第28話
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メサリアの第1王妃には子供が3人いる。
第1王子・第1王女・そして第4王子のリーゼルだ。
第1王妃から王太子である第1王子が生まれ、その第1王子自身もまた優秀で、後継として何の不安も無く、メサリア王国は安泰。
それが各国の見方だ。
ここ数代の王族の結婚相手は外国の貴族が多かったそうだが、後継に不安のない今代は国内の貴族と結婚させ、今一度王族・貴族の結びつきを強める方針らしい。
第1王子は既に結婚を済ませ、公表はまだだがセリアーナとリーゼルの婚約も、本人達の仲が良いというのもあるがその一環だとか。
そして、リーゼルの姉の第1王女エリーシャも国内の貴族と既に婚約を済ませ来春結婚予定。
おめでたいことだ。
ただそのおめでたい話に待ったをかける者がいる。
数年前帝国に割と平和裏に併合された国の元王女で現公女が、エリーシャのお相手の男性に惚れているそうで、帝国経由で外交を絡めて何かと口を挟んで来るらしい。
もっとも聞く気は無いそうだが。
では、一見ただの横恋慕に何故帝国が関わっているのかと言うと、そのお相手であるサリオン侯爵家と領地であるマーセナル領が西側にとって重要だからだ。
この世界には他にも大陸がある。
ただ、あまり交流は無い。
何故なら、海には魔物がいるから。
前世のサメ映画どころではなく、クラーケンやリヴァイアサンと言ったレベルのがマジでいるらしい。
それを聞いた時、俺は船には乗るまいとお月さまに誓った。
海流の関係からか、わずかながらも魔物が寄り付かないルートがあり、そこを通ることで他大陸との交易などを行っているそうだが、この大陸の2つの家のみ、そんなことお構い無しにそのヤベー魔物がうろつく海を突っ切って行く。
その1つが、このメサリア王国の南端に位置し、海に面した広い領地を持つサリオン侯爵家だ。
サリオン家の武装船団。
物語の題材になる程有名で、同じく海に面した広大な領土を抱え込む帝国としては、喉から手が出るほど欲しい存在だ。
何とか繋がりを持ちたい様で、仮令側室でもと、その公女を推している。
そのお相手、サリオン家の嫡男エドガー・サリオン・マーセナルは普段領地にいるが、夏の2月は建国記念日的な祝日があり、この時期は王都に来る。
そしてそれを狙って、公女も王都へやって来る。
無視することもできないが、かといって要求に応じるわけもなく、毎年適当に相手をしているが、来春結婚という事もあり今年はエリーシャが直接出張り追っ払おうとなったらしい。
エドガーは第1王子と同い年であり、また親友でもある。
その縁もあってリーゼルとも親しく、今回2人の為に俺に依頼を出した、と学院から王宮へ向かう馬車の中で説明された。
◇
さて、そんなわけで俺は今エリーシャ姫の部屋にいる。
王子が同行するとは言え、仮にも一国のお姫様の部屋へ行くっていうのに話の早い事だ。
昨夜今日の予定を聞かれたが、どう答えようとこうなるのは決まっていたのだろう。
そして、挨拶もそこそこに施療を開始することになった。
彼女のベッドの上で行っているが、流石は王族の寝具。
程よい反発感にやたら滑らかな肌触り。
俺が今使っているのもかなり良い物だと思うが、それ以上だ。
前世で俺は結構高性能なマットレスを使っていたが、それよりもいいんじゃなかろうか?
いくら位なんだろう…?
いかんいかん。
意識を膝の上に乗っかっている頭に戻す。
膝枕をしているのだが、両側を彼女のメイドさんが、そしてすぐ側のテーブルでセリアーナとリーゼルがお茶をしながら見ている。
もちろんエレナやリーゼルに付いている2人も一緒だ。
これだけの人数に見られながらっていうのも落ち着かないが、顔と髪だけの簡単なものだし、失敗するようなことは無いだろうが、それでもお姫様が相手だ。
しっかり集中してやらなければ。
なんでさっきから俺の尻を揉んでいるのかも気になるが、集中集中。
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「セラ君、どうかしたのかい?」
施療を受けるエリーシャを横目に、セリアーナとお茶を楽しんでいたリーゼルが、俺に様子を尋ねた。
鏡が無いからわからないが、きっと何とも言えない顔をしているはずだ。
「いや…なんというか…」
この状況を上品に伝える語彙力が俺には無い。
どうしようか…。
俺の葛藤を察したのかセリアーナがリーゼルに目配せをしている。
「何かあるのなら言葉は気にせず言ってくれ」
多分彼はエリーシャに何かあるのでは?と考えての発言なんだろう。
あるといえばあるが、ちょっと違う。
「このねーちゃん、さっきからオレの尻ずっと揉んでんだよね。どーにかしてくんない?」
「……姉上?」
愕然としているイケメン。
その隣で口を隠し笑いを堪えるセリアーナ。
エリーシャ付きのメイド達は微動だにしない。
そして、この状況でも彼女は手を止めない。
そんなにこの薄い尻を揉んで楽しいんだろうか?
「失敗しても知らないぞー?」
‐⁉‐
流石にそれは嫌なのか一瞬体全体が震えたと思ったら、手が止まった。
◇
「退屈だったのよ」
施療を終えた後も何故か体勢を変えず、膝枕のままだ。
お姫様的にこれは有りなんだろうか…?
で、なんで尻揉んでたの?というリーゼルの問いの返答がこれだ。
「まぁ…口と目を閉じといてって言ったからね…」
気持ちはちょっとわかるから一応フォローをする。
リーゼルは額に手を当てている。
何となく彼の立ち位置というか、力関係が見えてくるね。
色々振り回されているんだろうな…。
「姫様、こちらを」
セリアーナにもきっと振り回されるんだろうと、リーゼル君を少々憐れみを込めた目で見ていたら、メイドの片方が手鏡を持ち、エリーシャに見せていた。
「あら!全然違うわっ!」
俺にはどこが変わったのかよくわからないが、満足頂けたらしい。
声も弾んでいるし、メイド達も喜んでいる。
チラっとリーゼルに目をやれば、サッと顔をそらした。
こいつもわかってねーな。
「リーゼル……。エリーシャ様、最近睡眠をとられていなかったのですか?」
「今年は学院に2人も王族が入って来たでしょ?記念祭は例年よりも参加予定者が多くて、覚えておく事が多いの。ただでさえサリオンとの繋がりを求めて挨拶に来るものが多いのに…お陰で寝る暇が無いわ」
睡眠不足だったのか。
チラっとリーゼルを見るとまたも顔をそらした。
やっぱ気づいてなかったのか。
「リーゼル。お前は大丈夫なの?セリアとの婚約を発表していないから、挨拶が多いでしょう?」
「他国の商人は自国の姫君を推そうとしていますが、他は静かなものです。僕の事は様子見で、姉上達の動向に関心が集まっていますね」
「セリアは?貴方も縁談の一つや二つ来ているでしょう?」
「確かにあるようですが、私の場合はまずおじい様やお父様に行きますから…」
「忙しいの私だけじゃない…」
仲間がいないことに、口を尖らせぼやくエリーシャと、それを笑う2人。
将来小姑関係に不安は無さそうだ。
ところで、足が痺れてきたんだけど、まだ退いてくれないのかな?
◇
「今日は姉上が済まなかったね。セラ君」
「いえいえ。大丈夫です」
帰りの馬車の中、リーゼルが今日のことを謝罪してくるが、それに軽く答える。
首に下げている財布がいつになく重たい。
お金がいっぱいである。
施療は他と変わらず5枚で受けたのだが、結果に満足したリーゼルが更に5枚の上乗せと、エリーシャも5枚くれた。
合計15枚。
散々ケツ揉まれた甲斐があったってもんだ。
急に決まったことでこの額をポンと出すなんて、王族ってお金いっぱい持ってんだなと思ったが、王子・王女それぞれに年間予算が割り当てられており、庇護する芸術家や職人への支援や、王領地の視察時に使ったりするのだが、今年は学院があり大分余り気味だとか。
余った分は返却することになっており、折角だから使ってしまおうという事らしい。
豪勢な事だ。
とは言え、王族はもうご勘弁願いたい。
リーゼルの執事カロスや、エリーシャ付きの2人のメイドは、効果はわからないがアイテムを持っていた。
そんなのがずっと俺の動きを注視しているのだ。
もちろん変なことをするつもりは無いが、流石に気疲れした。
ちょっと何日かのんびりしようかな。
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