第37話

88


3日間続いた記念祭は、今日をもって無事終わりを迎えた。


初日は主に西側を含む外国との交流。

その一環で外国人の処刑があるのは、俺の価値観ではちょっと理解できなかったが、概ね盛況だった。


2日目は本祭。

この国の国宝である神剣が披露されたそうだ。

ガチャ産の剣で、雷を落とすらしい。

雲一つない真昼間にドカドカ鳴って何事かと思ったが、それの効果なんだろう。


3日目は国内の叙勲や陞爵が行われた。

まぁ、特筆すべきことは無い。


で、俺は2日目以降屋敷に引きこもっていた。

まぁね、子供の身だとやれることは少ないし、誰かを一々付き従わせるのも悪いし、どうにも人だかりは疲れる。

もっとも屋敷には来客が多かったこともあり、掃除やら皿洗いやら手伝っていた。

やってることは去年までと変わらなかったが、環境は大違いだ。


1年足らずでよくぞここまでと思う。

でもまだだ。

まだ俺は上をめざ


「まだかしら?」


心の中での決意表明の最中にセリアーナの声が背後から割り込んできた。


「むぅ…」


記念祭は終えたが王都圏にはまだまだ国内、国外問わず貴族が滞在している。

その相手をする必要もあり明日以降も中々忙しいようで、やれる時間のあるうちにさっさと済ませておこうという事で、ガチャに挑む事にした。


セリアーナはまだ貯めるようで俺の1回分だけだが、こちとら誘拐された身だ。

今回のガチャは気合が違うぜ!


「どうせ変わらないのだからさっさとやってしまいなさい」


…水差すね。


まぁいいや。


「ほっ!」


気合を込め、聖像に聖貨を捧げる。


「ふんっ!」


今回はドラムロールの音が鳴った瞬間に即ストップだ。

さぁ、何が来るか!


淡く光るピンポン玉位の白い球体が浮いている。

アイテムだ!

そして浮かんだ言葉は【妖精の瞳】


…瞳…球体…眼球⁉


「ぬあっ⁉」


色々連想して思わずのけぞってしまった。


受け止めるべきだったろうが、それは落下しコロコロとセリアーナの寝室の前まで転がって行った。

絨毯が敷いてあるとはいえ、壊れていないよな?


「恩恵品よね?何だったの?」


「…【妖精の瞳】」


「………っ⁉」


セリアーナとエレナ。

2人とも同じ連想をしたのか似た反応の仕方だ。

転がって行ったそれを見つつも近づこうとしない。


いや…一度連想しちゃうとね?


「…ほら」


見かねたのかアレクが拾い、こちらに持って来た。


「目玉じゃねぇよ」


そう言い、放り投げてくる。

それを受け取り観察する。


大きさはピンポン玉で、色は白だが少し光沢がある。

真珠に近いだろうか?

耳元で振ってみるが音はしない。


「何かわかった?」


「わかんない」


「そう。とりあえず開放するわ。寄こしなさい」


「ほい」


セリアーナは受け取るなり、開放する。

手慣れたものだ。


「…あら?」


握った手から光が消え、開放されたアイテムが見えた。


「…?」


1センチ程の長さの筒状の物だが、指輪にしては細すぎる。

金地に唐草模様の洒落たデザインだ。


「イヤーカフね。来なさい」


イヤーって事は耳に付けるのかな?

イヤリングみたいな物か。


近づき左耳を見せると、なんかパチンときた。


「いいわよ」


多分耳に付けたんだろうけど…どうなんだ?


「なんか変わった?」


「何も変わらないわね」


耳は見えないからな…。

自分じゃわからん。


「むむむむ…!」


瞳って付いているし、何か見るんだろう。

見る能力だし、アカメの目もオンにし目に気合を込める。


「むっ⁉」


何故か耳でも目でも無く、額がほのかに熱い。


「ひっ…」


セリアーナの珍しい声がしたので彼女の方を見ると、口元を押さえ目を見開いていた。

彼女のすぐ後ろに控えていたエレナも似たような表情をしている。

2人の視線の行方を追うと、行先は俺の頭上。


見るの怖くなるじゃないか…。


「ひぇっ⁉」


意を決し頭上を見ると、血走った眼玉が俺を睨み下ろしていた。


なんじゃこりゃ?


89


ガチャを引いた翌朝、ダンジョンに潜るべく冒険者ギルドに向かった。


「おはよーございまーす」


人混みをすり抜け、受付前に辿り着き、挨拶をする。


「おう。セラ嬢か」


「聞いてはいたけど多いですねー」


記念祭の最中は、ダンジョンは閉鎖されていた。

死者が出た時に捜索する冒険者を集められるかわからないし、兵を動かすと観光客を刺激するから、それならいっそ閉鎖しよう!となっているらしい。

冒険者達もその3日間は休養日とし、次の冒険に向けて英気を養うそうだ。


で、次の冒険というのが、記念祭の終えた翌日。

つまり今日だ。

記念祭の間は依頼の受付も停止していたからだろうか、冒険者以外にも商人らしき者達の姿も多く見える。


「いつもの事だな。それと今年は少し事情があってな。「閃光」って知っているか?そいつが下層で採集に籠っているんだが、帰還するのが今日で、それ目当てだな。記念祭の間は本来ダンジョンは閉鎖しているが、あのレベルになると特別扱いさ」


「なるほどー」


「閃光」の二つ名を持つ、同盟内でも屈指の冒険者だ。

それだけならルバンと同格だが、より戦闘に特化しているとかで、貴族の招聘や叙勲なんかも断り戦闘に明け暮れているらしい。


最近は王都のダンジョンによくいるようで、アレクが一度会ってみたいとか言っていたが…。

俺もちょっと見てみたい。


「上層までか…いつもより人が多いから、誤射に気を付けるんだぞ」


探索届を出しダンジョン入り口に向かうと注意をされた。

まぁ、俺はするよりされる側だが、…あれは痛かった。


「はいはーい」


まぁ、気を付けるにこしたことは無いと頷き、手を振りダンジョンへ向かった。



【妖精の瞳】


昨日引いた、耳に付けるアイテムだ。

発動すると、頭上に乳白色の球体が現れ、更にそれに瞳が開き、血走ったような模様が浮き出る。


ちょっとしたどころか、ガチのホラーアイテムだ。


効果は、まだ何とも言えない。

昨晩使用したところ、人体の輪郭に沿って、赤と緑の膜の様な物が見えた。


エレナが一番厚く…と言っても数センチ程度だが、次いでアレク、セリアーナの順だったことから、恐らく魔力と生命力がそう見えたんじゃないか?と仮説を立てている。

赤が魔力で、緑が生命力だ。


今日のダンジョン探索の目的はその仮説の実証検証だ。

魔力の有無だけならアカメの目でもわかるが、強弱、果ては生命力なんかは俺にはわからないし、もちろんそれが全てとは言わないが、それでも戦うか逃げるかの目安にはなる。


「そのつもりだったんだけど…まいったなぁ…」


冒険者が多過ぎて、魔物がいない。

皆はりきり過ぎだろう。


冒険者でも【妖精の瞳】の検証にはなるんだが…、魔物と違い戦うわけにはいかないから、強さが…。


「こまった…」


普段は人がいない俺のお気に入りのポイントまで人がいた。

何というか、ネトゲのイベント期みたいな感じだ。


「おはようございまーす」


どうしたもんかと思っていたら、丁度魔物を倒し終えた冒険者パーティがこちらを見ており、その中の一人と目が合った。

折角だし情報収集だ、と両手を上げて近づいていく。


「おう。確かミュラー家んとこの子だよな?」


「よくご存じで。今日は人が多いですねー」


「皆祭りで金使ったからなー…。それに何日もサボってたから体が鈍ってるから、浅瀬で軽く慣らしをしたいだろうよ」


「あはは。うちのアレクもお酒ずっと飲んでましたよ」


中々気の良い人で、色々話してくれる。


そうか…。

数日程度とは言え、命がかかっているんだ。

いきなりハードな狩場に行くんじゃなくて、楽な所に人が集まるのも仕方ない。

リハビリは必要だよな。


「おっと、終わったみたいだな。じゃ、俺達は行くぜ」


後ろで他のメンバーが魔物の処理を行っていたが終えたようだ。


「はーい。それではお気をつけてー」


「おう。お前さんもな」


互いに手を振りわかれる。

平和な世界だ。

しっかし、どうすっかな…。

話を聞いた感じ今日は何処もそんな感じみたいだ。


一応奥まで行ってみるかな?

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