第23話

56


起きてから早4日。


あの後2人に話を聞いたところによると、どうやら俺はダンジョンで熟睡してしまい、更に丸1日寝続けたらしい。

ギルドへの報告はアレクやルバン達が全てやってくれている。

まだやることが残っているようで今日もギルドに詰めているそうだが…、俺が思っていた以上に魔人関連は大事だった。


魔王種と並んで、魔人本体の討伐や支援、調査といった一連の行動はしっかり評価され、場合によっては爵位云々といった話にまでなって来るらしい。

平民が一気にお貴族様も夢ではない、冒険者ドリームだ。


だからと言って、実力の無い者が迂闊に挑み返り討ちにあい、結果魔人やダンジョン維持費を増やしては目も当てられないという事で、各ギルドの判断である程度情報を知る事の出来る者の制限をしているそうだ。

ちなみに、王都のギルドでは中層を安定して探索できる者からとなっている。

俺が魔人の情報をほとんど知らなかったのは実力が足りなかったからだろう。


アレク達が魔人に突っ込んで行った時は逃げればいいのにと思ったが、魔人は習性で近くの人間を追いかけるものがあるそうで、上層での突発的な遭遇の場合は、勝算があるなら即討伐に移る決まりらしい。

ただ、魔人はまだまだ分からないことが多く、今回のも想定外の強さだったそうで、あのままだと危なかったと、随分礼を言われた。

でも、あれは駄目だ。

強すぎる。

とりあえず俺は今後魔人にはかかわらないようにしようと思う。


魔人の事はもういい。

終わりだ。


そんなことより!

必死こいて倒しまくったおかげで聖貨がごっそりだ!

その数15枚。

手持ちと合わせて23枚。

セリアーナは今回はミュラー家の功績になるからと、全部俺の物でいいと言ってくれた。

悪い気がしたから端数の3枚は渡したが…。

それでも2回分だ。


魔鋼が一度出たけれど、それ以外は基本どれも大当たりだと思う。

まぁ、俺が欲しい遠距離攻撃手段ではないのはアレだが、それでも随分助かっている。

俺のガチャ運はかなり良いと見た!

そろそろ来てくれると信じている。


「さ、始めなさい」


今回はじーさんの執務室ではなく、セリアーナの部屋で行う。


【緋蜂の針】だけならともかく、魔人討伐まで積み重なってしまうと少々俺の立ち位置が妙なことになりかねないそうだ。

ダンジョンを出る際に背負われていたことから、リタイアはしたものの、怪我をする程度に戦闘に参加し、かつ生き残れたって評価になっている。


強い部下を持つってのはステータスなのだが、貴族同士の社交の場であまり武人を連れているのはマナー上よくないらしい。

特に他国の者がいる場合などは。

だから普段は学院にはエレナだけでアレクは連れて行っていない。


見るからに弱そうで、でも実際はそこそこ戦えて、さらに【隠れ家】という退避手段まで持っている俺という存在は貴重だったらしい。

浅瀬をうろついたり、パーティーを組んで上層探索程度ならともかく、魔人討伐となると比重が武に偏り過ぎる。

これ以上の評価はいらないってことで、話が漏れない様念には念を入れてのこの部屋だ。


ガチャもこれで7回目だ。

無欲か無心か気合か、どれが正解なのかはわからないが、どうせなら気合を入れていいものを引き当てたい。


「ふんっ!」


聖貨10枚を手に持ち、気合を込めて聖貨を聖像に捧げる。


ドラムロールの音が響くと同時にまた気合を込めてストップと念じる。


「…?」


浮かんだ言葉は魔木。

そして、目の前に1メートル位の角材が浮いている。

重さが無いうちに手に取り床に置く。


「魔木って何?」


「魔木は、杖や、アミュレットといった魔法の発動体だったり魔道具なんかの素材にも使われるね。そのサイズなら杖2本分くらいかな?」


……素材か~。

外れだな。

次だ次!

頼むぞ、遠距離攻撃手段!


57


出鼻をくじかれてしまったが、これが本命ってことにしよう。

更なる気合を込めるべく、拳法の構えの様なものをとる。


「お前…それはなんなの?」


「気合」


セリアーナの疑問の声に一言で答える。


「……そう」


呆れの色が混じっているのがわかるが、結果を見ればそれも変わるはず。

さぁ来いっ!遠距離攻撃!


「はっ」


短く息を吐き、同時に両手で聖貨を突き出す。

ドラムロールが鳴り響き、間髪入れずにストップと念じる。

さぁ、何が来るっ!


【ミラの祝福】


…?


何も出ないしアイテムじゃない。

てことはスキルだが…。

スキルだよな?


「どうしたの?加護よね?」


首を傾げていると、何だったのかとセリアーナが聞いてきた。

俺いつも首傾げてる気がするな…。


「【ミラの祝福】だって。ミラって何…?」


祝福って事は神様とか精霊とかそういうのだよな?

狩りとか…戦とか…魔法の神様とかだといいな。


「ミラは美の女神よ。初めて聞くわね……その加護」


…美?


……美?


ついついペタペタ顔を触ってしまう。


「…美人になるのかな?」


「変わりは無いわね」


つい零した言葉に間髪入れず突っ込んでくる。


「だ…大丈夫。そのままでも十分可愛いよ」


フォローのつもりかエレナが慌てて言葉を継げる。


「…ありがと」


あんま嬉しくない。



『セラ、起きなさい』


【隠れ家】にセリアーナの声が響く。


俺は個室はもらっているが、魔人戦の後あちこち無理がたたったらしく数日の間熱を出していたので、念の為と、夜はセリアーナの部屋で寝ていた。

その際、寝るまでの間【隠れ家】の中にいる時間が増えた。


この世界の照明は、ランプ、魔道具であまり光量は無い。

数を揃える食堂などの広い場所ならともかく、私室等では一つ二つ程度で、夜の書き物や読書にはあまり向いていない。

一方【隠れ家】の中はダンジョンと同じように部屋全体が薄っすら光っている。

明るさは元の照明と同じくらいで、とても明るい。


結果、夜の読書に嵌ったようで、体調が戻った後もそのまま彼女の部屋に詰める事になった。

便宜上、護衛という形になっているが、エレナ共々【隠れ家】で読書に励んでいる。

それでも夜更かししないあたり自制が効いている。

むしろ俺の方が起きるのが遅いのはどうなんだろうか…?

目覚ましさえあれば俺も起きられるんだが。


「…起きた」


起きた事を報告するべく【隠れ家】から出る。

既に学院へ向かう用意を終えたセリアーナとエレナがいた。

もうそんな時間なのか。


「私達はもう行くわ。お前は好きにしていていいけれど、ダンジョンは駄目よ?」


「はいはい。行ってらっしゃい…」


こいつ本当に大丈夫か?って目で見ている。

体がついてこないだけで、頭は起きているんだ。

問題無いぞ。


「まあいいわ。寝癖も直すのよ」


「…はーい」


欠伸をしていたら返事が遅れ、もう部屋から出て行っていた。

さて。俺も顔を洗って寝癖を直すか。


【隠れ家】に戻り、洗面所でバシャバシャと顔を洗う。

ついでに濡れた手で髪を撫でつける。


前世での寝癖直しは、顔を洗うついでに頭から水を被っていた。

目覚ましにもなって丁度良かったし、ドライヤーがあったから乾かすのもそれほど手間ではなかった。

だが今は…長さもあるし髪質も違うし、結構面倒臭い。

前世はストレートだったが、天パって程ではないが、伸びてくると毛先がうねっている。


エレナが居れば魔法で乾かしてもらえるのだが、タオルでも巻くかな。

風と熱を一緒に出して居るようで、教えてもらったが全くできなかった。

俺に魔法の才能は無い。


「ふぬぬ……んんっ⁉」


スパーンと一気に真っすぐならんもんだろうか?と濡らした髪を引っ張りながら考えていたら、手と顔、そして髪が光っている。

これ…スキルか⁉

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