第20話
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「ん?」
休憩している皆を中心に少し大きな円を描くように哨戒をしていたのだが、この広間の入口から丁度反対側の壁際に、なんか変なのがいた。
怪談に出てくるあれ。
……クネクネだっけ?そんな感じだ。
…なんだあれ?
「アレクアレク」
異常っちゃ異常だ。
曖昧な報告しかできないが、やっておこう。
「どうした?」
「なんか変なのがいた」
「あ?」
怪訝な顔をしている。
無理もないか。
「黒いのが…こう…クネクネしてた」
【浮き玉】の上で腕だけタコ踊りの様な動きをした。
我ながらふざけているようであるが、これ以外の説明が出来ないのだから仕方ない。
「……⁉どっちにいた⁉」
「あっちの壁の方」
見かけた方向を指さし教える。
皆険しい顔をし立ち上がっているが、まずい相手なんだろうか?
「【祈り】を!キーラの後ろに入れっ‼」
「おっ…ぉぅ」
【祈り】を発動し言われた通りキーラの後ろに入る。
いつの間にかアレクは先頭に立ち【赤の盾】を展開している。
「霧よっ!」
さらにキーラが浅瀬でやって見せたスキルを発動する。
さっきも冷たかったがそれ以上で凍えそうなほどだ。
「霧」と言っていたが、氷の粒の様な物が浮いている。
この流れだとルバンの魔法が来るはずだが、両腕が光っているし浅瀬よりもっと強力なのが来るんだろうか?
「
「わお……」
すげぇのが来た。
天井近くまでの高さの炎の波が、扇状に広がりながら敵の居た方向へ押し寄せていく。
波というよりも、もはや炎の壁だ。
熱さは覚悟していたので耐えられたが、キーラのスキル無しだと一体どうなってしまうんだろう?
「
さらに追撃の極太ビームだ。
キーラの肩越しに前を見ると、地面が魔法の余波でめくれあがっている。
何という人間兵器……。
「やったか?」
フラグっぽいぞ…アレク。
でもさすがにこんなん受けて生きてるわけが無いよな?
「……⁉まだだっ‼行くぞ!」
マジかっ⁉
どういう仕組みかわからないが、まだ生きているのがわかったようで、ルバンの合図とともに、アレクとミーアとの3人で駆け出して行った。
マリーダは何か魔法の準備をしている。
やる気なのか…。
「セラ」
「む?」
俺も何かした方がいいんだろうかとオロオロしているとキーラに呼び止められた。
「あなたは後ろに回って周辺の警戒をお願い。もし私たちに万が一の事が有れば撤退しギルドに知らせて頂戴」
「う…うん」
言うだけ言ってこちらの返事を待たずにキーラも先行する3人を追っていった。
万が一って…そこまでなの?
マリーダも前に走って行ってるし、俺もとりあえず言われたように周囲の警戒に当たろう。
【浮き玉】の高度を上げあたりを見渡す。
先程までは草原っぽい風景だったのに、ルバンの魔法の影響ですっかり焼け野原。
そしてその焼け野原を疾走する3人に、少し遅れて2人が続く。
もうすぐあの黒いのと接触しそうだ。
それよりも、こんな状況になる様な魔法を受けて本当に生きているんだろうか?
そう思い、黒いのがいる壁際に目をやると、少し様子が変わっていることに気づいた。
最初は何となく人型っぽいという程度だったが、すっかり人の形になっている。
そして、全身鎧姿で盾と何か棍棒の様な物を手にしている。
ゴブリンは精々そこらに転がっている岩程度だが、それよりもっと上位の妖魔なんかは棒切れだったり、あるいは冒険者の落とした武器だったりを使ったりするらしいが、ここまではっきりとした武装はしないはずだ。
死ぬどころかパワーアップしてないか?
そもそも上層に妖魔種は出ないはずだが…。
……ちょっと待てよ?
やたら強い。
本来いない所に出る。
ピンときちゃったわ。
こいつが魔人だ。
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ダンジョンで人が死に、その死体が吸収されてしまう毎に現れる様になる強力な魔物。
外の魔王に対し、魔人と呼ばれているそうだ。
倒しさえすればその個体はもう現れなくなるし、人が死んだことで増えたダンジョン維持費も下がる。
その為積極的に狙えばいいと思うのだが、どこに現れるかわからない上に、単純に強い。
まだその事が広まっていない昔の事だが、挑んでは返り討ちにあい、結果ダンジョンが崩壊してしまうことが頻発したらしい。
倒さずともいつの間にか消えてしまうこともあり、探索する者が少ない下層や深層なら放置することも多いとか。
ただ、それが上層や中層となると、消えるまでの間に犠牲者が出てしまいかねない。
何か異常が起きたら事前に調査をし、その上で精鋭と支援の大部隊を送ることになっている。
もっとも空振りに終わることが多く、討伐はおろか戦闘に発展する事すら滅多にないそうだ。
その為、魔人に関してはまだまだ情報はほとんど無い。
わかっていることはクッソ強いって事。
戦闘開始当初はルバンとマリーダの魔法による遠距離攻撃が中心だったが、どうも魔法は効果が薄いようで今はアレク、ルバン、ミーアの3人で接近戦を仕掛けている。
ただ、3人がかりにも拘(かかわ)らず、棍棒と盾を使い上手く捌かれている。
攻撃に転じれば、アレク以外は大ぶりの一撃を受け止めても吹き飛ばされている。
身体能力も技術も高すぎる。
無茶苦茶強くないか?こいつ。
マジでボスキャラじゃないか。
「む?」
皆でさっさと逃げてしまった方が良かったんじゃなかろうか?と思い、どこかに隙が無いかと上から見ていたが、その戦闘場所を遠巻きに窺っている魔物の群れに気づいた。
周囲の警戒と言われたが、これの事か。
ボス戦の行方も気になるが、外野に気を取らせるわけにもいかない。
こっちは俺が頑張ろう。
◇
頑張ろうと近づいたんだが…結構多いな。
オオカミが10頭。
群れ2つ分だな。
さらにその後ろにイノシシが4頭。
イノシシだけならともかくオオカミか…。
うかつに近づくのはちと危ない。
となると…アレをやるしか!
「とおおおおぉぉぉっ‼」
オオカミの群れの中心目がけ、【緋蜂の針】を発動した状態で【浮き玉】に乗り、跳び蹴りの体勢で突進する。
叫び声は愛嬌だ。
無言での発動は何とか出来るようになったが、【浮き玉】と合わせてとなると少し心もとない。
-ギャン⁉-
「ふっ‼」
さらに【影の剣】を発動し、独楽の様に横に1回転し、即真上に離脱する。
王都に来てから魔物の集団相手に編み出した戦法だ。
これなら俺の拙い技術でも安全に戦える!
握った左手に手応えがある。
聖貨をゲットしているって事は、今の一連の動作で何体か倒したようだ。
下に目をやるとオオカミの死体が3つある。
流石に核を潰す事は出来なかったが、上層の魔物相手でも通用している。
このまま無理をせず削って行こう。
◇
「はっ!」
オオカミをまとめて狩り、更にイノシシを個別に相手取り、今最後の1体を倒した。
返り血はいくらか浴びたが、無傷の勝利。
やるじゃないか!
時間もそんなに経っていないはずだし、向こうのボス戦も気になる。
ダメージにはならなくても牽制にはなるのか時折魔法の光が見えていたし、まだ続いているはずだ。
この感じなら俺でも飛び蹴りくらいは出来そうだし、援護に行こう。
そう考え高度を上げたんだが…。
さらに多くの魔物が集まってきている。
どうもこの広間だけでなく、外からも集まってきているようだ。
今外に繋がる通路からデカいウシが入ってきたのを見てしまった。
「おかわりがあんのね……」
それも大盛りだ。
なるほど…これは支援に大部隊が必要なのも頷ける。
ボス戦の方を見ると、5人とボスの姿が小さく見えた。
状態はわからないが、まだ全員無事なようだ。
俺ももうひと頑張りするか!
「たあああぁぁぁっ‼」
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