第89話
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ダンジョン入口は冒険者ギルドの地下にある。
これはどこのダンジョンもそうなっているそうだ。
ここ王都のギルドも当然そうなっている。
そして、地下に降りてすぐの受付前はちょっとしたロビーの様になっていて、ダンジョンに潜る直前、あるいは帰還後の話し合いが行われる事もある。
ただ、緊張、興奮した状態の者も多く、ダンジョン内での冒険者同士の争いが重罪であることから、ちょっとした諍いが元でここで暴れる者も少なくない。
その為、天井を高くとり、さらに天井の照明付近の傾斜の付いた壁に鏡が貼られ反射させ、明るくなるように工夫がしてある。
薄暗いより明るい方がケンカは起こりにくいもんだしな……。
ただ、実はそれだけでは無かった。
その鏡と思った物……反対側からは鏡ではなくガラスの様に見える、所謂マジックミラーの様な物だった。
そして、その裏に何があるかと言うと、ギルドの資料室から入る事が出来るVIPルームだ。
前世の劇場の貴賓席といった感じだろうか?
壁一面がマジックミラーで、部屋側からはロビーの様子を見下ろすことが出来る。
ここも資料室の一部に含まれていて、ダンジョンや周辺地域の魔物はもちろん、年代ごとの冒険者や魔王他帯出禁止の各種目録が置かれているが、ただの贅沢な資料室というわけでは無い。
では何の為に使われているのかと言うと、貴族が冒険者を専属契約する際の素行調査の一環で使われている。
直接貴族が名乗って面談をしても、その冒険者の本性は見えてこない。
仮に契約をした後で大問題を起こされた場合、放置しても、裁いてもどっちにせよ自分の見る目の無さを喧伝するだけだ。
そんな事態にならないようにと、冒険者の素の状態が出やすいロビーでの素行をここから観察している。
特にこの国は貴族の利用が多いらしい。
自分の見る目を信じる!
とかそんな事をしない堅実さが、なんというか……この国の貴族っぽい。
腕が立ち、経験豊富なのにいつまでたってもお声がかからない場合は、そこで撥ねられている場合が多いらしい。
この部屋の存在は隠されていて、タイアー達はもちろん、アレクも知らなかった。
俺も鏡が貼ってあることは知っていたが、わざわざ覗きに行かないし裏側の事は全く気付かなかった。
ダンジョンがある各地の冒険者ギルド内には、内装は違っても似た様な部屋が用意されているそうだ。
その地の領主か、王家の許可を得たものだけが利用できる様になっている。
そして、王都にあるここを利用できるのは、王家の許可を得たものだけで、俺達の場合はつい先日の王妃様とご対面というドッキリを食らった報酬だ。
「急に呼びつけてごめんね?何かお詫びしないとね」
「では、こんな事を……」
そんな感じだったらしい。
まぁ……体裁が大事なのはわかるが、もう少しマイルドな方法をとって欲しいんだけれど……。
◇
「お!あいつらまだ生きていたのか」
「どいつよ?」
「あそこのデカいハゲんところだ!ダンジョンよりも国境付近の外での活動がメインの連中だったがなぁ……いつの間に来ていたんだ?」
などと盛り上がっているタイアー達。
アレクも目録を見比べながらだが、楽しげだ。
親しい相手ならまだしも、中々冒険者同士あまりジロジロ観察することは無いから気持ちもわからなくは無いけれど……。
「セラ、お前はどう見る?」
「ぬ?」
お声がかかったので俺も見てみようと、寝転がっていたソファーから体を起こし、窓辺に向かってみる。
アカメとシロジタの目と、さらに【妖精の瞳】を通して、件のデカいハゲを見ると……うん……マッチョだ。
魔力はほとんど無く、ひたすら身体能力を鍛え上げた感じだ。
「超強い一般兵士って感じかな?恩恵品は持っていないみたいだよ。後魔法も使わなそう」
「そうか……。確かに国内で長く活動する冒険者は当てはまらないか。となると、やはり外国か……」
そう言うと資料棚に向かい何冊かの本を抜き出した。
冒険者目録かな?
「まあ、日数に余裕はあるからな。焦らず休養がてらやっていこう」
戻ってきたアレクがテーブルに置いたものは、国内の野盗の討伐記録だ。
……仕事か趣味か微妙なラインナップだな。
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「どうぞこちらを。お嬢様と皆さまで召し上がって下さい」
そう言いバスケットを置いて執事さんは部屋を出て行った。
「……最近昼飯には困らないな」
「酒が飲めないのは残念だがな!」
そう言い、偉そうにふんぞり返っている俺を他所に、皆で食事の準備を始める。
「今のところもセラ嬢が治療したのか?」
「うん。内容は教えないけどねー」
ちなみに出て行った執事は王都で働く子爵家で働いている。
その家のお嬢さんが近く婚約をするのだが、足に火傷を負っていたことを親にも隠し続けていて、ポーションを使ったりと自分で治療しようとしていたが、効果があまり出ず、親に泣きつき最終的に俺まで話がやって来た。
領地こそ持っていないが、現当主は中々優秀らしく、繋がりを持っておくと便利らしい。
この国では男性はもちろん、女性も戦闘で負った傷ならそこまで忌避されることは無いのだが、彼女の場合は魔法の自主練習が原因だった。
それはそれで立派な事だと思うが、この場合だと自身の未熟さ、危険への認識の甘さが問題になってしまうらしい。
ポーションで治療を続けていた事もあり、範囲こそ広かったが障害と言えるレベルまでは行っておらず、【ミラの祝福】で無事元通りにする事が出来た。
どれ位まで治せるかがまだわかっていないからな……無事治せて良かった。
「ほら、苦手そうな物は除けておいたぞ」
俺の分を取り分けたアレクが持って来た。
VIPルームは俺達がいる部屋以外にも複数ある。
数えたわけじゃないからはっきりはわからないが、広さを考えると10部屋くらいかな?
恐らくそのお嬢さんの専属冒険者を探しに来ているんだろう。
今日は隣の部屋に両親と一緒に詰めている。
この部屋を使うようになってから、似た様な事で挨拶に来る者が増えたが、いつの間にか昼食を持ってくるようになっていた。
味もいいし、わざわざ出かける必要もなく助かっている。
「セラ嬢は来週から王宮に行くんだっけか?」
「王宮じゃなくて離宮だね。お嬢様の側に貼り付く仕事。式までは屋敷でのんびりする予定だったんだけどね……」
「なら俺達もここに詰めるのはもう終わりか?知っている奴を見つけても意味が無いんだろう?」
「俺達が知らない腕の立つ冒険者が潜り込んでいないかを探すことが目的だったからな。俺達でも雰囲気程度は掴めるが、やはりセラ抜きじゃ難しい。ま、その間俺は休暇だな。代わりに屋敷でゆっくりさせて貰うさ」
そう言いアレクも食事を始めた。
ここで冒険者談義しながらダラダラ過ごすのも結構好きだったんだけどなー。
◇
「結局見つからなかったねー」
「そうだな。ここまで来ると、冒険者としては入り込んでいないんだろうな」
VIPルームに詰めて10日程。
目につく者達はいなかった。
このやり取りも冒険者ギルドから屋敷への帰り道で何度かやったもんだ。
それも今日でラスト。
王都への新規の出入りはすべてチェックされているし、街中でもその姿を捉える事は出来ず、これはもう冒険者の中には居ないな……と言うのが結論だ。
「何か動きそうだと目を付けていたところも全く動きが無いままだし、これは陸路のどこかに戦力を張らせていたんだろうな」
「王都に戻って来るかな?」
「いや、ルトルに向かってそちらで合流するだろう。どこを拠点にするかはわからないが、そのまま機会を待ち続けるはずだ」
「ご苦労なこったね……」
「全くだ……。まあ明日からも冒険者同士の交流は続けるから、探りは入れ続けるが……お前も無理をしない程度に警戒は続けておいてくれよ」
夏の1月、第2週がもう終わる。
第3週から戦技会の予選が始まる。
それの優勝者とその推薦者はセリアーナ達の結婚式に出席出来るらしい。
王族の式だし、よくわからんが名誉な事なんだろう。
大分盛り上がっているそうだ。
それもあって、念の為セリアーナの守りを固めようと、俺も離宮に泊まる事になってしまった。
これ以上外を警戒するより、内側を固めようって事なんだろう。
素手の俺なんて役立たずもいい所だが、アイテムの持ち込みも許可されている。
ドッキリの報酬第2弾だ。
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