第100話

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「ほっ!はっ!たっ!」


目潰しからの【緋蜂の針】の蹴りでオオカミの群れのリーダーを潰し、視力が戻る前にさらに2頭3頭と首を刎ねて行く。


取り逃がす事は無いから魔物同士で情報の伝達は出来ない。

俺の臭いを覚えればもしかしたら死臭と合わせて警戒するようになるかもしれないが……。

毎度回収に人を呼んでいる。

それが上手くカムフラージュになっているのか、俺自身の弱さと相まって未だ魔物は無警戒に襲って来て、初手で逃げる事をしない。


「んー……生きているのはあいつ等か」


一通り振り回した後高度を取って下を見渡すと、俺が倒していないオオカミ達も倒れている。

生き残っているのは……シロジタが攻撃した分かな?

まだ倒し切れていないが、それでも行動不能には追いやれている。


「よいしょと……」


動かないそいつらの首を刎ねていき、辺りを見渡すが何も無し!


「……もう少し摘んでもいいけど……これ位でいいかな?……ふらっしゅ!」


袋の中には採集した薬草が十分ある事を確認し、全力で魔法を撃ちあげる。


領都の側の森の浅瀬は、街の兵士達が採集を行っているが、今いる場所は街の東に建設途中の拠点から踏み入った場所だ。

距離はあるが俺にはあまり関係無いし、魔物の処理も拠点の防衛についている兵士に任せる事が出来る為、実質俺の専用採集地になっている。


「……中々反応無いな」


少し距離がある為、一回じゃ気づかれない事もあるが……。


「お」


もう一発撃とうかと迷っていると、ピーっという笛の音が聞こえた。

この感じだと10分そこらでやって来るな。



「よう副長!」


「セラ副長ー!」


冒険者ギルドの中に入るとすぐにあちらこちらから俺の事を呼ぶ声がする。


「うっせーバーカ!」


俺のこの返しも含めて、もはやお馴染みとなった光景だ。


夏の3月半ば。

副長に就任してもう一月程になるが、特にやっかみを受ける事無く受け入れられている。

アレクが隊長であることと、副官のテレサが元親衛隊である事も理由だろう。


「おう副長。薬草か……毎回悪いな」


カウンターに持って行こうとしていると、騒ぎを聞いたのか支部長までやって来た。


「あんたまで……暇なん?」


「いや、ちょいと真面目な話だ。中にいいか?」


親指で奥にある支部長室を指し、聞いておきながら返事を待たずに歩いて行った。


「いいけど……なんだろう?あ、これお願い」


薬草の入った袋を受付に渡し、後を追った。


「なんか不味い話?」


「不味い話ってわけじゃないし大したことでも無いんだが、あまり広まって欲しくない話だな。さ、入ってくれ」


すぐに追いつき、何の話をするのか聞いてみたが……なんじゃろう?

不思議に思いつつ部屋の中に入る。


「相変わらずごちゃついてるね……」


「まだ人が足りないからな……。ま、職員も増やしてくれるらしいから、それまでの我慢だな」


何度か入った事はあるが、毎度の事ながら所狭しと本や書類の山が出来ている。

山賊のような見た目なのにデスクワークに追われている姿を想像すると、笑いそうになるな。


「で、どうしたの?」


席に着いたのを待って、呼ばれた理由を聞いた。

地図を広げてその上に駒を置いている。

浅瀬から少し奥に入った所ばかりだが、何かの目撃情報かな?


……大物か?


「そこはハチの巣が発見された場所だ」


……ハチの巣?


「ハチと言っても虫じゃなくて、魔虫……魔物だな。地面に泥で作るんだが、それが駒を置いた場所で発見された」


「……ほう。魔物だし普通の蜂よりは大きいんだろうけれど……何かそれが問題なの?」


「それ自体は大した問題じゃない。ただ、例年だとこの位置じゃ見られないんだ。クマやオーク等の大型の魔物が巣を潰しているからなんだが、今年は残っている。昨年の襲撃で大型の魔物の生息地が少しずれたんだろうな……そのうち戻るはずだが、1-2年はこのままかもしれない」


「……そりゃ大変だ」


生息マップは大事だ。

森で想定外の魔物とバッタリなんて事態は命に係わる。


「そうだな。だが、これは今までもあった事でそこまで問題じゃ無いんだ」


「?」


なら何が問題なんだろう?


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「春頃に薬草採集のついでにお前さんに新人達の面倒を見てもらっただろう?」


「面倒見たって程じゃ無いけれど……」


【祈り】撒いてレーダー役を務めていたが、面倒見るというよりは即席パーティーって感じだった。


「十分だよ。そいつらの中で死者は出ていないからな。ただ、他所で経験積んだ奴等がな……大型を狙ってどんどん奥に行っているんだ。実際それで稼ぎを上げている奴等もいるが、春から既に10人以上死んでいる。そして、ここに来てまだその大型が戻って来ていないだろう?馬鹿が死ぬ分には構わないんだが……この分だとまだまだ増えそうなんだ」


「あー……結婚とか新領地とか色々お祝い事が重なってるからね……死者はあんま出て欲しくないか」


領民を守るってのは領主の役目の一つだ。

その死者の中に領民が含まれているかどうかはわからないが、結婚したばかりなのに領内で死者が出まくるのは……。

セリアーナが不機嫌になるか大笑いするか……どっちだ?


「五分五分だね……」


それだけで伝わるのか頷いている。

ちなみに俺の予想は、大笑いした後不機嫌になる、だ。


「だろ?これがダンジョンならいくらでも介入できるが、外じゃな……」


困ったような顔で頭をかいている。

まーなー……冒険者に魔物を追うなとは言えないし、気を付けろって言っても、そもそもそれを聞くような奴なら死ぬような事態にはならない。


「オレはどうしたらいいの?」


わざわざ呼んだって事は愚痴るだけじゃなく、何かやって欲しいことがあるんだろう。


「お前なら領主様か奥様か、どちらかに話を聞かせられるだろう?で、後でその様子を教えてくれ。そうすりゃ冒険者に注意をする口実が出来る」


「そりゃどっちにも話は出来るけれど……それだけでいいの?」


「それで十分だ。領主夫妻も冒険者の死亡者数が増えている事を気にされているってな。今のままでいいのなら何も言わないだろうしな」


判断は丸投げにするのか……。

まぁ御機嫌伺に近いしそんなんでいいんだろう。

ただ……。


「アレクに言わなくていいの?」


最近忙しそうだけれど、冒険者絡みならアレクの出番だと思う……。


「あいつは隊長だからな……そこまで持って行くと事が大袈裟になる。話を聞かせる分には構わないが、領主夫妻に伝えるのはお前がやってくれ。それにあいつは今領内の戦士団の編成に動いてもらっている。領都内の事は俺達の仕事だ」


俺達ってのは俺も入っているのか……。


「そか、わかった。まぁ俺なら雑談で済ませられるかな……?」


ここは副長サマが一肌脱ごうじゃないか。



支部長との話を終えて冒険者ギルドから出るべくホールを通ると相変わらず賑やかなままだ。


「よー、セラ副長」


そこを通り抜けていると、声をかけられた。

見送りに支部長も来ているのに、声をかけて来るとは中々の猛者。


「シャーっ!」


両腕からアカメ達を出し威嚇をすると、相手も降参といった具合に両手を上げる。

名前は知らないが、ここで何度か顔を見た事のあるおっさんだ。


「少し話があるんだが、いいか?」


「ぬ?いいけど……」


このパターンは初めてだな。


「セラ、あんた歳はいくつだ?」


「今年で11だよ?」


聞かれたので答えたが……なんだこの質問?


「……そうか」


そう呟き何やら考え込んでいる。

何だろうと支部長の方を見るが彼も思い当たる様子は無い様で首を振っている。

数秒ほど固まっていたが、考えが纏まったのか顔を上げた。


「俺のガキが今12なんだが、冒険者になりたいらしいんだ。外で狩りをやらせるのはどう思う?」


それは何とも……。


「人の家の事に口出しはしないけれど……死ぬんじゃないかな?」


「だよなー……」


額に手を当てまいったなーといった様子だ。

ついさっき大人の冒険者も死にまくっていると聞いたばかりだ。

子供にねだられでもしたのかも知れないが、ちょいと危険過ぎるな。


「お前この街の生まれだよな?それで子供が冒険者になりたいって言っているのか?」


「ああ……だから、まあ……何とかならんかなって」


支部長とおっさんが何か分かり合ったのか神妙な顔をしている。

かと思ったら、こちらを向き口を開いた。


「なあ、もう一つ頼まれてくれないか?」

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