第115話

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【本文】

昼餐会から二日経った滞在六日目。

昨日に続き今日もアイゼンとその従者はテレサと共に商人ギルドの会合に出席している。


特に何か仕事を任せているわけでは無いようだが、議事録を取らせたり細々した事をさせていたらしい。

能力が無いわけじゃ無いんだが、あまりそう言った事務方の仕事は性に合わない様で、今までは敬遠していたそうだ。

昨晩親父さんに感謝の言葉を貰い、明日からも頼むと言われていた。


ゼルキスが今までと変わらず辺境の最前線なら、じーさんみたいなマッチョ思考でも良かったんだろうけれど、これからはウチのバックアップもやって貰わないといけないし、今後もこの調子で成長して欲しいものだ。


さて……アイゼン君の未来はどうでも良いとして……俺は今日も今日とてダンジョン中層に出向いているのだが……。


「ぬぬぬ……人が多いなぁ……」


冒険者達もお休み期間が明けたのか、ここ数日お目にかからなかった盛況さだ。

この状況であまり速度を出すと驚かしかねないので、ふよふよと低速で進んでいる。

もうすぐ中層に辿り着くが、浅瀬の奥からここまで、狩場はどこも人の姿があった。


いつも通り中層の入り口近くの広間で狩りをする予定だったが……厳しいかな?


「セラ嬢!」


どうしたもんかと漂いながら悩んでいると、下から俺を呼ぶ男の声がした。


「お……?」


そちらを見ると、直接絡んだことは無いがアレクの知り合いで、ゼルキスでもそこそこ経歴の長いベテラン冒険者のおっさんが、こちらに向かって手を振っている。

少し距離を開けて20歳弱くらいの若い冒険者が何人かいるが……引率役なのかな?



「ほっ!」


【ダンレムの糸】から放たれた矢が、地面を抉りながら群れのボスとその取り巻きを貫いた。

倒した数は3体だが、上手く群れを分断できている。


「よしっ!端の少ない方から削って行くんだ!残りは無理に戦って捕まるなよ!」


すかさず指示が飛び、それに従うように冒険者達が残りのオーガに仕掛けた。


若手のみで本来ならまだまだオーガの群れと戦うには能力不足だが、こちらの数は13人でオーガの数は11体と、数では負けておらず、その上オーガは統制を欠きただの集団に成り下がっている。

今ならいい勝負だ。


この13人は、4人が一組3人が2組の三つのパーティーで、その4人のパーティーが指示通り端から襲い掛かり、そして残りの2組が群れの合流を防ぐべく、間に入り込み牽制を行っている。


「今度はやれそうか?」


「さっきの戦いは分断を失敗してグズグズしている間に合流されたが……今度は上手くいきそうじゃないか?」


「……おっ!まずは一体仕留めたな。いいペースじゃないか?」


指示を出したおっさんと同じく残りのおっさん二人は、いつでも援護に入れるように武器を手にしながらも呑気な声で、戦闘の様子を解説している。


「結構やれるもんだね。最初に比べたら大分進歩してるんじゃない?」


そこに俺も混ざり、偉そうな事を言ってみる。


最初戦った時は、まともに攻撃を盾で受けて吹っ飛ばされたり、普通に切りかかって全く歯が立たずに反撃を食らったりと、中々上手くいっていなかったが……二戦三戦と繰り返すうちに徐々にコツを掴んできたのか、結構戦えている。


「まー……ボスさえ潰せればな。今は姫さんがやっちまっているが、普通だとそこが一番難しいんだぜ?」


そう言い笑い声をあげるおっさん達。


「入口の番人を潰しながら少しずつ端から釣り出して行って……一部屋突破するのに1時間近くかかったもんさ。ここを少数で30分かけずに突破できるようになったら、一流って言える位だ」


「なるほどー……」


と、相槌を打つ。


番人ってのは投石組の事だろう。

聞いた感じ、完全に投石組と本隊と分けて戦う俺の方法とは大分違う気がする。

投石組の相手をしつつ、本隊も少しずつ削って行くってのが一般的らしい。

陣形を敷くって習性が知られていなかったのは、完成する前に両方を同時に戦っていたからなのかもしれないな。


今まで魔物そのものの情報は仕入れていたが、討伐側の情報はあまり気にしてこなかった。

考えてみれば観測する者が違って来れば情報が変化するに決まっている。


これからはそっちの事も気にかけてみるか。


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【本文】

「そろそろだな」


見ると残りのオーガは3体まで数を減らしている。

一方冒険者側は皆健在だ。


「門番とボス達抜きで40分ってところか……悪くないんじゃないか?」


「そうだな……ボス達は無理にしても、そろそろ門番もやらせてみるか?時間を考えても後2-3回ってところだろう?」


「ポーションはまだ余っているし、俺達も余力はある。いいんじゃないか?」


もうこの広間での戦闘は終わりとばかりに、おっさん達は次の戦いについて話をしている。


ダンジョンという冒険者同士の不戦が義務付けられ、尚且つ資源が尽きる事の無い鉱山の様な場所があるからか、所属するクランは別でも同じ街で活動する者同士結構仲が良いそうだ。


無所属の者はもちろんどこかに所属している者でも、若手は共通して育てるって意識が根付いているんだろう。



上層の奥で呼び止められた時、中層まで一緒に行かないか?と言われた。

呼び止めた当人もだが、若手達にリアーナや魔境の魔物の話を聞かせて欲しかったそうだ。

あの場所からだと10分そこらだったしその位ならと俺も了承し、適当にお喋りをしながら向かったのだが、いざ中層入り口前に着くと、ベテランと若手冒険者という同じようなパーティーが2組いた。


何事かと話を聞くと、こちらと同じくオーガの見学に来たそうだった。


なんで3組も重なったんだ?と思い聞いてみると、今日は狩りを再開するグループが多いそうで、引率役の自分に万が一の事があっても、救援を呼びに行きやすいからっていう、慎重なんだか何だかよくわからない理由だった。


その後おっさん同士知り合いという事もあり、とんとん拍子に話が進み俺に同行を依頼する流れとなった。

報酬は得られる聖貨全部という大盤振る舞いだ。


多過ぎないか?と思ったが、支部長から通達があり【ダンレムの糸】の事を知っていたらしい。

戦力にというよりは、若手に疑似的とはいえ強力な攻撃魔法を軸にした戦いを経験させたかったそうだ。


そう言われると、確かにこの威力を出せる魔法使いなんてそうそう居ないだろうし、出るかどうかわからないとは言え聖貨を代価にする価値はあるんだろう。


ボス達さえ仕留めてしまえば俺は戦わなくていいと言われ、それならアカメ達の戦闘能力や【影の剣】の事は隠せるし、俺も他者との共闘の良い訓練になるので、引き受けることにした。


外ではそもそも【ダンレムの糸】を撃つこと自体危なっかしくて訓練のしようが無さそうだからな……こういった部屋毎に区切られた空間は有難い。


もうすぐ3時間位になるが、今のところ彼等の出した聖貨は1枚。

あの若手達も自力で上層で狩りが出来るレベルだそうだし、そんなもんかもしれない。

まぁ、それでも聖貨1枚といえば金貨20枚相当のお宝で、13人で割っても稼ぎで見たら十分だ。

出た瞬間に歓声が上がりそして俺に支払う事を思い出し落胆に変わったのは、申し訳ないが笑ってしまった。


ちなみに報告する必要は無いからしていないが、俺は既に自力で聖貨を2枚得ている。

すまんな若手達。



さらにあの後2戦繰り返し、帰還する流れになった。


試しはしてみたが、彼等だけでは門番を突破する事は出来ず、結局おっさん達が処理をしていたのだが、あの処理の仕方は見事なもんだった。


走る速さを合わせながら投石を上手く壁側に集め、接近したところで一気に中央突破し、そこからターゲットを集中するのではなく3人がそれぞれ各個撃破。

1対1でしっかり戦えるからこそなんだろうけれど、石が飛び交う中よく戦えるもんだと感心した。


そして今、皆で帰還しているのだが、道中遭遇する魔物は若手達が処理している。


……今更だが、冒険者って強くないか?


ベテランのおっさん達はもちろんだが、若手達も結構強い。

今まで他人の戦闘を見る機会はあったが、ベテランか新人かと極端な者ばかりだったから気付かなかったが……人間ってこんな強いもんなの?


「……みんな強いね」


「んー?まあ、魔物相手にしていると自然にこうなるぞ?この程度は出来ない様じゃ死んじまうからな」


何となく呟いた俺の言葉にそう返ってきた。


しかし……俺がそんな風になる未来が見えないよ……ずっと弱いままな気がする。

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