第104話
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親父さんとの話を終えると、俺はすぐに屋敷を発った。
休まなくて大丈夫かと聞かれたが、問題無しだ。
そもそも昼夜逆転しているから、あの時間帯が最近一番体調がいい。
と言う訳で、リアーナ領領都を目指してすっ飛ばしてきた。
今後はともかく今違うルートにチャレンジする必要もなく、何事も無くリアーナ領領都に辿り着くことが出来た。
あちらを発ったのが22時頃で、まだ辺りは薄暗い。
行きと同じ位の時間で戻って来れたとしたら、4時位か?
「……どうしよう」
この屋敷で働く皆、朝は早いが、それでも流石にまだ起きて仕事を始めるには早すぎる。
程よい時間になるまで【隠れ家】か、アレクの家で時間を潰すか……む?
屋敷の南館にある丁度セリアーナの部屋辺りで、なにやら光がユラユラと揺れているのが目に入った。
部屋に照明はあるが固定されているし、あんな風に揺れたりはしない。
セリアーナか!
ならばと、一旦上昇し屋根の上から、彼女の部屋の窓まで行くとすぐに開けられた。
「ただいまー」
「お帰りなさい。早かったわね」
中に入ると寝間着のセリアーナが、灯りを持ち立っていた。
声はいつも通りだが、髪が少し乱れているあたり寝起きなのかもしれない。
「起こしたかな?ごめんね」
空から近づいただけで、起きるとは思わなかったな……。
悪いことした。
「気にしなくていいわ。それよりも中へ」
そう言い寝室へ向かうセリアーナ。
それを追って俺も寝室へ入った。
◇
寝室に入り親父さんからの手紙や俺が貰った許可証を渡し、そして俺は【隠れ家】で風呂に入る事にした。
日中はともかく夜中から早朝にかけてはそれ程暑くも無く、コートを上に着ていても汗をかくことは無いが……何というか砂っぽいというか、草っぽいというか……外の臭いが染みついていた。
風呂に入り髪の毛も念入りに洗った事でそれ等は落ちさっぱりしたのだが、相変わらず自分の手には負えない問題が一つ。
「髪どうすっかな……」
未だドライヤー代わりの温風は身に付けられていない。
まぁ、熱と風と二種類の魔法を発動しなければならず、何気に高等技術を要するため無理もないのだが……。
以前はエレナやフィオーラ、最近はテレサに頼んでいた。
まぁ、放置しても風邪をひくような季節では無いが……。
「……出たのならさっさと来なさい!」
リビングからセリアーナの声が飛んできた。
一緒に【隠れ家】に入り、俺が風呂に入っている間親父さんからの手紙を読んでいたのだが、風呂から上がった事に気付いたようだ。
……しゃーない。
彼女に頼むか。
◇
ドライヤーの魔法は使い手の個性が出る魔法だ。
エレナはセリアーナ用に手を加えていったからか、風が強めで水分を飛ばす、まさにドライヤーの様な魔法だ。
フィオーラは……強風だったり水分だけ集めて蒸発させたり、とその時の気分に変えて違う魔法を使っている。
髪を乾かすだけというニッチな魔法に無駄なバリエーションの豊富さを見せる事が出来るのは流石と言うべきか……。
そしてセリアーナは、弱い風で髪を浮かせながら熱を当てていく。
アイロンみたいな使い方だ。
もしかしたら髪にはあまり良くないのかもしれないが、俺には関係無いしうるさく無くて話をしながら出来てちょうどいい。
「お前は内容は聞いたのかしら?」
「いや?通行許可証は見たけれど、それ以外は知らないね」
「そう……まあいいわ。道中で何か問題は?」
「なんも無かったよ。途中街道沿いにオオカミ?の魔物が追いかけて来たけれど……それ位かな?」
「ルートは街道沿い?」
「うん。山とか森を抜ける道は使わなかった。まぁ、昼間なら本気でやれば大丈夫だとは思うけれど、あんま派手なことして人目に付いてもいけないと思ったしね」
各アイテムを抜きにしても、俺の基本戦術は目潰しからの一撃だ。
たとえ山や森の中でも他に人がいたら目に留まってしまうかもしれない。
「……人を見つけたりは?」
「だーれも。街の近くを通過した時も壁の上に見張りもいなかったし……くぁっ」
でかいあくびが出た。
風呂に入って気が緩んだかな?
「魔境からの魔物の襲撃はこの街を中心とした各拠点が引き受けているから、警戒の強度を下げたのね。まあ……いいわ。何?眠いの?まだ明け方よ?」
セリアーナに背中越しでも伝わったらしい。
「ずっと風に当たっているのが結構堪えるんだよね……」
「髪も乾いたし、話は後にしましょう。テレサが様子を見に来るだろうし、私のベッドを使っていいわ」
「むぅ……」
手紙の内容もちょっと気になるが……いざ眠い事を意識すると……仕方ない。
諦めるか!
260 セリアーナside
「ただいま戻りました」
セラの様子を見に行っていたテレサが会議室に戻って来た。
1人で戻ってきたという事はまだ起きていないのだろう。
「セラはまだ眠っていましたか?」
「ええ。ぐっすりと。起こしては可哀想なので声はかけていませんが、まだ起きそうになかったですよ」
確認するようにエレナが問いかけ、テレサがそれに答えた。
明け方に眠りについて、今はもう昼を回ったがまだ起きてこない。
……あの娘は寝る時は半日どころか丸一日眠ったりもするし、たまに様子を見に行かせているから問題は無いか。
「まあ、お腹が空けば起きて来るでしょう。それよりもアレク……揃った事だし始めなさい」
この場には私、エレナ、テレサにリーゼル、オーギュスト、リック更に各副長、副官達。
普段は冒険者ギルドに詰めているアレクに支部長に、名目上はアレクの副官だが、自由に動いているジグハルトにフィオーラと言った、騎士団幹部陣が勢揃いだ。
文官達もいるが、報告の2度手間を避ける為で彼等には今回特に意見を求めることは無いだろう。
「はい。2番隊副長のセラが、一昨日夕方からゼルキス領領都に向けて出発。各街の代官屋敷での休憩を挟み今朝帰還しました……」
前に立つアレクが報告を始めた。
聞かされていなかった者達もいる為かどよめき声が上がっている。
通常片道一週間かかる道程を往復で二日足らずとなれば大違いだ。
ただしそれも正しい情報では無い。
そこから更に7-8時間程引いたものが実際のかかった時間だ。
もちろんそれも姿を見つからない様にと言う制限を解けば、さらに短縮できる。
もっともそれらの情報はこちらで隠しておく。
裏切るとは思っていないが、1番隊も文官達も他領地出身の者が多く、どこから漏れるかわからないからだ。
本人に直接聞く気概があれば本当の情報がわかるだろうが、それも無いだろう……。
「セリア?」
クックッと笑っていると不審に思ったのか隣に座るリーゼルが声をかけて来た。
「なんでも無いわ。それよりそろそろ本題に入るわよ」
そう言い話を聞くよう促す。
元々この会議はセラのゼルキス行きを知る者達だけで行い、今後の領内や隣接領地への単独行動の許可を出す為だったが、お父様からの手紙に書かれていた事で少し予定が変わってしまった。
「ゼルキス領内の複数ヵ所で夜営跡と見られるものが発見されました。そのうち三ヵ所で冒険者らしき者の死体も一緒に見つかっています。まあ、大方魔物に食われたんでしょう」
アレクの言葉に再び会議室がざわめくが、死者が出た事にでは無い。
メサリア東部で夜営をするという事にだ。
大陸西部ではこちらでは信じ難い事に商隊や冒険者が外で夜を過ごすことがあるらしい。
この国でも王都以西で稀にそんな無理をする者もいるらしいが、東部ではまずいない。
戦力を揃えた上で、明るいうちに出て暗くなる前に宿泊先に到着する。
それが基本だ。
夜に街の外に出るのは夜逃げか犯罪者、あるいは冒険者ギルドから依頼を受けた冒険者が夜にしか姿を見せない魔物を狩る時位だ。
今回見つかった死者は冒険者だったが、冒険者ギルドはそのような依頼を出していなかったそうだ。
「アレクシオ隊長、その死体は何者か判明しているのか?」
「全員ではありませんが、数名なら。国内の王都以西で主に活動している者達で、30歳前後です。ただ、王都のダンジョンに挑んだ記録は無く、現場に残った装備の貧弱さから見てもあまり稼げてはいなかった様です」
あまり稼げないと言っても、魔物が豊富な東部。
ダンジョンに潜る事が出来なくても、街や村の周辺の魔物狩りで食っていく事は出来る。
にもかかわらず、無謀な夜営……それも貧弱な装備でとなると……。
「恐らく、東部の各街へ立ち寄らずにリアーナ領へ到達する道を探っているのでしょう」
それもあくまで捨て駒だ。
情報が揃ったところで、本命が動くのだろう。
「なるほど……。開拓村などに潜り込まれたら検問を通過せずとも気づかれない。リック隊長、各村の警備を増やす余裕はあるか?」
「はっ!今も森の哨戒は続けておりますが、最近は冒険者共も無理に奥地を目指さず犠牲者は出ておりません。そちらから人員を割くことが可能です」
オーギュストの問いに答えるリック。
「結構。春には訓練を終えた兵が王都から送られてくる。それまでは今のままで凌いでくれ。手が足りない様なら2番隊の協力を得る様に」
「はっ!」
私の事を警戒しているかもしれないし、直接領都に来る事は無いだろう。
まだまだ当分人手が足りなくなりそうだ。
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