第47話

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「セラちゃん、丁度いい所で会ったわ」


2階の使用人や従者達の部屋がある中央エリアの窓から入り、セリアーナの部屋に向かう途中バッタリ会ったメイドさんに呼び止められた。

彼女は確か、この屋敷じゃなくてゼルキスの本邸で働いている人のはずだ。


連れて来た者達までは紹介されていないが、親父さん達と一緒に来たのかな?


「どしました?」


俺に用となると、高い所の掃除か、あるいは……。


「奥様がご用だそうよ。見かけたら部屋に来るよう伝えて欲しいって」


「奥様って、ミネア様?」


王都と領都と、どちらで働いているかで旦那様、奥様が指す相手が違うから、そこは確認しないといけない。

この場合はミネアさんだろう。


「ええそうよ。お願いね」


「はーい。着替えたら行くって伝えといてください」


「わかったわ」


同じ2階の西側に部屋があるから一緒に行ってもいいんだが、俺は先に行かせてもらおう。

流石にダンジョン帰りのままで行くわけにはいかない。

着替えたいし、荷物も置いておきたい。


それにしても用事か……まぁ予想は付くかな?



サクッとシャワーと着替えを済まし念の為【浮き玉】も置いて、ミネアさんの部屋の前に到着。


「セラです」


ドアをノックし中に呼びかける。

じーさんだとドアの前に着いた時点で気づくみたいで、ノックする前に入って来いと言われるが、そんな事は無かった。


「入りなさい」


冷たい声とともにドアを開けたのは、ジーナさん。

彼女はメイドではなくミネアさんの従者で、彼女がミュラー家に嫁ぐ前からの関係らしい。

本邸の怒らせたらいけない人ランクで、メイド長のハンナさんに次ぐ2位の人だ。


「あ、はい」


彼女はまず睨んでくる。

目力ってやつ?

只でさえ、彼女は背が高いのに、床に降りていると身長差から迫力が凄い。


「セラ、こちらにいらっしゃい」


奥からオリアナさんの声がした。

オリアナさんもいるのか。

ジーナさんの横を通り抜け、部屋に入り、そちらに向かう。


セリアーナの部屋とは違い、寝室と分けておらず、応接スペースとその奥にベッドが置いてある。

この部屋を使うのは一時的だからかな?


「よく来てくれましたね。座っていいですよ」


「はい」


目の前にはミネアさん。

やや垂れ目でいつも穏やかな表情をしている。

セリアーナは父親似だけど、アイゼンは母親似だな。

雰囲気が似ている。


ああ、もしかしてアイゼンがいつも厳めしい表情をしているのは、その為だろうか?


「セラさん、貴方とこうして話すのは初めてかしら?」


「はい」


「そうね。領都でもこちらでもセリアーナと一緒に居ていつも忙しそうですものね」


クスクス上品に笑いながら話すミネアさん。

まぁ、俺はいつも部屋でゴロゴロしていたから決して忙しいわけじゃ無いんだけどね?


その後しばらく、普段のセリアーナの様子やダンジョンの事、王都の事などを色々聞かれたが、中々本題に入らない。

いきなり本題に入るのはよろしくないそうで、軽い世間話から徐々に近づけていくそうだが面倒な事だ。


まぁでも、そろそろ来るはず。

フェルドさんちの結婚式の話になったからな。


「そういえば、お義母様から聞いたのだけれど、セラさんは王都に来てから新しい加護を授かったそうね?」


「はい【ミラの祝福】ですね」


「私も施療を受けたのだけれど、素晴らしかったわ。ゼルキスに戻るとまた貴方もセリアーナも忙しくなるでしょうし、王都にいる間に試してみたらどうかしら?」


ミネアさんの話にオリアナさんが合わせて来る。


ミネアさん、屋内とは言えもうだいぶ冷えるようになって来たのに、両肩出して腕が見える服を着ているしね。

腕からやって欲しいんだろうね。


「そうですね、お義母様。セラさんどうかしら?」


「はーい。今からやりましょうか?」


回りくどい気もするが、娘の従者に頼みごとをするっていうのもなかなか難しいのかもしれないね。

でも、1回やっちゃえば後は簡単かな?


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「アカメが魔物を倒した?」


例によって夜の報告会。


アレクの相変わらず続けている勧誘の報告が終わり、俺の番となりアカメの事を話した。

じーさんに聞こうと思っていたが、タイミングが合わずに結局夜のこの場でとなったが、まぁ、問題無いだろう。


「うん。直接見たわけじゃ無いけど、多分アカメがやったんだと思うんだ」


「アカメを見せてくれるか?」


アレクに見える様に手のひらに呼び出す。


「……見た目に変化は無いな。確か核を潰す時に目が光るんだよな?」


「うん。それそれ」


契約後もアレクとは何度かダンジョンに潜っているから、彼はそれを見た事がある。


「「潜り蛇」ってのは警戒心が高く、すぐ逃げる事から倒す事こそ難しい。魔力に干渉して魔法の妨害をしてくることもあるそうだが、攻撃能力自体はほとんど無いはずだ……。あくまで倒すことが難しいだけで、強敵というわけじゃない」


アカメをジロジロ見ながら「潜り蛇」の特性を語るアレク。

俺もそれは契約する時に教えてもらっている。


あまりわかっている事は少ないが、魔王種等の強力な魔物に住み着くと一気に厄介さが跳ね上がるものの、基本的に単体だと害の無い魔物だ。


「指示は聞くんだよな?」


「うん。ほら」


両手を広げ、左右を行き来させてみせる。


「ふむ……。ダンジョンの魔物は核があるから、それを潰しさえすれば力が無くても一撃で倒せる。それを理解したんだろう」


「危険は無いのね?」


「ええ、大丈夫でしょう。従魔は主の狩りを手伝う事もありますし、問題無いと思います」


「そう。ならいいわ。何か異変があれば言いなさい。いいわね?」


「はーい」


自分の話が終わったのがわかったのか、また服の中に潜るアカメ。

うん、賢い子だ。


俺の報告はそれで終わり、セリアーナの番だ。


といっても、大したことは無く、明日の予定を話しそれで終わり。

後は適当にお喋りだ。


「セラ、お母様に【ミラの祝福】を使ったそうね」


「うん。朝ダンジョンから帰った時に部屋に呼ばれて頼まれたんだ。まずかったかな?」


「いいえ。問題無いわ。いつも通りなら後4日かけるのかしら?」


「そのつもりだよ」


今日両腕を終えたから、頭部に胴体、片脚ずつで4日だ。


「お前は家の中での金銭のやり取りが好きじゃ無いようだけど、ちゃんと報酬は貰うのよ?」


「はーい。何にしよう?」


「折角王都に居るのだから、ゼルキスでは手に入らないものにしておきなさい」


うーむ……難しいな。


「あ、そういえばさ……」


「何?」


「旦那様達っていつ頃までいるの?」


アイゼンは来年の学院生活を終えるまで、王都に残るわけだけど、親父さん達は元々セリアーナの婚約発表の為に王都に来ている。


普段はゼルキスなんて国の端にいるから、王都にいる間に普段会えない人に会っておこうってのはわかるけれど、何だかんだでもう3週間近くになる。

それでも帰るって話は聞かないし、いいんだろうか?


「冬の2月までいるわ。私達と一緒に戻るのよ」


「へー……」


3ヶ月近く領地を空ける事になるけど大丈夫なのかな?


「大丈夫よ」


疑問が顔に出ていたのか、セリアーナが答える。

よくこういう事があるけど、俺って顔に出やすいんだろうか……?


「この期間領地を空ける事は前々からわかっていたことだし、ちゃんと準備をしているわ。叔父様方や代官達もいるんですもの。むしろわざわざ王都にまで出てきて、何の収穫も得ずに短期間で戻る方が問題だわ」


「ほぅ……あ、オレ達も冬の2月に戻るんだね?」


「そうよ。第2週に出発するわ。お前もそれまでの間に王都での用を済ませておくのよ?」


「はーい」


あと2ヶ月ちょっとか。

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