第22話
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「予定より早く着いたな」
ダンジョンの出口が見え、足を緩める。
行きと違い、キーラだけでなくマリーダも戦闘に参加せず、セラの索敵も無し。
更に人を1人抱え、消耗した状態での移動だ。
進むにつれ魔物は弱くなるとは言え、行きよりは時間がかかると思っていたが、思いの外早く辿り着けた。
「上層一帯の魔物が減っていたからな…」
オオカミ60、イノシシ11、オオジカ8、クロヘビ4。
更に魔虫各種。
セラが倒していた魔物で確認が取れただけでそれだ。
魔人は周辺の魔物を呼び寄せる習性があり、広間から浅瀬までの道にいる魔物の大半が集まっていたようだ。
その為、上層での戦闘はほとんどなく、浅瀬も上層手前での魔物の数の減りを怪しんだ冒険者が引き返した際についでに倒していったようで、魔物の数が少なく、一気に駆け抜けられた。
「ギルドへの報告は、今日は簡単に済ませて、詳細は後日にするか。俺もさすがに疲れた」
不意打ちでの魔人戦はこの男でもきつかったようだ。
だが、俺としてはもうひと働きしてもらわないと困る。
「それは構わないが、お前たちも屋敷に来てもらうぞ?お嬢様への説明をしてもらわないとな」
「うっ⁉あー……、いやっ…わかった。行こう」
今後の事を考えると筋は通した方がいいし、結果的に面通しもできるし、悪くない。
そんな考えが顔に見える。
色々葛藤があったんだろうが、同行を了承した。
報酬もだが責任も山分けだ。
供に叱責を受けてもらおう。
◇
「汚いわね」
プロフェッサーのパーティーと共に2人でダンジョンへ向かったのはいい。
屋敷に連れてくるのも、勧誘はアレクに命じている事だし、その一環なのだろう。
ボロボロに汚れ、おまけにセラは気を失っているというのはどういう事だろうか?
それが知らず顔に出てしまったのか、アレクの顔が引きつっているようだが、まあいい。
「アレク、簡潔に説明なさい」
「はっ。ダンジョン上層にて、魔人と遭遇。そのまま戦闘に移行しました。セラは周囲の警戒と万が一の時は撤退をすべく別行動に。1時間程戦い続けましたが、苦戦。セラはその間魔人が呼び寄せた魔物を倒し続けていたようです。その魔物を倒し切った後、魔人のスキを突き介入し、討伐しました」
魔人…ダンジョンで人の死体が吸収されたら現れる様になるというアレか。
近くの人間を追う事があると教わったことがある。
上層でならそのまま戦闘に移ったのは仕方が無いか…。
「…セラが倒したの?」
「はっ。その際足を骨折しましたが、そこのキーラ殿が既に治療を終えています。討伐後、疲労と緊張の糸が切れた事から睡眠。帰還中一度目を覚ましかけましたが、また眠りにつきました。あくまで睡眠であって、命に別状や後遺症はない模様です」
「…結構。詳しくはまた後で聞くわ。さっさと汚れを落として来なさい。貴方達案内してあげて頂戴」
使用人を呼び風呂に案内させる。
女性陣は来客用。
男性陣は使用人用で我慢してもらおう。
「エレナ、セラを。私の部屋に運びましょう」
とりあえずこの子をどうにかしないと…。
◇
「セラ、セラ!」
頬を軽く叩き、体を揺すりながら呼びかける。
【隠れ家】を出せさえすれば後はどうとでもなるのだが、なかなか起きない。
屋敷より【隠れ家】の方が何かと便利な物が揃っている。
出来ればそちらを使いたい。
「う……むぅ…」
呼びかけが聞こえたのか、薄っすらとだが目を開けた。
「セラ?【隠れ家】を出して頂戴。私とエレナを中に入れるの。わかる?【隠れ家】を出して、中に私とエレナを入れるのよ」
また眠ってしまう前に、それだけはやってもらわなければいけない。
「…ぅ」
言っていることが理解できたのか、扉をくぐる感覚があったと思ったら【隠れ家】の中にいた。
エレナもちゃんといる。
また眠ってしまったが、2人がかりでなら何とかなるだろう。
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「…ふう」
セラの服を脱がし終え、一息ついた。
服を脱がそうにも、意識が無くただでさえ脱がしにくい。
その上魔物の血が固まり張り付いている。
結局ナイフで大きく切りながら脱がせていった。
もう使い物にならないが、どのみち処分するしかないし構わないだろう。
指と足から恩恵品を外し、首に下げている革の財布も取る。
また今回随分貯めたようだ。
しばらく街で大人しくさせておくのもいいかもしれない。
「お嬢様、準備が出来ました」
浴室の準備を任せていたエレナがやって来た。
服はもう脱いでいる。
「わかったわ。運んで頂戴」
セラを任せ自分も服を脱ぎ、浴室に向かう。
少々狭いが、使い勝手はいい。
「お嬢様は髪をお願いします。体は私が」
「わかったわ」
役割を分担し進めていく。
出会った当初は男の子の様な髪だったが、大分伸びてきた。
それでもまだ短いし、腰とまでは言わないが、せめて背中の半ばあたりまでは欲しい。
「それは大丈夫なのかしら?」
髪を濯いでいると、丁度エレナが洗っている右足の指が目に入った。
爪が赤黒く変色していて、洗えば落ちると思ったが落ちていない。
「爪の下に血が溜まっているようです。傷自体は治っているようですが、こればかりは時間が経つのを待つしかありませんね」
【緋蜂の針】を使うと脱げるからと、いつも裸足だったけれど、しばらくは靴を履かせた方がいいのかしら?
「終わったわ」
「こちらもです」
体が小さいからか話しながらだと洗い終わるのもすぐだ。
2人で浴室から運び出し体を拭い、更にエレナの魔法で乾かす。
先に私だけ済まさせ、着替えを取りに行く。
寝巻に使っている大きめのシャツしかないがこれでいいだろう。
着替えを持って戻るとエレナが何か考え込んでいる。
「どうしたの?」
「セラをどこで寝かせようかと思いまして…。大丈夫とは思いますが、【隠れ家】内で寝かせて何かあったら気づけませんから」
「ああ…屋敷の部屋でもいいけれど…そうね。このまま私の部屋にしましょう」
屋敷の人間を信用していないわけではないが、恩恵品を複数持っている以上、目の届く場所に置いておきたい。
「わかりました。それでは運びます」
着替えさせ、エレナがセラを抱え先に出て行く。
私は王都までの道のりでセラに何度も言われたように、部屋の明かりや水の手を確認し、後に続く。
◇
「うぐぐ……」
よく寝た。
体を起こし、ついでに伸びをする。
あちこち痛いけど…なんでだっけ?
顔を横に向けると薄布越しに日が差している。
いい天気だ。
「……っ⁉」
いやちょっと待て。
おかしいぞ?
俺は個室をもらっていても、寝る時はいつも【隠れ家】だ。
日なんか差さねぇ。
思い出してきた。
俺ダンジョンにいたんだぞ?
……どこだここ。
ベッドの上だし、寝室か?
何だっけ?あのお姫様とかが使っているやつ。
天蓋だっけ?
少なくとも平民の部屋ではなさそうだが。
「んんっ⁉」
ふと手を見ると【影の剣】が無い!
いつも指にはめているのに。
落とすなんてありえない。
「!」
バサリと布団をはねのけ足を出すと、右足にしている【緋蜂の針】も無い。
そういえば【浮き玉】も無い。
襟を引っ張り服の中を覗いてみると、財布も無い…。
「どっ…どっ…」
どうしよう!
オロオロしていると、ドアの開く音がした。
とっ…とりあえず隠れねば。
モソモソベッドから這い出て下に潜り込もうとしたが、間に合わなかった。
ベッドの下の隙間が意外と狭い。
し…尻が…!
「お前…何をしているの?」
あれ?
この声はセリアーナ?
「もう具合はいいのかな?」
エレナまでいる。
てことは、ここはセリアーナの部屋か?
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