第105話

261


【本文】

「おらああぁぁぁっ!」


森に響く俺の声。

そして聖貨を右手に持ち、渾身のガッツポーズだ。

ついでに照明の魔法も打ち上げた。


「へっへっへっ……手こずらせやがって…………!」


額の汗を手で拭いながら零れる小悪党っぽいセリフ。


なにも魔物に手こずらされたんじゃない。

勝てる魔物しか相手にしないし、ほぼ一撃で倒している。


何に手こずらされたって、兵士達だ。

1番隊……森の巡回だとかでうろついているし、冒険者達も奥まで行かずに浅瀬にいるから俺の狩場が……稼ぎ場所が……。

領内の平和の為に必要な事だけれど、俺の狩場は残しておいて欲しい。

真面目に稼ごうと思っていたのに、7枚稼ぐのに一月かかるとは思わなかった。


我ながら今まで聖貨を必死に集めていたつもりはなかったが、いざ集めようと思ったのにそもそも魔物と戦えないってのはちょっとストレスだった。


特に意味は無いが何となく誕生日までに集めようと決めていたし、間に合って良かった良かった。


「そんじゃ、帰りますかねー」


魔物の処理を引き受ける隊の笛の音が聞こえたのを確認し、俺も懐から笛を取り出し咥えた。



「勢揃いだね……」


屋敷に戻り聖貨が揃った事と、今日ガチャるぜっ!とセリアーナに伝えると、夜に南館の談話室でと言われた。

その時点で想像は付いていたが、いつもの3人はもちろんアレクにジグハルト、フィオーラと、セリアーナ組が全員集合だ。


「いた方がお前も助かるでしょう?」


「うん」


アイテムであれスキルであれ、発動させるのに何かしらのきっかけが必要になる事が多い。

そうなると、名前から能力を推測する幅広い知識を有するこの3人は有難い存在だ。


だが、彼等が着いているテーブルには、酒とグラス。

後つまみが各種並んでいる。


「……すでに酒が入っている事には目を瞑ろう!」


ガチャなんて他人からしたら見世物みたいなものだ。

何かしら良い物をひいて見物料分位の知識はひねり出してもらわないとな!


「いくぞー!」


前やったのは何時だっけ?

王都に行く前だったから4カ月位かな?


あの時は【琥珀の剣】だった。

良い物なんだろうけれど、中々使う機会に恵まれない。


こと戦闘に関しては、【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】この3つが便利すぎるからな……。


来いよ!新たな主力!


「ふんっ!」


すかさずストップ。


浮かんだ言葉は【魔糸】……。


「くっ……」


王都でジグハルトが当てたやつだ。

あの時の叫び声は忘れられないな……。


ジグハルトの方を見ると、その事を思い出したのか苦い顔をしている。


宙に浮くソレを手に取り見てみると、細い艶のある白い糸がロープの様に束ねてあった、解けば結構な長さになりそうだ。

ただ……俺が持っていてもな。


「魔糸ね……。刺繍でも覚えたら?」


「いや……それはまだちょっと……テレサ、いる?」


セリアーナの言葉にちょっと答えを濁す。

単に布を縫ったりは出来るけれど、刺繍ともなると……。

これは侍女に任せよう……!


「では、ありがたく頂戴します。丁度雨季や冬と屋内の時間が増えますし、皆さんもどうですか?」


「そうね……、悪く無いわね」


受け取ったテレサが他の女性陣を誘っている。

そして、誘われたセリアーナ達も乗り気の様だ。


冬の時間潰しに刺繍とか……貴族っぽい。

そういや正真正銘貴族だったな……。


「そういや、聖貨を使って得られる物は色々あるが、お前は何が欲しいんだ?恩恵品も加護も色々持っているだろう?」


魔糸のショックから立ち直ったのかジグハルトがそんな事を聞いて来た。


「遠距離攻撃の手段が欲しいんだ」


「弓か何かか?【竜の肺】もだが攻撃魔法の威力を増加させるものもあるらしいが……」


俺は攻撃用の魔法はまだ使えないからな……。

その事はジグハルトも知っている。

遠慮しているのか今一歯切れが悪い。


「んー……特にこだわりは無いな。何でもいいや」


この世界物理的な遠距離攻撃手段は、弓か投擲かだが……【隠れ家】っていうミラクルもあるし、ここらでレーザー銃とか出て来ても俺は驚かないぞ!


……驚かないぞっ!


262


【本文】

何が出て来ても驚かないけれど驚きたい……次で決める!


目を閉じ深呼吸をしながら光線を撃ちそうなポーズをとる。


「…………姫?」


「放っておきなさい。あの娘は格式を重んじてないの。奇矯な振る舞いには慣れなさい」


そのポーズを不審に思ったテレサが声をかけてこようとするが、セリアーナが押し止めた。

……なんかひどい事を言われている気がするが、集中だ集中。


…………⁉


「ふっ!」


カッと目を開き、聖貨を聖像に捧げる。

そして鳴り響くドラムロール。


イメージだ……なんかぶっ放すイメージ……スナイパーライフルを撃つイメージ!

これだ!


確信をもってストップをかけると脳内に浮かんだ言葉は【ダンレムの糸】だ。


「……いと?」


ポツリと呟いた。


「いと……また魔糸?」


それを聞き気の毒に思ったのか、気遣う様な声色でセリアーナが訊ねてくる。


「……いや、糸だけど」


と、目の前に現れたので途中で言葉を区切り、それを見る。


薄っすら光りながら姿を現したのは……紐だな。


「ほっ!」


宙に浮くソレを掴み、見てみるが……太さ数ミリ程度の紐だ。

引っ張って万が一にも千切れたら困るからやらないが、中々しっかりしている。


「糸って感じじゃ無いな……何だったんだ?」


「【ダンレムの糸】だって……紐だよ?」


アレクに名前を教えた瞬間、ガタッ!とアレクとジグハルトが立ち上がった。


「ダンレムか!」


揃ってその名を口にした。


「ぬおっ⁉」


これが何か二人とも知っている様だ。

なんだダンレムって?


「知ってる?」


「あ……ああ。やったな……恐らく弓だぞ?それは」


「はぁっ⁉」


アレクの言葉に思わず強く聞き返してしまったが……弓要素ゼロだぞ?


「ダンレムと言ったら星や王殺しと、いくつか思い浮かぶけれど……先に開放してみましょう?」


「そだね……」


気になる言葉も出てきたが、まずは開放だ。


セリアーナの手に紐と俺の手を乗せ一緒に気合を入れる。

一瞬淡く光ったと思うと、紐の感触が無くなり代わりに何やら硬い物が……。


「……これは?」


木製らしき筒で、長さは5センチ程、幅は3センチ位だろうか?

それに、模様が刻まれている。

何かを通すんだろうけれど指輪にしては変だ……。


少なくとも弓じゃない。


「ヘアリング……髪飾りね。エレナが今付けているわ」


それを聞いたエレナが横を向き、髪を見せてきた。

顔の横に垂らしている、細く編まれた三つ編みを銀色の筒に通しているが……それか。


「これ……弓なんだよね?」


名前が糸で、最初は紐で開放したら髪飾りで、正体が弓……俺の持っているアイテムの中でも屈指の訳の分からなさだ。


「……私も気になるけれど、それが弓ならここで使うと危ないかもしれないし、試すのは明日にしなさい。2人は何か知っているのでしょう?話して頂戴」


アレクとジグハルト、二人の共通点と言えば大陸西部生まれで冒険者になる前は傭兵だったって事だ。

なら……戦場か?


「ダンレム傭兵団と言う、大陸西部で活動する傭兵団がいるんです」


「聞いた事無いわね。貴方達は?」


セリアーナはエレナ達に問うが、同じく知らない様で首を横に振っている。


「同盟側じゃ知られていないのかしら?続けて」


「そうですね。彼等はあくまで戦場専門で魔物相手には出て来ませんから……。団内で代々の団長に恩恵品が受け継がれているんです。それが団名の由来にもなっている【ダンレムの弓】です」


「俺も昔何度か敵に回した事はあるが実際厄介だったな……」


思い出すように話すジグハルト。

このラスボスみたいなおっさんが厄介って言うんだから、相当なもんなのかもしれない!


「俺は味方側でしたが、1度だけ一緒になった事があります。セラ、ルバンの魔法を覚えているか?アレに近い威力だ。地面を抉りながら魔力の矢を撃ち出していた」


「ぉぉぉぉ…………!」


話を聞き興奮で手が震えてきた。

これは遂に俺も何かをぶっ放せるようになるのか……!


「強力なのはわかったけれど、これが確かにそうなの?別物って事は?」


一方セリアーナは冷静だ。

確認するようにそう聞くと、ジグハルトが答えた。


「名前は少し違っているが、恩恵品なんて本当の名前は持ち主以外はわからないし、勝手に付けている場合が多い。ハッタリ効かせる為に傭兵だったら特にな。ダンレムの連中はその弓を売りにしているし、全く関係ないものならそんな縁起の悪い名前は付けないだろう?」


縁起悪い名前なの?

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