第49話
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俺とジグハルトの両極端なガチャを終えたその夜。
つい先程報告会も終わり俺は【隠れ家】にいる。
明日は城の敷地内にある騎士団の訓練場で【竜の肺】の検証に立ち会うから、早く寝るべきなのだろうけど……。
『セラ、入れて頂戴』
セリアーナの声が【隠れ家】内に響いた。
訓練場の使用についてじーさんの所にエレナと一緒に行っていたのだが、戻ってきたようだ。
中へ迎え入れる為に、玄関まで行きドアを開ける。
許可を出せば勝手に入れるようになれば便利なんだけれど、なんかそんな機能は無いんだろうか?
「どーぞー」
「お邪魔するね」
2人が中に入って来るが、エレナは何か書類の様な物を持っている。
「それが申請書?」
「そうだよ。ヴィーラ殿が伝えてあるから大丈夫だろうけど、念の為にこちらでも用意しておいた方が良いからね」
「へー……」
渡された申請書を見るが、中々細かく書いてある。
王城の敷地内にあるから無理も無いのだろうが、訓練場を使用する人数や名前、持ち込むアイテムの名称、形状等々……結構な機密情報だ。
地方と違って王都圏だと、中々アイテムやスキルの検証をできる場が無いから、どうしても騎士団の訓練場を使う事が多い。
そして、その使用許可を出すのは申請者の出身地から出向している領主の一族。
ミュラー家の場合はじーさんだ。
この制度のお陰で、国にも領主にもアイテムやスキルの詳細が知られる。
「あれ?」
よく出来てる……そう思いながら申請書を見ていたが、あることに気づいた。
「ねぇ、これ、オレの【浮き玉】とアレクの【猛き角笛】しか書いてないよ?【竜の肺】は?」
使用者はオレ、アレク、ジグハルト、フィオーラと合っているが、アイテムが違っている。
肝心なのが書いていない、
「申請書は人目に付くこともあるから、それでいいのよ」
……この制度は穴があるね。
「アレクやフィオーラなら上手くやるでしょうから、2人の言う事をよく聞くのよ」
「……はーい」
あの2人なら慣れてそうだもんな。
「ところで、何をしていたの?随分と色々広げているようだけれど」
「手入れをねー」
リビングに移動してきたセリアーナが、部屋を見て何をしていたのか聞いて来た。
まぁ、普段俺は本を散らかすことはあっても、それ以外は広げることは無いからね。
で、何を広げていたのかと言うと、アイテムの手入れの準備だ。
別に雑に扱っているつもりは無いのだが、昼間のジグハルトを見てしまうと、少し手入れ位はしようかなと思ってしまった。
「そう。邪魔はしないから続けて頂戴」
納得したのか、そう言い本棚から本を取って、半ばセリアーナの席と化している1人掛けのソファーに座り本を読み始めた。
エレナは何やら書き物を始めている。
2人の事は放っといて、手入れを始めようかね。
とは言っても、どうしようか。
一応【隠れ家】内には武具の手入れ道具なんかも用意しているのだが、そもそも俺のアイテムはどれもそのままの形で直接切ったり殴ったりするような物じゃない。
刃こぼれしたり歪んだりはしないだろう。
それなら汚れを落として、磨いたりする位かな?
◇
手入れを始めてから、多分20分位経ったと思う。
身に付けている物を外し、ブラシで埃を落としてから、濡れた布で拭いてから更に乾いた布で磨く。
物がアクセサリーなだけに、そんなに本格的な事じゃない。
しかし……これは意外と楽しい。
血や油などは付着していないが、細かい細工が施されているからそこに埃が詰まっていたりして、それを搔き出したりと、チマチマした作業なのだが、苦にならない。
裁縫はミシンが無いから断念したが、意外と向いているのかもしれないな……。
「セラ、お茶が入ったよ。休憩したらどうかな?」
「はーい」
【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】は終えたから、後は【浮き玉】か。
これはもう磨くだけでいいかな?
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「興味あるの?」
「そうね。何で浮くのかしら?」
手入れ道具を片付け、皆でお茶を飲んでいるのだが、セリアーナの視線は【浮き玉】に向いている。
そういえば【隠れ家】の中でも俺が乗っている事が多いから、【浮き玉】だけを見る機会はそうそうないはずだ。
強いて言うなら、覚えていないけれど魔人と戦った後、俺が力尽きていた時位だろうか?
「使ってみる?」
「あら、ありがとう」
使ってみたい!って目をしているからね……。
一応俺の生命線でもあるけれど……まぁ大丈夫か。
今更俺を始末したりはしないだろう。
「手、貸して」
「ええ」
俺が主側でやるのも変な感じだが、セリアーナに下賜をした。
なるほど……こんな感じなのか。
アイテムを通して相手の手がわかる。
これを握ればいいんだな。
これで使えるはずだ。
「座ればいいのかしら?」
「うん。座って、浮けって念じれば浮くよ。後は大体思い通りに動くかな?」
「あら、本当」
説明を聞くなり、早速試すセリアーナ。
ヒョイっと浮き上がったかと思うと、部屋の中を動き回っている。
傍から見るとこんな感じなのか……。
何の音も無しに動くから確かにゴーストとかそういう魔物と間違われても仕方が無いかも。
「ねえ、これは物を持ち上げたりは出来ないのかしら?」
クルクル回りながら聞いてくる、セリアーナ。
「1~2キロ位の小さい物なら持ち上げられたけれど、重たい物は無理だったよ」
最初使い方の練習をしている時に、魔鋼を持ち上げられないかと思ったんだが無理だった。
まぁ、人間一人を乗せてあれだけの機動力を出せるんだから、それ以上を求めるのも……⁉
「ちょっ⁉」
「持てたわね」
後ろに回り込んでいたセリアーナが俺を抱え上げている。
そしてそのまま動いているが、何ら差し障りが無い様子。
お……おかしいな?
「外に出てもいいかしら?」
「うん?うーん……危なくない?」
護衛をつけられる程度には注目されている身のはずなんだけど、大丈夫なんだろうか?
「辺りを探ってみたけれど、敵はいないわ。大丈夫よ」
「ふむむ……」
エレナの方を見ると、頷いている。
OKなのか。
「じゃ、いいよ」
◇
「待って待って待って、怖い怖い怖いっ‼」
王都はるか上空を【浮き玉】で高速飛行するセリアーナにしがみつく俺の声が響いている。
てっきり俺を置いて一人で行くのかと思っていたのだが、俺を抱えたまま窓から外へと出てしまった。
まぁ、それだけならまだいいんだが、外に出るなり即急上昇した。
遠くに見える王城の尖塔よりもさらに上にいる。
200メートル後半くらいだろうか?
300メートルまで行ってないと思いたい。
確かに安全マージンを取るにはそれくらい必要なのかもしれないけれど、俺の今までの記録は60メートル程度なのに、何の躊躇も見せなかった。
「空は冷えるのね。風も強いわ」
当のセリアーナは、風になびく髪の毛を片手で押さえながら暢気な事を言っている。
しがみついている俺を片手で支えているが、その状態で宙返りしたからな……。
紐無しバンジーというか、安全バー無しの絶叫マシーンというか……。
セリアーナは何故平気なんだろうか?
前世で恐怖心に敏感な人種と鈍い人種があるってのを見た覚えがあるけれど、それか?
でも、髪と目の色は違うけれど俺も一応人種は一緒のはずなんだけど……。
それこそ日本人の時の記憶があるからだろうか?
「こんなものかしらね。戻るわよ」
ひとしきり飛び回り満足したのか、屋敷上空に戻って来た。
偶に急な方向転換をしていたのは、敵対反応でもあったんだろうか?
何はともあれ、これでこの絶叫マシーンも終わってくれる。
「あわわわわ……」
最後の最後で真下を向いて急降下という大技を繰り出されるとは思いもしなかったが……。
目を閉じていても風圧で、どれくらいの速度で降下しているのか何となくわかる。
絶対100キロは越えていた。
人間、高い所から落ちると死ぬんだぞ?
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