第24話

58


「ぇぇぇ……」


【祈り】は全身が薄っすらと光るが、これは少し違う。

手で触れた部分が光っている。

ならこれは【祈り】じゃ無い。

ってことは、これが【ミラの祝福】か!

鏡を見るとまだ光っている。


…どうなるんだ?これ。

てか、なんで顔洗って寝癖直すくらいで発動するんだ?


そう思いながら眺めていると徐々に弱まり最後には消えた。

30秒くらいだったろうか?

変わったところは…。


「ぉぉ…」


寝癖が直っている。

…さすがにこれだけってことは無いよな?

髪は寝癖が直っているが…。


「あ」


毛先のうねりや、少し外に膨らんでいたのが収まっている。

やったことは無いが、ストレート・パーマをするとこんな感じになるんじゃなかろうか?


髪の毛の変化はわかったが、なら顔はどこか変わったんだろうか?

顔を近づけ鏡をじっと見る。


水を弾くつるつるの玉のお肌。

いつも通りだな!


マジでこれだけなんだろうか?

同じく光っていた手も見てみるが変わりはない。

以前は赤切れやマメささくれ等あったが、最近は水仕事も力仕事もしないし【祈り】で回復していることもあり、すっかり柔らかい手になっている。


「むぅ…」


美の女神の祝福ってくらいだし、もっと何か…こう…ある気がするんだ。

便利っちゃ便利だけど、ヘア・アイロンだけってことは無いはずだ。

しっかり検証せねば。


-ぐぅぅ~-


まずは朝食だ!



食ってきたぜ。


メニューは、パンにオムレツにスープとサラダ、イチゴだった。

中々充実したメニューである。

王都は街壁の外に農場や牧場が広がり、各貴族が各々の派閥毎に出資しており、そこで採れたものを屋敷に運ばせている。

貴族限定というのもあるかもしれないが、常に新鮮な食材が揃っている。

この世界の食事情…侮れない。


食事中も考えていたんだが、このスキル。

エステ的な物じゃなかろうか?

整形、とまで行くとちょっと強力過ぎる気がするが、髪や肌を弄る位ならありえそうなんだ。


そうあたりをつけ、試しに意識しながら右手を左手に当ててみると、先程と同じように光り始めた。

うむ。

正解っぽい。


てことで、屋敷の使用人に使ってみて検証を進めようと思う。

以前【祈り】の検証で肌荒れやらちょっとしたものは回復しているが、少し方向性が違うし副作用も多分無いだろうし、問題無いはずだ。

セリアーナもアイテムや戦闘用じゃないし、屋敷で試してもいいと言っていた。

善は急げ!

じーさんの所へ許可をもらいに行こう。



「ふむ。確かに髪型が変わっているな…」


じーさんの執務室へ許可をもらいに行くと、スキルの説明を求められた。

そりゃそうかってことで説明をしていたのだが、どうやら俺の髪形に気づいたらしい。

流石元軍人。

人の変化によく気付く。


「わかった。危険が無いのなら許可しよう。そうだな…まずは私に使って見せよ」


「…まだどんな効果があるかわからないよ?」


「構わん」


大丈夫とは思うが念の為注意すると、一言で切り返された。

そして左手をずいっと出してくる。

こっちに使えってことか。


「じゃ、やるよ」


まぁ、悪いようにはならんだろう。

じーさんの左手に両手をかざす。


一線を退いたとはいえ、今も訓練場や庭で剣を振っている為か、日焼けしゴツゴツと節くれだった手だ。

あちらこちらに傷跡もあるし、これなら使用人よりも変化がわかりやすい。


「ほっ!」


治療というよりかは、マッサージを思い浮かべながら気合を入れる。

それに合わせ、じーさんの左手を包むように両手から光が出る。


「どんな感じ?」


「ふむぅ。何やら暖かい様なむず痒い様な…、まあ悪いものでは無さそうだが…」


血行でも良くなってるんだろうか?

そのまま左手をじっと見ていると、日焼けした肌がわずかに白くなっている。

そして、少しずつだが傷跡が薄くなっていっていることに気づいた。


59


俺の手で遮られている為か、じーさんは気づいていないようだ。

どうしようかと思ったが、一応様子を伝えておこうか。


「少し肌が白くなってきてるね。後傷跡が薄くなってきてるよ」


「⁉」


左手の変化を伝えると、驚いた顔をしたかと思ったら、その瞬間左手を自分の下へ引き寄せていた。

何か異常でもあったんだろうか?


「大丈夫?」


「うむ…だが…」


問いかけに応えながらも左手を凝視している。

いや、本当に何があったんだろう?


「この傷はわかるか?」


しばらくして左手をこちらに差し出しながら、傷跡を指す。

中指から親指にかけて、まっすぐ引かれた様な跡だ。

刃物か何かだろうか?魔物では無さそうだけど…。


「うん。魔物じゃないよね?」


「うむ。まだ若い頃に同盟の一員としてルゼルの西部国境に派兵された時に、帝国と何度か戦ったのだが、その時に負った傷だ」


「ほーん」


よく覚えてんな。


「ここも見よ」


そう言い、今度は背中を向け後ろ襟を引き、首を見せてくる。

見ると、首から肩にかけて傷跡がある。

こちらは歪で、恐らく魔物によるものだ。

爪か何かかな?


「これはゼルキス東部を開拓していた際に、大型の魔物に急襲され、負った傷だ」


「ほうほう」


「そしてここは……」


ついつい調子よく合わせてしまったため、20分くらいだろうか?じーさんによるちょっとした東部開拓史の講演といった感じになってしまった。

このじーさん、あちこち傷多過ぎ。

ただ、言わんとすることは何となくわかった。


「わかるか?我々軍人にとって傷とは己の経歴なのだ。それが消えてしまうというのは……」


「消える前に気づけて良かったね!」


我ながら他人事の様に言っていると思うが、こういうことを含めての検証だし、わざわざ立候補して来たんだから仕方が無い。

一応これでも申し訳ないなーとは思っているんだ。


「…うむ」


本人もわかっているようで、何とも言えない顔だ。


「軍人もだけど、冒険者も止めた方がよさそうだよね?」


思い返してみれば、孤児院にいた頃酒場の手伝いなんかやっていたのだが、そこにやって来ていた冒険者は大体この傷はどこで負っただの、何と戦った時のだだのが、娼館の話と並んで鉄板の話題だ。

ついでに冒険者どころか普通の商店のおっちゃん達もそんな感じだ。

そこから如何に武勇伝に繋げるかって感じだった。

正直分からなくも無い。


「そうだな。傷を負うこと自体はあまり褒められることでは無いが、そこから生還したという事は評価できるからな。それに、箔付けにもなる。止めておいた方が賢明だな」


うーむ。

治療とはちょっと違うんだよな。

別に傷が治っているわけではないはずだし。

肌は白く、というよりは元の色に近づいたって感じか。


自分に使おうにも、髪こそ変化あったが、傷なんか無いし、昔はともかく今は肌も白い。

外に出る事なんて、ギルドまでの往復程度で精々10分そこらだ。

庭で運動することもあるが、それも木陰で済ませてある。

日焼けをする機会が無い。


そう考えるとアレクも駄目だろうし、やはり屋敷の使用人で試すしかないんだろうか?

でも彼らも基本屋内での仕事だし、あまり日焼けとかしていない。

【祈り】の検証でさんざんやったから、肌の状態も割といいはずだ。

怪我をするような事も無いだろうから、傷跡なんかも無いだろうし…。


外に協力を求めようにも、商人は何処と繋がりがあるかわからない。

一店ずつ調べるのも効率が悪い。


ふむむ…。


「そうだ」


一緒に悩んでいると何か思いついたらしい。


「ミュラー家が出資している農場がある。そこはどうだ?」


「⁉」


農場!

日に当たる仕事だし、手や肌も荒れるだろう。

悪くない!

むしろ良い!


「良さそうだな。毎朝収穫物を届けてくるし、農場にはその時伝えておこう」


「うん。ありがとう!」


これは早起きしなくては!

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