を突破したんだろう。
刃から伝わってくる手応えに変化があった。
そのまま押し込み、そして……。
「よいしょーっ!」
再び手応えが変わったところで、一気に振り抜いた。
勢いあまって一回転してしまったのは御愛嬌だが、これで尻尾の骨を断つことは出来た。
尻尾に視線を戻せば、残った皮膚とわずかな筋肉でぶら下がり、今にも千切れそうだ。
「わっはっはっ!」
その残った部分を切断し、サイモドキの尻尾は重量感たっぷりな音を立て、地面に落ちた。
トカゲの様に切り落としても動くような事はせず、もう放置しても安全だ。
「尻尾斬ったよー!」
すぐさま頭の上まで移動し、三人に聞こえる様に大きな声で戦果を報告した。
「よくやったっ!」
アレクが大声で答えた。
たかが尻尾、されど尻尾だ。
致命傷には程遠いが、これで攻撃手段を突進、薙ぎ払い、尻尾アタックの三手から、二手に減らす事が出来た。
もしかしたらまだまだ攻撃手段を持っているのかもしれないが、それでも後数分凌げばジグハルト達が何とかするはずだ。
見ると三人の間合いが開始当初の距離にまで縮まっている。
「おわっ!?」
突如サイモドキの体が目の前に迫り、慌てて高度を上げた。
サイモドキは、思い通りにいかない事にイラついているのか、後ろ足で立ち上がり、そして両の前足を叩きつけた。
ストンプか……新しいパターンだな。
だが、間合いを近く取っていた三人は、その瞬間は距離を取り躱している。
尻尾が厄介だったのは、横の広範囲を攻撃できたからだ。
威力だけなら突進はもちろん、今のストンプや薙ぎ払いの方がずっと上だが、点の攻撃に過ぎない。
この三人なら簡単に凌げるだろう。
……決まったかな?
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