第106話

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照星ダンレム。


北にある星の名前で、決して動くことの無い星。

船乗りや、大陸西部で夜に移動する者が方角の目印にする……まぁ、所謂北極星だ。

天から、決して動く事無く常に見続けるという事から、権力の監視者と言われる事もあるらしい。


王殺しの方は、もうそのままズバリ、ダンレムって射手が圧政を敷いた王を射殺した話だ。

作り話だが、教会の説法で用いられる事もあり、貴族の間ではそこそこ有名らしい。

緋蜂の時と言い、このアイテムを説教臭いエピソードに使っているのを考えると、彼等も持っている気がする。

裁判と違い殺害という直接的な行動に出る分、自分達で使うかどうかはわからないが……西部の傭兵団がもしかしたら下部組織なのかもしれない。


縁起が悪いというよりは、権力者、特に王に嫌われる名前だ。


「できたぞ」


ジグハルトの声でダンレムについての考察を中断した。


「おう!」


何が出来たかと言うと、的にする壁だ。

昔王都の訓練場で見たのと同じような、分厚い壁が30メートルほど離れた場所に建っている。


昨晩のガチャでゲットした【ダンレムの糸】を試すために、騎士団の訓練場にやって来た。

まずこれがそもそもアレク達の言う物と同じか試す必要があるのだが……、同じだった場合は威力を考えると、試す場所を考える必要がある。


その点ここなら、訓練場の外は平地が広がり、さらにその奥は森だ。

気兼ねなくぶっ放せるだろう。


ただ、昨晩あの場にいたメンバーはもちろんだが、話を聞きつけたリーゼルとオーギュストもやって来た。

これ、実は全く関係無い物だったらどうするんだろう……?


その時はジグハルト達に代わりに大技披露してもらうかな?


「いくぞー!」


足を肩幅ほどに開き、右手を掲げ合図をした。


今日は珍しく【浮き玉】から降りている。

代わりにセリアーナが浮いているが……それはさておき、もし予測通り弓が出た場合はもちろん射る事になるからな。

前世も含めて弓を扱うのは初めてだけれど、長弓とか言ってたし何となく立ったままの方がやりやすそうな気がする。


「……ふっ!」


【ダンレムの糸】は髪留めだし、今日もこの場には髪に付けて来た。

どうなるんだろうと思いつつも、他のアイテムと同じように集中し発動すると、目の前に何やら光る物が……。


「ちょっ⁉ぐっ……ぬぉぉぉ⁉」


何か目の前にデカい物が現れたと思ったら、それが俺の方に倒れて来た。

何かわからんが……これはヤバい!


「姫っ!解除を!」


ややパニックになっていたが、少し離れて後ろに控えていたテレサの声で我に返り、すぐに解除し事なきを得たが……地面にへたり込んでしまった。

久々に顔真っ赤になりそうな勢いで力を出したぜ……。


「クッソ重いな‼何だったの今の⁉潰れるかと思った!」


倒れてくる何かを支えるのに必死で、顔は下を向いて踏ん張っていたからよく見れなかったが、木の様な感触は手にあった。

俺の腕位の太さだったと思うが、木にしては重過ぎるし……。


「弓……だったと思います。アレクシオ隊長、ジグハルト。貴方達はどう見ましたか?」


答えるテレサは少し自信無さげだ。


彼女は俺が陰になって見えなかったんだろうな……。

アレク達は少し離れていたし見えたかな?


「ああ。俺が見たのと似ていた……大きさは使用者によって変わるんじゃなくて、固定なんだな……」


近寄ってきたアレクは申し訳なさそうにそう言った。


とりあえず【ダンレムの糸】は弓で間違いないようだ。

それがわかったのは、一先ずいいとして……。


「……アレク。手」


「ん?」


起こせと言うとでも思ったのか、手のひらを向けて差し出して来た。

丁度いい。


「ほい」


【ダンレムの糸】をその手に置き俺も手を重ね、下賜する。


「⁉」


これが弓だとわかりはしたが、性能は未だ何もわからん。

わかった事は重たいってだけ。


後ろをちらりと見ると、セリアーナ達は何しているんだ?と言った表情だ。

さらに遠巻きにこちらの様子を伺っている、兵士に冒険者。

そして、訓練中の子供達。


これだけ注目を浴びて、これでお終いってのはきまりが悪い。

俺が使えそうにない以上は、ここはアレク隊長に決めてもらおう。


「任せた、アレク!」


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【本文】

【ダンレムの糸】を受け取ったアレクが発動させると、バカでかい弓が現れた。

それを見て「おおっ!」と騒めくギャラリー達。


弓は黒と茶色の黒檀の様な色合いの木製で、握りの所に円状に光る何かがあるが、それ以外は特徴の無い普通の弓だ。

もちろんサイズと重量は別だが……。

大振りの棍棒を片手で振り回すアレクでも中々厳しそうな顔をしている。


「アレク、恩恵品なら念じる事で弦が張られて矢も現れるはずだ」


「ふっ!…………なるほど。セラ、的の後ろに人はいないな?」


ジグハルトのアドバイスに従い何やら気合を入れると、弓が一瞬光り、そして弦が張られていた。

矢は普通の矢では無く、光る棒だ。

それがギュンギュン唸っている……これは凄そうな気配だ。

アレクもそれを感じるのか、俺に安全の確認をして来た。


「んー……うん、大丈夫。人どころか魔物もおらんよ」


「よし。少し下がってくれ……」


俺達が下がったのを見計らい、アレクは弓を引いた。


今は秋の2月半ば。

コートを着るほどでは無いが、気温も下がってきてやや厚着をしている。

その厚着をしている状態でも、アレクの腕と背中の筋肉が盛り上がっているのがわかる。


「射るぞ!」


合図をしたアレクの手元が一瞬強く光ったと思ったら……。


「ぬあっ⁉」


バシュッ!っと矢を放つ音がしたと思ったら、光の矢が的を砕き奥に広がる平地を抉り、ついでに森の木をバキバキ数十メートルぶち折ったところで消滅した。

飛距離は……400メートル位か?


「ああ……俺が撃たれたのはこれだな。懐かしいぜ」


「そうですね。消えたのは距離なのか、消耗しきったのか……どちらでしょう?」


「距離……はちょいと短いな。消耗したんだろうな」


冷静に話し合う二人に対し、どよめく後方。

そして尻餅をついている俺。


近くで見るもんじゃねぇな……。


後ろの連中も軽い見世物気分だったんだろうが、あれを見ればねぇ……。

俺はまだダンジョンで似た様な光景を見ているが、初めて見るとドン引きだぞ?


「威力は大したものね。何かデメリットはあるのかしら?」


とりあえずの安全性は確認できたのか、側にやって来たセリアーナがアレクに訊ねた。


「どうですかね……重たさや引きの強さは使い手を選びますが……この威力を考えるとそれだけとは……」


「オレじゃ持つ事すらできないし十分な気もするけれど……」


船で王都に向かっている時に少し聞いたが、アイテムを手放す人ってこういう場合もあるのかもしれない。

俺は身内にアレクがいるから試す事が出来たが、中々ポンと貸せる相手が側に都合よくいるとは限らないからな。


それなら売ってしまった方がいい。


「セラ君、次はアレクシオに君の【祈り】をかけてみたらどうだい?それで威力や重さ、引きの強さが変わるのかもしれないしね」


声がした方を向けば、リーゼルにオーギュスト達も周りにやって来ている。

結構楽しげだ。


「確かに……。セラ、頼む」


「ほいよ。ジグさん、フィオさん、また的をお願い……速いね」


的の用意を頼もうとしたら既に完了していた。

それも先程とはずらした位置に建てる気の利きよう。

あれ以上森を抉ると魔物の通り道になりそうだったしな……。


「よし。皆下がってくれ。セラ、頼む」


「ほい!」


【祈り】を発動し、俺も皆のところまで下がる。

先程は後ろにも衝撃が来たからな……。


「…………ん?」


弓を持ったままアレクが動かない。

周りを見ると皆も「?」と言った顔だ。


「アレク?」


呼びかけると、弓を持ったままこちらに歩いて来た。

【祈り】の効果は発揮されている様で、さほど重さを感じさせない足取りだ。


「発動しない」


アレクは首を横に振りそう一言口にした。


「……壊れた?」


マジで?


「そんな簡単に壊れたりはしないさ。これは連射出来ないのかな?」


だが、リーゼルが俺の言葉を否定する。


「恐らくは。思い返せば戦場でも一射毎に間を置いていました」


「ああ……そういやそうだったな。一射毎に位置を変えていたから、反撃を警戒しているんだと思っていたが……、連射が出来ないのか」


アレクの言葉にジグハルトも思い当たる事があったようだ。

一ヵ所に留まってこんなの撃ってたら目立つし、場所を変えるのは別に不思議じゃない。

そうする事でこのデメリットを隠していたのかもしれない。


「ここを見てください」


そう言い弓の握りの部分を指差した。

先程は円状に光っていたが、今は円の3分の2程度しか光っていない。


「俺が構えた時は半分程度だったが……、これが円になればまた発動できるんだと思う。10分に一射ってところか?」


少し残念そうなアレク。

いや、でも十分すぎないか?

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