第25話

60


「ふあぁぁ~っぁふ」


セリアーナの部屋でゴロゴロしながら本を読んでいたら、デカい欠伸が出た。

農場に通うようになって早起きするようになったからか、といってもセリアーナに起こされる前に起きるって程度だが…、昼を過ぎると眠くなる。


前世では割と眠りは浅かったし、孤児院にいた頃も一番に起きていたのだが…【隠れ家】の安全さに危機感が薄れてしまったとかだろうか?

もしくは、じーさんに強請った布団が良かったか…。


さて、検証を進めていた【ミラの祝福】だが、このスキルは、手から光が出て、その光が効果の及ぶ範囲になる。

片手より両手の方が効果があり、そして、範囲が狭くなるが直接手で触れた方がより高くなる。


効果は、髪の毛も弄れたし、エステというより美容全般だった。

髪の毛はつやつやサラサラの真っ直ぐになるし、爪もピカピカになっていた。


更に!


なんと‼


ダイエットもできるのだ!


農場で働く人間は流石に体を動かすだけあって肥満はいなかったが、年相応に少々ふくよかになっている人はいた。

その人達にスキルを使っていたところ、少しだが細くなっていることに気づいた。

その時は腕に使っていて、最初は浮腫みでもとれたんだろうか?と思っていたが、試しに腹にやってみると、見事に痩せていることが分かった。

もしかしたら何かデメリットや副作用があるかもしれないから、あまり強くはかけていないが、それでもベルトの穴一つ分位は細くなっていた。


その検証の結果をセリアーナ達に話すと、随分真剣に聞いていた。

俺の髪の件も一目で気づいていたし、女性だけあって美容云々には興味があるのだろう。

検証をより深く行うよう言われたが、如何せん自分一人だとどうにもならないのが難点だ。


「セラ、いますか?」


「いるよー?」


どうしたもんかね?と考えていると、部屋の外から呼ぶ声がした。

俺はセリアーナ直属であって、この屋敷の使用人ではないから、手が空いている時は俺から手伝いに行くが、仕事を申し付けられることはほとんど無い。

精々冒険者ギルドへ行くことくらいだ。


わざわざこの部屋にいる俺を呼びに来たって事は何かあったんだろうか?

いそいそとドアまで行き開けた。


「どうしたの?」


「旦那様が部屋まで来て欲しいそうですよ?お客様も一緒です」


客がいるのにその場に俺を?


「わかった。すぐ行くー」


本当に何だろう?


疑問はあるが、行ってみればわかるか。

【浮き玉】に乗り部屋を出た。



一気に部屋の前まで来たけれど、どうしたものか。

じーさんの客なんて貴族だろうし、言葉遣いも礼儀作法も習っていないし…とりあえず【浮き玉】から降りるか。

さて…どうしよう。


「セラか。早く入ってこい」


ドアの前で悩んでいると、部屋の中からじーさんの声がした。


「ぬぁっ⁉」


無警戒だったから、思わず変な声を出してしまった。

まぁ、入れっていうんだ。

気にせず入ろう。


部屋に入ると応接スペースに居り、じーさんの正面に客が座っている。

男性で、後ろ姿だけだがじーさんよりは若い雰囲気だ。

誰だろうか?


「よく来たな。ここへ座れ」


こちらを見て手招きをしている。

呼んだって事は紹介してくれるんだろうし、とりあえず【浮き球】を転がしながら部屋に入る。


「なんだ、降りたのか?乗ったままで構わんぞ」


そうなのか!

【浮き玉】に乗りじーさんの隣まで行き、そのまま浮いておく。

俺の席無いし、これでいいんだよな?

客の顔を見るが、40代前半位かな?セリアーナの親父さんのエリアスさんよりかは年上そうだ。


「これがセラだ。セラ、彼はブラムス・フェルド・ライゼルク男爵。ライゼルク領の領主でもある」


「セラです」


誰だよ…?と思わなくもないが、頭を下げ挨拶をする。


「ブラムス・フェルド・ライゼルクだ」


彼もまたこちらを見ながら挨拶を返してくる。

ふむ…まぁ、変な人じゃなさそうかな?


61


「セラ、言葉遣いはいつも通りで構わん」


挨拶を終えたところでじーさんから言葉を崩す許可が出た。

一応相手を見るとそちらも頷いている。


よかったよかった。


「で?なんでまたオレを?何か用なの?」


変わりように驚いている。

すまんな育ちが悪くて。


「あ…ああ、うむ。実は君の加護の事を耳にしてね。是非とも力を貸してもらいたく、アリオス卿にお願いに来たのだ」


「ほーん」


加護…スキルだな。

で、俺のスキルは2個。

【祈り】はわざわざ俺に頼まなくても似たようなことを出来る人は他にいるだろうし、【ミラの祝福】の方かな。

しかしまた何で?


……ふむ。


「む?」


椅子の高さに合わせていた【浮き玉】の高度を上げ、ついでに右足も上げる。

そして、じーさんに【緋蜂の針】を見せつける様に、フリフリと振る。


「待て待て」


言わんとすることが伝わったのだろうか?じーさんが説明をしてきた。


フェルド家は、俺がスキルの検証で通う農場に出資している、ミュラー家と同じ派閥の貴族らしい。

そして、ここと同じく農場から収穫物が届けられるのだが、ある時その配達に来た人間が妙にこざっぱりしていることに受け取る使用人が気づいた。

そして、目の前に座っているこのおっさんこと、当主のブラムスに報告。

調べたら俺がヒットし、じーさんに連絡した…と。


「ふむふむ」


報告を聞き、改めておっさんの方を見る。

服の上からだけど引き締まっているように見える。

顔も肉がついたりせず中々精悍だ。

髪は…ちょっと後退しているかな?


アレか?チャレンジしろってことか?

いけそうな気はしていたが、逆にゴッソリ行ってしまうとシャレにならないから控えていたが…。


「仕方ないなぁ~」


手をワキワキしながら気合を入れる。

少し興味があったのは事実だ。


「まっ待てっ、違う。私では無い」


視線から俺がどこを狙っているのか気づいたようで、慌てて止めてきた。

それはそれとしてだ、違うってのは何だろう?

私では無いって事は、他の人?


「頼みたいのは妻なのだ」


「奥さん?」


「うむ」


まぁ、美容関連なら女性の方が食いつくか?でも本人は来ていないけど…。

どういうことだ?って顔をしている俺を見て、おっさんが説明を始める。


「実は、縁があって息子が結婚をするのだ。相手は伯爵家の長女で、領地は持っていないが長く王都で内務に携わってきた家だ」


「ライゼルクは決して大きい領地では無いが、北の国境近くにあり交易の起点にもなっている。代々外交も行って来ていたが、ここらで内に力を蓄えるのも悪くない。今回の結婚はいい機会だ」


じーさんから補足が入る。

北ってーとバルカとかそこら辺かな?


「普段は私は領地に詰めて父が王都にいるのだが、準備があるから半年ほど前から妻と王都に出て来ていた。この機会に各家との関係を向上させようと積極的に動いていたのだが…」


言い淀んでいる。

じーさんの方をちらりと見ると、また補足をしてくれた。


「学院の入学の時期と重なり、パーティーも多く開かれた。それに参加し続けておった。ブラムスは訓練場で体を動かしていたが、奥方はな…」


「ぁぁ…太ったのね」


息子さんの結婚式の前に…やっちゃったか。


「ああ。招待客の調整や式の準備にかまけて、ついつい後回しにしてしまっていた。式用のドレスが先日届いたのだが…」


「式はいつ?」


「10日後だ。妻は今日も乗馬や剣など体を動かしているが、恐らく間に合わない。仮に絞れても体を壊しかねないのだ。君の事は耳に入れないようにしているが、ぜひ引き受けて欲しい。この通りだ!」


机に手を付き頭を下げてくる。

10日後か~、そりゃ普通に痩せようとしたら厳しいよな。


「紹介したって事は、じーさんは受けていいと思う?」


「ああ。同じ派閥という事もあるが、私では軍人以外の繋がりはあまり無い。ご婦人方と関係を築くいい機会だと思うぞ?」


ふむ…。


「お嬢様がいいって言ったらだよ?」


問題は無いだろうけど念の為だ。


「ありがたい。感謝する」


貴族の奥様が相手か…大丈夫かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る