第19話

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軽い打ち合わせを終えた後、ダンジョンへと向かった。

流石有名人だけあって、浅瀬を駆け抜けている途中、ルバンとすれ違う冒険者達の眼差しに畏敬の念が見える。

その後ろの女性陣を見て鼻の下が伸び、続くアレクを見て驚き、最後に俺に気づきマジかよっ⁉となる。


前のアンデッドと間違われた件で、俺にも二つ名がつきかけてたんだよね。

「浮遊霊」って…。

このままだと「背後霊」とかついてしまわないだろうか?

もう少し前に出れると良いんだけど、強いんだ。

ルバンもその仲間も…。


まずプロフェッサー・ルバン。


180センチくらいの細身だが長身のにーちゃんで、中々のイケメンさん。

魔法を使うらしいが今は剣だけで戦っている。

細身の剣なのにズバズバ切り裂いているし、きっと業物なのだろう。

確実に一太刀で仕留めて行っている。


次はミーア。


背はどれくらいだろうか?

やたらごついブーツを履いているから正確にはわからないが、多分170センチくらいか?

短槍を使っているが、穂先が刺さったと思ったら、破裂している。

多分何かのスキルも持っているはずだ。

腰に鉈も刺しているがそっちは使っていない。

中々パワフルなねーちゃんだ。


そしてマリーダ。


小柄だがミーアと同じく前で双剣を振り回し戦っている。

後ろから見ていると冷や冷やするくらい接近しているが、全く危なげなく倒している当たり、戦闘技術の高さがわかる。

更にそれだけでなく、魔法も使っていて、所々ルバンやミーアの援護をしている。

武器の間合いこそ違うが、エレナに近いタイプかも知れない。


最後がキーラ・ウィンブル。


ウィンブル子爵家の4女で、ルバンの最初の仲間で、この人と結婚する為に貴族を目指したのがきっかけらしい。

金髪ロングの美人さん。

うん、貴族令嬢って言われてもしっくり来る。

3人は鎧を着ているが、鎧ではなく素材は一緒みたいだがジャケットを着ている。

今の所出番が無いが回復魔法が使えるらしい。


これプラスにアレクか…。

そりゃ俺の出番は無いわ。

どんどん進んでいきもうすぐ上層だ。


「ん?前にイノシシの群れ。多いよ!」


考え事しつつも仕事はしっかりしている。

うん。

俺の役割は戦う事じゃないからこれでOKなはずだ。


「数は?」


ルバンが足を止め数を聞いてきたので、少し前に出て数を数える。

ひーふーみー……。


「11頭だね」


「そうか…」


数を聞いたルバンが何か考えている。

何だろう?

多いけれど大した事はないはずだが…。


「丁度いい。俺たちの戦い方を見てもらおう。アレクシオは下がっていてくれ。ミーア、マリーダ、行くぞ!」


「セラ、私の後ろに来なさい」


言われた通りキーラの後ろに回る。

アレクも近づいてきて、俺の脇を固める。

何か知らんが守られてる気がする。

そして、周りの空気が冷たい。

ダンジョン内は暑くも寒くもないが、これは……スキルか?


移動したのを確認したのか、こちらを見ていたルバンは前を向き、マリーダに合図を出した。

それを受け、双剣を打ち鳴らし音を立てる。

音を聞きこちらに気づいたイノシシ達は突進してくるが…。


赤波セキハ!」


どうすんのかな?と思い眺めているとルバンの声と共に前方から赤い光と熱が差し込んだ。


「なんじゃあああぁぁぁ⁉」


思わず叫んでしまったが、これ…魔法か⁉

4~5メートル程の炎の波がイノシシ目がけて突き進んでいる。

距離をしっかりとっているのに肌が熱でヒリヒリする。

キーラのスキルがあってこれか…。

猪突猛進という言葉があるようにこの世界のイノシシもすぐ突撃してくるが、熱か光かあるいは両方に驚いたのか足を止めている。


赤光シャッコウ!」


そこにすかさずルバンが追撃にまたしても魔法を放つが…手からビーム出しおった…。

放たれたビームが中央のイノシシを4頭まとめて貫く。

分断された群れの左側にミーアとマリーダが襲い掛かり1頭ずつ仕留めて行く。

残りの右側はルバンが1人で狩りきった。


……俺の知ってる魔法と違い過ぎない?


48


魔法の衝撃から立ち直る間もなくあっという間に上層に踏み込んでしまった。

王都はおろかゼルキスでも行った事が無かったのに、何の感慨も無い。

同行者が強すぎた。

とは言え上層だ。


浅瀬は多分1キロ四方位だが、この上層は王都とほぼ同じ広さらしい。

大体4キロ弱って所だ。

草原をサッカーコートの倍位の広さに土壁で区切っていると思えばいいんだろうか?

浅瀬は舗装されていたり土だったりしたが見通しは良かった。

だがここは、起伏も有るし所々岩が転がっていたり足元には草が生えている。

高さこそ30メートルくらいあるが、それこそ俺の様に飛べなければあまり意味が無い。


気を引き締めて行こう。


「セラ!【祈り】を頼む」


フンスっ!と気合を入れているとアレクから【祈り】の注文が来た。

そっちも気合を入れて、おりゃっと発動する。


「これは?加護ですか?」


「セラの加護で、身体能力、魔力が増す。それと常時回復効果がある」


アレクが説明しているが、【祈り】は魔力も増すらしい。

如何せん俺は魔法が使えないからどれくらい影響があるのかわからないが、ルバンのアレが魔法ならエグイことになるかもしれない…。


「……魔王みたいな奴だな…痛っ⁉」


効果を聞き、思わず呟いたルバンが殴られている。


魔王。

正確には魔王種だが、別に世界支配や人類の滅亡を企む悪の大ボスってわけではない。

あくまで魔物の中に極稀に表れる特殊個体だ。


もちろん強いというのもあるがそれ以上に厄介なのがその特性で、なんでも縄張り内の魔物、獣を種族問わず強化する。

例えば1匹のオオカミ。

通常なら猟師1人で、一般的な村人でも3人もいれば倒せるが、魔王種の縄張りだとこれが違う。

その1匹で村が壊滅的ダメージを負う。

その為早急に対処する必要があるが、縄張りは山1つとかで俺の【祈り】とは規模が違い過ぎる。


魔王種を倒すまでそれは続く上に見た目ではわからないことから、討伐隊を組んでも取り逃がし、新たな場所でまた縄張りを築き、その繰り返し…魔王災と呼ばれる現象で、魔王と恐れられる所以だ。


規模こそ変わるが、魔物が多かろうが少なかろうが関係なく唐突に現れるため、同盟内はもちろん、西部諸国でも冒険者という職業が無くならない理由でもある。


そういやその魔王種をこいつら単独で倒しているんだよな…。

ダンジョンに魔王種は出ないようだが、よほどの強敵が出ても大丈夫そうだな。


「セラ?」


ぽけーっとしていたらすでに説明や準備を終えていたらしい。


「やることは今までと変わらない。セラ、同じ要領で索敵を頼む。空を飛ぶ魔物はいないはずだが一応気を付けてくれ」


「はいよ」


「よし。行こう!」



「周り片付いたよ」


辺りを見回し何もいないことを確認し、下に降りルバンに報告する。


「わかった。少し休もう」


上層の探索を始めてそろそろ1時間程経つ。

やはり頻度は浅瀬より多い。

一度に遭遇する魔物の数も多いし、何より強い。


大きいオオカミっぽい群れと何度か戦ったが、連携までつかって来る。

その上途中で別の群れが合流する。

浅瀬で似たようなことはあったが、精々一斉に突っ込んでくるくらいだったが、こいつらは違う。

別の群れにもかかわらず、囮をしたり回り込もうとしたり…頭が良いのか種族の特性かはわからないが、この面子だと危なげなく倒せているが、慣れていないと危ないと思う。


「結構な数を倒したが…出ないものだな。こんなもんなのか?」


ここまで結構な数を倒してきたが、今回の目的であるオオジカとは遭遇していない。

2~3頭程度でいる事が多く、すぐ逃げようとするから大変だとは聞いていたが、そもそも出くわさないというのはどうなんだろうか?


「遭遇率に偏りが出る事はあるが…少し極端だな。魔物の数自体はいつもと変わらないが、どうする?場所を変えてみるか?」


場所を変えるかこのまま続けるかさらに奥を目指すか、話し合いが始まった。

何だかんだで走りっぱなしの戦いっぱなしだったし、一旦休憩だ。

俺はここまで浮いてるだけで、余裕があるし見張りを引き受けよう。

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