第39話

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さてさて、ダンジョンである。


話し合いの翌日、早速アレクがジグハルトに会いに行ったのだが、一体どんな風に話をしたのかわからないが、3人でダンジョンに向かうことになった。


ちなみに彼への参加報酬は今回取得する聖貨だ。

俺が稼ぐことになるんだろうから責任は大きいが、一応発案者だし、自分の弱さには自信があるから何とかなるだろう。


「いるね」


流石に記念祭が終わってから3日も経つと、浅瀬はまだ人が多いが、上層ともなればいつもと変わらなくなっている。

天井近くまで上昇し広間全体を見渡すと、魔物の姿がいくつもある。

都合のいい事に冒険者はいない。


「ジグさん、「渦」をお願い」


俺の言葉に、アレクの方を振り返り確認するジグハルト。


「大丈夫です。お願いします」


「よし」


そう言うなり広間全体に一気にジグハルトの魔力が混ざった魔素が広がった。

相変わらず規模もデカいし、速度も速い。


さらに、その魔素はしばらくの間レーダーの様な役割も果たすそうだ。

先日、ジグハルトが離れた場所にいる俺に気づいたり、魔人と戦った時に、ルバンが魔人を仕留めていない事がわかったのもその為だ。

あくまで位置関係と簡単な形がわかるだけで、俺の様に変な存在は実際に見なければわからないと言っていたが、便利な事には違いない。


ウズよ!」


今回は警戒し、目を閉じていたのだがそれでも強い光を感じる。


ちなみにこの光は傭兵時代に編み出したもので、光自体には特別な効果は無く、精々目くらましになるかどうか程度らしい。

それでも、対人戦では有効で、戦場では自分の存在のアピールになる事から、好んで使っていたそうだ。

「閃光」の二つ名の由来でもあり、冒険者になってからも攻撃前の合図として役に立っている。


…今更ながら俺って世間知らずなんではなかろうか?


「アレクシオ、セラ、呼び寄せた。そろそろ先頭が来るぞ」


このウズという魔法は、冒険者になってから身に着けた魔法で、魔物を引き寄せる効果があるらしい。

おまけにある程度魔物が寄ってくるタイミングやターゲットをコントロールできるそうだ。

人間には効かないものの、魔物相手に1人で戦うことが多いジグハルトは、この魔法を使う事で安定して先手を取ることが出来る。


「セラ、準備はいいか?」


まずは第一陣がやって来たのが見えた。

アレクが受け止めるべく前に踏み出し、上にいる俺に確認をする。


「おう!」


もちろん準備は出来ている。


今回はアレクに集中させるようにコントロールしている。

さらに【赤の盾】の効果も併せて、俺は確実に不意打ちが出来る。


余裕余裕。



「いいよ、アカメ」


魔物の死体の山に、アカメが核を潰しに潜り込んだ。


余裕の勝利だった。

最初は首を刎ねる事に専念していたが、思った以上にアレクが安定していたため、一撃で核を潰す戦い方に切り替える余裕ができ、更には、アカメの為に敢えて核を残す戦い方になった。


アレクは30体近くの攻撃を受け続け、流石に疲弊したのか座って休憩しているが、何だかんだで無傷だ。

こいつはこいつで化け物だと思う。


「妙な気配をしていると思ったら、潜り蛇か。……加護と言い、お前魔王みたいな奴だな」


やっぱそうなんのか。


「ルバンにも言われたね…。セラ様って呼んでいいよ?」


「へっ…ばーか。にしても、最初ん時と随分感じが違うな。本性はこっちか?」


「まぁね。同僚から畏まられるよりいいでしょう?」


「ふんっ、ずいぶん気が早いな。で?今のでこの広間のは全部やっただろう?どうすんだ?」


軽口を叩きながらも、先程から魔素を広げたり消したりと、広間全体の索敵を続けている。

魔素と魔力を混ぜるのは難しいって話なんだけど…どうなってんだ、このおっさん。


「…そうですね。次の広間に移りましょう。そこで今日は終わりです。それと冒険者がいるようなら引き返します」


「おいおい…随分温い探索だな?」


少し呆れた様な声だ。

まぁ、下層まで行くような人には物足りないのかもしれないが…。


「オレが1時間だけって言われてるからね。まぁでも、そんなこと言わないでよ」


そう言って、ジグハルトの方に左手の中にある物を見せびらかす様に、差し出した。


「…⁉」


彼は目を見開き、俺の手にある3枚の聖貨を見ている。


良い反応じゃないか。


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「お疲れさまでした。よろしければこの後食事でもどうですか?」


「いや…悪いが遠慮させてもらう。それと返事は少し待ってくれ」


「そうですか…、ではお待ちしています」


「おう…じゃあな……」


アレクの誘いを断り、ジグハルトが扉の方へと歩いて行く。

何やらふらついているように見えるのは気のせいだろうか?

「閃光」様に皆道を開けてくれているが、馬車にでも撥ねられるんじゃ…?


あの後空いた場所が見つからず帰還したが、その道中でも2枚手に入れた。

結局1時間足らずで5枚。

彼にしてみたら色々衝撃的だったんだろう。


「さて、どうなると思う?」


ギルドから出て行くのを見送ってから、アレクが話しかけてきた。


「大丈夫じゃない?断るなら返事は伸ばさないでしょ」


断る事を苦にしない人みたいだし、これならきっと大丈夫だ。


「そうだな…。俺は残るがお前はどうする?」


「寄りたいところあるし、帰るよ」


「一人で大丈夫か?」


「だいじょーぶだいじょーぶ。んじゃ、お疲れさん」


「おう」


そう言い、アレクは遺物の換金へ向かった。

いやぁ~…申し訳ねぇ。



「あれ?早いね」


ダンジョンから戻り、例によってセリアーナの部屋でゴロゴロしていると、ノックも無しにドアが開いた。

何事かと思ったが、セリアーナとエレナだ。


「もう少ししたら戻るけれど、あと数日は学院は午前中だけよ。今日は偶々予定が入ってなかったの」


そういえば記念祭の前後は人と会う機会が増えるとか言ってたな。

学院もそれ用のスケジュールなんだろう。


「それで、お前はどうだったの?」


「う~ん……返事は後にするとか言っていたけど、いけそうな気はするよ。聖貨も5枚出たしね」


「あら?凄いじゃない。まあ、上手くいかなくても誘いを受けたというだけでも十分だわ」


俺の対面に座り成果を聞いてきたが、中々上機嫌な様子。


貴族と関わろうとしないことで有名な「閃光」を直属の冒険者が探索に誘い、彼がそれに乗ったっていう事だけでも、彼女にとっては満足する結果だったらしい。


意外と欲が無い…。


「そういえば【妖精の瞳】の検証は上手くいったのかな?先日潜った時は魔物とあまり戦えなかったと言っていたよね?」


荷物を片付けてきたエレナが聞いて来た。


「うん。赤は魔力だけど、緑はちょっと違ったよ。生命力というよりも身体能力全部って感じかな?疲れてたアレクを見ても変わっていなかったから、最大値が見えてるのかも。後は、魔法の発動前の魔素が見える位かな?」


「そう…相手の強さの目安になるのは便利ね。魔法に備える事が出来るのも悪くないし、私の加護と合わせたらまず間違いは起こらないわね」


確かに。


「お嬢様かエレナが使う?あるなら便利だけど、無いなら無いでオレは困らないよ?」


ダンジョンの魔物で魔法使ってくるのはいないし、俺にはアカメがいるし、どっちかって言うと、エレナが持った方がいいんじゃなかろうか?


「嫌よ」


一言で断られた。


「お前、そんな不気味な物を浮かせている人間に近づきたいと思うの?」


「あぁ…そりゃそうか…」


【妖精の瞳】は発動させなければ、ただのアクセサリーだけれど…目玉だからね。

それも、血管の様に見えるのって薄っすら光ってるんだよ。

脈打つように赤で。


……どういうセンスなんだろうか?


「でもそうね…セラ、寄こしなさい」


「へ?」


どの神様がデザインしているんだろうと考えていると、セリアーナが、寄こせと手を伸ばしている。


使うのか?


「…はい」


外した【妖精の瞳】を渡すと、躊躇うことなく右耳に付けた。

不気味とか言う割には思い切りがいい。


「どう?」


「よくお似合いです」


「当然ね。さて……」


エレナに褒められ満足したのか、セリアーナが【妖精の瞳】を発動する。


「……うわぁ」


いきなり現れるのではなく、上から徐々に形作っている。

ズズズって効果音が似合いそうだ。


「ふん。こう見えるのね」


大きさこそそれ程でもないが、薄っすら光っているから、とにかく目立つ。

これはキモイ。


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【妖精の瞳】を発動したセリアーナは、ソファに座り目を閉じている。


彼女の持つスキル、【範囲識別】との併用を試しているんだろう。

何となくそのスキルの事はゲームのマップ画面の様な物を想像しているが、範囲がちょっと桁違いだ。

俺が攫われた時は、その範囲を王都全域にまで広げたらしい。


アカメと【妖精の瞳】の併用が出来たからこれも出来そうな気はするが、本来自分に備わっていない感覚を使っているからか、長時間連続使用をすると、寄り目をする時の様な何とも言えない違和感がある。


目に見える範囲だけでそれなのに、大丈夫なんだろうか?


「あれ大丈夫なの?」


「流石に範囲は絞るはずだし、そう無理はしないはずだよ。昔何度か倒れた事があるからね」


「ぉぅ…」


心配になって小声でエレナに聞いてみたが…それは大丈夫なのか?


「駄目ね」


しばらく見守っていたが、目を開くなりそう言い放った。


駄目なのか?


「加護との併用はできたけれど、負担が大きすぎるわ。屋敷だけに絞っても動けそうもないし、そもそも魔力にせよ身体能力にせよ飛びぬけた者の情報なら入って来るし、私がわざわざ調べる必要は無いのよね。…これはお前が持っておきなさい」


まぁ、そりゃ道理だ。

本来一番奥で守られる立場のこのねーちゃんが、直接誰かと戦うってことは無いし、敵がいるかだけ分かればいい。

エレナが持つのが本当はいいんだろうけど、見た目が酷すぎるしな…。

それなら一人で行動する俺が持つ方が役に立つ。


納得し【妖精の瞳】を受け取ろうと近づいたのだが、何故か俺を見て驚いている。

いつの間にかアカメが頭の上に来ているが、それだけだ。

別にとぐろを巻いたりもしていないし…。


「どうかした?」


「セラ、アカメを…そうね、右手の上に移動させなさい」


なんだそれ?


エレナを見るが、彼女もわからない様で、首を振っている。


「はい」


何の意味があるのかはわからないが、言われたと通りに移動させた。

セリアーナは、驚きでは無く今度は…なんというか、哀れみ?

そんな顔をしている。


「お前…」


そこで一息つき、俺の目を見る。


「身体能力、アカメより弱いわよ?」


「…は?」



前世では、小学校から高校まではサッカーを。

大学、社会人ではフットサルをやっていた。


別にプロを目指したり、全国大会に出たりとかしたわけでは無い。

ただ、本格的なトレーニングなんかはしていないが、子供の頃から体を動かすのは好きだった。


だからだろうか?


ある程度の運動能力は勝手につくもんだって…。

筋肉をつけたりはともかく、子供のうちに鍛えたりとかそんなことは考えていなかった。

孤児院にいた頃はともかく、今は全く困ったりもしなかったし、必要性を感じていなかった。


……そりゃそうだ。


重いものは持たないし、そもそもいつも浮いていて、歩くこと自体あまりない。

周りに同年代の子供がいないことも気づくことが遅れた理由かもしれない。


別に困ってはいないんだ。

だからいいんだ。

でも、アカメより弱いってのはちょっと傷ついた。


そんなわけで、ひとまず体力をつけようと屋敷の内周を走っている。

恐らく1周400メートルくらいあると思う。

昨日2周しようと思ったけれど、途中で力尽きてしまったから今日は1周半を目標にしている。


「ほっほっほっほ…ぉぇっ」


玄関からスタートしたったか快調に走っていたのだが、丁度1周したところで門の外に立っている警備兵に呼び止められた。


「どうしました?」


「セリアーナお嬢様宛の手紙を受け取ったんだ。確か冒険者地区の宿の子だったかな?お嬢様にセラちゃんから渡しておいてもらえるかい?」


「はーい。お部屋に届けておきます」


仕方ない、手紙持ったまま走る訳にもいかないし、今日はこれ位にしてやろう。

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