第133話

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【本文】

「えっほっえっほっ!」


【隠れ家】内に運び込まれた木箱から、中身のポーションをテレサが取り出し、俺が冷蔵庫に運び込んでいる。

常温でも問題無いと言えば問題無いが、折角の高品質かつ高濃度のポーションだ。

これを希釈するだけで、10数本分になるらしい。

出来ればベストなコンディションで保管しておきたい。


「よいしょっと」


冷蔵庫の扉を開き中に入れていく。

普段から俺がストックしている分は別に移しているが、そろそろ入れる場所が無くなって来た。

流石に冷凍庫に入れる訳にはいかないしな……。


40本位あるし十分かな?


その事を伝えに玄関前に行くと、テレサが空き箱を重ねて外に運ぼうとしていた。

地下の倉庫にはアレクが、そして【隠れ家】の玄関にはテレサがいて、ドアを開けっぱなしにして二人でそれぞれバケツリレーの様にして箱の出し入れを行っているが、一旦ストップしてもらおう。


「テレサ、もうポーションは一杯になるよ」


「!?わかりました。それでは先に箱を出してしまいましょう。アレク、一旦運び入れるのは止めて下さい。箱を全て出しますよ」


『わかった』


ドアから半身を出したテレサの声は普通に聞こえるが、外にいたアレクの声は【隠れ家】全体に響いた。

ドアを開けっぱなしにしていても外は外と認識している様だ。


高品質ポーションは値が張るだけに、破損しない様にやや過剰に梱包されているから、一辺30センチ程の箱一つに付き4本しか入っていない。

どうしても運び入れるだけより、箱を開けてそこから出してと二手間余計にかかる分、中に溜まってきてしまう。

廊下に箱が山の様になっている。


「オレも手伝うよ」


力仕事は苦手だが、なんかの役には立つだろう。



「……セラ副長、聞いているか?」


「……きいとるよー」


会議室に響くオーギュストの硬い声に、こちらはテーブルに突っ伏しながら柔らかい声で返す。


木箱めっちゃ重かった。

俺が知ってる木箱はもっと大きくても軽かったのに……安物と高級品と中身が違うから、箱の材料も違うのかな?

空き箱を三個運んだだけで手足がプルプルする……。


【祈り】を使えばよかったかもしれないな。


「んんっ!では、話を戻そう……」


一つ咳ばらいをし、オーギュストは再び話を始めた。


会議の議題は、魔王種討伐の大まかな作戦概要で、【隠れ家】への運び入れが終わったところで招集された。

出席者はリーゼルや俺達、騎士団の面々に加えて、冒険者ギルドの支部長や討伐に参加する冒険者の代表たちと、ルバンはいないが主要な顔触れが揃っている。

顔見せと、簡単な情報共有の為に設けたんだろう。


この事がわかっていたら手伝わずに大人しくしていたのに……まぁ、今更この連中の前で取り繕わなくてもいいか。


気を取り直して顔を上げると、オーギュストは戦場予定地とその周辺が描かれた簡易地図の貼られた黒板の前に立ち説明を始めている。

地図は大部分が森で埋まっている。

その中にいくつかの開拓村や、周辺の地形、そして戦闘の予定地がしっかり記されている。


「2番隊と戦士団を中心とした冒険者達でこのラインを封鎖する。目的は二つ。魔王種の逃亡と、周辺の魔物の流入を防ぐ事だ。やる事は難しい事ではない。魔物を倒す……それだけだ。2番隊は隊長のアレクシオが討伐隊に参加する為、私が率いる。冒険者はザック殿、卿に任せる。よろしいな?」


オーギュストが戦闘予定地を囲むように、ラインを引いている。

二つの開拓村を繋ぐ様にして森を思いっきりぶった切っているな……。


「おう」


「うむ。この二つの部隊はそれぞれ距離がある為、部隊間の連絡と援護は領主様が率いる別動隊が行う」


皆の視線がリーゼルに向くと、余裕たっぷりの表情で手を上げ応えている。


「セラ副長。君は討伐隊に組みこまれるが、同時に二つの隊の支援も行ってもらう。我々の隊の補給拠点となるのはこの二つの開拓村だ。そちらにポーション類は運び込む事になるが、不足した場合君に届けてもらうことになる。合図は照明の魔法だ。戦闘予定地は既に伐採を済ませているから木に遮られることは無いと思うが、極力それが見える位置にいてもらう。いいな?」


「はーい」


少し移動距離が増えて規模が大きくなったけれど、クマの時とやる事に変わりは無さそうだな。


330


【本文】

「セラ殿、少し残って貰って構わないか?」


会議が終わり、出席者が会議室から出て行く中、オーギュストに呼び止められた。

会議中は団長という立場からか毅然とした雰囲気をまとっていたが、終わった今はいつも通りだ。


「いいけど……何?」


リーゼルや支部長も既に出ているし、部屋に残っているのはテレサ、アレクとジグハルトにフィオーラのセリアーナチームと、後は地図の片づけをしているオーギュストの副官のミオだけだ。


「うむ。少し確認したいことがある。……ああ、そちらの皆も一緒で構わない」


「わかりました。貴方達も良いですね?」


テレサが答え、3人も頷いている。


「ありがとう。ミオ、君は戻っていろ」


「はい。では皆様失礼します」


と、ミオは一礼し部屋を出て行った。


これで部屋に残るのは俺達だけだ……しかし、彼が何の用だろう……髪か?

まだ若いし、フサフサだけれど……?


「魔王種討伐の流れは頭に入ったか?……どうした?」


「ん?ああっ、大丈夫。ちゃんと聞いてたし、理解したよ」


ちょっと彼の頭髪を見てしまっていたが、違ったか……。


領都から北に半日ほどの所にある、ミュラー家の分家の者が代官を務める村がある。

そこから更に10キロほど東に向かうと、魔王種との戦闘予定地だ。

他の2部隊は俺達より先行し、その村から半日ほど行った所にある開拓村に宿泊し、これまた先に行動を開始する。

俺達はその村で一泊し、翌朝に出発だ。

その際にジグハルトとフィオーラは、魔王種に気取られない様に何かしらの方法を使って気配を消しておく。

これはこの場で聞かなかったが、恐らく馬車内で【隠れ家】を発動して、中に潜んでおくんだろう。


戦闘予定地に到着後、他の2部隊の状況を見てから戦闘を開始し、俺は合図があれば彼等の本陣がある開拓村にポーションを配達する、と。


大分アバウトだけれど、如何せん魔物が相手の事だから、あまり行動を厳密に決めるよりも状況に合わせて臨機応変に動く方針らしい。


うむ、頭にちゃんと入っている。


「訊ねるが、君のソレは、速度はあるが重たい物を運べないのだろう?ポーションを君が運ぶ事になっているが、可能なのか?それに、村との往復を繰り返し続ける事になるぞ?」


ジッと俺を見ていたオーギュストが口を開いた。


「む?」


なるほど、彼が気にしているのはそれか!


「恐らく何かしらの加護を持っているのだろう?詳細は答えなくてもいいが、部下への説明もあるし、なにより兵士や冒険者の多くの命に関わる事だ。答えて欲しい」


2番隊も冒険者組も、回復魔法を使える者はあまりいない。

で、魔物達との長時間の戦闘を行うとなると、いくら集団で戦うとは言え怪我人も出てくるし、そのうちポーションが尽きる可能性もある。

だからこその俺なのだが……、そりゃ彼の立場からしたら、そこは確認しておきたいだろう。


「うん、大丈夫大丈夫」


……この言い方で信用してもらえるかな?


彼もリーゼルも信用はしているが、如何せん立場的に他領どころか他国のお偉いさんと会談する機会もある者達だ。

頭の中身を、とまではいかなくても、ウソ発見器みたいな恩恵品や加護があってもおかしくは無いし、何かしら察してはいるだろうが【隠れ家】の事は秘密にしている。


さて、どうしよう。


上手い説明は思いつかないし、ここは頼れるテレサかアレクに丸投げを……。

そう考えていると、頭の上に手が置かれた。


ポンではなく、ガシっとだ。


「オーギュスト、あまりうちの姫さんを困らせるな。これでも意外と真面目なんだぜ?」


予定外の援護が来たな。


「ふむ……だがな、ジグハルト殿」


尚も続けようとするオーギュストを今度はフィオーラが遮った。


「貴方の懸念もわかるけれど、問題無いわ。高品質、高濃度のポーションを多数備蓄してあるから、私が前もって現地で調整をしておく……それでいいでしょう?」


「…………わかった、信じよう。時間を取らせて悪かった」


そう言うと、話は終わりだと、部屋を出て行った。


「……怒ったかな?」


「大丈夫でしょう。彼が自分で言った通り多くの命に関わる事ですから、何かしらの確証が欲しかったのでしょう。それに、結局姫が運ぶことが出来るのは事実ですし、問題ありませんよ」


「お前の言葉だけじゃ弱かっただろうが、ジグさんとフィオさんの保証付きだ。十分過ぎるだろう」


少々不安になったが、テレサとアレクがフォローを入れてくる。


「そんなもんか……」


確かに、事実とはちょっと違っているが、俺が運べるって事に変わりは無い。

二人の言うとおりだな。

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