第36話

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「ただいま」


【隠れ家】に荷物を置き、外へ出るとアレクが目隠し代わりに立っていた。

もっとも、入って、置いて、出る。

数秒だ。


「おう。早かったな」


「ドアの横に置いただけだからね。っと、ありがと」


俺が肩に座ったのを確認し歩き始めた。

とりあえず商業地区は一通り見て回ったが、これからどうするんだろうか?


「アレク!」


おや?


「ルバンか」


声のした方を見るとルバンが手を振り近づいて来ていた。

恰好は剣や鎧こそしていないが、普段の冒険者スタイルだ。

この人一応貴族なんだけどいいんだろうか?


「何?友達になったん?」


前はアレクシオと呼んでいたが今日はアレクだ。

一緒にダンジョンへ行く事が無かったが何かあったんだろうか?


「あー…こいつのとこも来年からウチに来るからな。同僚ってやつだな」


「ぉぉ~…」


そういえば魔人のインパクトで忘れていたが、もともとそういう話だったな。


「セラ嬢は珍しい恰好だな。よく似合っているよ」


「ありがと…」


ちゃんと褒めるあたりこいつは紳士だな。


「で、メンバーはどうした?1人なのか?」


何となく一緒に歩いているが、アレクの言葉にそういえば、とあたりを見るが3人の姿が無い。

一緒に見て回らないのかな?


「俺は少し冒険者ギルドに用事があってね。3人は場所取りに行っているよ。そうだな、お前なら聞いているかもしれないが…」


そこで区切り、辺りを憚るように声を潜める。


「今日の処刑で神国の国宝の【断罪の長靴】。あれが使われるそうだ」


「「…」」


「キーラの家経由で入ってきた情報で、まず間違いない。俺も話には聞いたことがあるが…どんな代物かはわからないが、見て損は無いはずだ」


それはどうかな…?


「それはもうすぐなのか?」


「ああ。処刑は1時からだが、急遽ねじ込まれたそうだからな。恐らく最後の方じゃないか?」


ルバンが時計塔の方を見ながらそう言うが、さてどうしよう。


「俺は一応行っておいた方がいいな。セラ、お前はどうする?」


「…止めとく」


「そうか。なら先に屋敷に行こう」


「セラ嬢には少し刺激が強いか。アレク、後で合流しよう」


そう言うなり冒険者地区の方へと向かっていった。

俺達は貴族街へだ。

途中の広場で朝には無かった舞台の様な物が出来ているのを横目に通り過ぎる。

処刑に使うんだろう。


ラウド商会の人間を始めとした外国人の処刑が行われるのは聞いていたんだ。

その為に本店のあるルード王国から引っ張って来たそうだし。

敢えてこの日に行うことで、国威高揚とかそういう狙いがあるんだろう。

俺はそれを野蛮とは思わない。


ただ…。


「踏むのかな?」


「踏むんだろうな」


昨晩、城で披露するから寄こせと言われ【緋蜂の針】をセリアーナに渡した。

てっきりパーティーか何かでの事と思っていたが、使わなければただの赤いブーツだし、そりゃ使うよな。


しかし…多少なりとも俺も関わっていたことだし、何というか尻拭いを押し付けてしまった様な申し訳なさを感じる。


「帰ってきたら労ってやれよ」


察したのかアレクが口を開く。

よく気が付く男だ。



民衆の前での処刑の執行役。

その大役を務めたセリアーナはさぞ疲労したろうと思っていたのだが…。


杞憂だった。


アレクに処刑の様子を聞いたところ、嬉々として踏みつけていたらしい。

今後開拓を主導していく立場だし、力を見せつける事は悪い事じゃ無いんだろうが、俺とはメンタリティーが違い過ぎる。


あぁ、でも、エレナと揃って酔いつぶれてベッドで寝ている。

普段は、酒を口にしてもここまで酔うことは無いのだが、ハイになり過ぎていたんだろうかね?


明日にでも【ミラの祝福】を使ってやるか。


…二日酔いに効くかな?


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「い…痛いわ…」


そうでしょう、そうでしょう。


「お…お腹じゃないわ…頭よ…」


うんうん。


「お嬢様…二日酔いを治すには肝臓です…」


「そうなの…不思議ね…」


息も絶え絶えにぼそぼそ呟くセリアーナとエレナ。

2人仲良くベッドにダウンしている。


この国では、お酒は二十歳から!とかは無く各々の裁量に任されている。

2人は食事の時に一杯二杯飲むことはあっても、二日酔いになるほど飲むことは無い。

何があったのか少し気になるが、まずは復活してもらわねば。


「どう?少しは効いてるかな?」


ベッドに2人を寝かせ、間に座って【祈り】を発動しつつ【ミラの祝福】の祝福を腹部に当てている。

回復力の底上げだし、【祈り】は効果があるはずだ。

ただ、【ミラの祝福】はわからん。

何となく効きそうな気はするから使っているが…まぁ、悪いようにはならんだろう。


「ええ…、吐き気は収まってきた気がするわ…」


先程までの半死人の様なだったが、少しはましな声になっている。


「そりゃ結構。なら続けるよ」



「お前は昨日楽しめたのかしら?」


どっちが効いたのかはわからないが、1時間施療を行ったところ無事復活した二人。

固形物は無理でもスープ程度は胃に入れられるようになり、軽く食事を済ませ、今はお茶を飲んでいる。


「うん。結構面白かったね。あぁ、これお土産」


ベッド脇のボードに置いていた彫刻を渡す。


「あら、ありがとう。竜と狼かしら?」


セリアーナが竜の方を取りながら礼を言う。


「この香りはエスタ産ですね。こういった物も作っていたのは知りませんでした」


エスタ産てなんぞ?


「その顔は知らなかったみたいね…。高級家具に使われる木材よ。実家の私の部屋の家具がそれだわ」


そう言いながら鼻先に付きつけてきた。

微かにミントの様なスッとする香りがする。

わざわざ嗅いだりしなかったから気づかなかったが、香木みたいなものなんだろうか?


「防虫効果もあるそうよ。きっと家具を作った端材を使ったのね。悪くないわ」


褒めてあげる、と偉そうに言われた。


うん。

まぁ、思ってたのとは違うけど、気に入って貰えたならそれでいいか。

それよりも、だ。


「オレの事はいいとして、昨日何かあったの?あそこまで酔うとか初めてだよね?」


「エリーシャ様の婚約相手の事は覚えているかしら?」


「エドガーさんだっけ?」


南の方の水軍の強い侯爵家だったかな?


「そう。そのエドガー様との間に割って入ろうとしていた女がいるのだけれど…フフフ」


悪い顔しながらの思い出し笑い。

悪役っぽいな…。


「彼女の支援者が今回処刑された者の中に2人いたの。随分居丈高な振る舞いをすると聞いていたけれど…ウフフ」


縮こまっていたんだね?

何となくその光景が想像できるよ。


それにしても…。

エレナの方を見ると彼女もニコニコと嬉しそうだ。

平民はそれほどでも無いけれど、この国の貴族って大抵西側の事を嫌っているよな…。


「帝国や後押ししていた他の支援者達も刺激をしたくなかったのでしょうね。前夜祭でも皆静かなものだったわ」


「…処刑で【緋蜂の針】使ったそうだけど、何ともなかった?」


「ええ。有罪が確定している者ばかりだったから、ただ踏むだけでよかったわ。それにしても、どういった仕組みなのかしらね?」


「…本当だよね」


なるほど…、処刑と泥酔していたことは関係ないのか。

この感じからすると、嬉々として踏んだんだな。


「まあ、そんな事はどうでもいいの。早めに退出してエリーシャ様のお部屋でお茶を頂いたのよ。リーゼルやエドガー様も来られて、楽しかったわ。ねぇ?エレナ」


「はい。普段聞けない他大陸の事も聞けた上に珍しいお酒も頂けましたし」


2人でコロコロ笑っている。


そっかぁ…酒盛りしてたんだね…。

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