第79話
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襲撃から2日後。
ようやく一連の被害状況のまとめや討伐した魔物の死体の回収が終わった。
まずは、ルトル以外の被害状況。
これはほとんど無かった。
魔物の大半がルトルに集中していた事。
多めに援軍を送っていた事や、開拓村内にも冒険者が多く駐留していた事で戦力に余裕があり、そして、発見が早く先手を打つことが出来た事が挙げられた。
南の拠点は他所に比べて、川沿いにそちらに流れていく魔物が多数いたが、ルバンが大活躍したとかでむしろ一番被害が少なかったらしい。
今回の件で確固たる地位を築いたし、万々歳だろう。
で、我が街ルトル。
重軽傷者は多数出たものの、死者はゼロ。
そして街や街の西にある農業地帯も被害ゼロ!
強いて言うなら、惜しみなく消費した上に他所へも大分送ってしまったから、ポーション在庫が乏しくなった事だろうか。
死者がゼロで済んだのはそのお陰でもあるが、ある程度在庫が補充されるまでは冒険者達の活動は控えてもらうよう言ってある。
幸い冬という事もあって、そこら辺は大丈夫だろう。
次に成果。
倒した魔物の数は600体近く。
討ち漏らした分も加えるとさらに増えるが、この被害の少なさは快挙と言っていい。
全てが綺麗に倒せているわけでは無いから、使える物は半分かあるいはそれ以下になるが、それでも流石にこの街の職人だけでは手が足らず、隣の街や領都にも応援を要請している。
まだここはゼルキス領の為、今回の利益全部を独占する事は出来ないが、その分利用できるものは全部利用するつもりらしい。
職人達は冬の間の大仕事が、商人達は今冬は間に合わないが、魔境産の革製品を大量に仕入れる事が出来る。
重傷者は教会が運営する治療院ではなく領主主導の救護院に運ばれ、そちらで治療を受けている。
従来だと、代官と冒険者ギルド、そして教会の3者で事に当たっていたが、教会は今回完全に省かれた状態だ。
これで死者が大量に出ていれば介入できただろうが、それはゼロ。
回復魔法を使える者も自前で揃えられ、更にセリアーナにエレナとフィオーラが治療の手伝いに出向いている。
救護院で治療を受ける事は絶対では無く、治療院で受けても構わないが、どうせなら一緒に戦った側で受けたいと思うのが人情だろう。
おまけに、街で名の知れた上流階級の美女3人が手伝いをしている。
まぁ……行くよね。
それが駄目押しとなって、重傷者はもちろんポーションで治った軽症者も念の為にと救護院へ治療を受けにやって来た。
完全に教会は蚊帳の外だ。
それが何を意味するかと言うと、今作戦で冒険者達が得た聖貨を買い取る機会を失うという事だ。
合計で50数枚程の聖貨を得たそうだが、中にはガチャの為に貯める者もいるだろうが、皆がそういう訳ではない。
しっかりアピールして来たらしいし、昨日だけですでに20枚近くの買取を済ませたそうだ。
更なる買取を目指して、今日も張り切って救護院に向かっていった。
乗り切れたから言える事だが、トータルとしては大分プラスになる見通しだ。
◇
目を覚ました。
窓の外を見るともう日が暮れている。
二度寝にしては本気を出し過ぎたか……。
モソモソ布団から手を出し額に手を当てる。
「ふむ……」
うん。
多分平熱。
襲撃の翌朝、熱を出しそのままダウンしていた。
厚着していたとはいえ、冬の夜にずっと外で風に当たり続けていたのは良くなかったらしい。
朝はまだ熱があったが、もう体にだるさも残っていないし、大丈夫かな?
しかしセリアーナ……いい布団を使っている。
この2日間、彼女のベッドの隅っこで寝ているのだが、婚約祝いやらで色々もらっていた中の一つだったと思うが、領都や王都で使っていたのよりもずっといい。
「……みんないるか」
壁越しに隣室の様子を見ると、一同御揃いの様だ。
ソファーにかけている所を見ると雑談している模様。
自分の恰好を見ると寝巻だが……まぁ、今更だ。
これでいいか。
「おはよーっ!」
ベッドから降りてすぐの所に置いてある【浮き玉】に乗り、寝室から出て行くと既に俺が起きている事に気付いていたのか驚いた様子は見えなかった。
驚かし甲斐が無い連中だ……。
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「熱は下がっているね」
近寄ってきたエレナが額に手を当て、そう言った。
「うん。ちょっと疲れただけだよ。それは……地図?」
皆が囲んでいるテーブルを見ると地図が広げられている。
それも街や領内のではなく、森のだ。
「ああ。今開拓を進めている一帯のだな。倒した魔物の数は聞いたか?あれだけ倒せば流石に一時はこの周辺が空白になる。昨日今日とで一気に終わらせたんだ」
「走り回るのは若いのに任せたかったんだがな……」
アレクと一緒にジグハルトも行ったのか。
一晩中戦ってたのに、ご苦労な事だ……。
「何かわかったの?」
数が多いとはセリアーナも言っていたが、俺にはそれくらいしかわからん。
「失礼します。お食事の用意が出来ました」
俺の問いに答えようとアレクが口を開きかけたが、ノックと共に入ってきたメイドさんに遮られた。
「続きは向こうでしましょう。セラ、お前も来なさい」
「ぬ?」
俺も食堂に?
と疑問に思い思わず声が漏れるが、セリアーナはそれを無視してさっさと立ち上がり部屋を出て行った。
◇
この屋敷には本館に食堂が第1から第3まである。
第1は第1会議室と同じくらいの広い大部屋で、大勢の人間が集まった時に使われる。
らしい。
掃除の手伝いで出入りする事はあったが、俺がこの屋敷に来てからまだ一度も使われていないので、どんな感じなのかよくわからない。
第2は中部屋。
10数人で利用する事を想定した楕円型のテーブルが1台置いてあって、ちょっとした会食なんかにも使われている。
ここは週に2-3度の頻度で使われている。
第3は部屋の広さこそ変わらないが、少数での利用を想定していて、主にセリアーナとリーゼルが2人で食事をする際に使われる。
利用度で言えばここが一番多い。
それ以外、例えば俺達と一緒に食事をとる時等は自室を使っている。
そして今いるのは第2食堂。
中で待っていたのはリーゼルにオーギュストとルバンそれに知らないおっさんだ。
「待たせたかしら。ごめんなさいね?」
「いや、僕達は本館にいたからね。気にしないでくれ。……セラ君もいるのか。もう体はいいのかな?」
全く悪びれていないセリアーナを笑顔で迎えている。
俺の様子を聞いてくるあたり体調を崩していた事を知っていたらしい。
それにしても……この屋敷での俺の立ち位置ってどうなってんだ?
「あ、はい。もう大丈夫です」
「この娘も同席させるわ」
「わかった。用意させよう」
そう言い部屋にいた使用人に指示を出した。
アレクはルバン達と話をしているし、ここで話の続きをするのかな?
◇
肉肉たまに野菜そしてまたお肉。
晩餐はこんなメニューだった。
病み上がりにはなかなかヘビー。
食堂の隣にある談話室。
そこのソファーでセリアーナの膝を枕に膨れた腹を抱え横になっている。
量は少なめにしてもらったんだが……動けねぇ。
「大丈夫?」
「なんとか……」
「……私の半分程度の量なのに、病み上がりを抜きにしてもお前は普段から食べる量が少ないのよ。ちゃんと食べないと大きくならないわよ?」
「ごもっとも……」
普通に説教をされているが、病み上がりかつ寝起きの俺を連れてきた自覚があるのか、口調にとげは無い。
そして、そんな俺達を見て驚いているルバン達3人。
割とよくある光景なのだが、彼等からしたらそうでは無いんだろう。
ルバンやオーギュストも、ここまで砕けた接し方をしているとは思っていなかったようだ。
特に初対面のおっさん。
ウェイブ・カレントというそうだが彼は一際驚いている。
遠縁だが、ミュラー家に連なる家の者で、セリアーナの事も幼いころから知っているそうだ。
口を開け閉めしたり手を上げ下げしたりと、落ち着きがない。
大方俺を窘めるかどうするかで迷っているんだろう。
このおっさんは北拠点の指導者で正式に街となったら代官になる。
ルバンの同僚の様なもので、ともに今回の件の報告に呼び出されたらしい。
まぁ、既に受けているのと大差は無く、彼らの質問に答える事の方が多かった。
拠点としてそれなりに機能は有していても、やはりこのルトルに依存しているから、不安だったんだろう。
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