第30話

72


魔物には、種類は少ないが共生型と呼ばれる種族がいる。


共生型は外のみでダンジョンには存在せず、潜り蛇の様に、別の生物に付く魔物だ。

寄生と違うのは、魔力を同調させることで、自身の能力を相手にも使える様にすることが出来る点。

大きな群れのボスや、魔王種等の強力な魔物は共生型を付けている事が多いそうだ。


そして、俺の様に従魔として、人間に付く場合もある。


その場合はどうしても人間という種族の差から、いくらか弱体化したものになるらしい。

それでも、人外の能力を得るわけだし、大きな力になることに違いは無い。


【祈り】と合わせて、本当に魔王じみて来てんなとアレクがこぼしたので、とりあえず蹴っておいたが、自分でもそんな気がする。


魔王・セラ様か…。

弱そうだな。


それはさておき、潜り蛇のアカメの能力だ。


これは凄いね。


能力と言うより、感覚を共有しているんだと思う。


俺の視界範囲内はもちろん、遮蔽物等の視界が通らない所でも生物が居たらわかる。

名前は忘れたが、蛇の持つ何とか器官に近いんじゃないだろうか?

あれは確か赤外線を感知するものだったが、これは魔力を見ているんだと思う。

アイテムや魔道具は何となくだが、普段よりもピントが合ったようにくっきり見えていたし、この考えは合っているはずだ。


この世界、何を感じているのかわからないが、腕の立つ人だと気配を感じる事が出来る。

浮いていて、足音のしない俺の接近に気づくし、音じゃないと思う。

多分魔力を感じていたんじゃなかろうか?


ふふふ。

達人に一歩近づけたかもしれないな。



ダーンジョーン!


リーゼルの依頼を受けて以来だから、10日ぶりだろうか?

アカメの力を確認すべく、久しぶりのダンジョンだ。


「居た…」


20メートルほど先の天井の起伏の影に隠れるように潜んでいる、オオコウモリの群れを見つけた。

いつもなら奇襲を受け驚いてから返り討ちにしていたが、速さは俺の方が上だし、これなら逆に俺が先制できそうだ。


数は7…かな?

一気に行くぞ!


【浮き玉】を加速・上昇させ、接近する。


「ふっ!」


コウモリ達も俺の接近に気づいたようだが、動き出しが間に合わずにバタついているところを、【影の剣】で一纏めに切り倒した。


「やたっ!」


今までも無傷で済んでいたが、それでも傷を負う危険はあった。

でも今回は、一切危なげなく終始自分のペースで進められた。

完璧だ。

戦闘に関してはだが…。


「あ~…そっか……」


戦闘を終え高度を下げると、地面に転がる7つのコウモリの死体が目に入った。

普段は先制こそされるものの、確実に核を一撃で断ってきた。

今回は速度を優先しすぎてそれが出来ずに死体がそのまま残っている。

まだまだ俺の実力では無理だが、いつかこの速度でも核を狙えるようになりたいものだ。


さしあたってコレをどうにかしないと…。


核は頭部にあるから【影の剣】で貫こうと近づいたところ、アカメが裾から姿を見せた。

外の魔物だし、ダンジョンに興味でもあるのかと思い様子を見ていると、死体の頭部に潜り込んだ。

何事かと思ったが、死体が消えたところを見ると、核を潰したんだと思う。

他の6つの死体も同じように、アカメが潰して回った。


「…アカメ君?君…大丈夫なん?」


あまり詳しい資料は無かったが、契約時に騎士団の持っている潜り蛇の情報を見せてもらった。

判明している生態の一つに、消化器官は存在せず食事を必要としない代わりに、魔力を摂取する生き物だ、というらしいが…。


核を齧っただけで、飲み込んだわけじゃなさそうだ。

様子に変わりは無いし、大丈夫なのかな?


「行ける?」


指を近づけると体を伸ばし顔を乗せてくる。

これはOKって事なんだろうか?

まぁ、無理なら自分から齧りに行かないか。


「じゃ、もう少し行ってみよう!」


声をかけると袖に潜っていった。

…大丈夫だよね?


73


「うーむ…」


王都のダンジョン浅瀬にある、お気に入りの狩場。

そこに出てくるウシの魔物を、【影の剣】で一撃で核を潰すのではなく【緋蜂の針】で突撃からの首を刎ねるという、いつもとは違う倒し方をした。


その方が死体が残るからだ。

そして、その残った死体の頭部に潜り込むアカメ君。


近づいた俺の影から体を伸ばし、死体に潜っては核を潰し、また別の死体に潜っては潰し…と繰り返すこと10数回。

いくつか遺物は落としているが、それらには興味を全く示さない。

核だけを狙っているようだ。

具合が悪くなったりはしてなさそうだし、問題は無いんだろうけど…。

明後日も来るつもりだったけど、念の為もう少し間を置いた方がいいかな?

様子見だ。


それよりも、本人達は隠れているつもりなんだろうし、実際俺だけじゃ気づけなかっただろうけど、何人かがずっと様子を窺っているんだよね。

戦っている最中に壁越しに見つけてしまった。


彼等がどれくらいの実力なのかわからないから、気づいていない振りをしているけど…よくある事なんだろうか?

出る杭は打つ的な…?


「おっと」


懐から、「ポーン」と音が鳴った。

タイマーのアラーム音だ。


「もう1時間か…」


彼等が何者かは気になるが、アカメの能力も試せたし、聖貨も1枚だがゲットした。

やることはやったし、とっとと帰るか。


天井近くまで上昇してから移動を開始する。

それに合わせ彼等も俺の視界に入らないように距離を取っていった。


我ながら変な動きをしている自覚はあるが、よく合わせられるな…。

妙に手馴れているし、もしかして今までも見られていたのかもしれない。

戻ったら相談するかな。



ダンジョンで俺を見ていた連中は、距離を取りつつも結局入口までついてきた。

同じグループなのかはわからないが5~6人いたし、ただ俺を見物していただけって訳じゃないと思うんだけど…。

ギルドを出てからも真っ直ぐ帰らず、無駄に街中をうろうろしていたが何もなかった。


まぁ、何はともあれ寄り道をした為少々時間を食ったが、無事帰還。


俺は普段の出入りは裏口からしているので、表の様子はわからないが、客が来ている様子は無さそうだ。

じーさんは屋敷にいるだろうか?


裏口から入ると近くの厨房で話声がする。

朝の仕事を終えて休憩でもしているんだろう。

丁度いいタイミングだ。


「ただいまー」


「あら、お帰りなさい」


「お帰り。怪我は無いかい?」


「無いよー」


屋敷の人間は、俺がダンジョンへ行っている事を知っている。

このやり取りは毎度のことだ。


「はい。これ、皆で食べて」


寄り道ついでに買って来た物を渡した。


「あら、ケーキ!高かったでしょう?」


袋の中身は評判のお店のホールケーキを2つだ。

お値段それぞれ大銀貨1枚で日本円にして約1万。


これは…どうなんだろうね?


前世ではあまりケーキとか買わなかったからよく知らないけど、ワンホール5千円とかだった気がする。

そう考えると高い気もするが、果物も生クリームも使っているし、流通事情を考えるとお買い得な気もする。

ケーキ屋なんての存在するのも結構なことだと思う。

お金も貯まってきたし、そろそろお店巡りなんかも悪くないかな。


「いつもお世話になってるからねー。ところで、御館様って屋敷にいるかな?」


「旦那様はお部屋にいらっしゃるわ。今日は来客の予定も無いはずよ」


「そか、ありがとー」


「あら、食べて行かないの?」


「うん、待ってる間にもう食べてきたからね」


じゃーねーと手を振り、厨房を後にする。


「ふむ…」


自分の格好を見るが、特別汚れてはいない。

それでも1時間程度とはいえダンジョンに潜っていたし、このまま会いに行くのはちょっとよろしくない。


時間に余裕はありそうだし、着替えてからにするかね。


そう決め、【隠れ家】を使うべくセリアーナの部屋に向かうことにした。

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