第77話

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「ふっ!」


アカメの目と【妖精の瞳】を発動し、森の方を見てみるが……わからん!

戦闘を行いながらもその笛の音は聞こえた様で、周りは浮足立っている。

その場で足を止めている者が多い。


魔物が戦い方を変えてきたタイミングだし、ちょっとまずいかも。

森から距離があるし、ジグハルトにぶっ放してもらうべきか……?


「落ち着け!俺が当たる。問題無い!」


と、アレクの声が響いた。


そんなに大きい声でもないのによく届くし、それを聞き何か落ち着いた……。


「あ……【猛き角笛】か……」


「魔物の数は残りわずかだ!押し切るぞ!」


次いで、騎乗し戦場を横断するようにしながらのオーギュストの声も響いた。

さっきのアレクの檄と同じ感じがするが、もしかしたら彼も持っているんだろうか?

王都の訓練場で使った時はよくわからなかったが、こう作用すんのか……。

周りを見ると同じく冷静になったようで、また魔物との戦いを再開している。


なにはともあれ、立て直しに成功した様だ。

それなら俺はどうするか……アレクの援護に回るかな?



「アレーク!」


「セラか⁉」


森の方に向かって走るアレクとその一行を発見し並走するように高度を落とした。

一緒にいるメンバーは冒険者ギルドで何度か見た事のある面子だが、装備を見るに全員どうも近接主体の様だ。


こいつら……これでやる気なのか?

マジかよ……という思いを隠せないが、まぁ、何か切り札の様な物があるのかもしれないな。


「上から様子を探ってくれ。方角はわかるが距離まではわからない。俺達で止めたいが、出来れば森の外で迎え撃ちたいんだ」


「了解!」


アレクの指示を受け一気に高度を上げた。


さっきまでも一応森の警戒は怠ってはいなかったが、距離があり過ぎると集中しないと今一上手くいかず、ボスの姿を捉える事が出来なかった。

今なら近づいているし方角もわかる。


さぁ!どこだっ⁉


……いたわ。


「アレクっ下がって!南からだ!」


森の中で多分500メートル位まだ距離があるが、正面やや南寄りからこちらに向かって、木をなぎ倒しながら突進してきている。

地上目線だと木に遮られてわからなかったが、上からだとその様子は一目でわかった。


……デカい。

そして速い!


木をなぎ倒す音とともにそれが近づいてくる。

全く足を緩める気配が無くこのままぶつかると、単純に質量差で吹き飛ばされかねない。


俺は逃げるぞ?


「位置とデカさはっ!」


「もう森を抜ける!後クソデカい!」


それを聞き、アレク達は足を止めた。


「ここで止める!行くぞっ!」


逃げずに迎え撃つつもりなのか、アレクを先頭に各々構えを取り声を上げ気合を入れている。

覚悟は決まっている様だ。


俺は決まっていないが、残念ながら待ってくれない様で森の端の木が吹き飛び、クマさんが姿を現した。



俺が今まで見た中で一番大きな魔物は王都のダンジョンで見たウシの魔物。

軽トラ位のサイズで、アレは大きかった……。


このクマは……大型バスくらいかな?

観光用のあの大きなバス。


「来るぞっ!」


一直線にこちらに向かってくるクマを見て声を上げるアレク。

盾を背中に背負って、魔人の棍棒を両手で構えている。


【妖精の瞳】で見ると、割合は緑が多いが赤も見える。

この色合いは魔物だ。

そして、その巨体に見合う強さ。


ただし、魔王種ではなくただの魔物。


「こんなのがいるのか……」


やる気になっている脳筋達にあてられたのか、ついつい俺もクマの後方に回り込んでしまったが、これどうすりゃいいんだ……?


【影の剣】じゃ多分刃が短くてダメージは与えられない。

根元まで刺したり、ザクザク切り刻んだり、頭部やいっそ正面に回って心臓を狙えればともかく、これ相手にそんなことできるセンスは俺には無い。


寒いからって【緋蜂の針】を外してタイツとブーツを履いてきたのは失敗だったかもしれない。

ポーションの運搬に備えて傘も置いてきたから目潰しも出来ないし……。


「ほっ!」


とりあえず【祈り】のかけ直しをしたけれど、……どうしよう。

俺強い相手には弱いんだぞ?


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クマを上から追尾すること10数秒。

いよいよ接触という所で、アレク達が動き出した。


「はあっっ!」


確か斧を持っていたはずの1人が、何処から出したのかハンマーの様な武器に持ち替え、気合と共に地面に叩きつけた。


何故?


そう思ったが、すぐに理由がわかった。

叩きつけた場所から地面が波打つように隆起し、背後にいるので見えはしないが、恐らく顎に直撃したのだろう。

クマの頭部がかち上げられた。


「アイテムかスキルか……」


土か地面に作用するんだろう。

これなら直接ぶつかる事無く足止めが出来る。


間髪入れずに残りのメンバーが走り出している。

体勢を立て直す前に追撃を入れるんだろう。


「オラァッ!」


まずはアレクが隆起した地面を足場に飛び上がり、頭部に棍棒を叩きつけた。

クマは首が太く人の様に頭を殴られたからと言って、脳震盪を起こしにくいと何かで読んだことがあるが、【祈り】もかかっているし流石にダメージは入ったはずだ。


さらに他の仲間も槍や斧で後ろ脚を刺したり切りつけたりしている。

それ自体はダメージにはなっていないようだが、嫌がらせとしては機能している様だ。

立ち上がり前方を薙ぎ払おうと腕を振り上げている。


この巨体が立ち上がると物凄い迫力だ。

余裕を持って高度を取っているが手を伸ばせば触れる事が出来そうな……。


「あ……いけるわ」


クマの注意が前方に行き、やや前傾姿勢の為、頭は狙えないが背中はがら空き。

通じるかわからないが、この隙は逃せない。


「たっ!……ぉぅ」


【影の剣】を発動し、その隙だらけの背中に突き立てた。

と同時に、非常にまずい事も理解できた。


体格差を考えると、少しぶつかられただけでも死にかねないので、突き刺す長さは用心の為半分程度にしたのだが……。

これでも今まで色々な魔物を貫いてきた。

だからこそわかる。

内臓はおろか、筋肉にも到達していない。


こいつは俺じゃ倒せない。


下を見れば、距離を取って攻撃を躱しているが、こちらも攻撃をする事が出来ない。

少人数で当たるんじゃなくて、大人数で囲んで延々攻撃を続けるのが正解だったか……?

アレク達も互いに声を掛け合い何とか牽制を続けているが、どうにも決め手がない。


相変わらず背後は無警戒だが……いっそ頭部を狙ってみようか?

いや……これだけ激しく動かれていると無理だ。

やっぱ背中を……。


クマの頭上5メートル程の所を漂い、そんな事を考えていた時だ。

正面遠くの、丁度本陣がある辺りが篝火ではなく、何かが一瞬だが強い光を放った。


光が見えたら上に退避。


以前ジグハルトに一緒に行動する時に気を付けることを聞いた際、そんな事を笑いながら言っていたことが頭に浮かび、慌てて上昇した。


数メートル程さらに上昇したところで、再び先程の場所に光が灯った。

今度は合図の為の閃光じゃなく、ジグハルトの攻撃魔法だ。


そう認識した瞬間、ぶっ放されたそれが俺の足元数メートル下を貫いていった。


「あっっつぁ⁉」


通過していった魔法を追って後ろを見ると、徐々に細くなりやがて消えたが、1の山近くまで軌跡があった。


今までも何度か間近でジグハルトの魔法を見た事はあるし、すぐ側を通過していったこともある。

ただ、それらは多少熱を感じる事はあっても、精々その程度で、皮膚を焼くような熱さを感じたことは無かった。

まして今は厚着をしている。


「はっ⁉」


驚きすぎて気を取られてしまったが、そう言えばクマと戦っている最中だった。

今の魔法はクマを狙ったんだろうが、どうな……。


「……マジか」


再度振り返ると、力が抜けたようにゆっくりと倒れ落ちていくクマの姿が見えた。


「一撃かぁ……」


さらによく見ると、頭部が切り離されている。

胴体にも大きな痕は無いし、首を穿ったんだろう。

どんな精度と威力だったんだ……?


周りの冒険者達もそれが目に入ったようで戦闘中であろうに歓声を上げている。


本陣の方を見ると、何かポーズをとっているジグハルトの姿が篝火に照らされていた。

斜め上に魔法は発動していたし、森にかからないように櫓から降りて地上から撃ったんだろう。


もしかして俺達って狙撃の邪魔だったんだろうか……?

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